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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
02 公爵領
9/236

008 外界

ナナたち一行は変わり映えのない薄暗い地下道を二日程歩き続けていた。



登り勾配は相変わらずで、歩きにくい通路にも変化はないが追手の気配はなく、皆は緊張を解いていた。


「なぁ、兄ちゃん、家名何にするか考えた?」

「そういえばそんなこと言ってたな。メリルさん、家名って勝手に名乗っていいもんなの?」


近くにいたメリルは歩きながら返答する。


「グランシエルでは家名を名乗れるのは貴族だけだね。王が爵位を授ける際に名付けるんだよ。」


「貴族ってなんだ?悪者か?」


ナナは貴族という耳慣れない言葉に反応を示していた。



「偉い人、かねぇ。この国では一般市民のことを平民と呼ぶんだけどね、平民には家名は名乗れないんだよ。」

「ばあちゃん、あたしはどれだ?何族だ?」


「残念ながら平民になるねぇ。王に爵位をもらわないと貴族にはなれないんだよ。」


セロはナナに尋ねてみる。


「ナナは貴族になりたいの?」



「うんにゃ、かっこいい家名名乗りたいだけ。みんな一緒の家名だともっといいな。」

「あぁ、なるほどね。そういうことか。メリルさん、血縁とかの制限はあるの?」


「養子なんかでも家名は名乗るからそれは大丈夫。今の大家族だと家長はオルガンさんになるかね?」

「まぁ、そうなるかな。」

「だったらオルガンさんが爵位をもらえば、ここのみんなが同じ家名を名乗れるねぇ。」


「!」


ナナは駆けだした。そしてオルガンにタックルをかました。


「おっちゃ~~ん!!貴族になってくれええぇぇ!!」

「はぁ!?何言ってんだ!?」


小柄なナナの体当りを軽々と受け止め、そのままの体勢で捕獲されたナナはオルガンの肩に乗せられる。



「そもそもだ。貴族ってのは何なんだ?」


ここにも分からない者がいた。

メリルは結局、全員に説明する羽目になったのだった。




そうしているうちに、また物資の荷下ろし施設に辿り着いた。

前回同様、使用されていない施設だ。


こういった荷下ろし施設への到着が、暗黙の中、休息の合図となっていた。

今日の移動はここまでだ。


皆がてきぱきと動き、食事や寝床の用意を始める。


ナナは物資を収納から取り出した後、付与魔術の勉強と練習を始めていた。

これは地下道を移動中のナナの日課となっていた。



「今日はこれだな。」


付与術の書物に紹介されていた付与術をイメージしていく。

ナナの前方に半透明の壁が出現する。壁には奇妙な文様が描かれている。


これは、付与術:障壁。


敵の攻撃を遮断する防壁で、防げる攻撃の大きさや回数は使用時に込めた魔力に比例する。


ナナが使用すればそれはまさに鉄壁となる。


今回習得した障壁は遮断障壁。

形状は円盤、遮断対象に特別指定なし。となっていた。


副次効果や派生効果は後々練習しよう。とナナはそのように考えていた。



さらにナナは昨日の練習で、付与術:定着を習得していた。


魔道具を製作してみようと思い立ったのだ。

そこで選択したのが今日習得した障壁だった。



早速、自身の外套に障壁を付与。

そしてそれを停滞で永続化。

さらに障壁に定着を付与し、効果を無制限とする。


至極あっさりと魔道具が完成した。



ナナは出来栄えを確認する。



ナナ(虹人)


レベル 14


恩恵 付与魔法:恩恵+4

   火魔法:爆裂+2

   水魔法:水刃:氷結+5

   土魔法:煙幕:豊穣+1

   召喚魔法:火:氷+5

   空間魔法:収納

   魔力強化+4

   耐性:炎熱

   耐性:氷結

   耐性:電撃

   耐性:毒

   耐性:麻痺+1

   耐性:呪詛

   耐性:石化


技能 魔眼:分析

   付与術:祝福

   付与術:障壁

   付与術:停滞

付与術:定着

   付与術:指向爆裂

   火魔術:発火

   水魔術:水刃

   水魔術:氷矢

   土魔術:煙幕

   土魔術:豊穣

   召喚術:火焔蝶

   召喚術:氷騎兵

空間術:収納


効果 浄化

   解毒

   障壁



「しゃ~~!!」


成功を確認したナナは成果をセロに伝える。


「え?魔道具作っちゃったの?」



辺りは騒然となった。

特にアーキンとメリルが驚いている。


なんでも魔道具を製作できる付与術士は数百年前に名前だけが記録に残っている天才付与術士を最後に、以降どの国にも存在していないのだそうだ。



「おいおい、マジかよ。」


と驚いたオルガンが、瓦礫を持ってやってきた。


「ナナ、これに障壁を付与してみろ。俺が試してやる。」

「ふふん。おっちゃん、あたしの障壁は鉄壁なんだぞ?」


ナナが付与術を行使する。

対抗意識を燃やすナナは全開で魔力を込めた。



「どれどれ。」


地面に置いた瓦礫に正拳を叩きこむオルガン。

オルガンのパンチでも障壁はびくともしない。


「固すぎだろ!!!」


思わずオルガンは叫んでいた。

衝撃はすべて障壁に吸収されているらしく、オルガンの拳は何ともないようだ。



「うへへへ、おっちゃん、すげ~だろ!」

「魔道具ってこたぁ、まさかこれ全員の装備に付与できんのか!?」

「おうよ!」


ナナは胸を張る。

そしてセロは砕けなかった瓦礫を眺める。


「鉄壁軍団だな。」


セロは呆れながら呟いていた。



早速、皆の外套に障壁を付与するが障壁の強度は使用者の流した魔力の大きさで変化するようだ。

さすがに誰もナナと同様の強度は出せなかったが、一行の防御力は格段に上昇したのだった。




そして翌日も、ひたすら地下道を歩く。



翌々日もひたすら歩く。



「いい加減飽きて来たな。どこまで続いてんだ?」


オルガンがぼやく。

そして皆にも声をかける。


「特隊の皆は平気だろうが、他のもんはどうだ?疲れてねぇか?」

「あたしは平気だ!」


元気に返事するナナ。


「おめぇはずっと俺の肩に乗ってるだけじゃねぇか!」


そう、ナナはひたすらオルガンに肩車されていた。というか乗っていた。


「だってあたしだけちっこいから前がよく見えないんだ。仕方がないんだ。」


ナナの言葉に、疲れているはずの皆も笑顔を見せる。

そんな時、先行していた斥侯隊の一人が戻ってきた。


「オルガンさん、隊長、明かりが見えます!」


2キロ程行った先にいつもと同様の休憩に使っている荷下ろし施設があったのだが、そこには明かりが設置してあったらしい。

地下だからか、火ではなく、光を放つ魔道具らしきものが壁に立て掛けられていたとの報告だった。


セロはそれを受けて斥侯に質問する。


「無人か?他には何もなかった?」


大きな箱。

それに地面の金属棒に合わせた造りの車輪が取り付けられていた物体が並べられていたこと。


周囲に人影はなかったが、テーブルや椅子等、人が利用している痕跡があったこと。


報告を終えた斥侯が隊列に加わるとセロはオルガンに顔を向けて呟く。


「オルさん。」

「おう、いよいよだ。皆、陣形を組め!先頭は俺達が行く!」



素早く陣形を整える特隊員。

オルガンはナナを降ろして指示を伝える。


「ナナ、誰かいたらすぐに鑑定して結果を俺かセロに伝えろ。」

「わかった!」

「皆!いつでも障壁を張れるようにな!」


一通り指示を出し終わると、警戒しつつ移動を再開した。



辿り着いた場所は斥侯の報告通り。

人の気配はない。


木製のテーブルと椅子。そ

の脇にはロープ等の資材が入った木箱。


目ぼしいものもないようなので、そのまま奥の階段を上るとそこは広い部屋になっていた。


沢山の通路や階段があって、楽園でギンデムと戦った地下鉄の広間に似ている。


多くの通路はロープが張られていて、【通行不可】と書かれた札が掛けられている。

ロープが張られていない通路の中で、頻繁に人の出入りがあったであろう痕跡を残すものを選択して進んでいく。


しばらく進むと、周囲の壁が黄土色の石材に変化した。


通路の両側の壁には等間隔で篝火が設置されていて周囲を照らしている。

やがて鋼鉄でできた巨大な格子状の大扉を前にし、一行は足を止める。



「錠がついているな。これは輪錠ってやつか?」


扉の中央、両扉が鍵穴のついた輪っかで接続されている。


「破壊してもいいけど、通りましたって言ってるようなもんだしなぁ。」

「俺がやりましょう。」


斥侯の一人がピッキングを始める。


輪錠は頑丈だが鍵の構造自体は単純だ。

そう時間をかけることもなく開錠され、一行は無事扉を通過した。



扉と錠を元に戻し、さらに進む。


微かに風の流れを感じる。


出口が近いのか、皆、高揚感を抑えきれないでいる。



やがて通路の先に白い点が見えた。

進むに連れてそれはどんどん大きくなってゆく。



「あの白いのなんだ!?攻撃するか!?」


ナナはセロの外套を引っ張りながらあたふたしている。

メリルがナナの頭に手を置いて言った。


「あれは太陽の光だよ。怖くないよ。」


ナナはびっくりした表情でメリルに向き直り、


「光!?あれが!?」


メリル以外の皆が同様に驚いている。



そのまま一行は前に進み、全員が順番に白い光に包まれていった。




そこは王国を縦断するノルンの大壁。


見上げれば雲より高く天辺は見えない。

そんな黄土色の壁がどこまでも果て無く続いている。



壁の麓に小さな穴が開いていた。


近くには、そこを普段利用しているであろう者達の詰所なのか、小さな小屋があった。


周囲は草原。

南には大きな森が見える。


森と言っても樹高が50メートルにもなる異常な森ではなく、せいぜい7~8メートル程度の森だった。


小屋からは北西に向かって道が伸びている。



草原の中を歓声をあげて転げまわる異様な集団がいた。


一人を除いて、生まれて初めて全身に日光を浴びた者達。


ただそこに生まれた。

それだけで汚染された牢獄に閉じ込められた無実の者達は、今こそ自由の身になったことを喜び合っていた。



「なんだこりゃああああぁぁぁ!?」


そしてナナは走り回っていた。


ずっと遠くまで見渡せる、光に包まれた世界。

見渡す限りの大草原に、青い空、白い雲。



「兄ちゃん!!きっとここが楽園なんじゃね!?」


セロはそんなナナを優しく見つめる。



「あぁ、きっとそうなんだろうな。」


そのまま空を見上げた。



「すごいなぁ…。」


数日にわたって、結構な距離を歩いた。

だが、逆に言えば歩いただけだ。


辿り着いた先には見たこともない別世界が広がっていた。


セロは心の内をただ言葉にして呟いていた。



さらにそんな兄妹を見つめるアーキンとマーサ。


「ナナが生まれた時に、私が言った言葉を憶えているかい?」


アーキンの横顔を見ながらマーサは答えた。


「この子の恩恵は世界を変える。でしたね。」


アーキンはマーサを見つめる。



「私達を取り巻く世界はまさしく変わった。」


笑顔でそう告げた。




外界の様子に興奮したままの一行は、とにかくメリルを質問責めにしていた。


メリルも一生懸命答えているのだが、多勢に無勢。

対応しきれなくなってきた頃、オルガンが皆に言った。


「そんなに一度に質問したらばあさんも答えきれねぇだろ。まずは移動すんぞ。」


ここに留まって、施設の関係者の目に止まるのはまずい。

オルガンはそう判断して、移動を促した。



「とりあえずここから離れる。ここから見て、火を起こしてもばれねぇくれぇに距離を取る。」

「そうだね、外界側の楽園関係者がここに来るかもしれない。なるべく見つからない方がいい。」


セロが同意する。そしてオルガンはメリルに尋ねる。


「ばあさん、壁を抜けてきたってのはしばらく隠した方がいいだろ?とりあえずどっちにいけばいい?」

「そうですね、それなら…。」


メリルはまず北上をすすめた。

そして移動しつつ、周囲の地理をセロとオルガンに聞かせる。



ここはグランシエル国内でも最大の領地を持つカールレオン公爵の治める公爵領。


現在は、そのカールレオン公爵の住まう迷宮都市ラビュリントスの南に位置している。

自分が廃棄場に落とされた時もここに連れてこられたので、よく憶えているそうだ。


まずはラビュリントスの手前まで北上してそこにキャンプを張り、そこで今後どうするかをよく話し合うのがいいのではないか。


メリルはそんなことを提案した。



「おし!出発だ!」


土地勘のない一行は、メリルの意見に従い北上を開始した。


「ばあさん、歩きながらでいい、この辺りのことをもちっと詳しく教えてくれ。」

「わかりました。」


メリルは話し始めた。

ちなみにナナはオルガンにおぶられたまま、はしゃぎ疲れたのかすでに鼻風船。



まず最寄の大都市、迷宮都市ラビュリントス。


ここから北のコーンウォールの麓に築かれた城塞都市で、国内でも王都に並ぶ大都市である。


別名、試練場と呼ばれていて都市内に地下迷宮の入り口が存在するらしい。


迷宮はコーンウォールの地下、奥深くまで続いていていまだ攻略者は皆無なのだそうだ。


さらに、廃棄場へ繋がる道があるという噂もある。

何故ならここは、虹砂と虹石の産出地とされているからである。


迷宮から持ち帰られたという報告こそないが、ラビュリントス大公は少なくない量を保持している。


それは迷宮からもたらされた。

だから廃棄場への道がある。


噂の内容はこうだった。



ここは迷宮の魔物から採取できる素材の取引や、一攫千金を夢見る冒険者等、多くの人間や情報が集まる場所。

目的地が決まったら、ここで準備を整えることをメリルは勧めた。



仮にしばらく滞在する、となった場合、注意事項として追加説明するべく続けて話し始める。



この国では一般的な騎士や兵士でレベル15前後。

部隊長や騎士団長等、リーダー格の強者で20前後。


試練場で生活すると仮定して、レベル20もあればまず家族を飢えさせることはないらしい。

対して、特隊のメンバーは皆がレベル30を超えている。


王国では英雄と呼ばれる領域に立つ者とされ、まず裕福な暮らしは約束されるだろう。



「なら、まずはその試練場で暮らしたい者がいるか、だな。皆はもう自由なんだ。生きたいように生きるのがいいだろう。」


オルガンはそう言うと、セロを見て言った。


「おまえらはどうすんだ?」


「ん?俺たちは王都を目指すよ。ナナが学校に興味があって、友達作りたいって言ってるから。」

「なら俺もついていくぞ。やりたいことが見つかるまではおまえらと一緒にいるつもりだからな。」


セロは微笑む。

オルガンが一緒にいてくれることについては、素直に嬉しいと思えたのだ。


「ありがとう、オルさん。」

「ふん、それにナナがどんな魔術士になんのかも見てみてぇしな。」



そしてメリルに王都までのルートを尋ねてみた。


まずはラビュリントスで人数分の馬車の購入もしくは西の商業都市へ向かう商隊に便乗。

そして商業都市のさらに西にある王都へ向かうのがいいとのことだった。


「皆の実力なら迷宮に入れば馬車の代金なんて簡単に稼げるだろうしね。」


とメリルは言うが、オルガンはそれに対し思いついたことを伝える。


「まてばあさん、虹砂や虹石はここでは高値で売れるんだろ?ナナの収納に大量に入ってるぞ?」


「そうなんですか?以前の相場だと虹砂で10グラムで金貨一枚くらいとか言ってたけど…。」


「アーキン、どのくらいあるんだ?」

「ざっくりですが、500キロ以上はありそうですね。」


「てことは…、いくらだ?」


オルガンは計算は苦手のようだった。


「金貨五万枚、となりますか。」

「ばあさん、これで馬車買えるか?」


「お城が買えます…。」


メリルは驚いた顔で返答する。

廃棄場から持ち出した物資は外界ではとんでもない価値を持っていた。



続けて、メリルは王国で流通している硬貨についての説明を始める。


硬貨はそれぞれの国で大きさや形、刻印等が違っていて、その価値も流動的で常に変動しているらしい。


金貨一つとっても、国ごとに違ったものが使われている。


グランシエル王国におけるグラン金貨。

北方の白銀帝国における帝金貨。


国交がないため、まず一般人が目にすることはないが西方の亜人達の国で使用されるアルタヤ金貨等がある。



そして虹砂、虹石は特殊で、どこの国でも10グラムで金貨一枚という相場が不変なのだそうだ。


現在主に取り扱っているのは教会という名の各国に支部が存在し光の女神を信仰の対象とする集団なんだとか。

王国では虹素材は、教会かラビュリントスでしか手に入らない。



さらに続けてメリルに質問していく。


「ちなみに虹石は?高いのか?」

「大きさによりますね。」


10グラムで金貨一枚。

これは虹石でも同様なのだが、大きさによって付加価値がつくらしい。


小石程度のもので二倍から三倍。


例えば100グラムの虹石だと金貨二十枚から三十枚くらい、ということになる。


ちなみに国宝となっている拳サイズの虹石で、重量は約750グラム。

これには金貨千枚の値がついたそうだ。



ナナの収納には拳サイズの虹石が二百個近く入っており、最大の物で大人の頭部程のサイズの物があった。




王国の貨幣は硬貨のみで、価値はこのようになっている。



最低単位:銭貨1枚

銭貨100枚:銅貨1枚

銅貨5枚:大銅貨1枚、もしくはノルン銅貨1枚

銅貨10枚:銀貨1枚

銀貨5:大銀貨1枚、もしくはノルン銀貨1枚

銀貨100枚:金貨1枚

金貨5枚:大金貨1枚、もしくはノルン金貨1枚


ノルン硬貨は、光の女神ノルンの横顔が描かれた硬貨で、王国が五倍の価値を保証する国内流通を限定とした特殊硬貨だそうだ。



銭貨、銅貨、銀貨、金貨の四種が最もよく使用される硬貨で、流通量も圧倒的に多いとのことだった。

メリルが言うには、とりあえずこの四つを憶えておけば何とかなるそうだ。



「外界での生活ではこの貨幣制度をよく理解しないと。何をするにしてもお金なんだね。」


セロは感想を述べる。


「そうだね、お金のためなら何でもするって人間も少なくないからね。」



メリルと話しているうちに、城壁に囲まれた都市が見えてきた。


「おし、ここらで野営だ。んで、家族会議といこうじゃねぇか。」



野営の準備が整う頃、空の変化に気付いたナナが騒ぐ。


「お空が赤くなった!?ばあちゃん、なんだあれ!?」

「ほんとだ、何かの自然現象なのか?」

「真っ赤だな。さっきまで青々としてたのによ。」


騒ぐナナにセロとオルガンも便乗する。


「きっと太陽が本気になったんだ!あたしを燃やすつもりか!!」



沈みかけた夕日に辺りが赤く照らされている。

皆、その光景に目を奪われて、手を止めてそれを眺めていた。



「雲も草原もみんな赤いぞ!ばあちゃん、毒か?浄化するか?」


わたわたと慌てているナナの頭を撫でながらメリルは言った。


「あれはね、夕焼けと言って、太陽が地平線近くに移動した時に見られるんだよ。綺麗だろう?」

「危なくないのか?」


メリルはナナににっこりと微笑んだ。


ナナはメリルの服をぎゅっと掴んで、ただその光景を見つめていた。



そして突然、メリルに向かって顔を上げたナナが大騒ぎを再開する。


「ってばあちゃん!太陽って動くのか!?そういえばいなくなってるし!暗くなってるし!!」


再度わたわたと慌て始めたナナと、不安そうな顔をしている皆がメリルに注目している。


メリルは日の出、日没、朝、昼、夕、夜、そうした一日の移り変わりや、月の満ち欠けや星についても皆に説明していった。



しばらくして、食事の支度をしていたマーサと集団の女性陣が夕食の完成を知らせてきた。

巨大な焚火を皆で囲い、皆美味しそうに肉を頬張る。


そこでオルガンが声をあげた。


「皆、食いながらでいい、聞いてくれ。」



皆がオルガンとその横にいるセロとメリルに注目する。


「先に見える都市な、あれについてまずは説明する。」



セロが昼間メリルに聞いた内容を分かり易く説明する。


「あそこでなら特隊の者なら水準以上の暮らしが可能だそうだ。」


オルガンはそう言うと、皆に問いかけた。


「定住したいって奴はいるか?当面の生活費も渡すし、希望者がいればかまわねぇぞ?」



誰かが言った。


「俺らは家族。どこまでもついていきますよ。」


それを皮切りに、皆が合意の歓声をあげる。


よくわかっていないナナはひたすら肉と格闘を続けている。



セロがそんな皆に対して自らの目的地を伝える。


「私事で済まないが、目的地は王都だ。そこでナナを学校という所に通わせたい。可能なら俺も。」

「14歳は立派な子供だよ。大丈夫。」


メリルが太鼓判を押す。



そしてオルガンが皆に提案した。


「セロとナナが学生をやる間、俺は王都で商売ってもんをやってみようかと思ってる。」


この大家族で商会を立ち上げ、すでに大量にある資産をさらに増やし皆で幸せになろうという計画。



とりあえずはアーキンの彫金:銀細工で作成したシルバーアクセサリーを用意する。

それらに、ナナが障壁、祝福等を付与し魔道具とする。


作成は一日に一個でもいい。


これを売却するだけで、虹砂を処分しなくともここにいる全員が食うに困らないそうだ。



「他にも売れそうな品物を思いついたら、いろいろ試してみようと思っている。」


上機嫌なオルガンはそう言って酒をあおる。

そんなオルガンに対して、セロは言った。


「なんかそっちも楽しそうだな。俺らの戦力はメリルさんも保証してくれてるし、戦闘でも稼げるんじゃ?」

「あぁ、護衛とか、魔物退治とかだな。いけそうだ。」



笑顔で会話を膨らませる二人にナナが突撃していった。


「ダメだ!兄ちゃんはあたしと遊ぶ約束したから学校に一緒に行くんだ!」


セロは頬を膨らませたナナの頭に手を置いて優しく撫でる。


「そうだね、約束したから俺はナナと学校だ。そっちは隊の皆にまかせるよ。」

「兄ちゃんはあたしと一緒にいないとダメなんだぞ?」


「約束な。」


そのままナナの頭を撫で続ける。



「じゃあ、話を続けるぞ。勝手に決めちまって悪いが、商会の名はビフレスト商会にしようと思う。異論はあるか?」


皆も賛成のようだ。


そしてオルガンは新たな組織について語る。



商会長(家長)をオルガン。


商会長補佐としてアーキン。彫金職人も兼任。


事務、会計、店員等は非戦闘員の男衆がアーキンをリーダーとして担当する。

今後このチームを非戦組と呼称する。


毎日の食事や掃除、洗濯等はマーサをリーダーとして女衆が担当。

このチームは家政組とする。


特隊のメンバーは店の用心棒、諜報活動、派遣戦力を担う。

用心棒を護衛組、諜報担当を諜報組、派遣戦力を狩猟組と班分けし、リーダーはセロ。不在時はオルガン。


庭師…フランク

商会専属治療士…メリル


老人二人は恩恵を考慮しての配属。


 

「ん?あたしは?仕事は?」

「ガキは遊ぶのが仕事だ。それに学校もあるだろうが。」


「あたしにも何かやらせろ!」


ナナが手足をじたばたさせている。


「おめぇにはアーキンの作った細工に付与する仕事があんだろうが。それにセロだって普段は戦闘要員を仕切ってもらうつもりだ。」

「それがあった!」


ナナはびっくりした顔をしてそのまま握り拳を作る。


「じゃあ付与術もっと練習する!」

「頼むぞ。それに関しちゃあ、おめぇは天才だ。俺も期待している。」


「まかせろ!おっちゃん!」


そう言うとナナはやる気満々にそこにあった骨付き肉にかぶりつく。



「俺の肉…。」


それはオルガンの骨付き肉だった。




翌朝、王都への旅に必要な物を購入する為ラビュリントスに赴く人間が選定された。


まずは資金として虹砂を持たせたアーキン、案内役にメリル。


護衛は護衛組から二名、情報収集に諜報組から二名、荷物持ちに狩猟組から四名。

以上十名が城塞都市へ向けて出発していった。



オルガン、セロ、ナナは、入口で鑑定されると騒ぎになる恐れがあるので留守番だ。


ちなみに、ここの守衛が使用する鑑定板が、名前、レベル、恩恵のみを看破する下位の鑑定版であることはナナが視認して確認した。


そのナナは当然のごとく自分も都市に行きたがったのだが却下された。



「めっ。」


とされてマーサに説得された後、渋々諦めた。



「むぅ………。」


諦めたと見せかけて戦闘班の一人が抱える背嚢に目をつけるナナ。

そしてその中に潜り込もうとして尻がはみ出ているところをセロに発見されていた。


ナナはマーサの元に連行されていく。



「めっ。」


マーサに捕獲されたナナはおでこをつつかれていた。



こうして、ナナの中でいくつか習得する付与術が決定した。


お気に入りの付与術の本を開く。


「むぅ?」


何かが気になる。


それは、この本がエルンストに借りた物で、本来返さねばならないこと。

なのだがそれを完全に忘れているナナは、気になったこと自体忘れ、目的の付与術を探していた。



セロとオルガンは模擬戦に汗を流し、ナナは付与術の試行錯誤を続ける。



そろそろ、日没も間近になってきた頃。ナナは自分を魔眼でチェックする。



ナナ(虹人)


レベル 14


恩恵 付与魔法:恩恵+5

   火魔法:爆裂+2

   水魔法:水刃:氷結+5

   土魔法:煙幕:豊穣+1

   召喚魔法:火:氷+5

   空間魔法:収納:転移

   魔力強化+5

   耐性:炎熱

   耐性:氷結

   耐性:電撃

   耐性:毒

   耐性:麻痺+1

   耐性:呪詛

   耐性:石化


技能 魔眼:分析

   付与術:祝福

   付与術:障壁

   付与術:隠形

   付与術:停滞

付与術:定着

   付与術:認証

   付与術:道標

   付与術:指向爆裂

   火魔術:発火

   水魔術:水刃

   水魔術:氷矢

   土魔術:煙幕

   土魔術:豊穣

   召喚術:火焔蝶

   召喚術:氷騎兵

空間術:収納

   空間術:転移門


効果 浄化

   解毒

   障壁



「ムッフフフフ。」


追加された技能を確認してほくそ笑むナナ。


すでにこっそり実際に使用して効果も確認済。

さぁ、兄をびっくりさせようか。



ナナはセロを見つけるとその背に向けて歩いていき、声をかけた。


「兄ちゃん。」




その頃、ナナ達が地下から出てきた時の脱出地点となった壁の麓の穴。


この場所を王国の民は刑洞と呼んでいた。



刑を受けた者が送られる場所であるから刑洞。

単純な名付けであった。


その刑洞近くにある休憩小屋。

そこでちょっとした騒ぎが起こっていた。


刑洞から北西に伸びる街道には、大量の物資を積んだ馬車が列を作っている。

そして馬車に乗ってきたであろう大勢の男達が休憩小屋の前で話し合っていた。



「はぁあ?崩落ってマジか?」


「おうよ。しかも廃棄場にかなり近い場所での崩落らしい。」

「汚染水なんかが漏れてくるかもしれないから、作業は教会の人間がやるってよ。」


「せっかく運んできたのになぁ。」



そう言って男達は自分の馬車に視線を送ると深い溜息をついた。



そんな時、教会の関係者と思われる法衣姿の者が数名、刑洞から出てくるのが見えた。

着込んでいるのは紺色の法衣、司祭のようだ。



教会関係者は、着用している法衣で階級が判別できる。



質素な紺色の法衣は司祭。


信者を除くと司祭が末端構成員となり、各教会に一人配置されている。



次に、特定地域の複数の教会を管理する司教は白い法衣を着用する。

法衣にも少量の装飾が施される。


近辺では、公爵領を統括する大教会がラビュリントスに存在するが、そこの司教がこれにあたる。



さらに上になると各国家に一人。

王国においては王都にある大教会を管理する大司教となる。


法衣の色は黄色。

施される装飾もかなり派手になってくる。



そしてさらにその上、世界中の教会を管理統括する総本山。


これはコーンウォールのどこかにあるとされているが、ここを管理するのが枢機卿。


現在この位にあるのは七名。

赤の法衣に大司教を上回るド派手な装飾。


何らかの魔術付与によるものか、うっすらと光って見えるとの噂もある。



最後に頂点に立つ教皇。


総本山から出てくることもなく、人目にふれる機会もない。

教会関係者から流れてきた噂によれば、その法衣の色は様々な色に変化する白を基調とした虹色だと言われている。




荷運びの男達の前にやってきたのはそんな教会の人間。

壁から出てきたということは総本山ゆかりの者だろうか?


彼らは休憩小屋でざわつく男達に声をかけてきた。


「地下道崩落の為、物資はこちらで引き取ります。別ルートで搬送いたしますので。」

「ああ、そういうことなら。」


男達は報酬の入った袋と受領サインの入った書類を受け取り、荷下ろしを始めた。



「それにしてもいつも大量ですよね。教会の総本山って規模も大きいんすか?」


「それはもう。大勢の中でも特にその信仰を認められた者のみしか入ることはできませんが。」



荷運びの男達は様々な物資をここに届けることを生業としていた。


送り先は地下道の先にある廃棄場。

それと教会の総本山とされている。


刑洞の地下が廃棄場に通じていること。

そしてどこにあるかは分からないとされている教会総本山への荷物をここで降ろすこと。


これらについては守秘義務が課せられている。



「へぇ~、きっとすんごい場所なんでしょうねぇ。」


荷運びの男達に笑顔を向けた司祭は言った。


「えぇ、まさにこの世の楽園です。」

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