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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
08 死都
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069 初代当主

セロはナナにシャリアの肖像画を出してもらい、それをロッテに見せる。



「似ていると言われれば似ているのかもしれませんが…。」

「うん、だからシャーリーの肖像画とシャリアの肖像画を比較したくなったんだ。」


と、そうは言っても、セロは二人が同一人物であることはおそらく確定だと考えている。


ワンダー・リンリンは全ての情報を持っていて、シャリアの情報へ誘導することが全てを知ることに繋がると判断した。

しかも誘導先にあったシャリアの情報はその人相だ。


人相がヒントになる。そしてセロはシャリアの肖像画に、ロッテに似ているかも、という感想を抱いた。

つまり、ロッテに似ているというのもまたヒントだ。

ワンダー・リンリンが示したヒントは、シャリアとカールレオン家の関りではないか。


セロは歩きながらもそんな考えをロッテに伝えた。



「根拠もあるんだよ。」


そう言ってセロは説明を続ける。


ウィランはロマリアで引き起こす騒乱を隠す為に、亡国の王女シャリアの真実を利用する。

しかし、その真実は世界中の誰も知らない真実だ。


ではウィランは何故、そんなことを知っているのか。

その答えは、その真実がカールレオン家に情報として存在したから。となる。


それはシャリア王女とカールレオン家の関りを示すものだ。


「シャリア王女は王国建国以前の人物だ。なのでカールレオン家で関りを持ったのは初代当主。」


セロはその関りを、同一人物であるとしたのだ。


「初代当主となったシャリアが代々、後世の当主に伝え残す情報の中に、亡国の王女の真実も含まれているという予想だよ。」

「ですが、セロさん…。」


ロッテはセロの言葉に疑問を返した。


セロが示した根拠は、双方の関りを示すものであり、同一人物であるかを示すものではない。

ロッテの疑問はこのようなものだった。


「うん、それは確かにそうだ。俺が同一人物って思い立ったのも肖像画を見たからだしね。」


セロはロッテの疑問を肯定しつつ、その解答を返した。


「同一人物であるかを判断する為の情報。それがシャーリーの肖像画、ということになるかな。」


判断材料になるかどうかは現物を見てみないと分からない。





「セロさん、書庫はこの部屋になります。」


話しているうちに、いつのまにか到着していたようだ。


「スタンさ~ん?」


セロは声をかけながら中へと入って行った。



「ロッテ、あたしは難しい話は苦手だ。本読んでてもいい?」

「はい。静かに読んで下さいね、親分。」



全員が中に入り、扉を閉める。


目の前のテーブルには数冊の書物と、シャーリー・カールレオンの肖像画。

まだ資料を集めているのか、スタンは離れた位置で懸命に資料を探している。



「とりあえずある分だけでも調べるか。」



セロは確認が簡単に終わるであろう肖像画の比較から先に始めることにした。


現在テーブルの上に置かれているシャーリー・カールレオンの肖像画。

その隣に持参したシャリア・カール・フォン・ロマールの肖像画を並べて比較してみる。



「うん。俺には両方とも同じ人物を描いた肖像画に見えるな。」

「うぅ…、私にもそう見えます…。そんな…、そんな…。」


自分が失われたとされているロマール王家の末裔であったことに困惑するロッテ。


「別に今更、滅んだ王族の血筋だったからって何か変わるものでもないさ。今まで通り。ロッテはロッテだよ。」


自身の推測が正しかったことを確認したセロは、ロッテに声をかける。



「ワンダー・リンリンが確認させたかったのはシャリアの顔。それは確認できた。あとは方法だけだ。」


そう言って、セロはテーブルに置かれた書物を手に取る。


カールレオン家歴代当主。迷宮都市発展の記録。この二冊だ。



「セロさん、方法というのは地下道のことですよね?」

「うん。ある程度の推測は出来ているんだ。詳細が知りたいだけなんだけどね。」



シャリアの顔を確認したことで、これまで不透明だったシャリアの逃亡先が確定した。迷宮都市だ。


この情報がセロの推論に加味され、セロはさらに推測を進める。


ロマリアからの脱出路とされた地下道。シャリアはこれを使用しなかった。

この地下道は表向きに脱出路として本当の脱出路を隠す為の物。


「てことはその入り口は城内ではないな。むしろ閉ざされている可能性すらある。侵略路として使われてしまうし。」



ロマリアを侵略した勢力は、全ての出口を押さえていたがその地下道を侵略には使っていない。


「地下道の情報を持っていた侵略側の兵が地下道になだれ込まなかった理由…。」


セロの中に、いくつかの予想解答が浮かんでは消えていく。



押さえられた出口から地下道までのルートは疑いようがない。調査を行っているのだから、それはあるのだろう。

しかし、地下道からロマリア内部までのルートは元々繋がっていないか、一方通行の可能性があるかもしれない。


片側からしか開錠できない扉等では破壊されればそれまでだ。セロは脱出ルートの途中に高低差を利用した一方通行を考えた。

天井に滑車を仕込んで、ロープで降りた後に使用したロープを回収すれば出口側から来た者達には発見できない…?


「いや、結局それでも出口側に向かえば捕らえられる筈だ。」


侵略側の調査では何も発見できなかった。であれば安全な分岐路はないと考えるべきだ。

ならば隠された本当の脱出路は途中分岐ではなく完全な別ルートで、おそらくそれは迷宮都市近辺にまで繋がっている。


「そうだ、一方通行では今回の騒乱には使えない。やはり今回使用されるのは本当の脱出路の方だ。」



まずは歴代当主について記された書物の、初代当主シャーリーのページを開く。





この地に統一国家が存在せず、多くの小国が自分達こそがと戦い続ける戦乱の時代。



そんな時代にあっても、迷宮は平和だった。



迷宮は東の果てに存在し、その周囲には街や都市がある訳でもない。

迷宮の守り人と呼ばれる少数部族が迷宮付近に小さな集落をつくり、細々と暮らしている。


この頃の迷宮は魔物を産み出す力も弱く、守り人達は時折迷宮に入り、中の魔物を間引く。


遠い東の果てに位置し、特に優れた産業があるでもない。

少数部族である守り人が狩りによるその日暮らしを続けるだけの土地。


乱世に群立する支配者達も、この土地は支配が成った暁にこそ有効に活用されるべきとして、戦時下は放置とした。


そのおかげで、この集落の守り人達は平和に生活することができていた。



そんな集落に、戦争難民であると自称する一人の少女が現れた。

少女はボロボロの恰好で、飢えていた。


守り人達はシャーリーと名乗る少女の救済を選択した。


シャーリーは守り人となることを求め、彼らと共に生きることを望んだ。



短くない年月が経過し、立派に成長したシャーリーは、立派な狩人となっていた。

若くとも腕は確かだ。狩りに出る守り人達のリーダー役を務めていた。


さらに、元々王族として教育を受けていたシャーリーは頭も良く、他の狩人チームのリーダー達を統率するまでになっていた。



さらに年月が経過する。シャーリーは、末席とは言え部族の最高意思決定会議である族長会議に参加が許される存在となっていた。


族長の一人が病に倒れた。彼は族長の地位を自身の右腕であった男に委ねた。

迷宮の守り人は地位や立場を相続する者の条件として、血縁を考慮しない。必要とされるのは何よりそれに相応しい能力だった。



さらに年月が経過し、守り人達はいくつかの世代交代を経て、シャーリーは族長の一人となっていた。

シャーリーは各地の戦場から逃亡してきた難民を受け入れることを積極的に族長会議で提案した。


各地から逃亡してきた彼らは、守り人が持たない様々な知識や技術を有する。それもまた、守り人達は受け入れた。

守り人達が守ってきた伝統や文化等は継承しつつ、知識や技術を貪欲に学び、学んだ者はそれを次代の者に教えた。



さらに年月が経過。住民の数を増やした守り人の集落は、大きくその規模を拡張していた。

外からもたらされた知識や技術によって農業も開始され、集落の周辺には多くの畑。家畜の育成も順調で、集落の生産は向上している。

石造りの住居も点在し、もはや集落とは呼べないくらいだ。守り人の集落は迷宮村と名称を変えていた。


シャーリーは守り人の筆頭族長として、文字通り、一族の指導者となっていた。



村の外でも大きな変化があった。ついに統一を成し遂げた勢力が誕生。グランシエル王国が建国された。



さらに年月が過ぎ、ついに迷宮村にも、その支配を盤石のものとした王国からの使者が訪れた。

東の果てまで、王国領として併呑されることになったのだ。


シャーリーは王国の支配を受け入れ、王国東端を領土とする王国貴族より、村の監督を言い渡される。

これからは王国に税を支払うことになるが、現在の村の財政では住民を食わせるには厳しい。


状況を打破する為にシャーリーが選択したのは、迷宮で産み出される魔物を素材として換金することだった。

この事業が大成功を修め、迷宮村はさらなる飛躍を見せる。


戦乱の終結と共に行き場を失った傭兵や、退役した元兵士等、迷宮に職を求めた者達が迷宮村を訪れた。

守り人の迷宮探索者は大きく増員され、迷宮村には多くの魔物素材が供給されることとなった。


人が増えれば、そこに商売のチャンスを見出した者がやってきて、迷宮村に宿や商店が増える。

迷宮から持ち帰られる魔物素材が増えれば、それを加工する職人達もその工房の規模を大きくした。


住民の増加に伴い、住居の増築も進められた。

かねてより予定されていた村に外壁を建てる予定も、一度白紙になった。

発展を続ける迷宮村の規模に、予定していた外壁では土地面積が不足する懸念が現実味を帯びてきた為だ。


シャーリーは成長を続ける迷宮村をしっかりと管理運営し、さらなる成長を促す。

それと同時に、王国東端の領主である貴族との繋がりも大切にした。

多額の献金と話術でもって領主に気に入られることで、迷宮村の安全を確保する為だった。


迷宮村の発展は領主にとっても都合がいい。財政も潤い、国の評価も上がる。

シャーリーと領主の利害は一致して、迷宮村は貴族からの支援も得られることになった。


やがて領主から国王へ献上された魔物素材で作られた武具や装飾品が国王の目に止まる。

王国東端部でひっそりと発展してきた迷宮村に、王国が注目することになったのだ。



数年後、立派な外壁に囲われた都市となった迷宮村を国王自らが視察する。


建国以前は小規模な狩人の集落があるだけで何もない土地だった筈。

そう認識していた国王は、目前に広がる都市の光景に感動し、その功績を称え、褒美を与えることを約束した。


領主は中央に返り咲き、王都でのさらなる躍進を望み、シャーリーは迷宮都市の安寧を望んだ。


国王はそれに応え、領主は王都にて大臣の位を授かり、東端部の新たな領主としてシャーリーに爵位を与え、貴族とした。



シャーリーは家名としてカールレオンを名乗り、王国への忠誠と、迷宮都市の更なる発展を誓う。


こうして、グランシエル王国の東の果てに、迷宮都市ラビュリントスが誕生した。




パタン。


セロは書物を閉じる。


「どうしたんですか?セロさん。」

「いや、これはこれで興味深くはあるんだけど、知りたいのはもう少し過去のことなんだよなぁ。」


それはシャーリーが守り人の集落に現れる直前。如何にして滅亡するロマリアからそこに辿り着いたか。

ロッテにもそれは分かっている。


そしてロッテが読んでいた迷宮都市発展の記録に残されたシャーリーの記録も、守り人の集落に少女が現れたところから。


「こちらも肝心な部分が語られていませんね。初代様が現れる前の記録なんて残っているのでしょうか?」


二人同時に溜息をつく。



「それではこちらの書物も駄目でしょうね。」


新たな書物を抱えたスタンは気落ちする二人に声をかけた。


「スタンさん、その本は?」

「こちらはかつての迷宮守の一人が残した手記ですね。初代様が現れた当時は族長の一人で、病により隠居した人物です。」


スタンは確認した手記の内容について一言だけを伝える。


「こちらも、初代様が集落に現れてからの出来事しか記されておりません。」


「そっか~。」


セロは残念そうに言いながら立ち上がる。

ナナは読んでいた本を閉じて、スタンの持っていた迷宮守の手記を読み始める。



「初代様は情報を残さなかったのでしょうか?」


ロッテはセロに問いかけるように言った。


「いや、残してる。ラビュリントスの発展は迷宮の恵みで成り立っていた。けれどシャーリーが現れた当時の迷宮はそれに見合う魔物を産み出していない。」


少数の守り人が時折間引きする程度で保たれていた迷宮の内部環境。

それが都市となって、さらに発展を続けるラビュリントスの魔物素材需要を満たせるとは思えない。


セロの説明に、ロッテもはっとした表情になる。


「それって…。」

「うん。おそらくシャーリーは、迷宮の制御球の存在を知り、操作していたと思う。」


それによって迷宮の魔物の数を都市の規模に合わせた適正なものに調整していたのだろう。

書物に残されていないのは、カールレオン家の当主にのみ代々伝えられる情報であるからではないかとセロは指摘する。


「迷宮の管理はカールレオン家の領主として、そして最後の守り人としての役割なんじゃないかな。」

「つまり肝心の情報はお父様が所有しているということですね。」


「だと思うよ。家督はロッテに相続されたようだけど、ウィランさんからお役目の相続がまだだってことかな。」



本当の脱出路についての情報を除き、得られる情報は得た。そう判断してロマリアに戻ることにした。


「親分、ロマリアに戻りましょう。」

「ロッテ、親分これ読んでる途中なんだ。持って行ってもいい?」


ロッテは迷宮守の手記を開いたままのナナの申し出を了承する。



「行ってらっしゃいませ。」


そう言ってお辞儀をするスタンに礼を言って、三人はロマリアへと戻る。




路地から中央広場に出ると、そこにはすでにアラン達が倉庫の片づけを済ませて戻ってきていた。



「ニャニャが戻ってきたニャ!」

「む?どうした?寂しかったのか!?」


ナナはミケとクルルに抱き着かれている。



「セロ、確認ってのは済んだのか?何か分かったんなら俺達にも教えてくれ。」


少し慌ただしく出て行ったせいか、アランも気になっているようだった。



「そうだね。まずはこれを見て貰った方が話が早いかな。」


セロはナナからシャリアの肖像画を受け取り、それを皆に見せる。


「ロマリアの最後の王女だよな?やっぱりその絵に何か秘密があったのか?」

「いや、これ自体はただの絵画だよ。ワンダー・リンリンがヒントとして示したのはこれに描かれたシャリアの肖像だ。」


皆が食い入るように肖像画を見つめる。



「ただの赤いドレスを着た女の子にしか見えねえが…。」


アランにはこの絵から閃くものはなかったようだ。


「あら?私にはちゃんとこの娘から王族にふさわしい気品が伝わってきますわよ?」


エトワールはヒントと無関係な部分に注目している。


「滅亡したとは言え、ロマール王家最後の王族。私の眼は誤魔化せませんわ!」

「エトワールもはずれだ。気品とかはワンダー・リンリンが示したかった部分じゃない。」


「兄ちゃん、駄目だぞ?所詮はくるくる。あたしと違って、この絵から真実を見破る洞察力はないんだ。」


ビクッと反応するエトワール。


「何ですって!?私のライバルであるナナさんが真実を見破った!?」

「ふふん。まだまだ青いな、くるくる。」


「ぐぬぬ…、ナナさんに出来て私に出来ない筈がありませんわ!」


ふんぞり返るナナの姿に対抗心を刺激されるエトワールはさらに肖像画を睨みつける。



「親分が何を見破ったんでしょう…?」


そんなロッテの呟きは集中しているエトワールの耳には届かなかった。



「とっても美人さんです。それにどことなくシャル様に似ている気がします。」


正解を引き当てたのはジルだった。


「うん、ジルが正解。この人ね、ロマリアが滅亡した後、カールレオン家の初代当主になったんだよ。ロッテのご先祖様だ。」


正解の返答と共に、淡々とシャリア王女のその後を語るセロ。

ジルは突然明かされた真実に反応できず、きょとんとしてセロの顔を見ている。



少し遅れて、中央広場に皆の驚きの声が響き渡った。



「じ、じゃあ確認ってのは…。」

「ラビュリス城にある初代当主の肖像画と並べて見比べてた。そして同一人物であると確信した。」


未だに驚愕に震えているアランの質問にセロは自然体で返答する。


そのまま続けて、ラビュリントスの書庫で得た情報を皆と共有するべくシャーリー・カールレオンについて語った。


「簡単に言えば、守り人の集落に現れたシャーリーが頑張って、集落が都市へと成長し、それを認められて貴族になった。そんな感じ。」


シャーリーが迷宮守になった後の出来事は、今必要とされている情報ではない。

セロは内容を大幅に省略し、簡潔にそれを伝えた。



「王女の脱出ルートは未だ不明ってことだな。」

「そうなる。でもそれもまた妙な話なんだ。シャーリーが情報を持たないのであれば、ワンダー・リンリンの誘導は意味を失う。」


アランの言葉に、セロはさらなる疑問を上乗せする。


「初代様の残した情報は当主であるお父様が所持していて…。」


ロッテもまた申し訳なさそうにアランに説明する。


「ロッテ、歴代当主に引き継がれる情報も同じだよ。その情報が得られない前提の上でワンダー・リンリンはシャーリーを選んだんだ。」



(ワンダー・リンリンがロマリアでこれから発生する騒乱を知る為の鍵として選択した人物がシャーリー。そう考えてもいいはずだ。)


「ならば何か見落とした情報がある?それとも今の手持ちの情報で解答に至ることができるということなのか?」


そう呟いて長考するセロの服をナナが引っ張る。



「兄ちゃん、悩んだらメシだ。あたしのお腹もそうだと言っている。」


ナナは空腹をアピールしている。


気が付けば、いつのまにか空が赤く染まっている。夕暮れだ。


「もうそんな時間か。みんな、王都に戻って夕食にしようか。」


セロは王都に戻り、食事と休息を取ることにした。



西門に待機していた連絡役を含め、全員が王都に転移し、中央広場脇の路地から転移門が消失する。

それと同時に、中央広場のオベリスクの前に二人の人物が出現していた。


ワンダー・リンリンとストロング・ウルヴズの二人だった。

何らかの手段を用いて姿を隠し、セロ達の会話を聞いていたようだ。



「残~念~。時間切れだよっ!」


くるくると回転して、大きく両腕を交差させてバッテンをつくるワンダー・リンリン。


「惜しかったな、少年。汝の考察、あと僅かで静寂殿が用意した騒乱の種に手が届くところであった。」


ストロング・ウルヴズは平静のまま、セロが語っていた考察を評価する。



「もう少しだったんだけどねっ!でも今日の日没がリミットだったから仕方ないさ!」


そう言ってワンダー・リンリンは収納魔術で取り出した頭蓋骨に向けて状況を報告する。



「静寂殿~。ナナ達は王都に戻ったよっ!開幕のお時間ですっ!」


「おや?道化殿かい?何だい、その喋り方は。また何かに変じているのかね?」

「おっと!ついうっかり!今の私は身も心もさすらいの旅芸人になっちゃってるのでしたっ!」


ワンダー・リンリンこと道化は演じる対象によって喋り方をガラリと変える。

それが体に染みついており、会話の相手が変わっても口調は変化しないようだった。



「連絡ありがとう、道化殿。それではこれより死都となるロマリアをたっぷりと楽しんでくれたまえ。」


カーテンを閉じられた薄暗い部屋で、頭蓋骨との会話を終えたサーレントは室内に控えているスピリタス伯爵に目線を送る。



「アルベルト、舞台の開幕だ。」


そして騒乱の始まりを宣言した。



「かしこまりました。」


スピリタス伯爵は命令に従って退室する。



一人になったサーレントはワイングラスを手に取り、そこに満たされた赤い液体を見つめながら虚空に向けて呟いた。



「シャル、セロ君。このまま惰眠を貪るようであれば、ロマリアは終わってしまうよ?」

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