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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
08 死都
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067 交渉準備

翌朝、王立学院。



魔導車にてエトワールと合流し、約束の書物を受け取るロッテ。


「ありがとうございます、エトワール。」

「いえいえ、これしきの事。全然構いませんわ。」



学院に到着し、それぞれのクラスに移動していく。


「親分。待ってください。」


ロッテはナナを呼び止める。


「忘れているかも知れませんが、ワンダー・リンリンさんの言っていた王様のことを調べますよ。一緒にセロさんに褒められましょう。」


「そういえば、そんなのがあった!!!」


予想通り、ナナは完全に忘れていたようだった。



「あたしな、ルーシアとチョップ。どっちをエロい恰好させて夜の街に立たせるか、ずっと悩んでいたんだ。セクシーの足りないロッテの代わりだ。」

「その作戦は却下です!!親分、頼んだりしたら駄目ですよ!?」




授業の終了後は、学院の書庫に集合することになった。


「揃ったみたいだね。それじゃあまずは、ロマリアでの調査中にナナとロッテが遭遇した出来事について、共有しておこうと思う。」


セロは昨日の旅芸人についての情報を皆に伝える。



「明らかに一般人ではありませんわね。」


最初に反応を返したのはエトワールだった。

そしてその言葉に皆が同意する。


「旅芸人に扮した帝国か連邦の工作員って可能性が高いのか?」

「工作員は工作員なんだろうけど、帝国か連邦に所属している確率は低いんじゃないかと思う。」


アランの意見に返答したセロは、続けてそう考えた理由も語る。


「今回の侵略で工作を行っているのはアルカンシエル。ならば工作員もそうだと考える方が自然だ。」

「アルカンシエルと帝国と連邦はグルだってことか?」


「帝国と連邦が、と言うよりはそれぞれの国でそれなりの立場にいる何者かが組織のメンバー、もしくはそれと繋がりがある。ってとこかな?」



書庫に設置された大テーブルでは、様々な意見が飛び交っている。



「そんでな、リンリンが出てきたベルをペロリと一飲みにしたと思ったら、そのベルはあたしの前にあった箱の中に入っていたんだ。」


「ニャ!?どうしてニャ!?食べたのニャらベルはお腹の中にあるはずニャ!?」

「そうニャ!そうニャ!」


ナナとミケとクルルは話し合いの最中、ワンダー・リンリンの手品芸の話で盛り上がっていた。




そしてしばらくして。


現在、セロ、ロッテ、ジル、エトワール、この四人は真面目に書物と格闘している。

トラは文字が読めないが、書物を運んだりして四人を手伝うことで調査活動を助けていた。


ナナ、ミケ、クルル、アランは戦闘訓練と称して外で遊んでいるようだ。



「親分?頑張って調べないとセロさんに褒めて貰えませんよ?」


ロッテはこっそりとナナに通信を飛ばす。



「そうだった!!忘れるところだったぜ!!」


そしてやってきたナナはセロに甘える。

調べものをするセロの膝の上に座り、一緒に書物を眺める。


「兄ちゃん、あたしと一緒に調べものしよう?」

「ナナは甘えん坊だなぁ。」



セロはナナを甘えさせたままで調べものを継続。

少しずつ、ロマール七世についての情報が集まっていく。




レオン・クリスト・フォン・ロマール。都市国家ロマリアの最後の王として後世に伝えられる。



彼の生きた時代は乱世の時代。力を持った国が隣国を攻め滅ぼし、その領土を奪い取る。

敗北した多くの国や部族が併合され、いくつかの強力な大国が誕生。

大国はさらなる領土を求め、ただひたすらにその戦火を拡大し、さらなる強国の前に滅び去る。


そんな時代であったと伝えられている。



都市国家ロマリアは、聡明で勇敢な王と後に評価されるレオンが七世として即位。

中立国家として周辺国の戦争に関わろうとしなかった。

他国を侵略せず、侵略を助けない。ただただ、自国の防衛のみに注力する。



乱世にあって戦争のない平和な国。


そんなロマリアの平和も、永くは続かなかった。



周辺国家の間で、ロマリアの奪い合いが始まったのだ。


レオンは可能な限りの打開策を考え実行したが、無情にもロマリアは三方からの敵国の攻撃に晒されることになる。



最後の瞬間までレオンは勇敢に戦い、やがて力尽きた。

こうして、平和だった都市国家ロマリアは滅亡した。


そしてロマリアを滅ぼした者達もまた、さらに強大な勢力によって滅ぼされる。

多くの血が流れ、幾多の勢力が消えて行った。



やがてもっとも強力な勢力が生き残り、戦乱の時代も終わりを迎える。

全ての敵勢力を滅亡させることで統一を果たし、広大な領土を統べるグランシエル王国が建国される。



かつての都市国家は、王国の一地方都市となるが、聡明で勇敢だったロマール七世を称え、都市の名はロマリアとされた。



「以前、ロッテに聞いた通りの内容だね。」

「はい、この辺りは学院の授業でも習いますし、結構有名な話です。」


「そうでない部分が知りたいな…。」


しかし、学院の書物や、エトワールが持ってきた王城の書庫にあった書物にも、セロの知りたいことは記載されていなかった。



「よし!ロッテのエロ枠の出番だぞ!」

「エロ枠ではありません!」


ロッテは自分で操作せず、枠をナナに渡す。

もしも有用な情報が出てきた場合、ナナがセロに褒めてもらう口実とする為のちょっとした気配りだった。



「じゃあ、あたしが調べてみるぞ!」


ナナはまず、ロマリアで検索。



「むおおっ!」


そしていきなりの大量の文字に驚くナナ。


枠内にロマリアに関連する膨大な情報が表示されている。

かつての都市国家の情報はほんの僅か。衛星都市ロマリアの情報が大半を占めていた。



「もう少し絞らないと調べきれないな。」

「親分、検索する単語をもう少し…。」


セロとロッテは枠内の表示を眺めながら指摘する。

そして思いついたようにセロは検索対象を指定してナナにやらせることにした。


「ああ、そうだ。ナナ、レオン・クリスト・フォン・ロマールで検索してみて。」


(二人組の旅芸人は歴代の王ではなく、ロマール七世を名指しで調査対象として指定した。ならばこれなら…。)


「任せろ兄ちゃん!今度こそ大丈夫だ!」



ナナは再度、情報を検索する。


「ん?これは…。」


出てきた情報の中に、これまでと少し異なった内容のものがあった。



それは、レオン個人の情報。


所持していた恩恵や技能に始まり、死ぬまでに行った政策等から交友関係、個人的な趣味まで。

その中でも、特にセロの目を引いたのはその家族構成だった。


両親の名前、妻の名前、娘の名前、弟の名前。それぞれが記されている。


レオンの両親は、外部からの暗殺者によって殺害され、その後、レオンが王となった。

妻である王妃は娘の出産と同時に死亡。弟は、レオンと共に都市国家滅亡時に戦死とある。



「娘の死亡報告がない…。」


セロは記された娘の名で、再検索を頼む。

娘の名は、シャリア・カール・フォン・ロマール。



「やってみるぞ!」


ナナは早速、その名で検索。




亡国の王女シャリア・カール・フォン・ロマール。


都市国家ロマリア滅亡時に、幼かった王女は父親であるレオンの手によって、ロマリア城の地下へと逃がされた。



ロマリア城の地下には、脱出用の地下道が建設されており、その規模は広大。

内部は迷路になっており、都市外部の様々な場所へと繋がっていた。


侵略者は、その地下道の存在も情報を得ており、当然、王女へ追手を差し向けた。

全ての出口を押さえ、一月に渡って内部を捜索したが、ついに王女を発見することはできなかった。



ついに捜索を断念した侵略者は、王女シャリアを死亡したものとしてロマール王家の血の断絶を宣言した。



「でも遺体は確認していない…。」


セロは王女について思考しつつ呟いた。



死亡の確認されていない王女シャリアの存在が気になるセロだったが、これ以上の情報は出てこなかった。


「ナナ、ロッテ。ありがとう。興味深い情報だったよ。」


膝に乗せたナナを撫でながら、セロは二人に礼を言う。



(旅芸人が本当に調べさせたかった人物は、レオンではなくシャリアなのかもしれない。)


現時点では、この王女がロマリアの現状にどう関わっているのか、まったく想像もつかない。

しかしセロは、王女シャリアの情報に重要性を感じ取っていた。



学院の書庫での調べものを中断し、皆で商会に戻る。


「少し休憩したらロマリアに移動して、今度は都市国家の王族についての情報を探ろう。」



そして、中庭で一時の休息をとっていたセロに、レギオン宰相から通信が入る。


「セロ、すまんが今日の引率は不在でも大丈夫か?」


宰相の言う引率というのはルーシアに依頼されてロマリアに同行しているオルガンのことだ。



「帝国と連邦は交渉の席につくことを同意した。ならば近いうちに実現する停戦交渉に向けての準備として打ち合わせをしておきたい。」


王国からの参加者として現在候補に挙がっているのは、まず王族代表としてエトワール。護衛としてルーシア。


交渉人は数人の補佐を付け、レギオン宰相が自ら出向く覚悟らしい。


「現在の王国には外交を担う人物は不在だからな。俺のつたない喋りでどこまでやれるかはわからんが…。」


宰相の用件は、オルガンにも交渉チームの護衛として参加して欲しいというものだった。


「人数を制限される可能性もあるからな。そうなれば安全確保の為には強力な護衛が必要となる。」

「引率については大丈夫。オルさんには登城するように伝えたらいいかな?」


「ああ、頼む。」



セロは立ち上がると、店舗内にあるオルガンの部屋へ向かい、宰相の用件を伝える。


「別に構わねえぞ?護衛がルーシアだけじゃ不安だろうしな。」


オルガンはレギオン宰相の依頼を受けることにしたようだ。

そのままセロと一緒に皆が休息をとっている中庭に出てくる。


「まぁ、なんだ。心配いらねえとは思ってるが、一応気を付けろよ?」


気まずそうに声をかけるオルガン。


「仕方ない。今日は商会員の援護はなしだな。あぁ、でも一人だけはついてきてもらおうかな。」


西門付近に待機している聖壁騎士団との連絡役としてだ。




「おっちゃん!あたし行ってくるぞ!」


ナナ達は調査の為、ロマリアへと転移して行った。

それを見送ったオルガンは、王城へ向けて歩き出す。




そして、ナナ達が転移してからしばらくの時間が経過し、王城の会議室では大勢の貴族達が意見を交わしていた。



「それでは皆。来るべき停戦交渉に向けて、王国がとるべき方策を話し合いたいと思う。」


レギオン宰相のそんな言葉と共に始まった会議は迷走していた。



「戦力を立て直し、侵略者共を追い返すことこそが急務であると考えます。」


一人の貴族が立ち上がり、さも当然のように言ってのける。


「それが可能であるのなら、そもそも停戦交渉などは不要だ。不可能であるからこその停戦交渉だ。」


レギオン宰相はあくまで冷静に、貴族の意見に返答する。



「会議に参加されている皆様方の中には、各地の状況が不透明な方もおられるでしょう。一度各地の戦況をご説明いたしたく存じます。」


パルムレイク学院長が提案する。

方策を話し合う前にまずは状況を知ってもらう必要がありそうだとの判断だ。


レギオン宰相もその意見に頷いた。


「学院長、頼む。」



まずは敵性戦力の説明から。


北方より帝国軍一万五千。南部開拓地に連邦軍二万。

そして南西部からは魔人族の精鋭が五千。こちらは到着はまだ先の事になるとの見通し。



対して、王国の保有戦力の現状について。


王都に駐在している聖壁騎士団が五千。

現在、その八割程度が王都へ向けて帰還の最中。二割はロマリアにて待機中。


「現状、動かせるのはこれだけだと思って貰いたい。」


学院長の説明の中、宰相が発言する。



「は?三万五千に対し、こちらは僅か五千ですと!?そんな馬鹿な!?」


多くの貴族達が同様に疑問の声をあげる。



「各地の戦力状況についてもこれより説明いたします。」


学院長が貴族達の疑問に答える形で説明を再開する。



海都メルク・リアスの護衛海軍二千。

これは南海の主、シロガミによってほぼ壊滅状態。



辺境エッフェ・バルテの辺境軍四千。

こちらは森の魔獣との戦闘で被害を出してはいるが、ビフレスト商会の助力もあって、都市の防衛に成功している。

負傷者や都市に残す戦力を差し引いても、半数以上は動かせると思われる。


しかし辺境は遠い。移動にかかる日数を考えれば、今から動かしても間に合わない。



次に北方、城塞都市ラムドウルに駐在する対帝国戦力である黒鋼騎士団一万五千。

その内、半数以上が謎の熱病に倒れ、現在も回復する様子はない。


騎士団長であるランゼルフ侯爵は、自身を人質とすることで都市の人命を守ることには成功している。

しかし、病に倒れた兵士に回復の兆しが見られない以上、戦力としては機能しない。

健常な戦力は半ば帝国の捕虜に近い状態になっている。



そして王都の南に広がる広大な平原には、多くの地方小都市や村落が存在している。

それぞれに治安維持の為の戦力が配置され、王都より派遣された騎士達がその指揮をとっていた。

それらを集結させれば、三千程の一軍ができるはずだったが、こちらは以前の両面宿儺の襲撃時に大きな被害を出している。

治安維持に必要最低限の戦力を除くと、抽出できるのは千にも満たないとの見立てだ。



最後に東部、公爵領の保有戦力一万。

ロマリアに駐在していたが、現在はラビュリントスに向けて移動中。


「この戦力については現状保留だ。扱いについては近日中に確定する予定ではあるがな。」


公爵領の戦力についての説明は慎重に行わなければならない。

会議に参加している貴族達の多くは未だ大公の裏切りを知らないのだ。


ウィランの裏切りと、ロッテの家督相続については一部の信頼のおける貴族にのみ、根回しを済ませている状態だ。


「保留というのはどういうことですかな?宰相閣下。」


当然、その詳細を問われることもレギオン宰相は織り込み済みだ。

よってこの機会に、その根回しを完全なものとすることを決断した。



「ウィランは王国を裏切り、この侵略を画策した。よってウィランはすでに公爵ではない。」


ここで会議室にこれまでで最大の衝撃が走った。

その事実を知らなかった貴族達にとっては大変な事件である。


しばらくの間、大騒ぎする貴族達を放置して様子を見ていると、会議室の入り口の扉が開いた。



「騒がしいな。ちったぁ落ち着いて話せねえのか?」


登城したオルガンだった。

会議室までオルガンを案内してきたルーシアも共にいる。


「おお!ビフレスト子爵殿!」


騒いでいた貴族達は落ち着きを見せ始める。


これまでに確かな功績を上げ、王国内に確固たる立ち位置を築いているビフレスト家に対して友好の意を示す為だろう。



「公爵については俺も耳にしている。それをどうにかする為に動いてもいる。」


オルガンはそう言いながら席につく。

ルーシアもまた、宰相に促され末席に。



オルガンの言った公爵についての対処は、レギオン宰相がその説明を引き継いだ。



大公ウィランの令嬢であるシャルロッテが、ビフレスト商会の力を借り、父親を糾弾する為にロマリアですでに行動を起こしている。


「ウィランは裏切ったが、娘であるシャルは王国の味方だ。停戦交渉の後、シャルには家督を継いで新たな大公となってもらう予定だ。」



驚き続きの貴族達も、この発言には思う所があるようだ。

宰相の語る公爵家の扱いに異を唱える者も少なくなかった。


「待って頂きたい、宰相閣下。それでは公爵家に対しての咎が不透明になってしまう。それでは民に示しがつかないのでは?」

「反逆罪に問うのはウィラン個人であり、公爵家は無関係。これはすでに決定していることだ。」


宰相は貴族達のさらなる反論を制し、続けて語る。



公爵領を纏め上げることが可能な人物が、シャルロッテ以外にいないとの判断。

そしてその判断を、王族や南海侯、辺境伯もまた支持しているという事実。



「無論、俺も支持してるぜ?聞くまでもねえだろうがな。」


オルガンもまた、自身とビフレスト家の立場を明確にする。



「シャルでなければ、公爵領の一万の戦力をはっきりこちらの味方につけるのは不可能だ。」


宰相のこの発言を最後に、ロッテの家督相続に異を唱える貴族はいなくなっていた。

相続を支持するそうそうたる顔ぶれに対立することはできないと判断したようだ。




「さて、そろそろ皆も王国の現状を理解できたことだろう。停戦交渉を成功させねば王国の被害はさらに拡大する。」


会議に出席している全員に異論はない。

本来の議題であった停戦交渉についての会議がようやく始まろうとした矢先に、会議室に一人の近衛騎士が飛び込んできた。



「重要な会議の最中に失礼いたします!」


近衛騎士は啓礼し、真っ直ぐにレギオン宰相の元へ進むと、書状を差し出す。


「先程、王城に転移術と思われる魔術で現れた黒いローブの女性に手渡されました。宰相様に渡せと。女性は魔女と名乗りました。」


書状を渡すと、魔女はそのまま転移で去って行ったらしい。



この会議室に、魔女についての情報を持たない者はいない。


会議室の雰囲気が緊張によって一気にピリピリしたものに変化する。

皆が宰相の持つ書状に視線が釘付けになる中、近衛騎士は退出して行った。


「このタイミングだ。交渉に関しての書状だろう。話し合いの前に見ておくとしよう。」


宰相は書状の内容を皆に聞こえるよう、読んで聞かせた。




停戦交渉は明後日の正午に開催を予定している。


開催場所については事前に公開することはない。移動についてはこちらが転移術による送迎を行う。

参加人数は護衛を含め、各国五名までとする。


王国代表として参加する者は、ビフレスト商会前、中央通り大橋前広場にて指定された時間に待機しておくこと。


なお、私は王国の勇者と不戦の約定を交わしてはいるが、攻撃を受けたと判断すれば、その遵守は保証しない。



「以上だ。」


宰相の言葉を合図に、またも会議室は騒然となった。

書状に記された条件について、皆がそれぞれの見解を口にする。


「罠だ、とは断言できないが、万が一そうだった場合はどうしようもない。」

「しかも明後日とは急すぎる。何の準備も出来ないではないか。」


急な開催に交渉の場が不明。それは何の事前準備が行えないということだ。


「五名というのも少なすぎる!交渉人の安全が確保できない!」



レギオン宰相が片手を上げ、皆の発言を制する。


「…。」



「貴公らの懸念はもっともだ。だが我々はこの停戦交渉に縋らねば侵略を止める手段がない。危険を覚悟で出向かねばならん。」



レギオン宰相が自ら交渉に参加すること、そして護衛にオルガンとルーシア。これはそのままだ。


「エトワール王女殿下の参加は見送ろう。安全を確保できない場所に王族を連れ出す訳にはいかん。」


五人という条件が示され、予定していた交渉団や、護衛戦力の殆どは参加できなくなった。

可能な限り、停戦交渉において高い能力を示せる人材をメンバーに指定せねばならない。


「オルガン殿、セロはまだ少年だ。国防の重圧を背負わせることは心苦しいが…。」

「まぁ、その条件ならしゃあねえだろ。問題は後の一人だ。」


オルガンはセロの参加を認めた。

そしてそのまま自分の考えを伝える。


「交渉を重視するのなら、人選は任せる。俺は交渉つったらロッテくらいしかできそうな奴を知らねえ。」


さらに、交渉以外を重視する選択。罠であった場合等、戦闘能力を考える場合だ。


「戦闘を考えるのであればだ。交渉では役に立たねぇが、ナナを参加させるべきだ。ナナの付与術による強化や援護は強力だ。」


会議の席では口にしないが、最後の手段として、ナナが参加すれば転移による逃走という選択も選べる。



「ただし。出来る限り戦闘は避けた方が無難だろうな。」


オルガンは基本的に敵の戦力はこちらより上であることを念押しする。


「帝国や連邦の強者については知らんが、アルカンシエルの奴らは正直どうにもできねぇ。」


オルガンは続けて戦闘に関して、自身の想定を正直に語った。


「少なくとも、先程の魔女。そして辺境でセロとナナがやり合ったフォボスって人狼。こいつらには束でかかっても無理だ。」



会議に参加している皆の表情が沈んだものになる。



「聞いた通り、状況は優しくない。だが我々はやらねばならん。まずはオルガン殿の意見をふまえ、メンバーや方策を決める。」


レギオン宰相の言葉をきっかけにして、会議は再開された。

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