065 不正役人
無事に海都の食事処で合流を果たし、全員で海鮮料理による昼食を楽しんだ。
「お腹いっぱいで動けないぞ!?」
お魚を食べすぎた一部の者が動けなくなっているのでそのまま広場のベンチで休ませる。
他の者もそのまま昼休憩ということで休んでもらう。
「皆、ナナが復活したら一度ロマリアに戻って調査の続きをお願い。俺とロッテは役場に用があるから少し遅れてロマリアに移動するよ。」
セロとロッテは役場へ出向くことにした。
役場前の広場に到着。
「それではセロさん、行ってまいります。」
「俺もコーランさんとマリアスじいさんに連絡入れて、ここに来るように伝えたら中に来るから。」
「セロさん、暴力は駄目ですよ?」
そう言ってロッテは役場に入っていった。
堂々と役場内を歩き、海都の諸問題に対処する部署の関係者を集めるよう受付に伝える。
「え?全員ですか?一体何のご用件でしょう?」
「そうですね。正式名称かは分かりませんが、諸問題対策会議と称する会議を行っている方々です。用件は報酬の未払いについて。」
ロッテは毅然とした態度で用件を伝える。
「お役人さんの対応次第では不正行為として摘発されることもありますよ?」
不正行為という単語が飛び出したことで、受付とその周囲に緊張が走る。
「諸問題対策会議でしたら役場長とあと四名の役人が対応しております。」
「ここに呼んで下さい。すぐにお願いします。」
受付が横にいた同僚に頷くと、同僚が立ち上がり、役場の奥に区切られたスペースで話していた四人組に声をかける。
その間も、受付とロッテの会話は続く。
「内容としては、私どもの商店に対しての営業妨害を含む、従業員への報酬の未払い等になるでしょうか。」
「は?営業妨害?役場の者がですか?」
受付は驚いた顔をしてロッテに聞き返している。
「問答は当事者と行いますから、そうですね、海都に起きた諸問題の中で外部協力者の参加があったもの、それに対して行った会議の資料。そういったものを提供してもらえますか?」
報告書や議事録の類も全てお願いします。と、ロッテはさらに要求を重ねる。
「こちらは別の役人さんで対応してくれますか?そうですね、資料はあちらのテーブルにお願いします。」
さらに、会議にのぼらない小さな問題事についても報告書の開示を要求した。
「連邦海軍の侵略以降の資料でお願いします。それ以前のものは不要です。」
そしてしばらくして…。
役人達は今のところロッテの要求に応えるそぶりは見せない。
受付から伝えられた要求された資料について役人同士で相談するばかりだ。
「う~ん…。駄目っぽいですね…。仕方ありません。」
さらに、ロッテは複数の記録枠を出し、役場内の光景の記録を始めた。
戻ってきた受付はロッテの周囲に映し出されている役場各所の映像に驚いて声が出ない。
「これは見るだけではなく映像を記録して残すことができる魔術です。」
ロッテは実際に映像を記録して受付に見せる。
横にいた同僚も戻ってきた。
「準備するので少しお時間をいただきたいとのことでした。少々お待ち下さい。」
ロッテの出している映像に驚きつつもそう言って席に戻るもう一人の受付。
ロッテに呼び出された四名の役人は未だ動かず、資料を取りに来た別の役人を拒否している。
「いきなり言われても困る。準備するから少し待ってくれ。」
そんな声が聞こえてくる。
(おかしいですね。以前、2号店開店の店舗登録手続きを行った時に比べると明らかに…。)
当時と比較して、明らかに役人の対応が悪い。
ロッテは少し大きな声で、奥にいる四人にも聞こえるように言った。
「皆様がこのままのらりくらりとした対応を取り、私の要求に応えないのであれば、その様子を記録して証拠として提出させていただきます。」
役人達はロッテが何を言っているのか、その意図するところがわからないようだ。
「なかなか動く方がいらっしゃいませんね。本当にこの様子、記録されているんですけど。」
ロッテはそのまま役場に手続きに来ていた海都民に声をかけ、尋ねてみる。
「すみません、おばさん。ここの役人さんっていつもこんな感じなんでしょうか?」
話しかけられた女性は、気さくにロッテの質問に答えてくれた。
「ああ、少し前に役人の配置換えがあったんだよ。」
海都の護衛船団の壊滅で役場に人を回せなくなり、急遽外から人材を補充した。という事情だ。
海都の人間は受付の二人だけだそうだ。もともとの役人は人手不足もあって各所に配置換えになっている。
「たしか、ラッセンと王都で読み書き計算のできる者を募集してここの役場に配属になったって聞いたけどねぇ。」
募集に集まったのは、殆どが職にもつかずフラフラしていた貴族らしい。
「今はすっかり補充の人だらけになっちゃってねぇ、待ち時間がそりゃもう長いのなんのって…。」
ロッテが声をかけたおばさんは、聞きもしないことまでペラペラと説明してくれた。
(なるほど。ここの役場は人員がそっくり入れ替わってしまっているんですね。)
「あの。すみません、先程から皆さんぼ~っとしてこちらを見てるばかりで何もされておりませんが?資料を用意して欲しいのですけど?」
さらにロッテは攻撃を仕掛ける。
「あなた方が住民の要求を無視してまったく仕事をしていない様子も記録されていますよ?職務放棄ですか?」
きつい言い方になってしまっているが、ロッテは怒りに震えるセロの姿を思い出す。
(怒りに耐えて、ここを私に任せて下さったセロさんに報いる為にも中途半端なことは出来ません。断固たる追及をしてみせます!)
「そこの方、それって私が請求した会議の報告書ですよね?内容を書き換えているところも記録されていますから無駄ですよ?」
ついに記録の改竄まで始める役人が現れたようだ。
「い、いや、これは記入ミスを修正しているんだ。」
「修正前の内容も記録されていますし、そもそも無許可で記録の内容を書き換えることは罪に問われる場合もありますよ?」
そして役場の奥で大きい机でふんぞり返っていた役場長が立ち上がる。
そのままつかつかとロッテの方に歩いて来る。
見た目は貴族らしきおじさんだった。田舎貴族と称されそうな風体だ。
「おい!小娘!貴様は一体何様だ!商人の分際で何の権利があって資料の請求など!無礼であろう!!」
「あの。少しは考えて発言しないと。今の言葉も記録されているんですよ?」
記録を行っているということを再度念押しした上で、ロッテは役場長に返答する。
「役場に資料を請求するのに身分は不要です。さらに役場の業務において各資料の請求に対応することは通常業務に含まれます。無礼と言われても困ります。」
「いいや!貴様が請求した資料は役場の内部資料だ!捜査権限をもった監察官か領主様でなくばその資料の請求など認められん!!」
(このおじさん、後ろで威張ってるだけかと思ってたら意外と知っていますね。)
確かに、ロッテが要求した資料の中には、役場の内部資料も含まれていた。
ロッテは落ち着いて役場長の言葉に反論する。
「いいえ、住民が何らかの不利益を被った場合、状況確認の為の閲覧は許可が下ります。この許可は必要とされれば事後手続きが可能です。」
状況に緊急性が認められれば、過去の閲覧にも許可を出して、その行為に正当性を持たせることができるというものだった。
「実際、そこの貴方の部下が今も必死に記録を改ざんなさってますし、この映像記録を見せれば侯爵様はご許可下さるでしょう。」
実際に公爵領を預かる公爵家の娘であるロッテはこういったことに関してはそれなりの知識と経験を持っていた。
「許可を後回しにして資料を請求するなど認めん!!貴様がそれを利用しようとする悪人かもしれんではないか!!」
「貴方にそれを認可する権限はありません。この役場でしたら領主であるマリアス侯爵様の権利です。」
そのままロッテは一枚の書類を広げて見せる。
「これは当商会のコーランさんより預かった委任状です。私が悪人でなく、正式な代理人であることを証明するものです。」
「お、お、おのれこの小娘!屁理屈ばかり並べおって…。」
「それにマリアス侯爵様でしたら間違いなく許可を下さいますから、ちょっとお呼びしてもよろしいですか?」
「待て!!駄目だ!!一商人のクレーム如きで侯爵様をわざわざお呼びするなど!できる訳がなかろう!!」
「いえ、これまでの記録を証拠として認可していただかないといけませんから、どちらにしても来ていただかないと困ります。」
「貴様!商人の小娘の分際で困るなどと!この街で商売ができなくなるようになってもいいのか!!!」
本当はすでに呼んでいるのだが試しに言ってみると、役場長は焦りを見せ、分かり易い反応を返した。
未だに役人達にロッテの要求に対応する様子はない。こそこそと資料の改ざんを続けている者だけが必死に動いている。
「皆さん、いい加減資料を寄越して欲しいのですが?本当に真面目に仕事しないと。この状況で職務放棄は問題になりますよ?」
「待って下さい、請求された資料は大量です、間違いがないか確認しているんです。」
役人はそう言いながら資料の中にあるコーランに関する部分を必死に改竄する。もちろん、ロッテはちゃんと記録している。
記録しているという言葉が方便だと考えているのか、書類を改竄する手元までは見えていないと判断しているのか。
役人達が動かないということであればそれでも構わない。やがて来るであろうマリアス侯爵が現れた時点で動かざるを得なくなるのだ。
「問題だと!?小娘、貴様!役人を恫喝するか!誰か!衛兵を呼んでこの小娘を捕縛させるのだ!!」
しかし、役場長の指示に役人が対応する前に、役場入口から老人の声が聞こえた。
「確かに衛兵は必要じゃな。不正役人の捕縛を命ずる必要があるのぅ。」
入口にはマリアス侯爵とセロがいた。
老人の足では時間がかかると考えたセロは迎えに行って侯爵を運んできたのだ。
移動の最中、簡単にではあるがセロから事情を聞いた侯爵は激怒。
通りを警邏していた衛兵に、役場に人を寄越すようすでに命じてある。
「シャル、事情を説明してくれるかね?」
ロッテはビフレスト商会という名は出さずにコーランが被った被害を侯爵に説明する。
「確認の為に資料の開示閲覧を要求した所、関係者である四名の役人はそれを拒否して記録を改竄。こちらの役場長は私の捕縛を命じられました。」
ガタン!!
奥の方で大きな音を立てて四名の役人が立ち上がる。
「待ってくれ!拒否なんかしていない!ちょっと待ってもらっただけじゃないか!!」
「間違いを修正していただけだ!!改ざんじゃない!!」
「この娘は私達の行いを悪質に言い換えて貶めているんだ!言いがかりだ!!」
「嘘をつくな!!証拠はあるのか!!!」
立ち上がった四人の役人が必死に声をあげている。
「つまり、このおっさんと奥で立ち上がってる四人がそうか。わかりやすくていい。」
セロは対象の五名を鎖で拘束。マリアス侯爵の目の前に引っ張り出した。
「一度儂のサインが入った書類の内容を無許可で書き換えることは文書偽造の罪に問われるぞ?」
そして拘束された役人達を一瞥したマリアス侯爵が冷たく言い放つと、役人達は大人しくなった。
ロッテは、問題対策に関わった役人の対応を侯爵に任せ、未だに資料を持ってこないどころか用意すらしない他の役人に対しても見切りをつける。
(やはり他所から来た役人さんには期待できそうにありません。)
この役場にいる海都の人間は受付の二人だけ。
「すみません、受付の仕事ではないかもしれませんが、ご協力願えますか?」
ロッテは受付の二人に資料の提出を始め、提出された資料の確認や集計を頼む。
「こちらの役人さんが記録を改ざんされていた書類がそうです。」
対象が限定されたことで、受付の二人は迷うことなく目的の資料を運んでくることができた。
そのままテーブルに資料を並べていると、コーランが到着。
一緒にテーブルについてもらい、記録した映像と共にマリアス侯爵にも見てもらう。
一通りの確認が終わり、マリアス侯爵が拘束された五人に対し、宣言する。
「まずはお前達には各種支払いの義務が生ずる。」
まず、コーランが店舗での業務に携われなかった期間を損害賠償として請求する。
ビフレスト商会の従業員一人当たりの売り上げは結構な金額になる。損害賠償はかなりの高額になることが予想された。
次に、コーランが駆り出された期間の賃金。こちらも一般の商店と比較してもかなりの高額だ。
次に、コーランが参加させられた諸問題についての相談事については正規の相談料。
そして会議の方では、外部有識者の会議参加による協力には謝礼金が支払われる。
最後に、被害を被った商会に対する迷惑料。これが最も高額になる。
商会長であるオルガンが提示金額に納得しなければどこまでも金額は吊り上がる。
しかも、マリアス侯爵はその金額に上限を設定しなかった。
マリアス侯爵は役人達に以上を説明する。
「全員の賃金と個人資産の差し押さえ程度ではまったく足りん。王都とラッセンにあるお前達の実家にも賠償が求められるじゃろう。」
ここでようやく問題対策に関わった役人達の顔色が変わる。
自分達の予想よりも大変な事態になっていることに気が付いたのだ。
マリアス侯爵は諸問題対策を担当する部署のメンバーを加害者として認定した。拘束されている五人がそれにあたる。
「次は罪状じゃ。これはこの役場の役人全てに適用する。」
まず、他の役人は、職務放棄による減給。厳重注意処分となった。
次に、加害者認定された五人。
「当然、お前達には職務放棄に加え、詐欺や文書偽造の罪も追加される。」
実際に商会に損害を与え、かつ損害の関連資料の開示に応じなかったことは大きなマイナスとなっていた。
「最低でも五年は牢獄で労役じゃ。賠償額にオルガン氏が納得しなければ労役はさらに長くなるじゃろう。」
中でも、床に膝をついて放心する役場長にはさらに追加の罪状がある。ロッテに対する不正捕縛だ。
「役場長よ。お主の罪は重いぞ?極刑もあり得ると考えておくのだ。」
マリアス侯爵の言葉に、役場長はその顔を見上げ、質問する。
「無礼な平民の捕縛を要請することは罪でも何でもない。治安を維持する為の行動ではないのですか…?」
「たしかに問題を起こした者であればそうなる。じゃが彼女は何も問題なぞ起こしておらんし、完全な被害者じゃ。」
未だ納得できない役場長はマリアス侯爵の返答にさらに反論する。
「それでも!何故私だけが極刑もあり得る程の罪を被らねばならないのですか!?おかしいでしょう!?」
部下である一般役人もまた、役場長の反論に引っ張られたのか、不満を口にする。
「賠償金を始め、それぞれの支払金額が異常です。我らの個人資産を全て充てても不足するなぞあり得ない!」
加害者認定された者達は、自身の未来を想像する。
一般役人は、多額の賠償金を請求される。全ての資産を没収され、それが賠償に充てられるのだ。
さらに不足分は実家である貴族家に請求が行く。おそらくは実家からは勘当、絶縁されるだろう。
賠償額に被害者が納得すれば、五年間の牢獄における労役の後、裸一貫の平民として再スタート。
賠償額で納得させられなかった場合は追加の労役が科せられ、さらに長期の労役の後、罪を許された後に無一文の平民スタート。
どちらの場合でも、自分を勘当、絶縁した家からは支払った賠償金の返還が求められるだろう。
再スタートを切った無一文の平民となった元役人は、即座に多額の借金を背負うことになる。
四人の役人にとっては、かなり重い処分となる。
そして諸問題対策部署の責任者である役場長はどうなるのか。
基本的には他の四人と同様の処置なのだが、不正捕縛の罪が追加される。
これによって役場長の罪状は極刑の可能性が見えてくる程に重くなってしまったのだ。
極刑があり得るということは、それを免れたとしても残りの人生は罪人として過ごすことになる。
「どうしてだ。どうして小娘一人の捕縛を命じたくらいでこのような重い罪に問われねばならんのだ…。」
下された決定に納得できない者達はぶつぶつと恨み言をもらしている。
そんな彼らに、マリアス侯爵は決定の理由を伝える。
「まず、お前達がその営業を妨害し、多大なる損害を与えた商会の名はビフレスト商会。」
当然、役人達はビフレスト商会の力を利用するべく問題対策業務に絡ませていたのだから、それは熟知している。
「ビフレスト商会の売上や賃金は一般商店とは比較にならん。当然支払う金額が高額になるのも当然じゃ。」
同時に、ビフレスト商会は子爵家でもある。
ビフレスト子爵家が家業として商会を経営しているということだ。
「仮に、役人が子爵家の使用人を騙し子爵家に損害を与えた場合。それがどれほどの罪になるか。」
マリアス侯爵がこのように言い換えたことで、役人達にもそれが伝わったようだ。
ビフレスト子爵家は王国への功績大として注目を集めている家柄。
下手をすれば賠償金と罪状がさらに跳ね上がることは間違いない。
それを理解した役人達は下を向いて大人しくなった。
実際にこの役人達はコーランに支払うべきお金を着服していたことがすでに発覚している。
一見、ただの平民の一商人にしか見えないコーランの外見と、その温和な対応に調子に乗って小遣い稼ぎがエスカレートしてしまったのだ。
役人達は己の行いを後悔していたが、セロはすでに彼らの方に視線を送ることすらしなかった。
(結構時間かかっちゃったな。早くロマリアに戻って皆と合流しないと…。)
そしてそんな彼らを束ねる役場長。
マリアス侯爵は役場長の元に移動し、ロッテを呼ぶ。
「シャル、変色を解除してくれるかね?」
ロッテは頷いて、金髪碧眼の本来の姿を晒す。
その姿を目にした役場長だけでなく、役場中の者達がその正体に驚愕する。
考えてみれば、髪の色を変え、眼鏡をかけただけの変装。
なぜ思い至らなかったのか。そんな思いが伝わってくるような。そんな顔をしている。
「役場長よ、こちらのお嬢様が誰か分かるかね?」
「あ…、あぅ…。」
役場長もまた、ロッテの正体を特定したのだろう。言葉がでない様子だ。
王国では貴族の家はその功績を評価され、陞爵する。その最高位は公爵まで。では王国における大公とはどのような扱いなのか。
それは、公爵家の中でもその上位に立つことを王家より認められた者に与えられる称号のようなものだ。
よって、大公と呼んでも公爵と呼んでもいい。どちらも正解となる。
大公は王国貴族の頂点に立つ者へ与えられる称号。
つまり、ロッテは王族を除けばこの国の頂点に立つ存在である大公のご令嬢となるのだ。
「ウィラン・カールレオン大公閣下がご令嬢、シャルロッテ・カールレオン様である。」
静まり返った役場内にマリアス侯爵の声で告げられた。
「大公閣下だけではない。ビフレスト商会の後援にはこの儂も含め、レギオン宰相やブランギルス辺境伯も名を連ねておる。」
役場長は大罪の理由を理解した。
「お主の大罪はもはや語るまでもあるまい?」
そしてマリアス侯爵の言葉にボロボロと涙を流した。
「侯爵様、役場長の不正捕縛の罪状だけは取り下げようかと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「本気なのかい?シャルちゃんや。」
「たしかに役場長は私の捕縛を指示されましたが、実際には私は捕縛されておりません。罪状を不正捕縛未遂に変更を。」
マリアス侯爵はよりにもよってビフレスト商会に不正を働いた輩に遠慮するつもりもなかったが、被害者自身の申し出だ。
「シャルちゃんがそう言うのであれば儂はかまわんが…。」
「役場長は平民だからと私の要求に応えてくれませんでした。ならば私は、相手が公爵だったからと科せられる重罪をそのままにはしておけません。」
結局、ロッテの要望に応え、役場長の罪状も他の役人達と同様のものとなった。
「役場長さん、貴方が次の人生を生きることができるようになった時、人に優しくできる貴方になっていることを願います。」
そしてロッテも役人達から離れ、セロの元へ移動する。
「セロさん、このような処置でいかがでしょうか?」
「俺がボコるよりもむごい事になっちゃったね。まぁ、同情はしないけど。」
セロは満足そうに返答した。
残務処理はコーランとマリアス侯爵がやってくれるそうだ。後は二人に任せることにした。
「無事解決したのはよかったけど、その分時間を取られた。ロマリアの調査を皆に丸投げしちゃったよ。」
「私達も調査に急いで合流しましょう。」
セロとロッテは皆に合流するべく、ナナを通信で呼び出すのだった。