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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
08 死都
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063 衛星都市

目の前に広がるのは麦畑だ。


西門から都市部へと続く道の両脇には沢山の黄金色の穂が実っている。

遠くには巨大な風車が見える。



「なんだあれは!?くるくる回っているぞ!?」


最初にナナが騒ぎ始める。風車が気になるようだ。


「本当だ。風を受けて回転してるのかな?」

「あれが回ってどうなるってんだ?なんか意味あんのか?」


セロとオルガンも初めて目にする風車にそれぞれの感想をもらしている。



「くるくるニャ~。」

「きっと風に当たって涼むためのものニャ!」

「あれはたぶん、風を起こしているんじゃなくて風を受けているのニャ。」


ニャンニャン達も当然、風車を見るのは初めてだ。



「ロッテ、解説の出番だぞ?」

「はいはい。」



ナナにぐいぐいと制服を引っ張られているロッテは風車の解説を始める。

ここの風車に最も詳しいのは迷宮都市に暮らしていたロッテなので、適任でもあった。


「あれは製粉用の垂直軸風車です。風を受けて羽根を支える軸が回転し、その動力で石臼を回すんです。」


「自然の力をうまく利用しているんだね。」

「なるほどな。うまいこと考えるもんだな。」


「?」



ナナには難しい言葉が多すぎる解説だった。

ロッテはすぐにナナにも分かるように説明する。


「親分が毎日食べているパンの材料になる小麦粉を作っているんです。」



やがて麦畑を抜け、ちらほらと建物が見えてくる。


この辺りからは牧場等が多く見られる。ロマリアでは畜産も盛んなようだ。

木製の柵の内側には大人しそうな牛が放牧されている。

ラビュリントス西の街道付近の牧場で飼育されているのと同様の品種。グラン牛だ。



「少し、話を聞いてみようか。」


一行は近くの牧場に足を向ける。


厩舎の中にはグラン牛に飼料を与えている男性がいた。



「おじさん、ちょっといいかな?少し話が聞きたいんだ。」

「うわっ!いきなり何だ!?」


男はこちらに気付いていなかったらしく、少し驚かせてしまったようだ。


「んん?見ない顔だな?他所から来たのかね?」

「王都から来たんだ。これは王立学院の制服だよ。」


セロとロッテ、アランは学院の制服姿だ。

連れている大量の猫と、怪しい筋肉男を除けば、普通の学生に見える。


「あれ?緑髪に眼鏡のお嬢ちゃん。君、どこかで見たような…。」

「きっ、気のせいです!!」


ラビュリントスの衛星都市であるロマリアにおいてもシャルロッテは有名人だ。

ロッテは慌てて誤魔化している。



セロ達と同じく、ロマリアの状況が気になっているオルガンは大人しく学生達の背後に。

そして連れていた大量の猫達は厩舎の中を走り回っている。


「おお!こいつらが牛か!!あたし初めて見るぞ!!」


迷宮都市から馬車で移動した際に、牧場に放牧されている姿があったはずなのだがナナの印象には残っていないようだった。


「体は大きいけど動きは鈍そうニャ!」

「おっぱいがすごく大きいニャ。巨乳ニャ。」


ナナとミケとクルルは遠慮なく牛に触りまくっていた。


「まって!ナナちゃん!!」

「ちょっとナナさん!?勝手に触ったら駄目ですわよ!?」


ジルとエトワールは必死にナナ達を追いかける。


「やれやれニャ…。」


それを追走するトラ。



「よしよし、いい子だ。あたしエサをやるぞ。」


桶に入れられている牛の飼料をむんずと掴んで牛の口元に持ってくる。



ベロン。



「ぎゃあ!!びっくりした!!!」


飼料を食いつく時に、同時にナナの手をベロリと舐める牛。

ナナは自分の手も一緒に食べられると思って驚いたようだ。


「食欲旺盛ニャ!この葉っぱはそんニャにうみゃいのかニャ?」

「気にニャるのニャ。」


桶に入った飼料をじっと眺めるミケとクルル。


「そこのアホ二匹。食べたらお仕置きニャ。」


追いついてきたトラはミケとクルルを嗜める。



「ナナちゃん、めっ!」


そしてナナはジルに捕獲されていた。



「グラン牛は動きは遅いけどとても力が強いんだ。不用意に近づくと危ないよ?…って猫が喋ってる!?」


「ああ、あれは気にしないで。」


驚愕する牧場の男に軽い返事を返すセロ。


「とりあえず、牛にイタズラしないでくれよ?」


心配そうにしている牧場の男と会話を始めるセロ。ようやく情報収集だ。



「君達、西門から入ってきたんだろう?開いているのはそこだけだからね。悪いことは言わない、すぐに引き返すんだ。」

「何で?」


セロは即座に聞き返す。


「私は詳しいことは知らない。旅人を見かけたらそう言えって連絡が回ってきているんだよ。」


「よくわからんがとりあえずその理由を言え。」


今度はセロ達の背後から。オルガンの声だ。


牧場の男は自分の知る範囲で、ロマリアの状況を話し始める。



「ここ数年、この都市ではおかしな事件が起こっているらしいんだ。それは東の市街区での話だから、こんな郊外に届くのは噂ばかりなんだ。」


それでもよければ。

そう言った男に、皆は頷いて話の続きを促す。


「東の市街区で、他所から来た人間の失踪事件が頻発してるって噂だ。」


市街区というのは、地理枠で確認したロマリア東部に位置する都市部のことだろう。


現在のロマリアは西門以外の門を封鎖してあり、都市郊外を通ってしか入れない状態になっている。


「都市伯様からの命令で、郊外で他所から来た者を見かけたら警告するようにって言われているんだ。」



知っているのは噂だけ。

それでも、何も情報を持たない一行にとっては貴重な話を聞けた。


「ありがとう、おじさん。俺達はやらなくちゃいけないことがあるから引き返すことはできないけど、気を付けるよ。」

「そうか。無理にとは言わないよ。市街区の近くまで行けばもう少し詳しい話も聞けると思うよ。」



男に礼を言って、東の市街区へと向かう。


カールレオン公爵は、ロマリアへ向かうことだけを衛兵に伝えてラビュリントスを出たことは報告を受けている。


「お父様がロマリアへ向かったのなら、滞在先はまず間違いなく親友である都市伯、アルベルト小父様の所です。」


スピリタス伯爵の城は東の市街区にある。

どちらにしろ行かねばならないのだ。



街道をまっすぐ東へ歩く。

外を歩く住民を一人も見かけないままに、市街区へと到着した。



「やっと街っぽくなってはきたが…。」


アランはその光景に違和感を感じ取る。



まず、大通りを歩く人間が少ない。


「人、少ないね。それなりに大きい都市なのに、人口は少ないのかな?」

「いえ、そんな筈はありません。公爵領の都市としてはラビュリントス、ラッセンに次ぐ大都市です。」


次に、殆どの建物の窓が全て閉じられている。

しかも、鉄板で塞がれていたり、鉄格子を被せられていたりと、物々しい雰囲気だ。


「ロッテ、あの窓は?ここって危険な飛行生物とか、いたりするのかな?」

「いえ、そのようなことはありませんし、私が以前訪れた時はあんなものはありませんでした。」




ロマリアの四方の門から続く大通りが交差する場所は広場になっていた。


中央には大きな四角柱。


「ん?でかい柱があるぞ?ロッテ、これなんだ?」

「オベリスクです。都市国家時代の記念碑だと言われています。」


「?」


ロッテはよくわかっていないナナを連れてオベリスクに近き、いろいろと解説しているようだ。



ここは東街区の中心だ。それなのに殆どの建物は出入口や窓は閉じられ、出歩いている住民もまばらだ。


明らかに街の様子がおかしい。



「おい、そこのお前。」


たまりかねたオルガンは数少ない通行人に事情を聞くことにしたようだ。


「は、はい。何でしょうか?」


通行人はオルガンの容貌に脅えているのか、おそるおそるといった感じで返答する。


「表に出てる人間が少なくねえか?なんか病気でも流行ってんのか?」

「いえ、皆、怪人を恐れて外に出てこないだけです。夜にしか現れないと言われていますが、やはり恐ろしいのでしょうね。」


「怪人だと!?」


聞きなれない単語が飛び出したことで、オルガンが食いついた。


「真っ黒の服を着た怪人物が人を襲っているという、あくまで噂なのですが、旅人の失踪事件もあってか、住民はすっかり怖がってしまっているのです。」


誰もその正体を知らないその黒衣の人物は、いつしか怪人と呼ばれ恐れられているらしい。


それでも、日中限定だが、少し前までは店も開いていたし、外を歩く住民もここまで少なくはなかったそうだ。


「数日前に飛び込んできた白銀帝国によるラムドウル陥落のニュースもあって、伯爵様がしばらく外出を控えるようにと。」


通行人は広場の掲示板を指し示した。


そこには、都市伯からの命令書が張り出されている。




【通常外出禁止命令】


しばらくの間、東街区住民達の無用の外出を禁ずるものとする。

外出は必要最低限とし、やむを得ない事情がある場合を除き、極力家から出ないように。


また業務上外出が必要となる職業に従事する者は、これを許可する。

ただし、日没以降の外出はこれを一切認めない。


期間は、ロマリア周辺の治安が回復するまでとする。



カールレオン大公閣下の外交努力により、白銀帝国の軍勢がロマリアに攻め込むことはない。連邦軍も同様である。


よって、ロマリアが抱える当面の問題は二つ。

闇夜の怪人。そして旅人の失踪事件だ。


これらの問題が解決するまでは以上の命令が有効となる。



命令を聞かず、外出する者もいるかもしれない。

しかし、それらの対象には罰則等を設けるつもりはないが、この命令はロマリア住民を保護する為の措置である。


無用な血を流さぬ為にも、絶対に遵守するように。




一通り読み終えたオルガンは、通行人を見やる。


「そういやぁ、おめえは外を歩いているな?怖くねえのか?」



この通行人は家の物資がいくつか不足してきたので西の牧場まで買い付けに出向いた帰りなのだそうだ。



「もちろん恐ろしいです。だからこそ、夜は全ての窓や扉を封鎖して外に出ないようにしています。」



「成程、あの物々しい窓や扉は怪人対策ってことか。」


こっそりと聞き耳を立てていたセロは呟いていた。



通行人は夜に出没するという怪人について詳しい情報は持っていないようだった。

怪人の情報源は東街区の外れ、裏通りにある小さな酒場だそうだ。


「皆さんはロマリアの方ではないのでしょう?夜になる前に街を出た方がいいですよ?」


それだけ伝えると、通行人は去って行った。



「この時間にやってるかはわからんが、酒場には俺が話を聞きに行ってくる。」


酒場で怪人の情報収集はオルガンが引き受けてくれた。


「んじゃ、後でな。」


オルガンは通行人の言っていた裏通りへと向かった。



「そういうことなら俺達は先に都市伯って人に会いに行く?公爵もそこにいるんだろうし。」


セロはさらに、騎士団と供に城壁外に待機していた六人に連絡を入れる。



「ごめん、待機してもらうつもりだったけど、調査したい所がちょっと多くなりそうなんだ。こっちに来てくれるかな?」


急遽、五人の狩猟者に都市内の情報収集を頼むことにした。

一人は連絡役として騎士団と供に待機だ。


「騎士団にロマリア出身の者はいるかな?もしいるようならこっちの調査を手伝って貰おうかと思うんだけど。」



「すみません、残念ながら…。」


ここに来ている聖壁騎士の中にロマリア出身者はいなかった。


聖壁騎士団は西門近くで待機。


「セロさん、騎士達なんですが、食糧が残り少ないらしいっす。」


「城壁の外での現地調達が難しいなら、ロマリアで購入…、いや。ロマリアの物資には手を付けない方がいいか。」


必要最低人数を残し、補給部隊を一度ラビュリントスに送って物資の補給を行うよう依頼した。



次は街の調査を受け持つ五人に指示を出す。


「夜に出没するという怪人の情報を探ってみてくれ。」



他にも、都市伯のことや、公爵の事など、使えそうな情報は全て調べる方針だ。



「ナナとロッテは俺と一緒に都市伯の城に行ってみようか。アランとジルとエトワールはミケ達を連れて街の調査を頼む。」



ナナは全員に祝福と幸運を付与し、強化する。


「ナナちゃん、別れて行動するみたいだから、猫の誤認付与を解除してもらっていいかな?」

「そうですわ、猫のままでは聞き込みの度に騒ぎになりますわ。」


「ぬぅ…。仕方ない。」


ナナは渋々三人の猫化を解除する。


着ぐるみを脱いで学院の制服姿に戻り、その後で皆が新しく装備に追加した対抗付与を発動させる。


「今後は常に対抗付与を付けといた方がいいかもしれないな。」


何があるかわからない、それもあるが、今回に限っては公爵の付与術を警戒しての対策だった。



「セロさん、私達に調査して欲しい場所とかありますか?」


制服姿になったジルがセロに要望を尋ねる。



「うん、ジル達には失踪事件の方を調査してもらうつもりだ。」


まずは行方不明になった失踪者を特定し、探知でその居場所を調べる。


「事件なんだから衛兵とかが調査してるんじゃないかな?門衛に声をかけて失踪者の一覧でも貰うといいよ。」


さらに、うまくいかなかった場合の為に予備の方針も説明する。


「門衛に各門の通行記録を見せて貰って、外からやってきてロマリアに入った者、その中で外に出た記録のない人物を調査だ。」


外から来た者で、ロマリアから出ていない者。その中に街にいない者や行方不明者がいればそれが失踪者ということになる。

しかし、失踪者=外部の人間と決めてかかるのもよくないかもしれない。


セロは通行記録による特定はあまり過信しないように伝える。



「ジル、無事に失踪者を特定できたら、探知で居場所を探るだけでなく、人物調査も行って欲しい。」


失踪者の年齢、性別、職業、鑑定結果、人間関係。

それらは失踪事件を調査するにあたって、大きなヒントになるかもしれない。


「あとは、調査中も周囲をよく見て、ジルの探知とトラの嗅覚をうまく使ってできるだけ沢山のヒントを持ち帰って欲しい。」



最後に、もしも仲間が誰かいなくなったり、何らかのトラブルが起きた場合はすぐに連絡をするように周知する。


「それじゃあアラン、皆を頼んだよ?」

「任せろ。俺の拳は仲間を守る為のものなんだからな。」


アラン達は通りを北に向けて歩き出す。

五人の狩猟者達もまた別れて東街区の各地へ散って行った。




そして広場にはセロ、ナナ、ロッテの三人が残された。


「俺らは都市伯の城に行こう。ロッテ、案内を頼める?」

「はい。任せて下さい。」


ナナはロッテの手を握る。


「ロッテ、親分が迷子にならないように案内するんだぞ?」

「親分こそ、知らない人について行かないで下さいね。手を離したら駄目ですよ?」



三人は移動を開始した。


都市伯の城は街区の北東の端に位置しているそうだ。

ロマリア東門に向けて大通りを東へ進み、東門前広場から北に延びる通りを行けば辿り着ける。



大通りは活気もなく人影もまばらだ。

三人にちょっかいをかけてくる者は皆無。仮に何者かが襲い掛かってきたとしても、すぐに察知できる。


周囲を警戒しながら歩みを進めていたセロは、せっかくなので移動がてら簡単な打ち合わせを行うことにした。



「ロッテ。ウィランさんとロマリアの都市伯の関係についてなんだけど。」

「ロマリアの領主であるアルベルト小父様はお父様の若い頃からの親友なんです。」


「つまり、都市伯もまたアルカンシエルのメンバーである可能性が高い。ということかな。」


ロッテもその可能性は考えていたようだ。


「はい。私もそう考えています。」


「ふむ…。」



セロはしばし考える。

スピリタス伯爵をどの程度の脅威として想定するか。


おそらく阻害されるだろうから鑑定は出来ないと思った方がいい。

そして、まず間違いなく何らかの恩恵を宿している筈だ。無能であるはずがない。


「けど何の情報もないしなぁ。雑魚ではない。くらいしか分からない。」



セロはロッテに尋ねることにした。


「ロッテ、都市伯なんだけどね、アルベルト・スピリタス伯爵だっけか。どんな人?」


「そうですね…。」


ロッテは幼かった頃、父の親友であるスピリタス伯爵とは何度も会っている。

その時に交わした会話を懸命に思い出す。


「アルベルト小父様はスピリタス家の四男。体つきにも恵まれず、騎士には向いていないと常々言われていたそうです。」


「なら近接戦闘は苦手ってことかな。現在のスピリタス伯爵もそんな感じなの?」

「背は高いですが細身ですね。腕力に物を言わせるようなタイプではありません。」



スピリタス伯爵の戦闘能力については、現時点では答えは出ない。

セロは話題を変え、もう一つ気になったことを聞いてみることにした。


「四男ってのは?王国貴族って長男が家督を継承するんじゃないの?ってことは兄貴達はすでに故人なのかな?」

「いえ、確かご存命のはずです。スピリタス家の当主であるアルベルト小父様の側近として今も仕えておられるはずです」


王国貴族が基本的に長男に家督を継承させるのはセロの指摘の通り。

スピリタス家の四男であるアルベルトが如何にして家督を継承したかについて、ロッテは二つの推測を語った。



「まずは、簡単ですが、お父様がそうせよと命令すれば四男の家督継承は成立します。」


公爵領における大公の言葉は絶対である。

友人であり、自分の最も信頼する者が家督を継承した方が都合がいい。


当時のウィランがそのように考え、強制的にアルベルトを当主とした可能性がある。



「もう一つの可能性は、正しくアルベルト小父様が当主として認められた可能性です。」


通常、長男が継承する貴族の家督ではあるのだが、実は兄弟の序列以上に重視される条件がある。


「兄弟の中で最も優れた恩恵を宿す者が家督を継承する。というものです。より優れた血を残せる者が当主となる訳です。」


王国の人間の恩恵所持率は低い。滅多に起こらないケースではあるが、可能性はある。


「とある貴族家で、妾の子が恩恵を宿して生まれてきた時、正妻が自分の子を当主とするために妾とその子供を人知れず亡き者にする。そんな事件も普通に起こっていたそうです。」


なので王国では、貴族の赤子を鑑定する場合はその上位貴族の立ち合いが義務付けられている。

実際には殆ど守られてはおらず、皆、赤子が生まれたらすぐに鑑定を行っているようだが。



「アルベルト小父様に何らかの恩恵が宿っていたとすれば、四男である小父様の家督継承も別におかしなことではないんです。」


「なるほどね。」

「わかったぞ。」


セロと共にナナまでも理解を示した。


「え?親分には難しい話だったと思うんですが…。」


「わかる!あたしもまた一子相伝の秘拳の伝承者となった女だ!だからわかるんだ!!」



手を繋いだロッテに向けて顔を上げたナナは言った。



「簡単なことだ。要は伝承者の席を争う四人兄弟の物語だろう?あたしは誰よりもそれを熟知しているんだぞ?」

「はい。この場合は家督=伝承者なんですね?」


「そう。そしてさらには長男=邪戯となる!というか邪戯三人とアルシロウの兄弟だな。」

「は?邪戯?」


「分かり易く説明するために、少し役割を変更したんだ!」



ナナは自分の理解を証明する為に説明を始めた。




「伝承者を目指し、日夜修行を続ける四人兄弟。末弟のアルシロウには三人の兄がいた…。」

「わかりました、アルシロウ=アルベルト小父様ですね?親分。」


こくんと頷いたナナは語り続ける。



「長男は自分が伝承者となることをまったく疑っていない。恩恵を持たない四人兄弟だからだ。」


この時点ではアルシロウは恩恵を宿してはいなかった、もしくは周囲がそれを知らなかったとセロが補足する。



「逆にアルシロウは伝承者となる未来など想像もできない…。末弟だからな!」


四男であるアルベルトは自分が家督を継承することなど想像できないと言いたいらしい。



「それでもアルシロウは真面目に修行した。伝承者になれない上に、筋肉がしょぼくて拳法家にもなれないからだ。」


先程のセロとロッテの会話から、剣に向いていない細身のアルベルトは騎士になるにしても修行が必要と言いたいのだろう。



「他の二人の兄はどうせ伝承者になれないと修行の手抜きを始める…。次男と三男だからな!」


この兄弟は貴族だ。次男と三男はとりあえず騎士っぽいものになって家督を継いだ長男に寄生することを選んだのだ。



「兄より優れた弟なぞ存在しねえ!!そう言って修行にかこつけてアルシロウをいじめる長男…。」


ちなみにスピリタス家は騎士の家系。もしも修行の成果が出ず、騎士になれなかった場合。

その時は家を出て一人で生計を立てねばならない。今度はロッテが捕捉説明する。



「アルシロウは長男のいじめに耐え兼ね、家出をするんだ。目的地は迷宮都市だ。そこでロッテの親父と友達になる。」


これ以降の物語は大胆に省略するナナ。なんかいろいろあった。の一言で済ませてしまった。



「そしてロマリアに戻ったアルシロウは二つの力を手にしていた。一つは恩恵。もう一つは大公になった親父のゴリ押し。」


ロッテの示した、家督を得る方法として有効な二通りの推測。

ナナはアルシロウは両方持ってたんだと主張する。当然、根拠はない。



「こうしてアルシロウは伝承者となり、三人の邪戯は伝承者争いの敗北者として、その拳と記憶を封じられるのだった…。」


ナナの語りが終わった。



「どうだ?ロッテ。あたしちゃんと分かっているんだぞ?」


分かりにくい表現だったが、ロッテの語ったスピリタス伯爵の事情はナナもちゃんと理解できているようだった。


「難しい話だったのにちゃんと聞いていたんですね。偉いです、親分。」


ロッテは嬉しそうにナナの頭を撫でる。



「ムフフフ。当然だ。ロッテは親父と決闘しないって言ってたからな。口喧嘩をするつもりなんだろうと思ってな?」

「そこは話し合いとか!交渉とか!親子会議とか!」


「あたしな、論破とか意義ありとか言ってみたいんだ。」


ナナは親子の話し合いに参加する気満々のようだった。

だからこそセロとロッテの話をしっかり聞いていたのだ。


「ロッテは雑魚だからな。きっと親父に泣かされるに違いない。子分がやられたら親分の出番なんだぞ?」


「雑魚は余計です!!そもそも親分が話し合いに参加してどうするんですか!」


ナナはロッテにきょとんした表情で返す。



「あたしの交渉能力で親父をボコるに決まってるだろ?」


何故かナナは自信満々に笑って見せる。


(親分に言い負かされるお父様がまったく想像できないんですが…。)



「ロッテ、その時が来たらもちろん俺も手伝うからね。」

「ありがとうございます、セロさん。」



話しているうちに、城門が見えてきた。扉は開放されているが、両脇には門衛の姿がある。


城門の向こうに見える城は、都市国家だった頃の王城であるロマリア城を補修してそのまま流用しているのだ。

年月によって老朽化しているが、その大きさは立派なものだ。ラビュリス城よりも大きい。



三人は真っ直ぐに城門へと歩いていく。


やがて二人の門衛もこちらに気付き、進路を塞ぐように互いの槍の交差させる。


「君達、ロマリア城に何の用だ?今は外出禁止令が出ている筈だが?」



その言葉に返答する為に、ロッテが一歩前に出る。

眼鏡を外し、ヘアバンドも変色効果を解除してから外す。


元の金髪碧眼に戻ったシャルロッテ・カールレオンは門衛に返答する。



「お父様とアルベルト小父様にお話があります。そこを通して貰えますか?」

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