061 英雄
「静寂殿、南北の制圧、無事完了したようですよ。」
全てのカーテンが閉じられ、日中にもかかわらず完全に陽光を遮られた薄暗い部屋。
静寂と呼ばれたサーレント枢機卿に届けられたのは、その盟友たるアルベルト・スピリタス伯爵の声だった。
「王都から派遣された聖壁騎士団は戦闘を仕掛けることはなく、交渉の席を設けることを伝えてきたそうです。」
ソファーにゆったりと腰を下ろして、優雅にワイングラスを傾けているサーレント。
「では迷宮都市の戦力は動かさなくてもよくなったか。しかも王国側から交渉を持ち掛けてくるとはね。」
南北のどちらかに派兵する場合に備えて、作戦等も伝達済だったのだが、肩透かしを食ったようだ。
しかし、サーレントはそれを好都合だと捉えていた。
南北の切り取りを援護する為に待機させていた戦力だったが、使わなくてすむのであればそれに越したことはない。
彼らもまた、愛娘に残す大切な人的資産なのだから。
「まったく。恐ろしいくらいに彼の見立て通りに事が進んでいるな。どこまで見えているのやら。」
サーレントは、頭部をすっぽり覆うフルフェイス型の仮面をつけた白衣の男の姿を思い浮かべる。
「では彼らは迷宮都市に帰還させますか?」
「そうしよう。しかしね、それはいいんだけどアルベルト。その喋り方はどうにかならないのかい?」
スピリタス伯爵は表の立場同様、アルカンシエル内部においても最高幹部サーレントの側近ということになっている。
常にサーレントの右腕として振舞うスピリタス伯爵は、それに相応しい言動が癖になっているようだった。
「ここには僕らしかいないんだよ?寂しいじゃないか。二人きりの時くらい、昔みたいに喋ってくれよ。」
「まったく…、わかったよ、ウィラン。これでいいかい?」
「そうそう、やればできるじゃないか、アルベルト。」
スピリタス伯爵はサーレントの向かい側に座り、共にワインを楽しむことにする。
「それじゃあアルベルト、今後のことなんだけどね。」
サーレントは話し始めた。
侵略計画もここに至ってはサーレントにはやるべきことはないに等しい。
「ここにくるであろうシャルとセロ君に別れを告げるくらいかな。」
そう言ってサーレントはワインを口に含む。
「そしてカールレオン公爵は死に、ウィランはサーレントとして求めるものを得る為に前に進む。」
スピリタス伯爵もまた、同様にグラスに口をつける。
「あとは死に方だけが問題だね。今のところ、どの案も今一つなんだよねぇ。」
「ウィラン、妙なことを考えずに僕が死亡報告を出すだけじゃ駄目なのかい?」
「それでもいいんだけど、なんかこう、寂しいじゃないか。ドラマチックな演出とか…。」
サーレントは子供のような顔をして楽しそうに語る。
「まったく…。ウィランは変わらないね。いくつになっても子供のままだ。」
「つい心が躍っちゃうんだよ。僕は目的に向けて確実に前進している。実感してしまったらどうにも押さえが効かないんだ。」
スピリタス伯爵は盟友の嬉しそうな姿に、自然と微笑みを見せる。
「ウィラン、ロマリアはどうする?」
南北の切り取りがうまくいかなかった場合はロマリアを起点にスピリタス伯爵が反乱を起こすという予定だった。
予定通り、南北が帝国と連邦にそれぞれ制圧された以上、ロマリアは現状を維持することになる。
「うん。反乱を起こそう。当初の予定とは違う形で。」
サーレントの返答はあっさりとしたものだった。
「計画当初とは少し状況が変わってきているからね。いずれここにも討伐軍が派遣されるだろう。」
南北で戦闘を行わず、無傷で健在の聖壁騎士団はロマリアを放置しないだろうとの考えだ。
「迷宮都市に戦力を戻すなら、予備戦力を使うのかい?」
「そうなるね。反乱といってもこちらからは何もしない。予備戦力を街に放ち、討伐軍と戦わせるくらいかな。」
拠点を明け渡す際の置き土産。その程度の思い付きだった。
「ガリウス司教を招聘して、予備戦力の指揮を任せるとしよう。ついでだからその時に僕らも死ぬ。というのはどうかな?」
二人はその後も、計画の細かい調整の打ち合わせを続けた。
一方、その頃のナナ達は、すでにラビュリントスを後にしていた。
迷宮設備の修繕も完了し、残った時間は廃棄場での狩りに使う。
現在は狩りも終え、一度ラビュリントスに出向き、ハンナとスタンを迎え王都に帰還。
皆はビフレスト酒場二階にて夕食をとっているところだった。
ナナとミケとクルルはお腹をぽっこりさせて長椅子に横たわっている。
「もう!親分ったらまたこんなになるまで食べて!本当におデブさんになっちゃいますよ!!」
「美少女は太らないんだ。だから大丈夫だ。あ、あと美少女は屁もこかないんだぞ。さらにうんこもしないんだ。あたしのことだ。」
いつもの調子のナナ達を休ませ、他の者は食後のお喋り中だ。
「セロ様、私に聞きたいことがあるとおっしゃられていましたね?それは?」
ただし、明確な目的があってここに呼ばれてきたスタンは、その内容が気になるようだった。
「英雄ウィランの話が聞きたかったんだ。」
それは、先代の頃から大公家に仕えるスタンにしか聞けない話だ。
「お嬢様が生まれる前の話ですね?」
寝息を立て始めたナナ達は、ハンナが自室のベッドまで運んでくれるようだ。
他の者は皆、テーブルに陣取ってスタンの話に耳を傾ける。
「それではまずは、ウィラン様とリーゼロッテ様が出会われた頃の話から始めないといけませんね。」
南部開拓地。いくつかに区分けされた開拓地の一つに、サーレント男爵家が管理する土地があった。
当時のウィランは男爵家の長男。
そこにたまたま開拓地の視察に訪れたリーゼロッテ。
これが二人の出会いだったらしい。
ウィランはリーゼロッテを見て、一瞬で恋に落ち、それからというもの頻繁にラビュリントスに出向いた。
僅かでも元気な姿が見れれば、挨拶だけでも。そんな思いだったそうだ。
「当時のリーゼロッテ様は適齢期間近ということもあってか、求婚者が列をなす程でした。」
スタンはまるで当時を懐かしむような口ぶりで語る。
「そんな状況です。リーゼロッテ様のお心を射止めれば、と中には血迷う者も出てくるものです。」
それが後の大罪人、ジョルジュである。
リーゼロッテの普段の行動、私生活。それらに度を越えた監視を行う。要は覗きだ。
ラビュリス城から排出されるゴミを漁り、残飯の種類や量、物資の搬入伝票などからリーゼロッテの趣味嗜好を明らかにする。
多種多様。様々な変態行為が繰り返された。
「この変質者を発見し、捕らえた者こそが当時のウィラン様でした。」
「私もお母様に聞きました。たしかそれがきっかけになって、お父様とお母様は仲良くなったんだって。」
スタンの語りにロッテも便乗する。
ロッテの知るウィランの恩恵はただ一つ。僅かな強化を可能とする付与魔法のみ。
技能としての付与魔術は、付与術:強化:腕力による腕力強化と、付与術:鋭利によって刃物の切れ味を強化する。この二つだけ。
「この時、変態ジョルジュを捕らえる為に初めて、農作業以外の目的に付与魔術を使ったと言ってました。」
そんなロッテに頷いたスタンはそのまま語り続ける。
「当時のウィラン様は領主の息子とはいえ開拓民の一人。戦闘に不慣れであったせいか、付与魔術があっても大きな怪我をされました。」
ジョルジュ逮捕の功労者であるウィランはラビュリス城内で保護され、怪我の治療を受けたらしい。
「お母様も、自分の勇者様を看病したんだって嬉しそうにのろけてました。」
ロッテもまた、当時の記憶を語る。
ウィランは開拓民ではあるが、一応は貴族。しかも恩恵持ち。
リーゼロッテの進言と、ウィラン自身の希望もあり、めでたく騎士の一人として取り立てられたそうだ。
「まさしく順風満帆に進んでいたはずだったのです。」
ウィランがリーゼロッテの護衛騎士に任命された頃、変化は起こった。
投獄されていたはずのジョルジュがいつの間にかいなくなっていたのだ。
牢番だった衛兵は何故か、ジョルジュは釈放になったのだと言う。
当然、そのような命令が出された事実は存在しない。
「後に発覚したことなのですが、ジョルジュには精神魔法の恩恵が宿っていたらしいのです。」
他者の精神を操作する魔術が使用可能となる恩恵。
しかし、ジョルジュの技能は万能とは程遠いもので、他者の精神に干渉する際も特定の条件が必要になるものだった。
「ジョルジュの持つ恩恵についてはこの後、再度捕らえられた際に拷問に耐えかねて喋ったそうです。」
話が戻る。
「牢からいなくなったジョルジュは、水面下でじわじわと他者の精神を操作し、ゆっくりと味方を増やしていきました。」
やがてスタンも、先代大公も、リーゼロッテさえも。
いつの間にか精神を操作され、まるで人が変わったように変貌を遂げる。
手のひらを反すようにウィランにつらく当たり、排斥。迷宮都市を追放するに至る。
「私も当時のことはあまり思い出したくありません…。」
俯くスタン。
「お母様も、まるで悪夢の中に閉じ込められたような気分だったと言っていました。」
都市を追放したウィランの居場所を奪い取るかのようにリーゼロッテの護衛騎士となったジョルジュ。
その行いはそれだけでは終わらない。
城の人間だけでなく、街に暮らす一般民にまでジョルジュの精神魔術の手は伸びていた。
完全に罪人扱いとなったウィラン。もはや入門の許可すらおりない状況だ。
追放されたウィランは、明らかに人が変わったかのように精神に変調をきたした者を見て、対抗策を模索し始める。
ウィランが選択したのは、自身の持つ唯一の恩恵、付与魔法による対策。
「独学でそれをなすことが出来なかったウィラン様は、とある女魔術師に師事したそうです。」
付与魔術に精通した女魔術師。その正体はウィランも語らなかったらしい。
「魔女…、かな?」
セロが呟くまでもなく、皆が黒いローブの女性を連想していた。
「やがて魔術効果を無効化するという付与術を会得したウィラン様はラビュリントスに帰ってきました。」
門衛の精神操作を解除して都市に入門。
「当然、ウィラン様のことは皆が大罪人であると認識していますので、大勢が殺到します。」
ウィランはその大勢を全て、精神操作から解放する。
「最終的に私や先代様、リーゼロッテ様も開放され、ジョルジュは再度捕らえられたのです。」
危機にあった大公家を救った功績もあり、ウィランは英雄と称され、無事にリーゼロッテの護衛騎士に返り咲いた。
「ウィラン様はこの後、護衛騎士の立場はそのままにサーレント家の家督を継いで男爵となります。」
ジョルジュ捕縛の大功でもって子爵へ陞爵。
その後もウィランは様々な功績を重ねる。
「ウィラン様はあのようなお人柄です。同僚の騎士達とも気さくに語り合い、すぐに打ち解けることができました。」
英雄ウィランの評価は高まり続け、やがて騎士団長。同時に伯爵に陞爵。
「先代もお二人の仲をお認めになり、ウィラン様はカールレオン家に婿入りすることになりました。」
ここでスタンの語りは終わった。
「ありがとう、スタンさん。興味深い内容だったよ。」
セロは考えながらも礼を言う。
「セロさん、何か分かりましたか?」
ロッテは考え込むセロの顔を覗き込んでいた。
「ん~。なんでジョルジュはウィランさんを精神操作しなかったのかなぁ?」
関係者の中で、ウィランだけが精神操作されていないことに疑問を抱くセロ。
「術をかけるために必要な特定の条件というものがお父様には当てはまらなかったということでしょうか?」
ジョルジュはすでにこの世に無く、関連する証拠等も処分されているとセロは推測している。
「それに、先生の言っていたウィランさんの強力な付与術ってやつが話に出てこなかったことも気になる…。」
「そういえば…。精神操作を解除するという付与術は違うんでしょうか?」
「たぶん違うと思う。国崩しが可能なほどの技能とは思えないよ。」
「スタンは何か知りませんか?」
スタンは懸命に記憶の糸を手繰る。
「公爵様にそのような技能があったとは存じ上げておりません。ですが…。」
スタンはリーゼロッテを失った直後、まるでこの世の全てに絶望したかのような公爵の姿を思い出す。
「後に新たな恩恵が発現した可能性はあるかもしれません。私は二度、公爵様の突然の変化を目にしました。」
公爵の急激な変貌。それが恩恵の発現を示すものではないかとスタンは語る。
「まずはリーゼロッテ様の死の前後。幸福の絶頂にいた公爵様が一夜にして絶望のどん底に叩き落とされた時。」
当時を思い出しているのか、スタンは悲痛な表情を見せる。
「もう一つは、それから五年くらい後、お嬢様をラビュリントスに帰還させると決断された時です。」
その時も、ただ黙々と公務に勤しんでいた公爵が、ある日突然陽気になり、嬉しそうに言い出したらしい。
「その変貌は自身に何らかの変化があったからってことか。」
ありえない話じゃない。
セロは魔女に敗北したことで勇者の恩恵が発現した。
その後も、ロッテ、スタンと会話しつつセロはいつくかの推測を立てていた。
しかしその内容は、あえて口にしないことにした。
「それでは明日の業務に差し支えるといけませんので…。」
そう言ってスタンが立ち上がる。
スタンをラビュリス城に送り届けねばならないのだ。
「あ…。親分寝ちゃってます…。」
思い出したようにロッテが言う。
「仕方ない。ナナには悪いけど起きてもらうか…。」
「いえいえ、せっかくお休みになられたナナ様を起こすのも忍びない。明日の朝、お願いできますか?」
スタンもこちらに宿泊することになった。
「スタンは私のベッドを使って下さい。」
ロッテの申し出に、スタンは首を振る。
「主のベッドを使用人が使うなど、許されません。」
ロッテの申し出は却下され、ロッテとハンナのベッドの間にマットが敷かれてそこで休むことになった。
せっかくなので家族水入らずで、ということになり、ロッテは兄妹部屋にお泊りすることにした。
「明日は学院も休みだ。皆に配布している魔道具に新しい術を付与してもらうつもりだから、一度中庭に全員集合で。」
対抗魔術の効果を全員に追加付与することを連絡する。
その後で打ち合わせを行い、ロマリアに出発するという順番だ。
セロが明日の予定を伝えると、そのまま解散となった。
「さ、どうぞ。」
「お邪魔しま~す…。」
セロに促され、そろそろと部屋に侵入する寝間着姿で枕を抱いたロッテ。
兄弟部屋に設置されたベッドは二つ。どちらも大人用の大きなものだ。
当然、ロッテにはセロのベッドに潜り込む度胸はない。目標はナナのベッド一択だ。
「ロッテはどこで寝る?俺のベッド使う?俺は床でも大丈夫だから。」
「いえ!私のせいでセロさんの疲れがとれないのは困ります!私は親分のベッドにお邪魔しますから!」
ナナのベッドもまた大人用の大きなベッドだ。
ロッテが一緒に寝てもまだ十分に広い。
ナナのベッドの近くには、赤子用のベッドが二つ並べられ、ミケとクルルが寝息を立てている。
トラのベッドはジルの部屋にあり、トラだけはそちらで寝起きしているのだ。
ロッテはナナ達を起こさないように、そろりそろりと移動する。
ベッドの枕元にはナナの尻。
寝間着の下は床に落ちている。頭を布団の中に突っ込んでいる状態だ。
お腹も雪だるまパンツも丸出しで、上下が逆転している体勢で眠っている。
とにかくナナの寝相は乱れていた。
「親分、そんな体勢だと風邪をひいてしまいます。」
ロッテはそっとナナの体勢を直し、布団をかける。
自分も一緒に入って、眠りこけるナナの頭を撫でる。
ロッテはナナを撫でながら、リーゼロッテのお腹にいた、生まれて来ることが出来なかった家族のことを想う。
ナナを撫でている時はいつもそんな気持ちになる。
「親分、私と出会ってくれて、ありがとうございます。」
ロッテはナナの体温を感じて、暖かい気持ちになって眠りについた。
そして翌日。
朝のまどろみの中、ロッテは思う。
(あれ?お腹の辺りが冷たいです。何でしょうか、これは?)
昨夜はあんなに暖かかったのに。
そんな疑問を感じながらロッテは布団の中を確認する。
「…。」
ナナはおねしょをしていた。
「兄ちゃん!ロッテがおねしょしたぞ!」
目覚めたナナはそんなことを言って騒いでいる。
「違います!私じゃありません!!」
必死にそれを否定するロッテ。
セロは寝ぼけ眼でそんな二人を眺めている。
ロッテの寝間着はお腹のあたりが濡れている。
対してナナは寝間着の下は穿いておらず、雪だるまパンツがぐっしょりだ。
「おねしょの痕をな、あたしの魔眼で鑑定するとな?【ロッテのおねしょ】って表示されるんだ。」
「絶対ウソです!!!」
ナナは犯人に効果のない揺さぶりをかけている。
かたや、嗅覚に優れるニャンニャン達は悶絶していた。
「強烈すぎる悪臭ニャ!?」
「臭いニャ!臭いニャ!」
「ミケ、クルル。ロッテを許してやるんだ。きっとあたしのぬくもりに包まれて嬉しさの余り失禁したんだ。嬉ションというやつだ。」
ナナは自分のおねしょをロッテに擦り付けようとしているのではなく、どうやら心の底から自分ではないと思っているようだ。
そしてミケ達は匂いに耐えきれず、部屋から逃亡した。
「親分のパンツが濡れているのはおねしょをしたからです!!」
「フ…。ロッテ、あたしはおねしょなんてものはとっくに克服したんだぞ?あたしが最後におねしょしたのは8歳の頃だ。」
現在のナナの年齢もまた、8歳である。
「つまりあたしのパンツが濡れているのはロッテのしっこで濡れているからに違いない!」
「私のパンツは濡れていません!!!!」
あくまで否定するロッテに、ナナは実力行使に出た。
「謎は全て解けた!犯人はこの中にいる!!!」
ロッテの寝間着の下をビシッと指差すナナ。
「違います!犯人はそこに丸出しになっています!!」
ロッテはナナの雪だるまパンツを指差す。
お互いのパンツを指し示す二人だった。
「証拠を見せてやるぜ!!」
ナナはロッテの寝間着の下を脱がしにかかる。
「きゃあ!!!親分!やめて下さい!!」
ロッテは脱がされそうになっている寝間着を押さえ、抵抗する。
「むむっ!?抵抗するということはやはり!犯人はロッテだ!!」
「そんな訳ありません!!やめて下さい、親分!!セロさんはあっちを向いて下さい!!!」
「…。」
微妙な表情でくるりと後ろを向くセロ。その背後からはナナとロッテの叫び声。
「ロッテ!観念してパンツを見せるんだ!!」
「わかりました!わかりましたから落ち着いて下さい!!」
ついにロッテは抵抗を諦めたようだ。
「セロさんは絶対に振り向かないで下さいね?」
ナナはロッテのパンツを確認する。
ごそごそ…。背を向けているセロにはどうやって確認しているのかは分からない。
ナナが驚愕の表情を浮かべる。
「濡れていない…?だと!?」
ロッテのパンツはまったく濡れていなかったのだ。
「パンツを濡らさずにおねしょする方法があるのか!!?まさかパンツの下におむつを!!?」
「そんな方法はありませんし、おむつなんて付けていません!!!」
ナナは視線を下に送り、自分の穿いている雪だるまパンツを見つめる。
完全に濡れている。ぐっしょりだ。
「…。」
「あたしなのか?」
「親分です!!!」
「…。」
「ロッテ…。」
ナナは何か言いたいことがあるようだ。
「?」
何だろう?
ロッテはナナの言葉を待った。
「親分がおねしょをしたのは内緒にしてくれ。」