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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
08 死都
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059 迷宮探検

次の日も、学院の授業を終えた後はラビュリントスにやってきていた。


一緒に転移してきたスタンとハンナは公爵家の業務を再開させる為、街を走り回っている。



迷宮の魔物の発生は沈静化しているとはいえ、都市の冒険者達は決して警戒を解いてはいない。

入口の周囲は常に監視され、迷宮内部の見回りも継続されていた。



「迷宮の魔物はそのまま迷宮内で繁殖して増えるケースもありますが、大部分は召喚術によるものなんですよ。」


しかし、いかにして迷宮内で召喚魔術が発生するのか、その仕組みは分かっていないらしい。


「そうなんだ、じゃあ封印処理ってのは…。」



迷宮区画にある、迷宮入口前の広場。

その広場の隅には、魔物の発生を警戒する冒険者達の詰所となっている天幕があった。

セロはそこで冒険者から封印処理についての話を聞いていたところだ。


「錬金術で精製した特殊な顔料を使って、召喚術を阻害する魔法陣を対象となる部屋に設置してあるんです。」

「それが一月くらいは効果を発揮するってこと?」


「はい、そのくらいで顔料に宿った魔力が霧散して効果を発揮しなくなります。」


設置してある魔法陣は、対抗魔術:召喚と同様の効果を発揮するのだそうだ。

ラビュリントスに対抗魔法の恩恵を所持した者はいない。

その為、手間のかかる魔法陣で代用することになったらしい。


「対抗魔術は魔術に対して作用する魔術です。一応、希少魔術だそうで、その使い手もあまり目にすることはありません。」


セロはたった今見聞きした対抗魔術に、かなりの重要性を見出していた。


(後でナナにその魔法陣を分析させてみよう。)



考えながらも、冒険者に質問を続けるセロ。


「時々魔力を流せば効果は持続するのかな?」


「いえ、顔料の精製の過程で込めた魔力のみが有効なのだとか。外部から魔力の補給などはできないようです。」


設置に手間はかかるし、描いた魔法陣の維持には管理も必要になる。

その代わり、期間は限定されるが、術士が不在でもその効果を継続維持できる。


(どちらも長所と短所がある。ロッテの情報枠に魔法陣の資料でも保存して貰って、今度ゆっくり見てみようかな…。)


「そうか。ありがとう。教えてくれて。」


セロは礼を言って天幕を後にする。



「よい話は聞けましたか?」


外で待っていたロッテが成果を訪ねる。

変装を解いて訪問したロッテは、学院の制服姿ではあったがすぐにその正体がばれ、さっきまで住民達に囲まれていたのだ。


「やっぱり錬金とか魔法陣とかはさっぱりだ。別の切り口から責めるべきだな。やっぱりあの女神像の調査からやろうと思う。」

「そうですね。あの女神像にこの事態を引き起こした原因があるのならそれが正解かもしれません。」


「ロッテの方はもういいの?」

「はい、皆さん元気になってくれたのかはわかりませんが、お仕事に戻られました。」


今回のロッテは街の住民を元気づけることが自分の役割だと考えていた。

都市で起きた危機に、公爵の不在。領主の娘であるロッテは少し責任を感じていた部分もあるかもしれない。


「ロッテ、無理はしないようにね。」


現状を不安に思っている住民はここだけではない。

セロはロッテを心配し、声をかけた。


「はい。私にできる範囲で頑張ります。」


ロッテは嬉しそうにセロに返答していた。




「これから迷宮を探検するぞ!ニャンニャン探検隊!集合だ!!」


ナナは広場の中央で声を張りあげている。

その姿は真っ赤な猫。着ぐるみと誤認付与で猫になっている。


「副隊長のミケニャ!!」


ナナの隣ではミケもまた、元気に声を出していた。


「クルル隊員、準備できてるニャ!」

「やれやれニャ…。」


クルルとトラも集合している。


「なんで私達まで…。」

「せめて普通の恰好で探検しちゃ駄目なの?ナナちゃん…。」


ジルとエトワールも猫になって付き合わされているようだ。


「ニャンニャン探検隊なんだからニャンニャンに変身しないと駄目なんだ!」

「人間は俺だけかよ…。」


一応、引率役でアランが同行する。

着ぐるみは子供用しかないのでアランは猫化を免れていた。



女神像の調査はセロとロッテが行い、ナナ達は迷宮を調査するという名目で内部を探検して遊ぶらしい。

ナナが不在となるので、ロッテの鑑定眼鏡を起動させて、鑑定できるようにしておく。


迷宮内は、封印処理がしてあると言っても魔物の発生がなくなった訳ではないようだ。

かなり抑えられてはいるが、少しずつ召喚されているらしい。

中の魔物を狩ることは無駄ではないだろうという判断から、ニャンニャン探検隊の活動は許可されてしまった。



「ナナ、街を守る為に、第1層と第2層の魔物を狩るんだよ?あと、獲物はちゃんと収納して持ち帰ること。いいね?」

「兄ちゃん、ここの獲物は雑魚だから安いんじゃないのか?」

「安くてもいいんだよ。この状況が続くと魔物素材が不足するかもしれないしね。」


魔物が出てきた際の素材はある程度確保してあるが、封印処理以降は減少傾向にあるそうだ。

セロは魔物素材が枯渇する前に迷宮の問題を解決したいとは考えていたが、念の為の処置だった。


無償で迷宮の警戒にあたっている冒険者達も、公爵家からの依頼という形で報酬を出すそうだ。

当然、街の防衛に参戦した者にも支払う予定になっている。


セロは財政難の心配をしたが、公爵家の資産は膨大なのだそうだ。

カールレオン公爵はそのあたりには手を付けず、ロッテの為か、そのまま残していたらしい。


「ああ、それとナナ。封印処理の魔法陣ってやつ、見かけたらよく鑑定しておいて。それにかけられている対抗魔術ってのが必要になるだろうから。」


セロはナナが対抗魔術を付与できるようになればと考えているようだった。




「ニャンニャン探検隊、出発!!」


ナナの号令で、一人と六匹が迷宮へと消えて行った。



「親分が問題を起こさなければいいんですが…。」


ロッテは心配そうに探検隊を見送った。

気になるのは問題行動のみ。怪我などはまったく心配していないようだ。



「そういえばセロさん、対抗魔術って?」

「うん、公爵は強力な付与魔術を使えるって話だったから、ロッテが親父をボコる時に対策が必要になると思って。」


「ボコったりしません!!」


そうは言いながらも、ロッテもまたセロの言う対策については同意していた。


「消去は可能だけど、それは一度付与された効果に対処する魔術だ。公爵の術が付与された瞬間致命的な効果を発揮するものだったら…。」

「たしかに対策はしておいた方がいいですね。でも今でもお父様がそんな術が使えるなんて想像できないです…。」


二人は話しながらもラビュリス城に向けて歩き始めた。



そしてその頃、ラビュリス城内には、スタンとハンナ他、大勢の使用人達が戻ってきていた。

とりあえずはすぐに動けた者だけ。

他の者も、準備が整い次第戻ってくる手筈となっていた。


「これからはお嬢様が公爵家の主となります。一階女神像の周囲には手を付けず、まずは清掃からです。」


ハンナは大勢のメイド達に指示を出し、自らも城内の清掃を始めた。



「我々は、実務関連のフォローを行います。公爵様が不在の間に溜まりに溜まった仕事を片付けていきましょう。」


スタンは家令でありながら、公爵の補佐も行っていた為、実務の内容も熟知していた。

人数は不足しているが、戻ってきた各部門の事務官達にテキパキと指示を出していく。


「今日はお嬢様とセロ様もこちらに来られます。我々の仕事ぶりを評価されるのだと思いなさい。」


「「「はい!!!」」」


復帰早々に主に残念な思いをさせる訳にはいかない。

使用人達はそれぞれの場所で素晴らしい働きを見せていた。




「ゴブリンニャ!!」


迷宮のゴブリンのレベルは5~12程度。森ゴブリンよりも弱い。

しかも探検隊はナナの付与術で強化されている。

一行で最もレベルの低いクルルでも楽に勝てるくらいだった。


クルルの恩恵は風魔法:感電が電撃に変化して、新たに風魔術:雷矢の技能を得ていた。

昨日のエトワールとの訓練の成果のようだ。


「クルクルビームニャ!!!」


クルルの放った雷の矢がゴブリンの胸を貫通し、あっさりと仕留めた。



「あたらしい技能を会得したのはいいのですけど、その技名はどうにかなりませんの…?」

「ニャ?もっといい名前があれば改名してもいいニャ?」


エトワールは真剣に考えこんでいる。


「技名は大事なんだぞ?」


ナナも気になるようだ。


「確かに必殺技には名前がないとな。」


脳筋であるアランも参加する。



「可憐なる恋の雷、というのはどうですの?」

「あたしだったら、桃色雷神拳、だな!」

「まてまて!ライトニングフィスト、はどうだ?強そうだろ!?」


ああでもない、こうでもないと騒いでいる。


「ジルはどうだ?クルルのために技名を考えてやるんだ!」

「えっ!?私も考えるの!?」


いきなりの要求に、ジルは考え込む。


「えっと…、クルン!…とか…。可愛くないかな…。」


三人がおかしな顔になって一斉にジルを見る。



「しょぼい!しょぼいぞ、ジル!!必殺技なのに可愛くしてどうするんだ!?」

「そうですわ!必殺技のネーミングには華麗さも力強さも不足していますわよ!?」

「確かに…、強そうではないな。むしろ弱そう…。まぁ、言いやすそうではあるか…。」


ジルは三人がかりでこき下ろされていた。



「もうっ!そもそも雷矢なんて初級技能なんだから技名を叫んだりとかいらないんですっ!」


属性矢の魔術は魔法の恩恵と遠隔魔術に素養があれば最初に習得する初級魔術であるとされているのだ。


そして反撃に出たジルの隣では、クルルが落ち込んでいた。



「技名叫んでごめんニャさい…。」

「ご、ごめんなさいクルルちゃん。そんなつもりじゃなくて…。」


ジルは必死にクルルを慰めていた。




一方、ラビュリス城内。


使用人達の働きぶりに驚かされながらも、セロとロッテが女神像の調査を開始していた。

女神像におかしな処はないか、床に落ちている石像の破片の中に何か混ざっていないか。


指示が一段落したスタンもそれを手伝っていた。


「しかしセロ様、この黒い宝珠が迷宮の魔道具と連動しているという推測が正解だったとして…。」


スタンは何か言いたいようだ。

手を動かしながらセロに尋ねる。


「魔道具由来の問題であればその仕組みの復旧など不可能なのではありませんか?」


公にされている記録だと、数百年の長きにわたって魔道具を製作できる者は現れてはいない。

ナナは付与術を用いた簡単な魔道具を作成できるが、複雑な機構を備えた高度な魔道具となれば再現は難しい。

しかも、破壊された部分は鑑定ができず、どんなものだったのか分からないときている。


「俺の予想だと、魔道具を作成する技能とかなくても復旧が可能なはずだ。」


ロッテとスタンは顔を見合わせる。

そう言い切る根拠が分からないのだ。


「セロさんはどうしてそう思ったんですか?」

「ん?それはここがロッテの居場所だからだけど。」


「?」


ロッテはきょとんとした顔でセロを見ている。


「説明するとね、俺は公爵のロッテへの愛情は嘘じゃないと思うんだ。」


ロッテの安全に気を配り、公爵家の資産を手付かずの状態で残している。


「公爵はちゃんとロッテが幸せになれるように配慮していると思ったんだ。」


そうであれば、ラビュリントスの迷宮に復旧不可能な破壊工作なんてしないとセロは言った。


「おそらくだけど、きちんと調べれば街の人間だけでも復旧可能なくらいだと考えているよ。」



ロッテは複雑な気分だった。


王国を裏切った父は、人が変わった訳ではなくロッテに惜しみない愛情を注ぐ。


その行動は、ロッテにとってはいつも通りの父、ウィランのものだ。


その言動は軽薄だが、歴代のどの大公をも上回る実績を上げ、公爵領の発展に大きく貢献。

仕事に忙殺されつつも、決して家族をないがしろにせず、亡き母とロッテを全力で愛する。


ロッテはそんな父が大好きで、尊敬していた。


家族仲は良好すぎるくらいだと思っていたし、あらゆる事業で成功をおさめ続けた父に王国を裏切る理由が見当たらない。


ただひとつの不幸を除いて。


「やっぱりこれしか思い浮かびません。」


ロッテは呟いていた。


「どうしたの?ロッテ。」

「すみません、大事な調査中なのに私…。」


「いいよ、別に。何か思いついたの?」


ロッテの反応が気になったセロは、調査の手を止める。スタンも同様だ。


「いえ、父の話になったものですから、つい考えちゃったんです。どうして父は王国を裏切ったのか。」

「何か心当たりを思い出した?」


ロッテはこくりと頷いた。



「セロさんも考えていたことだとは思いますが、やはり、私の母、リーゼロッテに関係することだと思います。」


ロッテの言う通り、セロもそれは分かっていたのだろう。


「アルカンシエルは何らかの変革を目的とする集団らしいからね。公爵が変えたいことなんてそのくらいだろうし。」


そう言ってロッテの考えを肯定する。



「ロッテ、スタンさん。リーゼロッテさんが亡くなった時のことを話してくれるかい?」

「事件当時のことは以前に王都での会議の席で話した通りです。その後は…。」



事件の起きた王都にて、母の死によるショックからロッテは、ひたすら泣き叫んだ後、ふさぎ込んでしまった。


さらに、実際に母親の遺体を目撃してしまったこともあり、心に大きな傷を残していた。



公爵もまた、しばらくの間は廃人のようになっていたそうだ。


しかしいつまでも公爵領を空けてはいられない。

幼いロッテを、当時の友人であるレギオン軍務大臣に預け、公爵は単身ラビュリントスに引き返した。



「え!?ロッテを置いて帰っちゃったの!?」

「理由は留守にしていた公爵領のこともあるのでしょうが、今にして思えば、私を見るのが辛かったのではと思います。」


「お嬢様はリーゼロッテ様にそっくりですから。思い出してしまうのがお辛かったのでしょう。」



王都に残されたロッテは、レギオン侯爵邸に引きこもっていたが、やがて一人で外出し始める。


「王城でメリルさんと出会って、生まれたばかりのジルを手を握ったんです。」


もしも母が生きていて。無事に赤子を出産していたらこんな風に。

ロッテにそんな考えがよぎった。


「懸命に私の手を握り返してくるジルを見ていたら、なんだか頑張ろうって気持ちが湧いてきちゃったんです。」


それからは毎日のようにジルに会いに行き、レギオン侯爵家の家族とも仲良くなり、楽しく過ごしていた。

時が過ぎ、ジルも大きくなって一緒に庭を駆けまわる。ルーシアを始めとするレギオン家の姉妹ともよく話した。


「結局、私がラビュリントスに戻ったのは母が亡くなってから五年後のことでした。」


「小さいジルかぁ。俺もナナが生まれたばかりの頃を思い出しちゃったよ。」

「親分も可愛かったんでしょうね。」


「俺がナナの手を握った時は大泣きされちゃったからなぁ。ちょっと羨ましい。」


小さかったナナとセロが一緒にいられた期間は僅かなものだったが、セロはその思い出を大切にしていた。



笑い合っているセロとロッテを、微かに微笑んでいるスタンは黙って見つめていた。




「それでは私はお嬢様が王都におられた間の公爵様のことをお話ししましょう。」


今度はスタンが語り始める。


「公爵様は帰還してから、リーゼロッテ様の事を皆に知らせ、それからはまるで雑念を振り払うかのように公務に打ち込まれました。」


十分に裕福で、領民も幸福に暮らしているはずの公爵領。

それをさらに発展させるべく我武者羅に励むその姿は、見ていて痛ましい程だったという。


「二年くらいはそんな暮らしが続きましたが、ある日、公爵様は置手紙を残し、行く先も告げずに城を空けたことがありました。」


各都市門には公爵が外に出た形跡はなく、ちょっとした騒ぎになったらしい。


「ですが数日の後にふらりとお戻りになられた公爵様は、まるで憑き物が落ちたかのような晴れやかなお顔をしておられたことは印象に残っております。」

「その数日の間に何かがあったってことだね。」


「それ以降も、公務に励むことは以前とお変わりなかったのですが、街で生まれた赤子の鑑定調査を始められました。」


その調査は三年程続いて打ち切られた。

その直後、公爵はロッテを帰還させるべく王都に使いを出したそうだ。


「鑑定、ってことは恩恵を調査していた?三年間の調査で何らかの確信を得たってことなのかな…。」


セロは真剣に考えこんでいるようだ。



「まぁ、そのあたりは本人に聞かないと分からないか。スタンさん、もうちょっと聞きたいことがあるから、今日も夕食は王都で一緒にどうかな?」

「えぇ、問題ありません。」


「よかった。じゃあ夕食の前に迎えに来るから。」



三人は調査を再開した。




そしてナナ達はというと、第2層に到達しており、広間には魔物狩りを楽しむ猫達がいた。

第1層に比べて、こちらの魔物駆除はあまり進行しておらず、そこそこの頻度で魔物と遭遇。


一行の中でも少しレベルが低めのミケ達とジルとエトワールが魔物を処理していた。


アランは緊急事態に対処するために真剣に戦闘の様子を観察している。

ナナは皆に付与術による強化こそ施していたが、それ以外は何もせず後ろでふんぞり返っていた。



「ニャフン!!」


前衛を務めるミケがミノタウロスの突進を受け止める。


ぽむっ!


肉球に弾かれ、両者の距離が開く。

たたらを踏むミノタウロスの隙を見逃さず、トラは小石を投擲する。


ダメージ目的でなく牽制だ。小石は眼球近くに着弾し、ミノタウロスは顔を背け、さらに隙を大きくする。


すかさずクルルとエトワールの雷矢と火弾が命中し、ダメージを与える。



ミノタウロスのレベルは25。

数字だけを見れば、こちらの方が低いはずなのだが、皆はナナの祝福で能力を底上げされている状態だ。



ミノタウロスはミケの肉球に接近を阻まれたまま、クルルとエトワールに一方的に攻撃され、やがて力尽きた。



「勝利ニャ!!」


ミケ達は危なげのない戦闘に満足している様子だ。


「いい感じですわね。」

「うん。レベル25の魔物がこんなに簡単に倒せちゃうんだから、みんな強くなったんだね。」


ジルとエトワールもまた、成長を実感しているようだった。



「敵が雑魚くて退屈だな。もっと強いのはいないのか?」


魔物の死体を収納しながらナナがぼやく。

こっちは少し物足りなさを感じているようだった。


「今は俺とナナが参戦してない状態だからな。今は皆を鍛えて、俺達の本番は夕方の廃棄場だな。」

「むぅ。仕方ないな。」



次の広間へと向かうべく、ナナ達は奥の通路に入って行った。



しばらく進むと、まず最初にトラが何かに反応する。


「ニャニャ、奥の方が騒がしいニャ。誰か戦っているニャ。」

「何!?行ってみるぞ!悪者だったらあたしが倒す!!」


ここまで何もしていなかったナナは、退屈だったのか、急にやる気を出している。


「いや、流石にこんな状況で迷宮内に悪者とかいねえだろ…。」


アランは正論を返す。


「アホと悪者はどこにでもいる!!」


ナナはよくわからない持論で反撃。


「何より、俺の拳が疼かねぇ。この先にいるのは敵じゃないな。」


アランはさらに意味不明な基準で判断した。



そのまま進んでいくと、広間に出た。

同時に、ナナ達が入ってきた広間入口の逆側から、三人の冒険者が広間に駆け込んでくる。


三人のうちの一人が叫んだ。


「大変だ!メイズスコーピオンの巣の封印魔法陣が潰された!魔物を吐き出してるぞ!」


そのままナナ達の元までやってくる。どうやら魔物から逃げ出してきたようだ。


「メイズスコーピオン?やばい奴なのか?」

「レベル25!ミノタウロスと同格の魔物が三体追ってきている!」


アランの問いかけに答えた三人は、そのまま走り去ろうとしているようだ。


「まてまて、逃げなくてもいい。俺らが相手する。お前らはその後、俺達を巣まで案内するんだ。」


余裕の態度のアランの制止に、思わず立ち止まった冒険者達はナナ達一行を観察した。



自信満々な脳筋臭い小僧と猫が六匹。


「は?猫?」


「ああ、そう見えるんだったか。心配するな、こいつらは…。」


アランが言い終わる前に冒険者達は、迷宮を舐めているとしか思えない顔ぶれを前に思わず声をあげていた。


「なんで迷宮に猫を連れてきてるんだ!?」

「わざわざ迷宮の中を散歩させなくてもいいだろう!!?」

「何を考えているんだ!死にたいのか!!」


すっかり頭のおかしい愛猫家だと思われてしまったアランが三人に詰め寄られている。



「あたしは猫じゃないぞ。ニャンニャンだ。」


「「「喋った!!!?」」」



追われていたことを失念したまま驚いている冒険者達。

そんな時に、広間に三体の蠍が広間になだれ込んできた。人間と同程度の大きさだ。


「話はこいつらを駆除してからだ!あんたたちは下がってろ。」


アランは冒険者を下がらせる。


「あたしとアランが一匹ずつ倒すから、みんなもちゃんと一匹倒すんだぞ?」


そして赤い猫が皆に指示を出す。なんか偉そうだ。




後ろに下がった冒険者達は、状況を見つつ考える。


蠍は三体だ。



一体は猫使いの小僧が相対するようだ。

蠍をソロで仕留められる冒険者なんてこの都市には数えるほどしかいない。


「あの小僧がそんなに強いってのか…?」


確かに、冷静に観察すればアランの身体がよく鍛えられていることはすぐに分かった。

冒険者の一人は、そんなアランの戦闘に着目する。



別の一体は、何故か偉そうな赤い猫を除いた五匹の猫で対処する。

さっきの赤い猫の指示はそのように聞こえた。


「無理に決まってるだろ!?動物虐待じゃないのか!!?」


こちらに注視した冒険者は、実は三人の中で唯一の猫派だ。他の二人は犬派だった。

彼の眼にはアラン以外のメンバーはただの猫にしか見えていない。


「ん?そういえばなんでこの猫達、みんな立ち上がったままなんだ?」


戦闘体勢か?よく訓練されているな。

猫派の冒険者はそんな感想を抱いていた。


「ただの猫じゃないってことなのか…?」



そして最後の一体。他の二体より若干体が大きく、強そうに見える。

それに向かい合っているのは偉そうな赤い猫。まったく強そうに見えない。


「あいつが親分っぽいからあたしが倒すんだ。目には目を。親分には親分だ。」


しかも何か訳の分からないことを呟いている。

三人の冒険者の一人、中でもリーダー格だった男は、態度のでかい赤猫に注目していた。


「そもそもこの赤猫はなんで喋ってるんだ?猫に見えるが珍獣の類か?」


見た目は猫だが、高い戦闘能力を有した珍獣であると冒険者は推測する。


「見せて貰おうか、迷宮の珍獣の性能とやらを。」



三人の冒険者はそれぞれの戦闘を観察するべく、部屋の隅に後退した。

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