058 死体愛好家
狩りを終え、王都に帰還の後、ナナの収納から放出された大量の獲物に、商会はてんやわんやとなっていた。
敷地内の南側、解体小屋や商品倉庫及びその周囲は修羅場と化している。
狩りに参加していた者は解体作業には不参加だ。
早めに夕食を済ませ、酒場の2階でそのまま明日以降の活動について話し合うことになった。
「じゃあ、スタンさん。まずは俺達がラビュリントスを発ってから何があったのか、話してくれるかな?」
「かしこまりました。」
以前に会った時に比べ、少し細くなった。
そんな印象のスタンはゆっくりと当時の様子を語り始めた。
シャルロッテが王立学院に通う為に、ハンナを伴いラビュリントスを出立した後、公爵もまた王都へと発った。
しばらくして、ふらりと帰還した公爵はスタンにこう言った。
「重大な報告がある。皆を集めてくれないか。」
城の一階大広間に、家令であるスタンを筆頭に全ての使用人が集められていた。
そして、その前に立った公爵の口から飛び出したのは、予想だにしない残念な言葉。
「諸君。帰るなりいきなり皆を集めて何かと思ったことだろうが、聞いて欲しい。」
公爵の真剣な表情に、使用人達もまた緊張している。
「報告というのは、十年前のリーゼロッテ殺害に関することだ。」
色々と奇妙な点があり、いくつかの謎が残された事件。
公爵は事件に関しての調査を諦めることなく継続していたらしい。
これまで、リーゼロッテの殺害事件の話は公爵家では禁忌となっていた。
もちろん、公爵やロッテを想っての配慮だったのだが、ここにきて突然、しかも公爵の方からそれを切り出した。
スタンは何か引っかかるものを感じていたが、それを口に出すことはしない。
使用人達は事件の概要もよく理解しており、当然、シャルロッテの母であるリーゼロッテに対して深い敬愛を抱いている。
ネメシス前宰相が疑わしいことも分かっていて何もできない、そんな思いに歯噛みしてきた者達だ。
真剣な表情になって公爵の言葉を待っている。
「ネメシスが王都の自宅で殺された。明らかに不審な状況での殺害だ。」
公爵はまず、王都襲撃時の状況と、それに乗じての口封じがなされたことを皆に語る。
「ついに尻尾を出したよ。私が復讐するべき真の敵がね。それは他でもない、グランシエル王国だ。」
真の敵、公爵はそれをあえて個人名でなく王国と呼称した。
ネメシス前宰相、そして現在の王国で既得権益を貪る者達。そして公爵領の極端な台頭を望まない者達。
「国王陛下の精神は彼らに破壊され、もはや思考すらままならない。私はそれをなした彼らをこそ王国と呼ぶことにする。」
そんな王国において最も高い地位にあるネメシスこそがその指導者であり、妻を死に追いやった元凶。
公爵はそう考えて調査を続けていたのだが、今回の口封じで状況が変わったことを報告する。
「ネメシスは王国にとって都合のいい道化、神輿だ。そして何かあれば罪を被せ、放逐される生贄でもある。」
その力を失った王家はもはやただの装飾でしかない。
王国こそがリーゼロッテと彼女が宿した赤子、二人の命を奪った仇敵であるとした。
「君達を巻き込まない為にも、詳しくは言えないが私は複数の貴族の関与を示す、いくつかの証拠を掴むことが出来た。」
それが原因で、帰還の道中に、幾度も刺客に襲われたことも併せて告げる。
「もはやこの城も安全ではない。諸君には暇を出す。そして私は一時身を隠すことにする。」
公爵は、どうしても追従したい者のみ、ロマリアのスピリタス伯爵の元へ向かうように指示をした。
「ここにもいつ刺客が現れるやもしれない。絶対に城には近づいてはいけないよ?」
これ以降、ラビュリス城は無人となるのだった。
「多くの者は都市に残りましたが、一部はロマリアへ向かいました。私は老いた体では足手まといになると思い、宿に逗留しておりました…。」
知ることを語り終えたスタンは、飲み物を含み、息をついた。
一見、平常を装ってはいるが、まるで全てが終わった後だとでも言いそうな落胆ぶりだ。
「スタンさん、まだ終わってないよ?貴方にはまだやるべきことがある。」
今度はセロが、これまでに知ったことをスタンに語る。
「大公様がそのような行いを?にわかには信じられませんな…。」
「おそらく公爵はもっと早い段階で、いや、おそらく最初から、リーゼロッテさんの殺害の真相を把握していたと思うよ?」
実際は把握どころか関与していたことすらセロは疑っている。
それに公爵が王国と呼称した敵性存在はおそらくすでに殺害された3バカだ。
セロはその残党には大した力はないと予想していた。つまりそれはもはや存在しないと言ってもいい。
「復讐の一環なのかは分からないけど、彼はやりすぎた。近く公爵はその身分を剥奪される。新たな大公はロッテだ。」
大公家に仕えることがその役割であるスタンに、ロッテを支えることがその使命であると説得する。
「ロッテはまだ若いし、学生だ。貴方の力が必要だ。」
「ロッテは大公になるのか?ということは親分は超大公とかになるのか?あたし超大公ナナか?」
「親分…、そんな身分や階級はありません…。」
セロの隣でナナを抱っこして話を聞いていたロッテ。
ここまで黙っていたが、ナナが話しかけてきたことを機に、自らも話し合いに参加した。
「スタン、お父様でなく、私には仕えては下さいませんか?」
「聞くまでもございません。私にとってはお嬢様もまた、仕えるべき主人にございます。」
まずは家令であるスタンの復帰が決まった。
その最初の仕事は都市に散らばった使用人を呼び戻すこと。
「刺客が来るってのはおそらくないな。工作を見られないようにするための人払いだよ。」
ここでセロは工作に関しての推測を語った。
女神像の内部に隠されていた黒曜石の魔道具の破壊がそれ。
その魔道具は、これまで迷宮で機能していた複数の魔道具と連動しており、破壊と同時に迷宮の魔道具も機能不全を起こしたのではないか。
「スタンさんはあの女神像が何なのか知ってるかな?」
「いえ、あれはたしか7年程前でしたか、公爵様が何処からか購入された物を設置しただけで、私はただの石像だと思っていました。」
家令であるスタンが知らない以上、他の使用人も同様だと思っていいだろう。
「なら使用人を呼び戻して城内の手入れをする時には、女神像周辺はそのままの状態で保全するよう指示してくれ。」
「かしこまりました。」
スタンはセロの指示にも迷いなく了承の意を示す。
「あれ?ロッテに了解はとらないの?」
セロはスタンが自分の指示に従ったことが不思議だった。
「セロ様はお嬢様の将来の夫にございますれば、従うのは当然のことです。」
「スタン!?いきなり何を言っているの!?」
真っ赤になって動揺したロッテは言葉遣いが変化していた。
「ん?そうなったら俺が超大公になるのかな?」
「兄ちゃん、それならあたしは究極大公になるぞ。ロッテはあたしの子分なんだから親分はそうなるんだ。」
「そうか、それじゃあナナ、一緒に頑張ろうね。」
「任せておけ、兄ちゃん。あたしにかかれば簡単なことに違いない。」
「セロさんまで!?それに超とか究極とかありませんから!!」
そう言ったロッテの顔は赤い。
セロはロッテとの結婚を拒絶するような態度を見せなかった。
(もしかして、思い切って告白してみたらあっさりと了解してくれそうな気が…?)
セロもまた、自分のことを憎からず想ってくれているのではないか。
そんな思いがよぎり、ロッテは慌てながらも嬉しそうにしていた。
今後は、迷宮都市の運営に関して、どうしても大公の決済が必要な問題のみロッテが処理する。
肝心のロッテは王都にいる為、スタンにも通信魔道具を渡す。
何かあればハンナに連絡して、実務はロッテがこなす。
さらに、転移を使用して定期的に迷宮都市に顔を出す。
「あとは公爵領の各地を適度に視察して頂ければと考えております。」
他の業務に関しては、ロッテが慣れてきてから少しずつ、ということになった。
暇を出された使用人についての話は終わり、次は迷宮の現状についてだ。
これは実際に迷宮に入り、魔物と相対したオルガンが説明する。
「とりあえず魔物を片っ端からぶちのめして、第2層までの封印処理が完了したってことまでは話したな?」
「その封印処理というのはどのようなものなんですか?」
「知らねえ。」
ロッテの質問に即答するオルガン。そしてがっくりと項垂れるロッテ。
「まぁ、その辺は明日、街の冒険者に聞いてみよう。ロッテも明日はお嬢様に戻って街に行くといい。」
迷宮都市の住民も不安がっているだろうから姿を見せた方がいいだろうとの配慮だった。
「第3層から魔物が上がってくる気配はなかったな。一応、前に猫をぶっ殺したあたりまでは確認したぞ?」
「そういえばその先って、すごく広い空間になっていて大量のゾンビがいたよね?」
「はい、私も憶えています。」
セロはふと思いついた疑問を口にする。
「学院の授業で聞いたんだけど、ゾンビって死体に死霊とかが憑依した魔物だって言ってたんだよ。」
「はい、なので王国では死者はそのまま埋葬するのではなく火葬が一般的です。」
白骨にも死霊は憑依するので、遺骨は各地の教会が処理するのだそうだ。
教会の地下には霊廟という浄化された墓所があり、そこには死霊の類は寄ってこないらしい。
「そもそも何であそこにゾンビがいたんだろうって思って。第3層まで行ける冒険者は皆無だって話じゃなかったっけ?」
「そういえば…。しかもスケルトンではなくゾンビって…。」
人間の死体があるはずのない場所に大量の人型のゾンビ。
「火葬されていないってことは失踪扱いになっている人達なのかな?なんにせよ、あそこには何かある気がする。」
「でもセロさん、以前は迷宮深部の探索はティータさんみたいな強い人を味方にしてからって…。」
「うん、そう思っていたんだけどね。どうやら戦力が充実するのを待っていたら機を逃すんじゃないかって気がして…。」
「セロ様、よろしいでしょうか?」
スタンが発言する。何か言いたいことがあるようだ。
「実は、迷宮への入り口は南区のものだけでなく、他にも存在します。」
「え?そうなの?」
セロだけでなく、皆がスタンに注目する。
「ラビュリス城内の隠し部屋に第2層へ通じる穴があります。ただの穴なので入口としては使いづらいのですが…。」
「私、知りませんでした…。」
ロッテも驚いている様子だ。
「公爵様以外に知る者は私くらいでしょうから。」
「それなら、そこ以外にも入口があってもおかしくないかもね。」
どこかにそれとはまた別の入り口があって、そこから死体が第3層に運び込まれたのかもしれない。
スタンはそう言いたかったのだろう。
セロもまた、それがおそらく真実であろうことを確信した。
一度迷宮内部の話を休止する。
次は公爵の執務室にあったロッテへの手紙だ。
ロッテは少し緊張した様子で、手紙を開封する。
「それでは読みますね。」
愛しき娘、シャルロッテ。
君がこの手紙を読んでいるということは、すでにいくつかの真実が明るみに出ていることだろう。
セロ君はおそらく、かなり早い段階で私のことを察知していたはずだ。
君は私に、何故、と問いたいのではないか?
残念だが、この手紙でその問いに答えることはできない。
私には私の求めるものがあり、私はどうしてもそれを諦めることができない。
願いが成就することを確信してしまってはなおさらだ。
計画を実行するにあたって、唯一の懸念材料が君のことだった。
闘争によって変革を促す際に、君が巻き込まれ、害されることは求めていない。
ラビュリントスにセロ君達が訪れ、彼に君を預けることができたのは行幸だった。
君は王国最強の勇者に守られ、その身を心配する必要は無くなった。
リーゼロッテの分まで、そして生まれてくることができなかったあの子の分まで。
幸せになって欲しい。
今回の騒乱の最中、カールレオン公爵は命を落とすことになる。
そうなれば、二度と君と会うことはないだろう。
さようなら、シャル。
「え…?」
読み終えたロッテは明らかに動揺していた。
「セ、セロさん。お父様が死ぬって…。」
「落ち着いて、ロッテ。死ぬというのはおそらく、公爵としてのウィランさんだろう。本当に死んじゃったら求める物ってやつも手に入らない。」
ラビュリントス大公は死に、アルカンシエルの最高幹部である静寂として生きるという決意表明。
セロは手紙の文面をそのように解釈した。
手紙の前半部分では、公爵の動機や目的は語られてはいない。
そして後半部分では、ただひたすらロッテの幸福を願う文章が綴られている。
「やっぱりロッテが親父をボコるしかねぇ!」
突然ナナが叫んだ。
「親分!?いきなり何を…?」
「よくわからんから親父ボコって本当のことを言えって脅すんだ。それがいいぞ?これなら親父も喋るに違いない!」
ナナはふんふんと鼻息を荒くしてパンチの素振りを繰り返している。
「まぁ、ボコるかは別にして、これだとロッテが聞きたいことは結局分からないんだろ?なら、迷宮の次はロマリアに行こうか。」
セロもまた、ロッテに提案する。
「元々そういう予定だったし。直接聞いてみればいいさ。」
ロッテも真相が知りたいと思っているせいか、素直に同意する。
「わかりました!私がお父様を問い詰めます!」
「ボコるんだぞ?」
「ボコりません!」
ロッテがナナとじゃれている姿を見て、セロは少し安心していた。
(よかった。思ったより落ち込んでないみたいだ。)
同時刻。ラビュリントスの北、そしてロマリアからは東に進んだ位置。
コーンウォールに寄り添うように佇む小さな教会が月明りに照らされていた。
都市の外部、しかもこじんまりとした教会ではあったが、ここを任されていた者は司教の地位にある。
司教と言うのは本来であれば都市部の複数の教会を統括する地位にあり、これは通常であれば考えられないことだ。
この司教の名はガリウス。
かつて迷宮都市の教会の一つで助祭の地位にあった者が、数年前、枢機卿直々に司教に任命され、同時にここに配置換えとなったのだ。
年齢は30代半ばくらいだろうか。数年前までは一人の助祭でしかなかったが、宿した恩恵を評価されて若くして司教となった者だ。
教会の前で、ガリウスはロマリアからの荷馬車を出迎える。
運んできたのは若い女性の遺体だった。
ロマリアにも教会はある。
通常はそちらで処理されるはずなのだが、こちらの教会に運ぶよう指示されることは結構頻繁に起こっていた。
運搬してきた荷馬車の者は当然理由などは知らない。
都市伯であるスピリタス伯爵の指示にただ、盲目的に従うだけだった。
運搬人が遺体を馬車から降ろし、ガリウスは受け取りのサインを済ませる。
「司教様、いつも通り、中に運び込まなくてよろしいのですか?」
「そうですね。いつも通り、ここで構いません。」
そんないつも通りのやり取りを交わし、荷馬車は去って行った。
この教会にも当然、死者を弔うための霊廟が存在する。
ただしそれは、地上の小さな教会からは想像もできないような巨大な霊廟だった。
他の教会の霊廟に比べかなり地下深くに存在する為、使用のたびに長い階段を降りる必要があった。
ガリウスは今日も無言で階段を降りる。
その背後には、二体の白骨死体が届けられた遺体を運搬しているようだ。
王国において、スケルトンと呼ばれる魔物だ。
ガリウスには闇魔法:死霊の恩恵が宿っており、死体を魔物に変え、操ることができた。
魔物となった死体からは恩恵や技能は失われるが、その身体能力は生前の能力と同等のものだ。
それは白骨となり、筋肉がない状態であっても変わらなかった。
いつもは受け取った遺体を直接ゾンビにして歩かせる。
スケルトンに運ばせるのは特別な遺体だけだ。
やがて霊廟に到着し、その奥へと歩いていく。
霊廟の奥にはちょっとした広間があり、その中央には石造りの寝台が据えられていた。
スケルトンは女性の遺体をそこに寝かせると、部屋の隅に後退し、そのまま待機する。
そして、ここまで無言で俯いていたガリウスの表情が崩れる。
「ウヒョ♪」
その顔は卑猥に歪んでいた。
「今日の死体は当たりだな!なかなかの美人だ。うふふふふ。」
ガリウスは遺体の脳天からつま先まで、舐めるように観察し、不気味な笑い声をあげる。
この男は重度の死体愛好家であり、授かった恩恵も、死体と愛し合う為の恩恵に他ならないと強く思っていた。
聖職者の道を選んだのも美しい女性の遺体を冒涜するという欲望を満たす為だ。
「さぁ、まずはその固くなった体をほぐしましょうね♪」
ここに運ばれてくる損壊のない若い女性の遺体は死後半日から一日くらいのものが殆どだ。
遺体を冒涜しようにも死後硬直により固まってしまっている。
まずは遺体に術をかけ、ゾンビに変える。
ガリウスの制御下にあるゾンビは基本的にその命令に従う為、襲い掛かってくる様子はない。
「ふふふふ。抵抗するなよ~♪」
ガリウスは嬉々として死体の衣服を剥ぎ取り始めた。
深夜になり、行為に満足したガリウスは本来の仕事にもどる。
すっかり着衣の乱れた女ゾンビは、さらに奥へと進むガリウスに追従する。
最奥の部屋の少し手前で脇にそれる。
そのまま進み、少し奥まった位置にある通路の奥に小さな裂け目があった。
その裂け目は、迷宮第3層の奥にある巨大な空間へ通じている。
迷宮側からは目立たない位置にその穴はあった。
穴の脇に立ち、振り返ったガリウスは満面の笑みで女ゾンビに頷いた。
女ゾンビが裂け目に飛び込むと同時に術の制御を解き、来た道を引き返す。
落下したゾンビは、迷宮第3層の巨大空間で本能のままに動き始める。
階段を登り、霊廟の入り口付近まで運搬要員であるスケルトンを移動させ、元の白骨死体に戻すことも忘れない。
ゾンビやスケルトンは、術の制御下にある間は従順だが、一度制御を離れると通常の魔物と同じように本能のままに動き始めるのだ。
死体に戻すことをうっかり忘れてしまえば自分が襲われかねない。
ガリウスは数年前、枢機卿から司教に任命され、ここに配属された時からこれを続けている。
多い時は一日に数十人のゾンビを迷宮に落とした日もある。
運搬人によれば、実は公爵領の死者で損壊が軽度な遺体は殆どがここに運ばれているらしい。
千体を超えたあたりで数えることもやめてしまった。
いつまでそれを続ければいいのかはわからない。
しかし、ガリウスはいつまでもそれを続けたいと思っていた。
ゾンビの生産を指示したのは枢機卿。確かサーレントと名乗っていた。
どうやってかは分からないが、サーレント枢機卿はこれまで誰にも話すことのなかったガリウスの恩恵と死体愛好家であることを知っていた。
「どうやって知ったのかって?私にはそれを見る力があるだけさ。」
思い切って尋ねてみたが、サーレント枢機卿はそう言ってはぐらかした。
理由を知ることはできなかったが、実際、ガリウスにとってそれはあまり重要なことではなかった。
ここはガリウスにとっての楽園だ。
誰に邪魔されることなく思う存分美しい死体達と愛し合える。
「明日の死体も楽しみだ。」
ガリウスはあまり気にしていなかったが、行為に及んだ遺体のほぼ全てがロマリアの女性の遺体だった。
行為に及んだ女性の遺体の死後経過時間が大差ないのはその為だ。
何故かロマリアから運ばれてくる遺体には、損壊のない若い女の遺体が多かった。
死体を冒涜することで頭がいっぱいのガリウスは気付いていない。
ロマリアから送られてくる女性の遺体。
共通するのは死後の経過時間だけではない。
その死因がすべて同一なのだ。
そしてこれからも、気付くことはないのだろう。
ガリウスはただ、欲望のままに死者を冒涜し続けるだけなのだから。