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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
08 死都
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056 連絡

やってきた迷宮都市ラビュリントスは、皆の頑張りもあってか、以前に訪れた時と大差ないように思えた。



「あれ?魔物が溢れ出したって割には…。」


セロは思わずその疑問を口に出していた。


「そうですね。なんだかいつも通りのラビュリントスです。」


ロッテもまた、その疑問を肯定する。



転移先として以前購入していた街外れの地下倉庫は都市の北側だ。

迷宮入口のある区画とは真逆になる。


「こっちの方までは魔物達も来ていない、ということか。」


都市の防衛戦力がいないという状況で、都市に残った冒険者達が必死に魔物を食い止めたのだろう。

セロ達は推測を交えて話しながら、南の迷宮区画へと歩いていく。



「さすが迷宮都市の冒険者だな。少数でオルガンさん達が来るまで持ちこたえたってことだよな?」

「そうなるね。ここの冒険者ってチンピラと大差ないって印象だったんだけど、ちゃんとしてる人達もいるってことかな。」


セロ、ロッテ、アランはさらに迷宮都市に関しての会話を続ける。



ナナとジルとエトワールは、それぞれミケとトラとクルルと手を繋いで後ろからついて来ていた。


「初めての大都市でミケ達が迷子になるといけないからな。あたしの手を離したら駄目だぞ?」

「わかったニャ!」


「私もラビュリントスは初めてなのですけど、すごく大きい都市なんですのね。都市内の内壁も王都の倍はありますわ。」

「シャル様に聞いた話だと、迷宮の魔物が外に出てきた時の為に高くて大きい壁にしてあるんだって。」


王都と違い、ラビュリントスはコーンウォールに向けて登り勾配になっている。

各区画間の壁は高いが、少し高い位置からは街の遠方まで見渡せる為、大きく見えるのだ。



やがて中央大通りに出る。


するとそこには、沢山の天幕が設置され、多くの人間がせわしなく動き回っていた。

様々な物資が運ばれ、天幕の中では治療を受けている負傷した冒険者の姿も見える。


「どうやらこの辺りが後方支援の現場みたいだね。」


別の天幕には休憩中の冒険者達。仮眠をとる者や、食事中の者もいる。

その中に、見知った顔ぶれを見つけた。


商会の元狩猟者達だ。


「セロさん、来てたんすか。オルガンさん達七人はまだ娼館から戻ってこないんで、俺らここで待ってたんすよ。」


変態組は未だ延長を繰り返しているようだった。


「頑張ってたみたいだからハメを外しちゃってるのかな?ならここにいる皆だけでも王都に送るよ。」


こちらの状況はオルガンから聞くことにして、変態組以外の戦闘員を王都に戻すことにした。


「今日の夕方からはまた通常の害獣狩りに出ようと思ってるけど、皆は大丈夫?休息は足りてるかな?」

「俺ら、昨日から休んでますから。全然大丈夫っす。」


「なら、夕方、俺らが戻ったら皆で狩りに行こう。店の在庫も少なくなって、王都の本店や2号店の皆も不安がってるからね。」

「了解っす!!」


転移する為、人気のない場所に移動する。


「セロさん、一つお願いがあるんですが…。」


移動の最中、ロッテはタイミングを見計らって切り出した。


「ハンナなのですが、彼女の祖父がここに残っていまして。公爵家の家令を務めていたスタンという者なんですが。」

「あぁ、ロッテの家の宴にって招待状もってきた爺さんだったよね?」


「口には出しませんが、ラビュリントスの現状を考えれば心配しているんじゃないかと思うんです。連れてきてもいいでしょうか?」

「もちろん。ってそういえば公爵はいないけど使用人とかってどうなってるの?留守番?」


セロはふと思いついたことをロッテに尋ねる。


「そのはずです。ハンナが合流したら一度城の様子を見に行っても構いませんか?」

「俺も行くよ。変態組が戻るのをじっと待つのも退屈だし。」



目的地に到着し、転移門を開く。


「じゃあ皆、お疲れ様。夕方まではゆっくりしてていいから。」


狩猟者達は王都へと帰還していった。


「ナナ、ロッテと一緒に一度王都に戻ってハンナを連れてきてくれるかい?俺らはここで待ってるから。」

「わかった!行ってくるぞ、兄ちゃん!」


ナナとロッテも転移していく。


「皆も俺と一緒に待って貰ってもいいかな?俺、今の内にやっておきたいことがあるんだ。」

「いいぜ。」

「構いませんけど、どうせすぐに戻って来ると思いますわよ?」

「セロさん、やっておきたいことって?」



セロは頷くと、皆にも会話が聞こえるように音量を上げてレギオン宰相に通信する。


「レギオンさん?今、大丈夫?聞いておきたいことがあるんだ。」

「おう、大丈夫だ。何だ?聞きたいことって。」


「今回の侵略、黒幕が公爵だった訳だけど、大罪だよね?極刑?」

「そうなるだろうな。俺はウィランと友人だったが、流石に庇いようがない。」


わかっていたことだがあえてセロは確認した。


「聞きたいのはね、残された公爵家やロッテがどうなるかってことなんだ。俺はロッテの味方のつもりだから確認しておかないとね。」


「今の段階ではまだ何も決定してはいないんだがな。一応俺はウィランの罪をシャルに背負わせることはしないつもりだ。」


仮にウィランを捕縛できず、ロッテにその責を問う貴族がいた場合は全力で阻止する。

レギオン宰相は正直にその思いを口にした。


「だからセロ、俺もシャルの味方だと思ってくれていい。そしてその時はお前たちの力も貸してくれ。」


セロは聞きたい言葉が聞けたことに満足する。


「家はどうなるの?公爵家はなくなってロッテは平民に?」

「いや、これは俺の個人的な考えなんだが、公爵家を無くす訳にはいかん。広大な公爵領を統治する者は必要だ。下手をすれば国が割れる。」


反逆はあくまでウィラン個人の罪。


停戦交渉後はシャルロッテが公爵家当主となって統治を存続させる。


「今の時点では俺個人の希望だけどな。王家やビフレスト商会が味方についてくれるんならなんとかごり押しできねえかと思っている。」


「もちろん協力しますわ!!」


会話を聞いていたエトワールは即座に協力を表明した。


「当然、俺もな。親父も間違いなく俺達を支持してくれるはずだ。」


アランも同様のようだ。


「セロ、これに関しては、味方は多いほどいい。マリアス侯爵とブランギルス伯爵にも連絡しておくんだ。味方になってくれってな。」

「うん。すぐに伝えるよ。」


宰相のアドバイスに頷くセロ。


「ありがとう、レギオンさん。」



そして通信を終え、タイミングよくナナ達も戻ってくる。


「戻ったぞ!兄ちゃん!」

「ありがとう、ナナ。それでね、ロッテの家に行く前に二ヶ所程回りたい場所がある。ロッテ達もいいかな?」


「はい。大丈夫です。」

「わかりました。」


やってきたハンナも問題ないようだ。




早速再転移。今度は全員で移動する。まずは辺境都市、エッフェ・バルテ。


転移先は、少し前までナナが寝泊まりしていた客室。

ナナはこの部屋に道標を設置していたようだ。


部屋から出ると、近くで都合よくメイサが掃除をしていた。


「やあ、メイサ。ちょっと伯爵に話があって戻ってきちゃったんだけど、話せるかな?」

「え!?セロさん!?ちょっと待って下さい、すぐに知らせてきます!」


メイサは驚いた様子で、慌てて駆けて行った。



待っている間、いまいち状況がわからないロッテはこっそりとジルに尋ねる。


「ジル、私達がいない間、何かあったんですか?」


ジルはロッテににっこりと微笑み、ロッテ不在の間の出来事を説明する。



「セロさん、執務室の方にどうぞ。伯爵様はそちらです。」


戻ってきたメイサはそのままセロ達を案内する。


そして歩き出したセロの背中を、ロッテは嬉しさのあまり涙ぐんで見つめていた。


「よかったですね、お嬢様。」


笑いかけるハンナにロッテは頷いた。


(セロさん、ありがとうございます…。)



到着した執務室で、セロは伯爵と話している。


「という訳で、伯爵にも俺達の味方になって欲しいんだ。どうかな?」

「聞くまでもありません。断る理由もありません。儂も喜んで君達の味方となりましょう。」


ブランギルス伯爵はそれが当然のことであるかのように返答した。


「ありがとう、伯爵。」




エッフェ・バルテを後にして、そのまま海都へと転移する。

こちらの転移先は2号店の奥の部屋だ。


「おりゃ~!!!!」

「ニャ~~!!!!」

「ナナちゃん!?待って!!」


ナナは転移直後、猛烈な勢いで店の方に走る。

ミケ達もそれに続く。

それをジルが追いかける。


セロとロッテがマリアス侯爵と話している間は他の者は自由時間となったのだ。

慌てている理由はこれだった。


「みんなで海で遊ぶぞ!!」

「ニャニャ、海っていうのは、お皿の浮いたでっかい湖のことニャ?」


ミケは以前見た、南海襲撃時の映像のことを言っているようだ。


「ん?皿?湖?」

「ミケちゃん、海って言うのは湖よりもずっとずっと大きんだよ?それとお皿じゃなくてあれは船。」


よくわかっていないナナの代わりにジルが返答する。



ドタドタと大きな音を立てて店内へ躍り出る。


「あたしだ!遊びに来たぞ!!」


店の奥からの来訪者に、店内にいた皆の視線が注がれる。


コーラン、ミューズ、オットー。

それと沢山の子供達とレインがいた。


「ナナちゃん!」


レインは笑顔を見せて駆け寄ってくる。


「お?レイン、元気だったか?あたし新しい仲間を連れて来たぞ。ミケとクルルとトラだ。」


「はじめましてニャ。」

「よろしくニャ。」

「仲良くして欲しいニャ。」


ミケ達はナナの後ろから歩み出ると、レインや子供達に向けて挨拶した。


猫が立ったまま、しかも言葉を喋りお辞儀する。

そんな姿に海都の皆は衝撃を受けていた。


「猫さん可愛い。」


ナナの友達であれば自分も友達。

レインはそう考え、恐れることなく近寄ってミケと握手する。


「私はレインです。ナナちゃんのお友達です。」


「ミケニャ。」

「クルルニャ。」

「トラニャ。」


レインの様子を見て、一人、また一人と子供達がやってくる。

ミケ達を触ったり、挨拶したり。反応は様々だ。

襲撃からこれまで、不安な気持ちに耐えていた子供達の中には、ニャンニャンを抱いて泣き出す者もいた。


「ちょっと、ナナ。この猫達って?森で仲間になったの?」


ミューズも初めて目にするニャンニャン族が気になっているようだった。


「チョップ、ミケ達は猫じゃなくてニャンニャンなんだ。間違えたら駄目だぞ?」

「私…、ミューズなんだけど…。」


当然ナナは聞いていない。



少し遅れて、セロ達も店内にやってきた。


「やぁ、レイン、久しぶり。じいさんいる?」

「こんにちは、セロさん。おじいちゃんはネプトさんとジャックさん、アバンさん達と街の見回りをしています。」


「そうか。ありがとう。」


セロとロッテは予定通り、マリアス侯爵に会いに行くようだ。


「セロさん、マリアス侯爵は中央の大階段で連邦の人を監視しているようです。」


ジルが気をきかせてその所在を探知する。


「ありがとう、ジル。」


そしてセロとロッテはそのまま店を出ようとして、入口で振り返る。


「アラン、ナナ達を頼むよ。何かあったら連絡して。」

「親分?ちゃんと問題を起こさないように遊んで下さいね?」


「おう。任せろ。」

「ロッテ。あたしが問題なんか起こすわけがないだろ?親分を信じるんだ。」


セロ達が店を出て行った後、ナナ達もそのまま遊びに行くことにした。


「レイン、ミケ達は海、初めてなんだ。だから一緒に遊びに行こう。」

「泳ぐの?だったら私も水着を…。」


「フフフ。レインにはあたしの泳ぎを見せたことなかったな。ミケ達にも見せてやるぞ。」


ナナとレインの楽しそうな様子に、元気のなかった子供達がそわそわしている。

仲間に入りたい。そんな感情が丸わかりだ。


そんな子供達の一人がナナに尋ねてみる。


「あのね、あのね。お外には悪い兵隊がいるから危ないんだよ?」


気弱そうな少女だった。


「あいつら、ビフレスト商会にはびびって手を出せないけど、他の奴らはどうだかわからねぇんだ!」


生意気そうなやんちゃ坊主だった。



「む?あたしにも攻撃してくるのか?」

「ナナちゃんは商会の人なんだから大丈夫じゃないのかな?」


ナナの疑問にレインが答える。


「じゃ、じゃあ、私も一緒に遊んでいいかな?」


気弱そうに見えて密かに大胆な少女だった。


「待てって!その子、どう見ても普通の女の子にしか見えないぞ?兵隊だってそう思うかもしれないだろ!?」


無鉄砲に見えて実は慎重なやんちゃ坊主だった。



「俺達も一緒に行くぞ?兵隊が絡んできたら俺の拳でぶっ飛ばしてやるから安心しろ。」

「ちょっと、アラン。大丈夫なの?」


子供達に笑顔を見せるアランと心配そうにするミューズ。


「大丈夫だろ。ナナもいるんだし、やばそうならセロが飛んでくるさ。」


ミューズの不安な気持ちはそのままだったが、先程までの子供達の恐怖に震える様を思うと、気分転換もいいんじゃないかとも思っていたこともまた事実。



「みんな、ちゃんと脳筋お兄ちゃんの言うことを聞くのよ?」

「誰が脳筋だ!!!」


子供達は、アランの反論を無視して元気よく返事をした。


「「「わかりました!チョップお姉ちゃん!!!」」」



皆が店を出ていく。

それを見送ったミューズは床に崩れ落ちる。


「ミューズ…。」


そして自身の名をぼそりと呟くのだった。




「おお~い、じいさん。」


セロは中央広場で休息をとっていたマリアス侯爵達を見つけて声をかける。



「おお、セロ君か。ここに来ているということは、辺境の問題は無事解決したということじゃな?」

「うん、おかげさまで。」


「そいつはよかったのぅ。こっちは君や彼らの助力もあって、被害者はおらん。ありがとうよ。」


マリアス侯爵は彼ら、と言いながらネプト達に視線を送る。

セロもまた、彼らへと向き直り、ネプトやジャック、アバン達とも挨拶を交わす。



「して、今回の訪問は海都の様子を見に来てくれたのかね?」

「それもあるし、せっかくだから海でナナ達を遊ばせようと思ったのもあるし、俺はじいさんに話があったし、うん。色々あるな。」


「話?相談事かね?」

「ロッテの事で少し。聞いてくれるかい?」


頷いたマリアス侯爵に、セロは今後のカールレオン公爵家についての相談を始めた。




そしてセロ達がマリアス侯爵と話をしている頃、海都の浜辺では子供達の歓声が響き渡っていた。


「すげ~!!なんだこれ!?」


海上に水色のモコモコの山が出現していた。

その周囲には水着姿の子供達。


「ニャフフフフ。これはウチの奥義の一つ!肉球山脈ニャ!!」


どうやら水色のモコモコはミケの肉球結界で作り出した物体のようだ。

その大きさは下手な屋敷を上回る程だ。


十分に泳ぎを楽しんだナナとレイン、ミケとクルルは山の頂上でぽいんぽいんと飛び跳ねている。


「おおっ!これはすごいぞ!乗れるぞ!!」


楽しそうにしているナナ達の様子に、自分達も参加したくなったのか、子供達は一斉にモコモコ山を登り始めた。



ジル、エトワール、アラン、ハンナ、そしてトラは、浜辺でそれを眺めていた。


「あれ?ミケちゃんの肉球って見えないんじゃないの?」

「それは空気を肉球にした時ニャ。あれは水を肉球にしているから水色なのニャ。」


ジルの疑問に答えるトラ。


そしていつの間にか肉球山に登ってぽいんぽいんと飛び跳ねる大勢の子供達。



騒ぎを聞きつけた者達が集まってくるのにさほどの時間はかからなかった。



「おい、何だ?海に山が出来てるぞ?それになんか人が乗ってる!?」


漁から戻ってきた海都の漁師達は眼前の謎物体に驚愕する。


「あれ?浜辺で子供達が遊んでる?って何あのモコモコ!!?」


子供達の歓声に思わず浜辺の様子を見に来た近隣住民も同様だ。



ぽいん、ぽいん。


「ニャニャ、浜辺に人間がいっぱいニャ?」


ぽいん、ぽいん。


「大丈夫だ。きっとあたし達がすごいからびっくりしてるんだ。」


ぽいん、ぽいん。


「ナナちゃん、たぶんこのモコモコに驚いてるんだと思うよ?」


ぽいん、ぽいん。


「ニャフフフ。人間達をもっとびびらせてやるニャ!!」



ミケは調子に乗って肉球をさらに拡張する。


もこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこもこ…。



水色のモコモコはどんどんその大きさを増していき、それはまるで海岸に突如水色のモコモコでできた島が出現したかのよう。


「ニャフゥ…。魔力がもう空ニャ。」


ぐったりしたポーズのままぽいんぽいんと飛び跳ねるミケの周りにナナや子供達が集まってくる。


「むおおっ!すごいぞ!ミケ!これならいくらでもぽいんぽいんできるぞ!!」

「ニャフフフフフ。これが究極奥義、肉球大陸ニャ!!」


モコモコ島の中央に皆で飛び込んで、全力でぽいんぽいんする子供達。



巨大なモコモコ島を前に、浜辺の者達は唖然となっていた。


「ミケちゃん、やりすぎ…。」

「やれやれニャ。」

「どうすんだ?これ。さすがにでかすぎて皆に気付かれるんじゃ…。」

「アランさん、もう遅いみたいですわ…。」



海都の人間、そして海岸の外れに停泊していた連邦海軍の残留部隊。

皆が海岸の異変に気付いてちょっとした騒ぎになっていた。




「ありがとう、じいさん。」

「他ならぬ君らのためじゃ。儂でよければいくらでも力になるとも。」


セロ達の会話が一区切りついた頃、こちらにも海岸の騒ぎが伝わってくる。


「侯爵、海岸になんか妙なもんがあるんだが…。」


ネプトはモコモコ島を視認したようだ。


「ん?なんだあれ?」

「まさか…!!」


セロのとなりでロッテは何かを感じ取ったのか、すばやく地理枠を操作してモコモコ島の俯瞰映像を出す。



ぽいんぽいんぽいんぽいんぽいんぽいんぽいんぽいんぽいん。


ナナ、レイン、ミケ、クルル。そして店で保護していた子供達が笑顔で飛び跳ねている様子が映像に映し出される。


「やっぱり!!親分ったら!!」

「みんな楽しそうに遊んでるな。じいさん、この子供達は?」


「皆、片親でのぅ、親が漁や仕事に出ている間は家に一人じゃった子供達じゃ。」


連邦襲撃時に子供が家に一人という訳には行かない為、ビフレスト区画に避難していたそうだ。


「ナナに感謝せねばならんのぅ。落ち込んでいた子供達がすっかり元気になっておる。」

「う…。」


そう言われるとお説教ですと言いづらいロッテだった。


「まぁそれはいいとしてだ。あのデカブツには流石に連邦の奴らも気付いているだろうから、俺達もあそこに行かないか?」


ジャックは連邦の反応が気になるようだった。ネプトもその意見に頷く。


「そうだね。もしも子供達に連邦の奴らが何かするようなら遠慮はしない。」


こうして、セロ達も海岸へと足を向けた。




「みんな、見て~。」


ぽいん。くるくるくるくる。ぽいん。


子供達は飛び跳ねるのに慣れてきたようで、運動の得意な者は曲芸じみた跳躍を披露したりしていた。


「何だ今のくるくるは!?かっこいいぞ!!?あたしもやる!!!」


ぽいん。くるくる…。


「ふにゅ!?」


ぽい~ん。


顔面から肉球に落ちて明後日の方向に飛んで行くナナ。

衝撃は完全に肉球に吸収される為、痛みはない。


モコモコ島は子供達の笑い声に満たされていた。



対して、浜辺ではやってきた武装した連邦兵とアランが睨み合っていた。

その背後にはやってきた海都の住民達。

アランの立ち位置は連邦兵から住民を守るような配置になっている。


「なんか用か?俺の拳…、いや、俺達は海で遊んでいるだけなんだが?」

「いやいや、おかしいだろう?何なんだ、あのモコモコした物体は!?」

「拳…、いや、魔術で生み出した遊具だが?」


アランの傍らではジルとエトワールがひそひそとアランに耳打ちしている。

妙な単語が混じっているのは途中でジル達の言うようにセリフを変更しているせいだ。


そしてこの会話は当然、通信でセロとロッテにも送っている。


「遊んでいるだけなのは島の上を見たら分かるだろ?子供達が怖がるといけねぇし、お前らもう帰れ。」

「そうはいかない!あの物体が何なのか、調査を命じられているんだ!」



連邦兵に対し、一歩の引かないアランの背後で人混みが二つに割れていく。

マリアス侯爵にネプトとジャック。そしてセロとロッテだ。


連邦兵を一瞥したセロはおもむろに口を開く。


(後々の為に、ここはちょっと脅しておこうかな。)


「なんで武装してんだ?街の人間を刺激する行動を制限しないってことは、海将は俺との約束をあまり重要視していないようだな?」


セロは言いながらアランの隣に立った。


「セロ、話は済んだのか?」

「ああ、おかげでじいさんともゆっくり話せた。」


連邦兵達も、目の前に現れた少年が誰なのか。全員が理解していた。



「お前達!!すぐに武器を捨てろ!!」


隊長らしき人物から指示が飛び、兵達は即座にそれを実行する。


「私達の考えが足りなかった!そんなつもりじゃなかったんだ!許してくれ…、下さい!!」

「今後このような行いは二度とやらないと誓います!今回だけはどうか!」


全員が浜辺に土下座していた。


セロ達は知らないが、連邦兵は勇者との敵対時は即刻処刑を言い渡されている為、必死だった。



そして、夢中で遊んでいた子供達も現状に気が付いたようだ。


「ナナちゃん、浜辺で騒ぎが起こってるみたいだよ?連邦の人が謝ってるみたい。」

「本当だ!兄ちゃんが悪者を土下座させてるぞ!?あたしも行って活躍してくる!」


ミケは肉球を小さくし、ナナはセロの元へ走り、雪だるま水着のまま隣に仁王立ち。


レインと子供達はマリアス侯爵の元へ。

ミケとクルルはジルと一緒にいたトラの元へ。



「もうよい、戻りなさい。」


マリアス侯爵は土下座の体勢で震える連邦兵に解散を命じた。


そして連邦兵は自らの拠点である船団へと逃げ帰って行った。




セロ達はビフレスト区画の広場まで戻ってきていた。


遊び足りないのか、ナナとレイン、ミケ達と子供達は広場を走り回っている。



子供達の監督役をマリアス侯爵達に任せて、セロ達は店の奥でラビュリントスの映像を眺めていた。

そこには六つの光点が表示されている。


「オルガンさんは表示されませんから、七人は一ヶ所に集まっているみたいですね。」

「ありがとうございます、ジル。」


セロ、ロッテ、ジルの三人で変態組の様子を確認していたようだ。


「ロッテ、七人がいる建物は…?」

「娼館です…。」


セロの質問に、肩を落としながら答えるロッテ。


「しょうがないな。迎えに行くか。」


皆を呼び集め、一行はラビュリントスへと帰還するのだった。




「ぷふ~~~~~。」


満足そうに浴室から出てくるオルガン。なんか肌がツヤツヤしている。


「あ、ありがとう…、ございました…。」


薄布をまとっただけの卑猥な恰好をした娼婦はフラフラしながら礼をする。


「ふむ。」


オルガンは娼婦の姿を見ながら何やら考えているようだ。

他の六人の変態達も、各個室で似たような状況だった。


それぞれがそれぞれの娼婦を見て考える。


「あ、あの。終了のお時間になりますが…。」



七人の変態の心は一つだ。


「延長だ。」(×7)


「ひいぃっ!!」


娼婦達の表情が驚愕に染まる。



「延長だそうです…。」


その注文は店主へと届けられ、娼館の主もまた驚愕する。


「またか!?あの人達いつまでやりまくる気だ!?」


店に乗り込んでいたロッテは、音を立ててテーブルを叩きながら店主に返答する。


「却下です!!」

「うおっ!あんた一体なんなんだ!?ってすごい美人だな?うちで働かないか?」

「それも却下です!!!」


驚き続きの店主はロッテの正体に気付いていないようだった。



店の外ではナナ達が待っている。

セロとナナは絶対に店に入ってはならないと厳命されていて、中に入れないのだ。


「兄ちゃん、あたし退屈だぞ?」

「呼びに行っただけなんだからすぐに戻ってくるんじゃないかな?」



結局、ロッテがオルガン達を外に連れ出すのには、しばらくの時間を要した。

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