フヨフヨ学習帳 幼年1組 なな 07
あたしが最強の付与術士になるために。その7。
まったく付与術習得してないが、それでも最強付与術士になるための記録なのだ。
しっかりと戦いの記録を残すことで、新しい閃きに繋がるかもしれない。
あたしはお城でプリンを食べた。うまかった。
まずはこの記録からだ。
味の記憶は超重要だ。だからここからだ。
お城でなんか難しい話をした。
するとメイサが兄ちゃんに助けを求めてきたんだ。
転移してみると、街の広場にマゾと虎が襲って来てて、兄ちゃんが飛び出して行った。
もちろん、あたしも一緒に行こうとした。
しかしくるくるが邪魔をした。
本来なら、みんながあたしのかっこよさに夢中になっていたところなのに。
悔しいから、せめて記録だけでも真実を残そうと思う。
実現しなかった幻のあたしの見せ場だ。
あたしは広場に突入して、虎の目の前でピタリと動きを止める。
あたし「ネコを飼っているのか?」
虎の背後にいるマゾがあたしの言葉に反応する。
マゾ「フッフフ。ナナ、少しは腕をあげたようだな?おまえごときでは私の相手には不足すぎるのでな。」
鋼虎「君が七星爆裂拳とかをつかう女かね?ネコ呼ばわりするとはいい度胸じゃないか!」
あたし「やっぱりネコか…。ネコと話す気はない!!」
鋼虎「グフフフ。久しぶりにいきのいい獲物ですね。殺りがいがある。」
マゾ「ナナ、おまえの拳ではその虎は倒せん。七星爆裂拳の最大の欠点を知ることになる。」
あたし「なに!?」
マゾ「おまえが思っているほど七星爆裂拳は無欠無敵ではないということだ。」
鋼虎「どこからでもどうぞ!」
あたし「ほああ~~!!」
強烈な一撃を見舞うあたし。
が、その拳がモフモフの毛にめり込んで奴に届かない。
あたし「こ…、これは!!」
マゾ「その虎の体は特異体質でな。外部からの衝撃をすべて柔らかく包み込んでしまう。」
拳を突っ込んだままモフモフするあたし。
マゾ「貴様の拳もすべてモフモフに吸収されてしまうというわけだ。」
鋼虎「私は今まであらゆる拳法をこの体で殺してきたのですよ~~。」
前足を振り上げる虎。
あたしは防御体勢になり、襲い掛かる肉球に備える。
バゴッ!!
あたし「ぐあ!!」
肉球の衝撃に倒れるあたし。
兄ちゃん「ナ…、ナナ!! ま…、まさか七星爆裂拳が通じないのか!?」
鋼虎「ファッ、ファッ、ファッ、ファッ。」
兄ちゃん「だ…、駄目だ。あの拳法が通用しなけりゃナナはただの超絶美少女。殺されちまう。」
マゾが背後から葉っぱを飛ばして虎の頬に傷を付ける。
鋼虎「ち…、血~~。」
マゾ「その虎はな、自分の血を見ると逆上し、人を殺さねば治まらなくなる狂乱の屠殺虎なのだ!!」
両前足を振り上げ、立ち上がる虎。
鋼虎「いてえよ~!!」
兄ちゃん「ど…、どうするんだよ!」
あたし「もう一度言っておく。七星爆裂拳は無敵だ!!」
両手を流れるように動かしながら構えをとるあたし。
あたし「あちゃっ!!」
虎のモフモフのお腹に蹴り。だが今度はめり込む前にあたしの美脚をピタリと止める。
鋼虎「なにをバカなことを!!」
あたし「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃっ!!」
ドドドドドドド…。
あたしの連続の蹴りに、モフモフのお腹からその毛が脱毛されていく。
鋼虎「!?」
兄ちゃん「ああ!!」
ズバババ…。
虎のモフモフお腹はスキンお腹へと変化する。
鋼虎「け…、毛が!!」
ツルツルお腹に両手で打撃を加えるあたし。
あたし「七星毛破斬!!」
一見、虎は効果がなかったかのように平然としている。
あたし「七星爆裂拳の前には、おまえはただのムダ毛のかたまりににすぎん!死ね!!」
鋼虎「な…、なにをこの~~。」
ばこーん!!
爆散する虎。
そしてあたしはその背後のマゾをギラリとした眼で見つめる。
マゾ「どうやら昔のナナではないようだな……。」
拳をポキポキしながらマゾに近づいていくあたし。
マゾ「フフ……。ナナ、もう一度あの地獄へつきおとしてやる!!」
なんかマゾの手がいっぱい増えている。
マゾ「貴様には一生私の技を見切ることはできん!!」
繰り出される無数の手刀の中から正確に本物を見破り、あたしはそれをガシッと掴み取る。
マゾ「な!!」
驚愕の顔を見せるマゾ。
あたしはメキメキと音を立て、マゾの腕を握る手に力を込める。
マゾ「や…、やはり昔のナナではないな。なぜ…。」
あたし「執念!!」
マゾの腕をさらに強く握る。
あたし「あたしを変えたのは貴様が教えた執念だ!!」
と!
こうなるはずだったんだ!くるくるが邪魔しなければ!!
これがくるくるの妨害の裏に隠された真実だ。
まぁいい、ここまでは前座だ。ぶっちゃけあまり重要じゃねぇ。
あたしが毛破斬やりたかっただけだ。
大森林での冒険におけるメインイベントはこの後だ。
ちなみにミケと勝負したのがセミファイナルな。
そしてついにやってきたメインイベント!
完璧兄妹コンビVS覆面猛獣コンビの対決!
あたしは当然、十字架爆撃か覆面ノ終焉でマスク狩ってやろうと考えていた。
けど兄ちゃんは自信なさげだ。
たしかに動かない人形相手にしか練習してないからな!!
仕方ねぇな。今度、くるくるかロッテにかますとして、今回は新技を提案することにしたんだ。
その技の名は…、長角暴走列車!!
モルモルマンが猛牛マンを背負って、猛牛マンの長角を相手にぶつける技だ。
しかしこの技、登場した時は皆に否定されたものだった。
だから当時のあたしは実践してみたんだ。
結果、分かったのは人を一人背負った状態で背負った人間にヘッドバットさせるのはすごく難しいということだった。
とてもじゃないがその状態で逃げる相手なんて追えねぇ。
あたしはとりあえず、逃げずに喰らってみるんだ。そう相手に言って技を受けさせてみることにしたんだ。
結果は、一人で竜巻ミキサーやった方がよっぽど強い。という結論に達した。
背負われている方は踏ん張りが効かないから頭突きの威力半減なんだ。
おまけに何度もやっていたら猛牛マン役が首がいてぇとか言い出す始末。
当たる瞬間が見えなくて首に常時力を入れて固定していないと頭突きの瞬間が痛いんだそうだ。
まったく、貧弱な野郎だぜ。筋肉が足りないに違いない。
結局、ずっと首に力を込めて固定してるから技を当てなくてもどっちにしろ痛くなったとか言いやがる。
そしてモルモルマン役も体力の限界に。
人をおぶった状態でおぶってない奴に追いつける訳ないだろ!って逆ギレしていた。
あたしは猛牛マン役とモルモルマン役の双方から責められることになってしまった。
が、良い子は真似してはいけませんという但し書きはなかった…。はずだ…。たぶん…。
ということは真似できるもんならやってみろというメッセージに他ならない!
だからあたしは悪くない!!
という訳で、この技は欠陥品だ。そう結論を出すのにそれほど時間はかからなかった。
元々、ケン玉とネジマンをやっつけた時は猛牛マンが負傷して走れなかったから苦し紛れに出した技だと思っていた。
「とりあえずこいつらコンビ技ねぇから何か二人でやりたかっただけじゃね?」
なんて酷いことを言う奴もいた。(あたしだ。)
結局、カイオウマンとスモール・ザ・茶道の磁石パワーに引っぺがされて破られる技なのだが…。
あたしたち完璧兄妹が使用することでまさに完璧な必殺技として生まれ変わったのだ!
モルモルマン役は人をおぶった状態で走れない?
それは上下のバランスがおかしいからだ。
モルモルマンが下で猛牛マンが上。
二人の体格を考えると、どう考えてもおかしい。
小さくて力も弱いモルモルマンが大柄な猛牛マンをおぶって走る。
モルモルいじめだ。猛牛マンは寝てるだけ。
左手はそえるだけに似てるぞ!?
おっと、話がそれるとこだった。
何が言いたいのかと言うと、この欠点はあたしたち完璧兄妹には当てはまらないということだ。
モルモル兄ちゃんは力も強いし足も速い。
バッファローナナは小っちゃくて軽い。
兄ちゃんはいくらでも走れるし、スピードが落ちることもないはずだ。
もしもあたしがプリンを食べすぎてデブになったらすぐに贅肉付与を習得する予定でもある!完璧だ!!
猛牛マン役は首が痛い?
たしかに猛牛マンは鍛え抜かれた筋肉を持っているからいいんだろうが、あたしにはない。
まともにやれば一撃であたしは首を骨折するだろう!
だが!!我が障壁は無類無敵!!
頭に爆裂障壁を展開しておけばあたしは何の痛痒も感じないのだ!
せっかくだ、長角障壁と命名しよう。
磁石パワーで引き離された?
完璧兄妹であるあたし達もまた、磁石パワーの使い手なのだ!
しかもあたしの魔力はたくさんあるし、兄ちゃんの磁力は魔力を消費しない。
あたしと兄ちゃんを引き離せる者など存在しないのだ!!
しかもだ!あたしが磁石パワーで兄ちゃんにくっつくことによって、兄ちゃんは両手がフリーになるんだ。
暴走列車しながら剣を振ったりできるんだ。
これはモルモルと猛牛には真似できない強みだ!!まさしく完璧!!
そしてこの技の最大の利点!!
それは、寝てるだけの猛牛マンと同じく、あたしも寝てるだけでいいってことだ!らくちんだ!!
天井のシミを数えている間に敵をぶっ飛ばしているという素敵な必殺技!!
もちろん、できる妹であるあたしは、走り回ることになる兄ちゃんへのフォローも忘れない。
あたしが転移門を使って相手の死角に転移するようにすれば、敵を追いかけまわす必要もないのだ!!
さらに、あたしがいることで、付与術の援護だってできるんだ。
相手が障壁で防ごうとしてもあたしが消去する!
映像付与を使って、分身暴走列車だってできる!
隠形付与の透明フヨフヨで、見えない暴走列車だって可能だ!
誤認フヨフヨを使って、味方のふり暴走列車とかも面白そうだ!
そしてあたしは思ったんだ。
成長記録では新しい付与術を習得することばかり気にしていた。
が、すでに会得している付与術を練習したり、新しい使い方を考えるのも重要ではないのか?
そうだ。重要なはずだ!
だからあたらしい術を習得していなくてもさぼっている訳じゃないということになる!
そう、あたしは鍛え、研ぎ澄ませている最中だったようだ。
きっとそうだ。そうに違いない。