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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
07 大森林
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053 月光石

「もう大丈夫だから、いい加減泣きやんでくれ…。」


ミケとクルルはまだナナにしがみ付いたままだった。


「ここは本当に大丈夫か?この足場、いきなり崩れたりしないのか…?」


耳長族に上部の足場まで引き上げられた今でも、ナナは自分の足元に疑心暗鬼になっている。

先程までの移動がよっぽど怖かったようだ。



「親分、何か聞かれたら私の言う通りに答えて下さい。トラさんはフォローをお願いします。ミケさん、クルルさんは頷くだけです。」


ロッテは通信を使って交渉を助けるつもりのようだ。


「舌戦になればあたし以上の適任者はいないぞ?兄ちゃんくらいだ。でもあたし怖かったから今回はロッテに任せてやる。」


ナナは恐怖で弱気になっていたのでロッテに任せることにした。

何気にミケとクルルの扱いが酷かったが、二匹はまだ泣いていてそれどころではないようだ。



「で、ニャンニャン族がこんなところで何をしていたんだ?」


「探検だ。」


ナナは即答した。


「親分!?私まだ何も言ってませんよ!?」

「あたしは何も言っていないぞ?」


「は?今、探検って言ったじゃないか。何を言ってるんだ?」


耳長族の男はナナの言動に疑問を抱いているようだった。



「…。」


ロッテは崩れ落ちた。



「待って欲しいニャ。ニャニャは恐怖で混乱しているのニャ。落ち着くまで少し休ませて欲しいのニャ。」


トラのフォローにロッテががばっと起き上がる。


「ナイスフォローです!トラさん!」


まだ挽回できる。そう思ったロッテは気合を入れる。


「ナイスフォローだ。トラ。」


しかしナナは何も考えずに素直にリピートする。


「混乱しているというよりもただ威張っているだけにしか見えないんだが…。」

「親分!そこは喋らなくていいんです!」


同時に、周囲を囲んでいる耳長族達の間では、ナナの言葉を聞いて憶測が飛び交っているようだ。


「なんでこの赤いのは偉そうなんだ?ニャンニャン族に階級制度みたいなのがあるのか?こいつだけ身分が高いとか?」

「ニャンニャン族の制度や身分はわからんが、とりあえずこいつがリーダー格なんだろう。」



「そこ!喋るな!!」


ナナは憶測を口にしていた耳長族達をビシッと指差した。

そして持ち直したミケとクルルはナナのセリフにうんうんと頷いていた。



「何だこいつら!助けてやったのに生意気だぞ!!ニャンニャン族がこんな無礼者だったとは!!」」


耳長族は憤慨し、みるみる雰囲気は険悪なものになっていった。


「ロッテのあほ!言う通りに喋ったのにこいつら怒り始めたぞ!!」


ナナは通信でロッテを叱ってみた。



「…。」


ロッテは床に突っ伏している。


結局、言って欲しいセリフを一言もナナに伝えることなく交渉は失敗していた。




ナナは好戦的な態度から敵対の意思を疑われ、四匹揃って牢に入れられることになった。


「親分…。とりあえず大人しく牢に入って下さい…。反省の意味も込めて…。」

「わかったぞ。」


意味不明だけどきっとこれがロッテの作戦なんだ。

牢に入れられたナナはミケ達にそう説明していた。


「やれやれニャ…。」


トラは深く溜息をついていた。




セロの方は、アラン達と頻繁に連絡を取り合い、情報を入手していた。


ナナ達が騒いだり捕まったりしている間にも調査は進展しているようだった。



ブランギルス伯爵からは教会敷地内の墓地にて単独の獅子覆面の発見。

さらに、教会入口に設置していた鑑定陣に鑑定結果が表示されない人物の通行記録が一件。


以上の報告が寄せられた。


アラン達からはとある物品の発見報告。


「こんなのが出てきたんだが…。」


瓦礫の下から出てきた品物の中に、一枚の紙切れがあった。

それには短い一文が記載されている。



【ホームへ食糧七日分】



メモにはそう書かれており、おそらく指示を受けたバルドが咄嗟にメモしたのだろうと思われる。


「これってヒントになるよな?ホームってとこに秘宝があって、その監視役の為の食糧だろ?」

「誰だってそう思うだろうね。露骨すぎるくらいのヒントだな…。」


メモはわざと残された。セロはそう判断することにした。


しかしそれならフォボスが建物を破壊した意味は?


(フォボスの技能は近接戦闘に偏っている。場所が狭かろうが広かろうが大した違いはないはずだ。)


フォボスの破壊は隠蔽工作の為。そう仮定し、本当に隠したかったのはメモじゃない。そう判断する。


「アラン、他にも何かあると思う。済まないが調査を続行してくれるかい?」



続行を指示したセロは、次にメモの内容について考える。


「ホームか…。」


ホーム。家。セロはまず魔女の庵を連想する。


「ここならたしかに食糧を送る必要がある…。」


ホームという単語が示すのが家ではなく、アルカンシエルが拠点としているであろう施設を示す符丁だとしたら?


「教会?そうでないにしても、エッフェ・バルテの何処かである可能性が高い…。」


そうでなければこれまでの魔女の転移のタイミングの説明がつかない…。


「見えていなければ不可能だ。」


少なくとも魔女とヴォロスは都市に滞在しているはずだ。


「でもそうなると街にいるんだから食糧を送る必要はない。」



メモのヒントが示す場所は魔女の庵であると仮定することにした。


同時に他のヒントが示す場所についても考える。


ダイモスにバルドが示したフォボスの逃げる方向から考えられるのは魔女の庵かエッフェ・バルテ。


「なら街で目撃された覆面は?街に何かある、そう思わせる為の誘い?」


以前セロは、街から逃亡したバルドは街の襲撃を示唆する行動だと考えていた。


「もしかしてあれも誘いか…?バルドの暮らす倉庫を調査させるために逃亡の指示を出した…?」



セロはいくら考えても答えを得られないことに歯噛みする。


「わかっていたことだけど、やっぱり先生は手強いな。」



「考えがまとまらないんですか?セロさん。」


心配したロッテはセロの隣に座る。


「そうなんだけど、そうも言っていられない。今の時点で一番怪しいのは耳長族の樹上の村。今はそこまでしか分からない。」

「え?魔女の庵とエッフェ・バルテは?候補を絞れたってことですか?」


「確信したわけじゃないんだ。耳長族の村を示すヒントだけが発見されない、だからこそ怪しい。そう思っただけなんだ。」



言い終わったセロは、捕らえた耳長族の門番に向き直ると質問を始めた。


「樹上の村に最近訪れた者はいないか?」

「いない。」


「最近何か変わったことは?」

「なにも。」


ここまでは予想通りだ。

セロは本当に聞きたかった質問をぶつけることにした。



「おかしな夢を見た。もしくは妙な幻を見た。そんな感じのことを言っている仲間はいなかったか?」

「…。いないと思うけど…、少なくとも俺は聞いたことがない。」


突然毛色の変わった質問に、耳長族の門番は戸惑う様子を見せる。


「答えてくれてありがとう。あなたに危害は加えないし、村に送り届けることも約束する。すまないがもう少しここに滞在してくれ。」


セロの言葉に安堵したのか、耳長族の門番は体を弛緩させる。

同時にセロは拘束を解いて門番を自由にした。


仮に門番が事を起こそうとしても、万全ではないとはいえ、セロとダイモスの前だ。

簡単に取り押さえられる。そう判断したようだ。



「喉が渇きませんか?」


治療が終わり、手が空いていたジルは耳長族の門番にお茶を持ってきた。


「あ、ありがとう。」


他種族に対し友好的ではないと評される耳長族の男は、特に拒絶することもなくジルに礼を言い、飲み物に口をつけた。





「あたし退屈だ。外に出たい。」


映像からナナの声がする。捕まってから三十分も経っていないが退屈したようだ。


「親分、待っ…。」

「シャウ!!」


ナナはロッテの声が聞こえた時にはすでに、奇声とともに閉じ込められた小屋の入り口の格子を切断した後だった。


「親分…、せめて転移を使ってこっそり出るとか…。」


ロッテはナナの衝動的脱獄を制止できずに項垂れている。



「何だ!?今の奇声は!?」


案の定、近くにいた耳長族の戦士がナナの声を聞き取っていた。


「切れたニャ~!!」

「ニャニャ、すごいニャ!フォボスの技と同じニャ!!」


「七星爆裂拳は一度戦った相手の拳を己の分身とできる!!!」


得意げなナナ、そして騒ぐミケとクルル。


耳長族の戦士達が騒ぎを聞きつけ集まってきている。


「格子が切断されているだと!?何をしたんだお前たち!!」


こうして四匹のニャンニャンはまたも包囲されていた。


「あたし達は食べても美味しくないぞ!?」




「親分…、隠密行動は…?」


セロは映像の前で座り込んでいるロッテの横に立った。


「仕方ないなぁ。」

「ごめんなさい、セロさん。私が上手に指示できないから…。」


「大丈夫。」


セロはロッテに微笑むと、そのままナナに通信を送る。


「ナナ、自分達を領域障壁でくるんで外に色付きの眠りガスだ。しょうがないから眠らせよう。」

「おうよ!」


ナナはセロの言う通りに、自分とミケ達だけを障壁で包み、ガスを放出する。

樹上の村はあっと言う間に赤い煙に包まれ、包囲に参加していなかった住民までも眠りについていた。


「俺が風でガスを散らすから、障壁はそのままで高い位置に転移門を開けて。」


耳長族が動かなくなったことを確認して、セロの指示を実行し眠りガスが風で吹き散らされる。


「ロッテ、後は任せていい?とりあえず耳長族や村の物品、片っ端から鑑定しまくってみて。」


ロッテはセロの思惑が分かったようだ。


「任せて下さい。変な効果がついていたり、鑑定を阻害する対象を探せばいいんですね?」

「うん、お願い。」



ようやくナナ達は調査活動を始めることになった。


樹上の村の全住民は異常なし。

村の物資も同様だ。


武具庫にあった戦士達の装備品はすべて異常なし。


食糧庫にある果実や干し肉等も異常はない。

箱に詰めてあった品物は、外からだと箱自体の鑑定しかできないのでちゃんと開封して中身を鑑定した。


神事等で使用される祭壇、そこに祭られている沢山の木彫りの人形達。中央にはこちらも木彫りの光の女神像。


倉庫に納められていた生活雑貨や、木材、ロープ等の物資も調べた。


退屈な作業に疲れ始めたナナに、食糧庫の果実のつまみ食いを許可したりしてなんとかモチベーションを維持させる。


「ちょっとだけですよ?親分。」

「全種類をちょっとずつだな!?わかった!!」

「違います!!」


調査は続き、それぞれの住民の家屋も細かくチェックしていく。

鑑定は一瞬だ。ナナに見せるだけで終わる。

村の規模もさほどではなかった為、数時間で調査は終了した。


結果は全て、異常なし。ナナ達はエッフェ・バルテへと帰還した。



「みんな眠ってるだけだから心配いらないよ。」


ナナ達と入れ替わりで門番も樹上の村へと帰還していった。



伯爵邸の中庭には、アラン達が回収してきた倉庫内にあったであろう品物が並べられている。


割れた食器や酒瓶。

武具の手入れ等に使用したであろう汚れた布。

倉庫内に元々あったのか、バルドの残した品物か判別できない様々な物資。

バルドが教会関係者であったことを示す光の女神の描かれた絵画等もあった。


「あとは瓦礫と木片、ガラスや陶器の欠片とかだけだ。」


セロは品物を睨みながら何やら考え込んでいる。


「共通点としては光の女神くらいか…。」


出てきた品物にはまったく関係性を見いだせない。

どう考えてもフォボスが隠蔽したかったのはこれらじゃない。


「フォボスはどうしてこんなものを…?」



フォボスの事を思い出していたセロは、その技能もまた思い出す。



付与術:夢想。

付与術:幻想。

付与術:硬化。

付与術:切断。

付与術:粉砕。



少々狭いな。そんなことを口にして建物を切断したフォボスの姿がセロの脳裏に浮かぶ。


そして同時に、フォボスの呟きが聞こえた気がした。



「それは幻想だ。」



セロはその言葉に、フォボスの行動を思い直す。


「そうだ。フォボスには幻想付与の技能がある。見たままを信じちゃ駄目だ。」


フォボスは確かに周囲の建物を切断した。その残骸からもそれは真実だったのだろう。

ただし、本当に隠蔽したい物にだけは粉砕を付与していたとしたら…?



フォボスの粉砕付与は自分が接触していなくても機能することはナナの障壁を粉砕した時に確認している。

通りから倉庫内の対象にも付与できるのかもしれない。


アランの言によれば、現場にはもはや瓦礫と木片、ガラスや陶器の欠片くらいしか残されていない。


「樹上の村には石材、ガラス、陶器の類は皆無だった。となれば…、重要なのは木片か?」


セロの声に皆が集まってくる。


「兄ちゃん、何か分かったのか?」


セロはナナに頷いて、皆に自分の閃きを伝えると続けて次の調査内容を告げる。



「エッフェ・バルテでよく使用されている木材の種類と、樹上の村で使用されている木材の種類を調べたい。」


「こちらで使用されているのはエメラルドマリーとグランドセコイアの木材が多いかと思います。」


まずはメイサから答えが返ってくる。

そしてロッテの映像越しにナナが樹上の村の木材を鑑定する。


「レアガルドピラーって名前の木だ。」


ロッテの検索枠でレアガルドピラーについて調べる。


それはレアガルド湖の周囲にしか自生していない。あの異様に樹高の高い大木がそうだ。


メイサによれば、エッフェ・バルテに耳長族との交流はない。

レアガルドピラーの木材はエッフェ・バルテには存在しないはずだ。


ナナの返答の後、セロはすぐに動くことにした。


「ジル、現場を探知してレアガルドピラーの木片を集めたい。」


療養中のセロとダイモス、看護要員としてロッテ。三名を残し、皆が現場へと急行した。




夕暮れになり、持ち帰られた木片はバケツ一杯程。


「セロさん、これで全部です。」


取りこぼしのないことをジルが保証する。



一つ一つの木片の大きさは爪先程度。

粉砕されただけあって細かくバラバラになっている。


ロッテはその中の一個を掴み取ると、まじまじと見つめる。


「これ、元は一つの品物だったんでしょうか?」

「俺はそう思うよ。そして元の姿が分かれば月光石の場所を特定できる品物だと思う。」


形は均一。数は膨大。完成形のヒント無し。

理不尽に思えるくらい難易度の高い立体パズルだ。


「とりあえずそろそろ暗くなってきたから夕食にしよう。明日以降の話は食べながらやろう。」



今日もいつものようにマーサから食事を受け取る。

一雨きそうな空模様だったので、伯爵邸の食堂での夕食となった。


「セロ、みんなが外に出たままだから仕入れが止まっちゃっててね、あと数日で食材が無くなりそうなんだけど…。」


セロはナナの収納から虹砂と虹石の欠片いくつか出して、枠越しにマーサに渡す。


「とりあえずそれを換金してしのいで。なるべく早く戻れるように頑張るから。」



食事をテーブルに並べ、皆が席につくと、ロッテが思い出すように言った。


「親分がここに足止めされているからオルガンさん達も王都に戻れないし狩りにも出れないんですね…。」

「うん。そろそろ決着をつけないとやばいな。商売に影響が出れば家族や仲間の生活に関わる。」




ある程度食事も進んだ頃、セロは明日以降の方針の説明を始めた。


「明日は休養日にする。俺は動けないし、必要なヒントは揃ったからね。」


木片の示す場所になければお手上げということだ。


「セロさん、木片の復元は…?」


無理だとは思っているが、ロッテは一応尋ねてみる。


「外気に晒されている表面は切断面と色が違う。表面だけでも復元できればいいよ。ただし…。」


明日の休養日中に復元できなければすっぱり諦める。セロはそう言った。


「街にレアガルドの木材があった。しかもそれをフォボスは隠蔽しようとした。十分なヒントだ。」



復元ができればおそらくそれが隠し場所を示してくれる。ゲームクリアだ。


「できなくても樹上の村の何処かにはある。明後日俺が直接乗り込んで見つけてくる。」

「そうは言うがセロ、村に異常はなかったんだろ?本当にあるのか?」


アランは皆が気になっていることを代弁した。



「まず、月光石はなんらかの効果で探知が効かない。これはジルも確認したはずだ。」


ジルは頷いてそれに応える。


「ならその効果とは?俺やナナが探知にかからないのは隠形付与の追加効果、抗魔によるものだ。鑑定を阻害するついでに探知も阻害してるんだ。」


他にそれを可能とする方法があるのか。少なくとも皆にその知識はなく、ロッテの検索でもその方法は出てこなかった。


「仮に月光石が探知にかからない理由を抗魔によるものだと仮定する。けど石自体にその効果はかかっていない。」

「そう断定する理由は?何かあるのか?セロよ。」


今度はダイモスからの問いかけだった。


「以前この部屋でナナはフォボスが見せた月光石を鑑定した。俺の知らない付与術士の敵メンバーとかがいない限り、向こうは隠形付与ができないはずだ。」


ならばどうやって探知を阻害しているのか。


「フォボスやアキームは抗魔付与された魔道具である覆面で鑑定や探知を阻害している。石にも似たような処置をしているんだろう。」

「ならやっぱり樹上の村が異常なしってのはおかしくねぇか?」


アランの疑問に、話が最初に戻ってしまった。


「それを解決する方法は簡単だ。俺やナナみたいな抗魔付与のかかった人間を鑑定するには、何かで覆うだけでそれは可能となる。」


ナナを布で覆えば布を鑑定することになり、鑑定を阻害することなく探知を阻害できるということだ。


「月光石も同じ状態にあるとしたらどうだ?抗魔の魔道具でくるんだ状態で、何かの内部に隠すんだ。」


勿論ただの推測で、確定した訳ではない。

しかし、現状を説明できる方法の一つではある。



「つまりその何かを示すのがこの木片という訳ですね?」


ロッテもセロの思惑を理解したようだ。

セロは頷いて、改めて今後の方策の説明に戻る。


「明日は安静にしつつパズルでもやるよ。皆は休息をとってくれ。そして結果次第で明後日の行動を決める。うまくいけば明後日には決着が付く。」



パズルが解ければ、特定した対象を転移枠を使ってこっそり拝借し、石を回収した後で元に戻す。



パズルが解けなければ、直接乗り込んで村を捜索する。


「そうだな、村を焼き払えば水晶である秘宝は燃え残る。そう言って脅せば耳長達も真剣に探すのを手伝ってくれるかな?」

「あたしもやるぞ!兄ちゃん!あたしとくるくるは炎が使えるんだ!」


「セロさんと親分がすっかり脅しっ子になってしまってます…。何としても明日中にパズルを…。」


密かに決意するロッテ。



そして最後にこの推測自体が間違っていた場合。


「これはあまり考えたくないんだけど、振り出しに戻るってことになっちゃうかな。」


そうなると、魔女の庵とエッフェ・バルテの徹底調査しかない。



方針も定まり、皆はそれぞれ自室へと帰って行った。




そして翌日。


丸一日かけても結局パズルの復元は叶わなかった。


夕食も済ませ、他の皆が就寝した後になってもロッテは頑張っている。

ナナとジルはそんなロッテを手伝っていた。


「ロッテ、そろそろ寝よう?朝からずっと頑張ってるんだし、疲れただろ?」

「すみません、セロさん。もう少しだけ…。」


何でも脅しで解決するセロとナナ。


ロッテはそんな二人に、違う道を示したかったのかもしれない。



「あの…、セロさん…。」


そこでナナと一緒にロッテを手伝っていたジルがおずおずと手を挙げた。


「どうしたの?ジル。」

「私思ったんです。その木片は樹上の村にあったものと仮定しているんですよね?」


ならアルカンシエルの工作は、この木片の元の姿とそっくりな偽物を用意して中に月光石を入れて樹上の村の本物とすり替えた。


「そんな感じでしょうか?」

「うん、俺の推測で申し訳ないんだけどね。」


ここでジルはセロが思いつかなかったことを指摘した。


「用意された偽物もレアガルドピラーの木材で造られているんでしょうか?」



「あ!」

「?」


セロは驚き、ナナはよくわかっていない。


「そういえば…、何で俺はこんな重要なことを考えなかったんだろう…。とにかく確認する必要がある!」


すぐに樹上の村全域の映像を出し、ジルにレアガルドピラー以外の木材の探知を頼む。


まずは、エメラルドマリー材を探知。

祭壇中央の光の女神像がそれだった。


そしてグランドセコイア材を探知。

女神像の周囲に配置された沢山の木彫り人形のうちの一体の頭だけがそれだった。


木片の量からして、女神像はない。

女神像はそれなりのサイズで、とてもバケツ一杯の木片では足りない。



「よし、パクろう。ナナ、転移枠にして。」

「うむ!」



早速、人形を盗み、その頭部を調べる。


「あ、これ、取り外せるみたいだ。」


人形は首に断面があり、接着されていた。


セロは首の部分はそのままに、人形の頭部をさらに調べる。

頭にかぶせてあった飾り物を取り外すと、頭頂部に拳大の穴が開いており、その中には布にくるまれた何かが入っている。



おそらくこの布が探知を阻害している魔導具だ。


「ナナ、この布、鑑定できる?」

「ただの布だ。」


ナナはあっさりと答える。


「あれ?鑑定できるの?俺の予想外れちゃったのかな…。」

「鑑定できないけど布だ。あたしには分かる!!」



「…。」


ロッテは無言でナナのほっぺたを引っ張っていた。


「ふにゅにゅ…!」


ナナはロッテに捕獲されてじたばたしている。



そしてセロが布を取り払うと、そこには美しい白水晶があった。


以前、フォボスが手にしていた物と同一の品物に見える。


「月光石だ。あたしには分かる!!」

「私にだって分かります!!」


ロッテはまたもナナのほっぺたを引っ張り、ナナは脱出しようともがいている。



「まぁ、とりあえず間違いないみたいだ。」


月光石。それと、何かに使えるかもしれないということで抗魔布も一緒にナナに収納してもらう。



「ジル、ありがとう。君の閃きのおかげだ。」

「あ、ありがとうございます…。」


ジルは赤くなって照れていた。



「ナナは月光石を手に入れた!!!」


叫んだナナは石を掲げてポーズをとっている。


「親分!皆寝てるんですから大きい声は駄目です!」


そしてロッテに叱られていた。

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