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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
07 大森林
55/236

047 捜索

「それじゃあナナ。まずは皆の鑑定からだ。」


何らかの魔術効果がかかっている可能性を考え、身近な者から調査を開始した。


「ウチの鑑定頼むニャ~。」


鑑定というものを受けたことがない興味津々なニャンニャン達がまずは名乗りを上げた。


鑑定板を渡され、そこに記された自身の能力を見て、一喜一憂しているようだ。


「やっぱりミケはすごいニャ。レベル16ニャ。」


「えっへん!ニャ!!」


そんなミケの自信も、すぐに打ち砕かれることになった。



シャルロッテ・カールレオン(人間)


レベル 16


恩恵 窓枠魔法+1

交渉術


技能 窓魔術:演算

   窓魔術:地理

   窓魔術:情報

   窓魔術:検索

   窓魔術:記録


効果 変色

   浄化

   解毒

   障壁

   幸運



ジル・ラスターニ(人間)


レベル 17


恩恵 探知魔法+5

   土魔法:霊樹+2

   光魔法:治療+3


技能 探知術:条件

   探知術:検索

   土魔術:樹壁

   光魔術:治療


効果 浄化

   解毒

   障壁

   幸運



エトワール・アルデアット・フィル・グランス(人間)


レベル 22


恩恵 火魔法:火球+7

   魔力強化+3


技能 火魔術:発火

   火魔術:火弾

   火魔術:火球

   火魔術:火爆


効果 火魔強化

   浄化

   解毒

   障壁

   幸運



アラン・ローグリア(人間)


レベル 30


恩恵 武術:打撃+4

   体術:剛体+2

   身体強化+6


技能 武技:連撃

   武技:反撃

   体技:硬化


効果 打撃強化

   浄化

   解毒

   障壁

   幸運



ルーシア・レギオン(人間)


レベル 35


恩恵 盾術:大盾+2


技能 盾技:受流

   盾技:盾打


効果 浄化

   解毒

   障壁

   幸運



「ニャ…、ニャ…。」


三匹はポカンと口を開けて皆の鑑定結果を覗き見ている。


「一番しょぼいロッテがウチと同じレベルニャんて…。」

「ミケさん!?しょぼいとか言わない!!」


ロッテは憤慨している。


「暴れん坊のニャニャはもっと凄いのニャ?」

「あたしが凄いのは当然だ!」


ナナは胸を張って鑑定板を見せた。



ナナ・エランシエラ・ビフレスト(虹人)


レベル 33


恩恵 付与魔法:■■+9  

   召喚魔法:火:氷+5

   空間魔法:収納:転移+6

   魔力強化+9

耐性:斬撃

   耐性:打撃

   耐性:刺突

   耐性:炎熱

   耐性:氷結+1

   耐性:電撃

   耐性:毒+1

   耐性:麻痺+1

   耐性:呪詛

   耐性:石化


技能 魔眼:分析

   付与術:■■

   付与術:祝福

   付与術:幸運

   付与術:豊穣

   付与術:障壁

   付与術:隠形

   付与術:停滞

付与術:定着

   付与術:認証

   付与術:道標

付与術:通信

   付与術:映像

付与術:変色

   付与術:発煙

   付与術:切断

   付与術:燃焼

   付与術:磁力

   付与術:消去

   付与術:指向爆裂  

   召喚術:火焔蝶

   召喚術:氷騎兵

空間術:収納

   空間術:転移門


効果 浄化

   解毒

   障壁

   幸運



しっかりと恩恵付与の部分は映像付与を使って隠しているようだ。


「レベルがミケの倍以上ニャ!?」

「魔術がいっぱいあるのニャ!大魔術師ニャ!?」


「ムフフフ。どうだ、あたしはすごいんだぞ?」


「ニャニャはすごいニャ~。」


ミケとクルルはナナにまとわりついている。


「そうだ、ミケ達もあたしの仲間になったんだからこれをやるぞ。」


ナナは収納からいくつかの装備を取り出す。

ビフレスト商会員の標準装備だ。


「ニャンニャン族が装着するには少し大きいです。修正しましょう。」


ロッテとジルが、浄化、解毒、障壁が付与された外套を首に装着するスカーフになるよう大きさを仕立て直すようだ。

ナナはそれぞれに変色付与を追加して、ミケは赤、クルルは黄、トラは青、と色を付ける。


音声通信が可能になる首飾りも配布する。


「会話する時は、最初に相手を指定するんだぞ?」


通信魔道具の接続方法等、使い方も教える。


最後に、祝福、幸運、道標を付与した指輪。

ニャンニャンの指に指輪は装着できない。

通信用の首飾りに指輪を通して、一緒に首から下げることにした。


「どの魔道具も使う時は魔力を込めないと駄目なんだぞ?」


ナナは魔道具の使い方をミケ達に教え、実際に使わせたりしている。


「これはすごい装備ニャ!!」


祝福や障壁は効果が明らかに実感できる為、ミケ達も大いに喜んでいた。


「大事なのは浄化なんだ。いつも発動させるクセをつけておくんだ。」

「わかったニャ!!」


ミケ達はナナの助言に素直に頷いている。



「そう言えば…、セロの鑑定を見てないニャ。」


思い出したようにミケが呟いた。


「兄ちゃんはもっとすごいんだ。強いんだ。」

「そうニャのか?」

「セロ~。」

「セロの鑑定も見せて欲しいニャ~。」


「ん?はい、どうぞ。」


セロは鑑定板をミケに手渡した。



セロ・グラスリオン・ビフレスト(虹人)

             (鋼の勇者)


レベル 66


恩恵 鋼の勇者 鋼鉄魔法:無限+2

        磁力操作:無限+3

   剣術:太刀:大剣:双剣+9

   身体強化+9

   風魔法:風刃:噴射:電撃+9

   危機感知+6

   立体機動+4

   耐性:斬撃+1

   耐性:打撃+2

   耐性:刺突+1

   耐性:炎熱+1

   耐性:氷結+1

   耐性:電撃+3

   耐性:毒+1

   耐性:麻痺+2

   耐性:呪詛+1


技能 鋼鉄魔術:限定

   剣技:斬鉄

   剣技:流水

   魔剣技:断空刃

   魔剣技:大爆雷

   風魔術:暴風壁

   風魔術:疾風刃

   風魔術:噴射

   風魔術:大放電

   風魔術:稲妻

   

効果 浄化

   解毒

   障壁

   幸運

   不壊

   風魔強化



「レベルがニャニャのさらに倍ニャ!?ミケの4倍ニャ!?」

「怪獣ニャ…。」


「人間だからね?」


ここでクルルが何気なく疑問を口にした。


「こんニャに強いのにセロでも森の魔女には勝てニャいのかニャ?」


「そういえば気にしたことはありませんでしたが魔女のレベルってどのくらいなんでしょうか?」


ロッテもまた、気になっているようだった。


セロはかつての光景を思い出す。


「レベル108のヨハンが手も足も出ない、となると最低でも130以上は確実じゃないかなぁ…。」



「セロのさらに倍ニャ…。」

「大怪獣ニャ…。」




ジェイとメイサにも鑑定を行い、異常の有無を確認した。


「兄ちゃん、皆、何も変な効果はついてないぞ?怪しいフヨフヨもいない。」

「そうか。でも何らかの方法で俺達が監視されているのは間違いない。」


「どうするんだ?兄ちゃん。」


「次は物品だな。特によく身に着けている物、肌身離さず所持している物から優先的に。」

「わかったぞ!!ロッテのパンツだな!?」


「何でそうなるんですか!!」


ロッテはナナに反論する。


「いや、そこまでは限定してないけど…。」


セロもまた、ナナの意図が分からないようだった。



「前に兄ちゃんがロッテにパンツ見せろって言った時、ロッテの奴は断ったんだ。パンツに何かつけてるからに違いない!」


「何もついてません!!」


ロッテはナナの頬っぺたを引っ張っている。


「ふにゅ!?ひゃにをふる!?」


「ナナ、その言い方だと俺が変な誤解されちゃうから…。変態だって思われちゃうよ。確かに見せろと言ったのは事実なんだけど…。」


「言ったのか…。」


アランは何故かがっくりと両手と両膝を床につけている。


「親分!その言い方だと私が下着に何か付けてるみたいに聞こえます!セクハラです!!」


セロとロッテは二人してナナの言い分を否定する。


「子分が親分の頬っぺたを引っ張ったらダメなんだぞ!?」


しかしナナは聞いていなかった。




セロの調査内容はさらに細かいものになっていき、いくつかの発見があった。


ジルの探知で見つけた天井裏に潜んでいた鼠数匹。

各人の部屋の片隅に活けられていた花。

エトワールの所持していた王族であることを示す紋章入りの短刀。

セロとナナが愛用しているそれぞれのロングブーツの靴紐。


「兄ちゃん、鑑定には出ないけど変なフヨフヨがいるぞ!」


これらの品物からナナが異常を察知した。


「効果は…、宿木?なんだこれ?」


細かく分析していたナナだったが、解るのは効果名までのようだ。


「宿木…?木か…。」


セロは王都での戦闘で魔女が使用していた魔術を思い出す。


「これが魔女さんの眼になっている可能性があるな…。ジル、効果名、宿木で探知は可能かな?」


「すみません、セロさん。鑑定に表示されない効果は探知できないようです。」


実際にやってみて、ジルは結果を報告する。


「とりあえず消去するか。ナナ、お願い。」

「わかったぞ。」


消去を済ませたナナには、これ以降も同様の効果を発見した場合は消去と報告を頼んでおく。


「監視の目は他にもあるかもしれないし、宿木は囮で他の監視手段を用意している可能性もあるからこっちの調査は継続で。」



セロとアラン、そしてトラは調査に出るようだ。


「捜索の方はロッテにお願いするよ。ナナ、皆を助けるんだよ?」

「兄ちゃん、あたしはできる子なんだぞ?任せておけ。」




まずは、アキームを収監していた牢獄から。


施設の門番をしていた衛兵も、セロの通行を妨げることはしない。

それどころか、啓礼でもってその来訪を出迎えた。


「お疲れ様です、勇者様。」

「勇者はよしてくれ、俺はセロだ。」


「了解しました。セロ様。牢獄に何か御用でしょうか?」

「アキームの収容されていた獄舎を調べたい。可能かい?」


「勿論です。案内させますのでこちらへどうぞ。」



セロ達は目的の牢獄に到着する。

鉄格子は破壊されている。金属製の格子は道具等で切断されたような跡はなく、ただ単純に力でへし曲げられたようだ。


床に小さな小瓶が転がっている以外には、中には何もない。


「トラ、どうかな?」

「アキームの匂いは残ってるニャ。でもそれだけニャ。」


「そうか…。」


小瓶それ自体はどこにでもある品物。その材質も形状も特に気になるところはない。

中身が残っていない以上、ここで入手できる情報はもうないようだ。


「ありがとう。助かったよ。」


セロ達は衛兵に礼を言って、施設を後にした。



「ナナ、俺達をローバルの所に飛ばしてもらえるかな?」


人気のない場所に移動したセロ達は、ナナに通信して転移を頼む。




大森林南西部、牙狼族の集落。


「セロ、アラン。ボクちょっと怖いのニャ…。」


トラは周囲を取り囲む牙狼達に脅えているようだ。


「トラは俺から離れるなよ?」


アランはトラを守るように立ち、セロはローバルと話している。



「フォボスのねぐらを調べたいんだ。案内してくれ。」


すでに双方の力の差はお互いが理解している。

ローバルは黙って首を縦に振った。


「フォボスが寝床にしていた場所はここから遠くない。山頂の洞穴だ、案内を付けよう。」

「ありがとう。」



セロ達は牙狼の背に体を預け、フォボスがかつて暮らしていたとされる洞穴へ移動を開始した。




「あら?眼が潰されちゃったみたいね。」


派手に装飾された赤い法衣を着た人物がぼそりと呟いた。


赤い法衣が示す地位は枢機卿。

教会では教皇の次とされる地位だ。


枢機卿の顔は翡翠の仮面で隠されているが、その声は魔女のものだ。



ここはエッフェ・バルテ北区画にある木造の廃屋だ。

外見も内装も、廃屋となってから長い年月が経過していることが一目で分かる。


そんなボロボロの建物なのだが、ただ一つだけ。

当時は倉庫として使用されていたと思われる敷地内にある離れの建物。

それはボロボロなのは外見だけで中はしっかりとした造りになっていた。


内装も、高級な品物で整えられており、辺境伯の屋敷と比較しても見劣りしない程度の部屋だった。


「セロ君は行動が早いですね。もう監視に気付いて対処してくるとは。」


こちらは魔女の対面に座っているヴォロスの声だ。


「どうせ予想通りなのでしょう?」

「クフフ。そうなのですがここからは予想等はありませんよ。配置も指示も済ませたことですし、あとは彼ら次第です。」



コン、コン。


ノックの音だ。


「グリンガル枢機卿猊下、お食事をお持ちいたしました。」

「どうぞ。」


部屋に入ってきたのは、この廃屋の近くにある教会の司教だった。

二人の修道女が食事を載せたワゴンを二つ保持している。

修道女も司教の後に続いて入室する。


二人分の食事をテーブルに配膳した修道女は、無言で頭を下げ、後ろに下がる。


「枢機卿猊下。私達に何かお手伝いできることはございませんか?」


司教は目の前の枢機卿に尋ねる。


「教会の意向としては、王国の南北における侵略戦に関与するつもりはありません。負傷者の治療は行いますけどね。」


人間同士の戦争には関与しない。司教もそれを理解しており、黙して頷く。


「ですがこの辺境の苦難は森の魔獣の襲撃によるもの。私はこれに対処するためにここに来ました。」


枢機卿は、それでも苦難を打ち払うのはあくまで人の手によってなさねばならないと司教に伝える。


「襲撃の原因は牙狼族の秘宝、月光石が奪われたことに端を発しています。その解決を王国の勇者に依頼しました。」


「それでは魔獣達は…?」


「もう大規模な襲撃はないでしょう。牙狼の群れは森の奥へと去ってます。」


司教は思わず安堵の息をついた。


負傷者の治療の継続と、枢機卿の来訪は極秘である為、周囲に悟らせないように振舞うこと。

枢機卿はこれらを司教に指示する。


「私は奪われた月光石が相応しい持ち主に返却されるのを見届けるまで滞在するつもりです。」



枢機卿の言葉に、自らのなすべきことを理解した司教は、お辞儀をして退室していった。




一方その頃、セロ達は山頂の洞穴に辿り着いていた。


「ありがとう。ここでいいよ。」


帰りはナナに転移門を開けてもらうつもりだ。

牙狼を開放して、早速洞穴の調査に入る。


「まぁ、予想はしてたけど何もないね。」


セロの言葉通り、洞穴には何も残されてはいない。


「セロ、牙狼の匂いが残っているニャ。これがフォボスの匂いニャのか?」

「たぶんね。トラ、記憶できるかい?」


「ばっちりニャ。もう憶えたニャ。」


有能な追跡猫であるトラの能力にセロは満足そうに微笑んだ。


「よし、一度戻って皆で昼食をとろうか。」


二人と一匹はエッフェ・バルテへと帰還していった。




大森林某所。



ズズゥン…!


森の樹木が大きく揺れ、無数の鳥たちが飛び去って行く。


その足元には、覆面を被った二人の人物がいた。


一人は獅子、もう一人は虎。


「それなりにはなったか。」

「はぁ、はぁ。…ありがとう、獣殿。」


虎の男は樹木に背をあずけて息を切らせている。

対して獅子の男はまだまだ余裕があるようだ。


「礼には及ばん。汝の実力では勇者と相対した場合、敗北は必至であるからな。」


獅子の男が虎の男に稽古をつけていたようだった。


獅子の男と虎の男の間に、身体能力においてはさほどの差はない。

大きく違うのは戦闘技術だ。技量の差、ということになる。


「かつて王都で勇者に狩られた鬼も、汝と同程度の能力を有していた。」


獅子の男は語り始める。


「レベルでは大きく上回っていたはずが、妹の付与術の前に鬼の保有魔術は効果を発揮せず、勇者はその技量で鬼を圧倒した。」


「つまり私の発熱も、封じられる可能性があるということですね?」

「そうだ。そして身体能力では勇者を上回る汝も、王都の鬼同様、勇者の技量に敗北することとなろう。」


やがて虎の男の呼吸が落ち着いたものへと変化していく。


「僅かな期間での訓練だ。これで勇者を凌駕することはできん。これは汝の逃亡を助ける為のもの。」


「逃げても…構わないのですか?」


獅子の男は、虎の男の疑問に頷いた。


「構わん。奴らに月光石を奪われなければよいのだ。数日もてばいいとも聞いている。逃げることもよい攪乱となろう。」



そんな二人の男の前に転移門が出現する。


「獣殿、それとアキーム、お披露目の時間よ?」


黒いローブに着替えた魔女だった。


「おお、もうそんな時間でしたか、魔女殿。」


心なしか、獅子の男に歓喜の感情が見える。


「獣殿、月光石を出してもらってもいいかしら?」

「勿論。魔女殿の要請とあらば。」


獅子の男は、自身の所有する収納の魔道具から白い水晶を取り出して、それを魔女に渡す。

魔女は上機嫌に頷くと、月光石を獅子の男の手に戻し、二人に出発を促した。


「行きましょうか。」


獅子の男と虎の男は魔女の後ろを追従して転移門に入っていく。



転移した先は、辺境伯の屋敷の中庭。


魔女はその来訪を告げるかのように軽い威圧を放った。


「えっと…、ボーヤ達は、と。あっちね。」


三人は食堂へ向けて歩き始める。



「え…?」


セロは何かを感じ取って、怪訝な表情を見せている。


「お昼もうみゃかったニャ~。」

「やはり食事はお肉がいっぱいなのがいいな!」


ナナとミケとクルルはぽっこりと膨らんだお腹をさすっているようだ。


「だらしないですよ?親分。」

「そこのアホ二匹、食べすぎニャ。」


寝転がっているナナとミケとクルルは、ロッテとトラから注意されている。


「目の前に出されたご馳走を平らげニャいのはアホのすることニャ!」

「そうニャ!そうニャ!」


ミケとクルルは寝転がったまま反論している。


「あたしは食べ過ぎてデブになったら贅肉付与を習得するんだ。ロッテにあたしの贅肉付与ダイエットだ。だから大丈夫だ。」

「絶対にやめて下さい!!!!」



丁度、帰還したセロ達も一緒に皆で朝食を取り終えたところのようだった。



ガタッ!


セロは魔女の気配を察知して立ち上がる。


セロの動きと食堂の扉が開け放たれたのはほぼ同時。



「こんにちは、ボーヤ。お昼時に失礼するわね?」


魔女の後ろには獅子の覆面と虎の覆面。


当然、ナナも魔女の来訪に気付いているのだが…。


「ぬぬっ!あたしはマゾを倒さなくちゃいけないのにお腹いっぱいで動けないぞ!?」

「ウチも森の魔女から逃げニャくちゃいけニャいのにお腹いっぱいで動けニャい!?」

「やばいニャ!やばいニャ!!」


ナナ達はお腹ぽっこりで寝転がったまま叫んでいる。


「おのれマゾ!あたしが動けない時にやってくるなんてずるいんだぞ!?」

「森の魔女は大怪獣ニャ上に頭もいいのニャ!きっと作戦ニャ!!」

「策士ニャ!策士ニャ!」


ナナ達はさらに叫ぶ。


「ミケ!クルル!あたしの後ろに隠れるんだ!!」

「でもニャニャ、隠れたくてもお腹が重いのニャ!?」

「重いニャ!重いニャ!!」


いい加減面倒になったロッテとジルとエトワールがそんなナナ達を抱き上げて部屋の隅へと移動する。



「セロ、後ろの二人、フォボスとアキームみたいニャ。匂いが一緒ニャ。」


トラの報告を受けて頷くセロ。


「あら?ばれちゃったわね?顔を隠さなくてもよかったかしら?」


魔女は二人の正体をあっさりと肯定する。


「これからボーヤ達と秘宝を奪い合う二人を紹介しようと思ってきたのだけど、必要なかった?」


「そんなことはないよ。これで俺の推測が正しかったことが立証されたんだから。」


「あとは秘宝の確認ね。獣殿、お願いできるかしら?」


そう言って、魔女は横にどいて代わりに獅子の男が前に出る。


「少年、これが牙狼族の秘宝、月光石だ。」


獅子の男はその懐から白い水晶を取り出した。



「ボーヤ、鑑定してもいいわよ?」

「…ナナ。頼めるかい?」


ロッテは抱っこしているナナと一緒に石の近くへと移動する。


「月光石。魔道具だな?貯蔵って効果がついてるぞ。魔力を溜めるんだ。」


「正解よ。お嬢ちゃん。だけどこっそり月光石に道標を付与するのは駄目よ?消去しちゃいますからね?」


ナナはこっそりそんなことをしていたらしい。

あっさりと魔女に見破られ、道標を消去されてしまった。


「ぬぬぬっ。やっぱりマゾはあたしの天敵に違いない!だから倒す!!」

「プッ…。それならまずはそのぽっこりしたお腹をどうにかしてからね?」


「またあたしを笑った!!またプッってやった!!!」

「だって可笑しいんだもの。そんなお腹で大騒ぎしてるお嬢ちゃんがね。」


「うぬぬぬ!!!今すぐ贅肉付与を会得してロッテに押し付けてお腹ぽっこりにするからちょっと待つんだ!!」

「やめて!!やめて下さい、親分!!」


魔女は騒ぐナナを放置してセロに向き直る。


「ボーヤ、今日の用事は勝利条件を確認してもらうこと。それだけだからこれで退散するわね?」


獅子の男は月光石を懐に戻す。


「お嬢ちゃんも、あんまり大騒ぎするとお腹痛くなっちゃうわよ?」


三人は魔女の生み出した転移門で何処かに去って行った。





転移した魔女達三人は巨大な湖の畔にいた。


大森林北西部、レアガルド湖だ。



「それじゃあ、獣殿。あとはお願いね。」

「お任せを。魔女殿。」


魔女は二人を残し、また別の場所に転移して行った。

その姿を見届けた後、虎の男は獅子の男に問いかけていた。


「獣殿、いくつか聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか。」


獅子の男は頷いた。


「何故私だったのでしょう?もっと優れた者を鬼とすれば、大きな力となったのではありませんか?」


「それは否定しない。だが汝が危機に陥った場合に救済の道を示すこと。これは決めていたことだ。」


虎の男、アキームは獅子の男の返答を理解できなかった。


「何故…、どんな理由があって私に救いを…?」


獅子の男はその覆面を取り、アキームに素顔を晒す。


「!!?」


「アキームよ。汝にはこの顔、この毛色に覚えがあろう?それが答えだ。」



「あ…、ああ…。」


鬼となったアキームの両頬に大粒の涙が流れていた。

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