045 開始
「という訳なんす。海都やばいっす。」
セロはニャンニャン達の家を直しながら、海都の護衛から通信を受けていた。
「それなら転移枠越しに攻撃するか。俺とナナはここから移動せずにナナに敵の船を氷漬けにしてもらおう。」
ルールを順守した対処を決定したセロはナナを呼ぶ。
「ナナ、こっち来て。変身して凍らせて貰いたい場所があるんだ。」
「まかせろ、兄ちゃん!」
ナナは着ぐるみの下にはしっかりと勝負パンツを着用している。
「へん~~~~し~~~~~~ん!!!!」
いつもの変身ポーズを決めると、白銀の猫に変身した。
仲間達は皆、考えもしなかった遠距離攻撃を実践しようとしている兄妹に唖然としている。
「え?本当に?可能なんですか?」
「やってみないとわからないけどね。」
半信半疑なロッテに軽い返事を返すセロ。
「ニャ~~~!!!暴れん坊のニャニャが変身したニャ~~~~!!!」
色が変わっただけでもニャンニャン達には驚きのようだった。
「ニャんかキラキラしてるのニャ…。」
大騒ぎするニャンニャン達の中で、ナナの周囲のダイヤモンドダストを見つめるミケは大人しかった。
「綺麗ニャ…。」
ミケは変身後のナナに見惚れていた。
セロは枠を操作して連邦の船団上空からの俯瞰映像に切り替える。
「ナナ、この辺からこの辺まで凍らせて船を通れないようにしよう。」
すぐにセロの依頼を実行するナナ。
「氷~、ビーーーーーーム!!!!」
ナナはセロが示した範囲をよく狙って、凍結光線を放った。
「ビームニャ~~~~!!!!」
またニャンニャン達が大歓声をあげ大騒ぎしている。
もはやジルも宥めすかすことを諦めているようだ。
映像の向こうでは海が氷漬けになっている。
「成功しちゃいましたね…。」
「こんなことが可能だなんて…。」
そんなロッテとルーシアの発言に、この場にいるはずのない者が返答する。
「本当ね。さすがにこれは予想外だわ。」
おそらく転移で移動してきたのだろう。広場の中央に魔女がいた。
今度はエッフェ・バルテの時と違い、周囲に強烈な威圧を放っている。
「ニャ~~~!!森の魔女ニャ~~~!!!殺されるニャ~~~!!!」
ニャンニャン達は蜘蛛の子を散らすように広場の外へと逃げて行った。
仲間達は魔女から放たれる威圧に、広場の隅で動けなくなっているようだ。
「くそっ!足が動かねぇ!!」
「アラン君!駄目です!堪えて下さい!」
それでもセロとナナの元に行こうとするアランを、ルーシアが懸命に押さえている。
広場の中央ではセロとナナが魔女と向かい合っている。
「マゾ!!てめぇに会う為に地獄の底から這いあがってきたぜ!!!」
白い猫がビシッと魔女を指差して決めセリフをかましている。
「言ってることは意味不明だし、むしろこちらが会いに来たんだけど。その恰好、可愛いわね?」
「駄目だよ、ナナ。また怖い人が来ちゃうよ?」
「うぐっ…。」
セロに抱っこされた白猫は大人しくなった。
「あらあら。あんまり怖がっちゃうとヴォロスが悲しむわよ?」
魔女は映像に向かって手をかざし、何らかの魔術を行使する。
何か、見えない波のようなものが海上の氷へと飛来した。
直後、全ての氷が液化していき、ただの海水に戻っていく。
「ボーヤ、ルールの追加よ。貴方とナナの二人、禁止区域との移動だけではなく干渉も禁じます。」
「そいつは困ったな。干渉ってどこまでを指すの?」
「通信や小規模な物資の受け渡し程度であれば黙認するわ。」
情報と物資までは許可。生物の移動や魔術干渉等、情報や物資以外のやり取りは不許可だそうだ。
「ルールとして設定していなかったことはこちらの落ち度。だから今回のペナルティはないわ。」
喋り終えた魔女に対し、今度はセロが質問する。
「魔女さん、そういうことなら、そちらがどこまで干渉するのかもはっきりさせて欲しいかな。」
魔女はセロの問いかけを予想していたのか、余裕のある笑みを浮かべている。
「あら。ボーヤは具体的にはどういったことを確認したいのかしら?」
「まず、ゲームが成立しなくなるからってことで、魔女さんは秘宝を手にしないという約束なんだけど。」
「気になるの?」
「うん、これって魔女さんが所有者の護衛につけばルールに抵触せずに俺らが勝利できなくなると思うんだ。」
セロの言葉が予想外だったのか、魔女は思わず吹き出している。
「そういえばそうね。ヴォロスは考えていたのかしら?私は気にも留めてなかったんだけど。」
「ルールは魔女さんの俺らへの攻撃を禁じていない。ゲームだって言うのなら俺らにも勝ち目がないと困るよ。」
「確かにその通りね。ちょっと待って、ゲームマスターにルールを確認しましょう。」
魔女は転移門を開いて、そこから白衣の仮面が顔を出す。
ナナは即座にセロの後ろに隠れた。
「ねぇ、ヴォロス。ボーヤがルールの不備について言いたいことがあるそうよ?」
「そうでしょうねぇ。最初の取り決めだとセロ君達は絶対に勝てませんからね。」
「あら?確信犯?」
「時間稼ぎが目的ですから。これで数日、と思っていたのですが数時間しか経っていませんね。所詮は言葉遊びということでしょうか?」
「先生、ちゃんとしたゲームにしてくれるんだよね?」
「おや?セロ君は勝てないゲームだと分かった上で参加していたように思うのですが。」
「流石に干渉禁止の追加ルールを設定されちゃうと、真面目にゲームに勝たないといけなくなりそうだから。」
「セロ君もまたゲームを引き延ばすつもりだったようですね。それほど魔女殿の参戦は脅威に感じているということでしょうか。」
「そりゃそうだよ。勝てないもの。」
「それでいて、こうやって他の地域を手助けするつもりだったのですね。私もこんな魔術は想定していませんでしたよ。」
ヴォロスはロッテの窓枠を眺めて肩をすくめる。
「静寂殿と同じく、娘さんも実用的かつ強力な恩恵をお持ちのようだ。」
「そうなんだ。公爵の恩恵とか気にしてなかったけど、そんなに凄いのかい?先生。」
「クフフ。使い方次第ではありますが、国崩しすら可能としてしまう程ですよ。」
「え…?」
会話を聞いていたロッテがここで驚愕の表情を浮かべる。
「静寂殿に怒られるわよ?勝手にばらしちゃって。」
「おっと。魔女殿、静寂殿には内緒でお願いしますよ。」
「さぁて、どうしようかしらね?」
余裕をもって笑い合うヴォロスと魔女に、セロは確認の為の問いかけを行う。
「先生、これからは真面目にやるってことでいいのかな?」
「勿論そのつもりです。お互いにね。今、この時をもってゲームスタートとし、正式なルールをお伝えしましょう。」
まず、セロ達に適用されるルール。
セロとナナが辺境から移動せず、情報や物資のやり取り以外の干渉を行わない。
辺境とはエッフェ・バルテ及び大森林全域を指す。物資は食糧等の消耗物資に限られる。
「先生、物資の定義が曖昧な気がするけど、どのあたりまで大丈夫なの?」
「そうですね、ナナさんがお母さんの作った食事を食べたくなったりとか、商会店舗への商品補充等になりますか。」
「あぁ、それは助かるかも。」
「生物の移動や、魔道具等は禁止です。ナナさんの爆弾を物資として提供するなどもなしでお願いします。」
「付与術のかかった物品は魔術干渉になるってことだね。わかったよ、先生。」
エッフェ・バルテを犠牲にすれば転移が許されていたこれまでのルールと違い、これからは完全禁止となっていた。
「ルール違反時のペナルティはこれまで同様、魔女殿が攻撃を開始することとなります。」
次に、ヴォロス達が順守するルール。
魔女とヴォロスは秘宝を所持しない。これはこれまで通り。さらに、ゲームを成立させる為いくつか条件が追加された。
これ以降、ヴォロスは手勢に指示を出す以外の干渉を行わない。
これ以降、魔女は転移による移動補助以外の干渉を行わない。
勝利条件は、以前と同様なのだが、相応しい持ち主を現神狼、ローバルに限定されることとなった。
「現在の持ち主が相応しいなどと言われてはかないませんしね。はっきりさせることにします。」
参加特典。
帝国、連邦からの侵略者及びアルカンシエル関係者はビフレスト商会を攻撃対象としない。
期間は王国包囲侵略戦の終了時までとする。
以前は魔女の攻撃不参加もうたわれていたが、そちらはルールに抵触するので特典というわけではなくなってしまったのだ。
最後に、勝利報酬。
「これまで通り、辺境の平穏です。と言いたいところですが、ルールの不備のお詫びとしまして報酬を追加しようと思います。」
「それはどんな報酬なのか聞いてもいいの?」
「勿論です。セロ君にはやる気になってもらいたいですからね。」
それは、今回の王国包囲侵略戦における各地の戦場にて、魔女の戦闘不参加を確約する。というものだった。
「対象となる地域もお知らせしましょう。勝利後の話ですから当然辺境はありません。」
対象地域は、現在連邦海軍に攻撃されている海都メルク・リアス。
帝国軍の侵攻が予定されているアムドシア要塞及び城塞都市ラムドウル。
現在迷宮の魔物が暴れている迷宮都市ラビュリントス。
カールレオン公爵が潜伏している衛星都市ロマリア。
素早くゲームに勝利することができれば、魔女の参戦を考慮せずに各地に救援に向かえる。ということになる。
「本当は南西の大砂海ブリーズランドから魔人族の戦力も参加する予定だったのですが、間に合わなかったのでこちらは除外ですね。」
「え?そうなの?魔人族とか完全に予想外だったんだけど。先生って本当にいろいろな所に顔がきくんだね。」
「いやいや、各地の同志達の協力があればこそですよ。アルカンシエルにはブリーズランドの魔人族の方も参加しておりますし。」
セロはまるで友人と話しているかのように気安くヴォロスと会話している。
「先生、その各地の人達って変革を求める人達だったよね?」
「そうですね。中でも最高幹部会は変革を誓った高位の付与術士達で構成されていますね。」
ヴォロスもまた、機嫌よくペラペラと喋っている。
「ヴォロス、いいの?そんなに喋っちゃって。」
「おっと。セロ君とのお喋りが楽しくてついうっかり余計なことまで言ってしまいましたね。」
「どうせ、ついうっかり、なんかじゃないんでしょ?先生。」
「クフフフ。そうですね。私達の事を多少知ってもらいたかった、という気持ちでしょうか。」
「付与術士ってことを知らせたかったのなら、将来変革を希望するようなことがあればナナもスカウトされたりするのかな?」
「その時はすぐに飛んできますよ。ナナさんはまだ幼いのでセロ君も一緒にお願いしますね?最高幹部の席を用意しますから。」
「ナナが先生を怖がらなくなったら考えるよ。」
「これは手厳しいですね。子供に好かれるのは私のようなタイプには存外、難しいものです。」
セロとヴォロスは談笑しているようで情報を探り合っていた。
「ヴォロス?ボーヤとの会話が楽しいのは分かるけど、あんまり話してるといろいろばれちゃうわよ?」
「それもそうですね。伝えることは伝えましたから、私はそろそろお暇しましょうかね。」
ヴォロスは振り返り、転移門へと歩き出す。
「それではまた会いましょう。」
そう言って門をくぐって行った。
「新しいルールのおかげでお嬢ちゃんと遊べなくなっちゃったから、また次の機会にね。」
魔女もまた、それだけをナナに伝えて何処かへ転移して行った。
広場の端、その木陰から一連の様子を眺めていたミケ。
森の魔女は大森林に生きる者にとっては絶対的な力の象徴だった。
その魔女に真っ向から立ち向かうニャンニャンがいたことに、素直に驚いていた。
事実、魔女が現れた瞬間に皆は逃走。
広場に立っているのはセロとナナの二人だけだったからだ。
実際は魔女に対して決めセリフを言っただけのナナだったのだが、それでもミケにはできないことをやってのけた。
どうやらそんなナナにシビれてあこがれてしまったらしい。
「暴れん坊のニャニャはかっこいいニャ…。」
ミケは変身状態を解いて赤い猫に戻ったナナを、瞳を輝かせて見つめていた。
やがて、逃走していたニャンニャン達も戻ってきて、集落の復旧作業が再開された。
セロは通信で海都に連絡をとっている。
「てなわけでこっちから援護ができなくなっちゃったんだ。だから無理せず、やばそうなら2号店に避難して。」
さらに、海都の護衛に対応策を伝える。
「付け焼刃になっちゃうけど多少の効果はあるはずだから、敵が上陸する前に済ませておくんだ。」
そして、通信を終えたセロは深い溜息をついた。
「セロさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、ロッテ。ごめん、気を遣わせちゃったかな?ロッテの方こそ大丈夫?」
「父のことですね?気にならないと言うと嘘になっちゃいますが、それよりもです。何か気に病んでいることがあるなら話して下さい。」
ロッテは明らかに気落ちした様子のセロが心配だった。
「うん、そうだね。いくつか解決しなきゃならない問題が浮上したからかな?詳しいことは夕食の後にでも皆に相談するよ。」
そう言って、セロは復旧作業に戻って行く。
ロッテはそんなセロの背中を心配そうに見送っていた。
「ウチもニャニャの友達にニャりたいのニャ。」
広場ではナナがミケとクルルに詰め寄られていたところだった。
「むぅ、ミケとクルルもまた、あたしの魅力に虜にされてしまった訳か。」
「そうニャ。ウチはニャニャが大好きニャ。」
「なら、ミケとクルルには真実を話さねばなるまい!ちょっと待ってるんだ。」
ナナは木陰に移動し、収納から学院の制服を出して着替えると、誤認付与を解除して戻ってくる。
「ニャ?また新しい人間ニャ?」
「今度は赤毛の子供ニャ。」
ミケとクルルはナナを見て、さっきまでいた赤い猫と同一存在であるとは気付いていないようだった。
赤毛の子供がミケとクルルの前に立ち、問いかけた。
「お前達はあたしが人間でも友達になりたいのか?」
「「ニャニャ!?」」
暴れん坊のニャニャの正体。それが人間であると知ったミケとクルルは驚愕のあまり言葉を失っていた。
「ということはジルも人間ニャのか?」
その様子を眺めていたトラは、隣にいたジルに質問する。
「はい、そうなります。トラさんは私が怖いですか?」
トラは頭をふりふりと動かして、ジルにその意思を伝える。
「ジルはいい奴ニャ。だから怖くニャい。」
「よかった。せっかく仲良くなれたんだから、これからも仲良くしたいです。」
ナナの方も変化があった。我に返ったミケとクルルがナナに抱き着いていたのだ。
「人間でも好きニャ!!」
「むぅ。やっぱりあたしはモテモテだったみたいだ。しょうがない奴らだぜ。」
そんなことを言いながらも、ナナは嬉しそうだった。
作業もある程度進み、生活可能な程度には復旧できた。
すでに日が沈み、あたりは暗くなっている。
「帰って夕食にしよう。」
セロの言葉に、皆が転移門に入り伯爵家へ。
しれっとミケとクルルとトラもついてきている。
伯爵には、朝食と昼食の提供を頼んで、夕食は転移枠を使って王都のビフレスト酒場から取り寄せることとなった。
料理が出来上がるのを待つ間に皆は入浴を済ませ、部屋に戻り転移枠を出す。
転移枠の向こうは商会の中庭だ。
そこにテーブルが設置され、沢山の料理が並べられている。
「じゃあお料理は9人分と猫さんが3匹分でいいのね?」
「うん、それでお願い。」
「食べ終わったら食器を回収するからもう一度連絡してね?」
セロはマーサと通信で会話しているようだ。
ナナは早く食べたいらしく、ロッテの服を引っ張っている。
その周りには涎を垂らしたミケとクルル。
「あれが美味ニャるものニャ?」
「美味しそうニャ!美味しそうニャ!」
「落ち着くのニャ。セロはボクらの分も頼んでくれたニャ。慌てニャくても食べられるニャ。」
トラはミケとクルルを落ち着けようとするが、効果はないようだ。
「ご馳走を前にしてニャにもしニャいのはアホのすることニャ!」
「そうニャ!そうニャ!」
「もう好きにすればいいニャ…。」
ロッテの服を引っ張るのがナナとミケとクルルに増えていた。
そして、ナナ以外の女性陣の手によって食事が運ばれ、夕食となった。
「うみゃい!!」
「これを毎日食べていたニャんて、ニャニャが羨ましいニャ。」
商会の食事はニャンニャン達の口に合ったようだ。
ナイフとフォークを器用に使い、肉を切り分けて幸せそうに食べている。
「がるる~!」
ナナはそのままかぶりついて口の周りをソースだらけにしていた。
食事も終わり、ナナとミケとクルルは満足そうに寝息を立てていたので寝室へ。
残ったメンバー明日からの活動内容を話し合うことになった。
「まず、最優先で取り組む課題が一つ。」
これをどうにかしないと確実に勝てない。そう言って、セロは最初の問題を提示する。
「先生と魔女は不干渉のルールに、これ以降、と言った。これはつまり、以前何らかの干渉を行い、それが有効であるということだ。」
「それって…。」
「例えば、こちらからアルカンシエルのメンバーを探知することはできないが、逆にこちらは確実に監視されていること。」
先刻の魔女の登場のタイミングは、それを裏付けるに十分であるとセロは判断した。
これは早急に対策をとらないと駄目だろう。この状態で転移で逃げ回られたら追跡が無駄になる。
「ナナの道標付与と同じか類似効果を持った付与術を俺達自身か所有物にかけられているかもしれない。明日は全員鑑定だね。」
他にも、何らかの工作がすでに完了している可能性を考え、その痕跡を探す必要もある。
「人員をロッテとジルの魔術を使用して捜索するチームとそれを護衛するチームと外に出て調査するチームに分けようと思う。」
捜索チームはロッテ、ジル、エトワール、ジェイ、メイサ。
護衛チームはルーシア、ミケ、クルル、トラ。
調査チームはセロ、アラン。
ナナは捜索チームと一緒にいて、全チームのサポートを行う。
「各員の要望があれば変更するけど、皆はこの振り分けでどうかな?」
特に異論はないようだった。
「じゃあ早速、調査案をいくつか出すね。」
1)バルドを拉致して締め上げる。アルカンシエルと無関係だった時は謝る。
2)ローバルの所に行って牙狼の喋れる奴を拉致して匂いを追わせる。
3)ダイモスを拉致して締め上げる。一時期フォボスと合流していた筈だから、あわよくば脅して匂いを追わせる。
「俺からはとりあえずこんなところかな。」
「拉致ばっかりです…。」
セロはロッテのコメントに苦笑い。
「密かに匂い追跡はいけそうな気がしてるんだけどどうかな?」
ここでトラが手を上げた。発言希望のようだ。
「嗅覚ニャらニャンニャンも優れているのニャ。特にボクの鼻は牙狼にだって負けニャい。」
「そうなの?ならトラは調査チームの方に参加してくれるかい?」
「任せて欲しいニャ。」
調査案に、伯爵邸にあるアキームの匂いのついた品を借り受けること。
それと、獅子の男が襲撃した牢獄に匂いの残っている品がないか捜索すること。
この二点を追加する。
「次は捜索チームの捜索プランだけど、俺からの提案は一つだけ。」
まず、枠に人間、人狼、牙狼、虹鬼、これらの対象に探知をかけ光点を表示させる。
次に映像を拡大して光っていない対象を捜索する。
捜索対象地としては、エッフェ・バルテ、耳長族の村、を重点的に。
「光らない奴は探知を阻害してるってことだから、そいつはアルカンシエル関係者の可能性がある不審人物ということになる。」
「なるほど…、確かにそうですね。」
この方法なら広範囲の捜索ができる。ロッテは気合を入れ直していた。
「ナナの鑑定でも同様の確認ができるから、ナナが暇そうにしてたらやらせてあげてね。」
「はい、わかりました。」
話し合いも終わり、皆がそれぞれの部屋へと戻る最中、セロはロッテに声をかける。
「ロッテ、ちょっといいかな?」
部屋に残ったのがセロとロッテの二人になったところで、セロは確認したかったことを口にした。
「公爵の恩恵のことが聞きたいんだ。」
「はい、聞かれると思っていました。ですが、父が仮面の人が語ったような強力な恩恵を宿しているなんて私は知りませんでした。」
「鑑定結果とかは?」
「父は公爵です。父に鑑定を要求できるのは王族くらいしかいません。」
公爵は南部の開拓地の出身で、軽い強化の付与術が使用できる程度だと言っていたそうだ。
「ということは、真の恩恵は家族にすら秘密にしなくちゃいけない程のものってことかなぁ。」
セロは以前耳にしたロッテの母親の殺害時の状況を思い出していた。
(あの奇妙な事件を説明できるような恩恵だったりするのかな…?)
しかしその思いを口にすることはしない。
「ゴタゴタが片付いたらロマリアってとこに行って公爵を問い質そうか。ロッテも一発殴りたいとか思ってるだろ?」
「う~ん。本当の事を知りたいとは願っています。殴るかどうかはそれ次第でしょうか。」
「そうか。俺はちゃんとロッテを手伝うからね。」
「ありがとうございます、セロさん。」
二人もまた、それぞれの部屋へと戻って行った。




