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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
06 辺境
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File No.02 とある研究者の足跡

さて、今日も人類を救済する為の戦いを続けよう。



動物実験は今後も継続していく。

そしてさらに、魔物と呼ばれる生物。これらも同様だ。


しかし、いまだに進化を促す成分の特定には至らない。

人が人のままで絶望を克服する。そんなことが本当に可能なのか?


いや、弱気になるな。

私が諦めてしまったら、今を生きる人々はどうなる。


幸いにも、私の思想に同意し、研究を手伝ってくれる理解者も現れたんだ。

まだまだ、これからだ。


私は彼を助手とし、さらなる実験に着手する。

彼の名はフェイス。頭も切れ、実によく働いてくれる。

私に万が一のことがあっても、彼なら私の跡を継いでくれることだろう。




研究資料02。虹素による生態変化:虹眼



上位種となった害獣に、さらなる濃虹素の投与を続ける。

すると、まれにだが、瞳の色を変化させる個体が現れたのだ。


何故だかそれらの個体は全て私ではなくフェイスが担当していた実験素体からのみ発生している。


理由は不明。私には両者の違いがまったく分からない。



そもそも虹眼とは何なのか。フェイスの見解を尋ねてみる。


「あぁ、虹眼ですね。特に虹素と相性のよい個体に発生しますね。」


さらりと言ってのけた。

私は驚愕しながらも説明を求めた。


「ある程度の投与量は必要ですが、そこから虹眼が発現するかは完全に個体差ですね。才能と言い換えてもいい。」


さらに、浄化されているか否かは問わないらしい。


「虹化以前に虹眼になった個体はほぼ確実に上位種へと転じますよ。」


次々と私が想像だにしなかった成果を当然のことのように口にするフェイス。



私の素体に虹眼を宿す個体が現れないのは何故かとも問いかける。


「虹素と投与量だけに着目してはいけません。それによって生じる結果をきちんと分析してみるとよいかと。」


何の話だ?


体内に蓄積された虹素量以外に実験体に差異などないだろうに。


「さらに言うと、その分析結果に合わせた細かい調整を施さなくては安定しませんよ?」


個体別の調整?

安定だと?私の実験素体は不安定だと言うことか?


それは何だ?何の分析結果からの見解なのだ?



師としての矜持か、くだらないプライドが邪魔をしてか、私はその何かを問い質すことが出来なかった。



この男は一体何なのだろう?


これが天才というものなのか?


これまでは自分こそがそうだと信じてきた。



が、フェイスの前では私など少し背伸びした凡人でしかないのか?


それを認めなくては私の研究は前進しないのかも知れない。




研究資料03。虹素による生態変化:封印指定種



助手であったフェイスは、虹獣の進化を促すことに関して、驚くべき結果を出すことに成功していた。


ひたすら浄化した虹素を投与し続け、変態させずにその体内に虹素を蓄積させるというところまでは私と同様。

虹素に対する親和性を持たせる実験は私も実施している。


なのになぜか、フェイスの実験個体には、私の実験結果と異なる特徴を見せていた。


まれに出現する、瞳の色を変化させる個体。これを汚染させることで、害獣ではなく、いきなり虹獣へと進化させる。


これまで、虹化が成功しなかった種も、この方法であれば進化する種がいるようだ。


そしてその虹獣に、大量の虹素を投与するのだが、フェイスは投与する虹素にも何か手を加えているようだった。

もしや変態前に投与する浄化虹素にも何か仕掛けがあるのか?



そうして生み出された多くの上位種の中で、さらなる上位種へと転じた種が現れた。


それは、とてつもない能力を発揮してしまい、封印せざるをえなくなったのだ。


その種もまた、私ではなくフェイスの手によって誕生した。



【蠅の超越種】



あまりにも高い能力を発揮したことから、超越種と呼称することにした。


これまで、通常種を害獣。上位種を虹獣と一括りだった虹化体の種族名が変化した。

おそらく、いままでは個体名として表記されていたものが種族名となっている。


種族名を邪神蠅。称号に蠅の魔王とある。個体名はない。

名付ける必要があるということか?


大きさは通常の蠅をかなり大きくした程度。体長約15センチメートル。



後日、確認したことなのだが、この蠅は大変に危険な能力を有していた。


この蠅は、生物であればどんな物もひたすら喰らい、喰った分だけ同サイズの邪神蠅を産み出し、凄まじい勢いで数を増やす。

そして共食いをすれば、喰った分だけ自身の体を大きくする。



ある日、邪神蠅が口から黒い粒を無数に吐き出している姿を観測した。


それは極小サイズの邪神蠅の群れだった。


吐き出した分だけ自分のサイズを小さくしていく邪神蠅はいつしか自分も極小サイズとなる。

そしてケージ内の通気口を通じて他の実験体のケージへと移動していた。


私が異変に気付いた時にはすでに、他の実験体の体内は蛆虫だらけになっていた。


すぐさま通気口の末端を完全に密閉する。

末端には特殊な微細フィルターが取り付けてある。

極小サイズとはいえ通り抜けることはできないはずだが用心の為だ。


全ての実験体を喰らいつくした黒い霧は最も大きなケージへと移動して、餌がないためか、今度は共食いを行う。


同胞を喰らえば今度は喰った分だけ自身のサイズを大きくしていく。


最終的に残ったのは体長10メートルを超える邪神蠅。



仮にこれが解き放たれればどうなる?恐ろしい想像をしてしまう。

そしてその想像が現実の物となれば、世界は終わるのではないか、そんな予感が確信に変わる。


邪神蠅の鑑定結果がレベル153だったのだ。


どうやらこいつは、喰えば喰う程に自身のレベルを上昇させていくらしい。

しかも、特殊な個体を喰らえばその能力を奪い取ることすらある。



とんでもない怪物を産み出してしまった。

私はこれをどうやって処分するか、思考を巡らせるが打開策が何も浮かばない。




しかし、フェイスはこれをいとも簡単に解決してしまった。


方法はわからない。ある日突然、邪神蠅は屍となっていたのだ。


当然私はフェイスに詰め寄ったのだが、はぐらかされてしまう。

実験体に自壊因子を仕込むのは当然だ。と言い放つのだ。


どうやって?そんな方法は私も知らない。


私はこのフェイスという男が、何か得体の知れぬモノに見えていた。


思えば、この時からだったか。

私はいつか、この男に全てを奪われる。そんな予感を感じたのは。




研究資料04。フェイスについての考察


フェイスは私の助手を辞め、自身のラボを所有するに至った。

それはまるで、私から吸収するべき知識は全て奪い終えた。そう言わんばかりだった。



数年が経過し、私とフェイスの差は、もはや埋めることなどできぬほど大きいものとなっていた。


この男は一体何者なのだ?

僅かな期間で私の研究結果を簡単に上回る成果をあげ、なおかつ、現在は私の手の届かない高みに至ろうとすらしている。


研究は一時凍結だ。


まずはフェイス自身の調査を行う。


慎重に、幾重にも防壁を配置し、さらに私の痕跡は隠蔽する。

フェイスに気取られぬよう、デルフィナスのデータバンクにアクセスし、奴の生まれから経歴、全てを洗い出す。


が、フェイスなどという人物はどこにも存在しない。


ここまでは予想通りだ。



次は奴の遺伝子情報から調査を行う。まずは鑑定結果だ。



ヴォロジアス・ハースニーラ(人間)


レベル 18


恩恵 学術:化学

   学術:遺伝

   学術:医学

   学術:生物



ここまでだ。遺伝子の鑑定では技能や効果は記述されない。


しかし、4つもの恩恵を宿していたとは。さすがに驚きを禁じ得ない。道理で。とも納得した。

今の世で恩恵を所持、しかも4つ。破格の能力だ。


惜しい。本当に惜しい。この力が救済の為に振るわれるのであればどんなによかったか。

私の提唱する変革計画に協力したい。その言葉が嘘でなければ。心底残念に思う。



しかし、私は変革を諦めることなどできない。変われなければ救われないのだ。


次はヴォロジアス・ハースニーラという人物を精査する。

様々な条件での人物調査の中に奇妙な結果をはじき出したものがあった。



その結果は驚くべきものだった。


とある条件に合致するその人物は、デルフィナスの住民管理記録において、ありえない足跡を残していた。



160年前。リヒター・サンシェルという人物が医学界にて輝かしい実績をあげる。

この人物、巧妙に隠されているのか、デルフィナスのどの医学校にも在籍の記録がない。


教育機関以外で医術を修めた闇医者?なにか釈然としない。20数年程医者として活動し、

その後の記録はない。隠居でもしていたのか?最後の記録は96年前に失踪し行方不明。となっている。



90年前、学会に彗星の如く現れた生物学者、ミハイル・ジャスター博士。当時の年齢28歳。

10年程、デルフィナス生物研究所において、複製体の研究に従事するも退職。


その4年後、デルフィナスを出奔し、足取りは掴めない。これも失踪、と捉えることができる。



71年前、ヴォロジアス・ハースニーラの住民登録が確認された。当時の年齢24歳。

おかしい。フェイスと名乗る男の外見は、どう見ても30前後にしか見えない。


同姓同名の別人。それがありえないのは遺伝子情報が証明している。

この人物、22年間のデルフィナス生物研究所、遺伝子研究部門勤務を経て、46歳、心不全により他界。


それならあの、フェイスと名乗る男は一体何なのだ?



44年前、サリア・クラレンスという女性が大手薬品企業の開発部門に就職。


前職は百貨店の受付嬢?おかしくないか?職歴に違和感がありすぎる。

この女性の勤務していた薬品企業は現在も存続している。ここの開発部門は相当な知識と技術を要求されるはずだ。


サリア女史は企業に多大な業績を残すが、20年前に未成年による暴行殺人の被害者となり、他界。



そして15年前、ヴォロジアス・ハースニーラの住民登録。年齢24歳。


何?どうなっている?遺伝子情報は、過去に心不全で死亡した同名の人物と完全に一致する。

10年間の防衛軍兵器開発部門勤務を経て、虹素研究機関アルカンシエルへと転属。


こいつが現在のフェイスだ。



どうなっている?


71年前のヴォロジアスと15年前のヴォロジアスは完全に同一人物。

リヒター、ミハイル、サリアに関しては完全に別人なのだが、これらの人物が検索結果に浮上したのには理由がある。



指紋や声紋、遺伝子情報等、すべてが別人である証拠となっているのだが、魔力紋が完全に一致する。全員だ。

どんなカラクリかはわからないが、これ以上は本人を問い質すしかない。



私はフェイスに対し、説得と詰問を試みることにした。


もしもこれで駄目ならば…。

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