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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
06 辺境
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035 無法地帯

サミュール連邦首都、サムエルアイリスの郊外にある、とある廃屋に見慣れない者達が住み着いた。


都市に流れる噂の一つに、そんなものがあった。



その者とは、常にフードを被ったままの男にクリーム色の髪の美女。

ヨハンとティータのことだった。


ノルンを狙う敵対者の影を追って、ティータは世界中を飛び回っていた。


ヨハンはノルンの護衛兼、世話係として片時も主人から離れることはない。

ティータは調査活動と二人の待つ拠点とをひたすら往復する毎日。


ある程度調べた後、次の場所へと移動する。

ティータの移動に合わせて、各地を転々とする三人だったのだが…。



「さっぱりだな。な~んにもわからない。ということが分かった。」


廃屋に帰還したティータはばっさりと言い切った。


「ティータ様、情報収集でしたら私が出向きましょうか?」

「その方がよかったかもな。私には諜報活動とかまったく適正がないようだ。脅すくらいしか思いつかん。」


どこかの筋肉男のような発言をするティータに、ヨハンが提案する。


「もしくはそちらに適正のある味方を増やすか、でしょうか?」


ヨハンはそう言いながら、とある一団を思い出していた。


(元気にやってるかな?あいつら。)


「心当たりでもあるのか?まさかあの面白小娘達か?」

「えぇ、あいつらは諜報向きの恩恵を宿した仲間も複数いるみたいですから。」


「ノルンの調子次第だが、可能なら諜報は得意な奴に任せたいところだ。」


うまくいかない情報収集に、ティータは嫌気がさしているようだった。



「で、ヨハン、ノルンの様子はどんな感じだ?」

「日常会話には支障ない様子ですので、もう少しですね。」


「ほぅ、思ったより順調だな。」

「一応、他者を虹化させないことと、虹素を生成しないことについては了解をもらいました。」



その時、廃屋の奥の部屋から、金髪に黄緑眼の少女が顔を出す。


「ティータ。ヨハン。おなかすいたから何か食べたい。」


ヨハンが言うように、流暢に話せるまでになったノルンは空腹を訴える。


「すぐに買ってきます。ティータ様、ノルン様をお願いいたします。」

「あぁ、わかった。ヨハン、私には酒も頼む。」


一礼して、ヨハンは市街へと出発した。



石造りの路地を抜けて大通りに出ると、ちらほらと住民の姿が目に入る。


乾燥した空気と寒冷な気候のせいか、肌を露出している者は皆無だ。

獣や魔物の毛皮を素材とした防寒具に、上から外套を羽織る者、頭にも布を巻いている者等様々だ。


似たような恰好のはずのフードを被ったヨハンに対し、通行人達は怪訝な視線を向ける。


「なぁ、あれってまさか噂の…?」

「眼を合わすな。絡んできたチンピラを軽々と吹っ飛ばしたらしいぞ?」

「怖い怖い…。」


ヨハンには全て聞こえている。

小さく溜息を吐くと、ヨハンは目的の食糧を買いに商店へと歩き始めた。



しばらくして、通りを歩くヨハンの向かい側から、一台の豪華な馬車が走ってくる。

ヨハンは通りの端に移動して馬車をやり過ごす。


馬車には、一人の高貴な身なりの黒髪の男が乗っている。

年齢は30代半ばくらいか。男は真剣な表情で考え込んでいる。


その向かい側には術士風の恰好の女。といっても身に着けているものは誰が見ても分かる程の高価なものだ。

どこかの国の宮廷魔導士と言っても疑われることはないだろう。

こちらはまだ20代半ばくらいだろうか、男よりはだいぶ若い。


男女はヨハンに気付くでもなく、思案顔のままその横を通り過ぎて行った。



そしてその馬車の中では、


「いよいよ闘争による変革の始まりだ。」


そう呟いた思案顔の男。名を、ザミエル・ラスタバン。

現在向かっている連邦評議会において議長を務める者だ。


「本当に楽しみです。これが世界に如何なる変革をもたらすのか。」


議長の対面に座った女術士が返答する。



この二人は、男女共に変革機関アルカンシエルに属する者達でもあった。


「帝国でも準備は整っております。そして、今回の計画では私が全権を委任されました。計画に支障はありません。」


女術士は議長に成果を伝える。


「相変わらず実に見事な手腕だ。脱帽だよ。」


おどけて見せる議長に、女術士は言葉でもって返答する。


「静寂殿の合図次第でいつでも動ける状態です。議長の提案も通りました。全て順調ですよ。」


上機嫌な二人を乗せて、馬車はサムエルアイリスの通りをひた走る。



サミュール連邦の国土は広大だ。しかしその過酷な環境から、人口はさほど多くはない。

国土面積でいえば王国の十倍以上だが、人口だと二倍がいいところだろう。


元々は多数の小国がひしめき合っていたところに、自国のみでの自給自足が難しい国同士で集まり、議会が発足。

これが現在の連邦評議会となり、いつしか、多数の小国は連合国家となった。


内政はそれぞれの国で行い、外交や大きな問題は評議会が決定を下す。

それがサミュール連邦の国家としての大まかな方針だった。



首都の中央部にある大きな建物に豪華な馬車が到着する。

ラスタバン議長は馬車を降りて、ゆったりとした足取りで建物に入っていく。


会議室に入り、席に着くラスタバン議長。

女術士はその隣に着席する。


そのまま会議の内容を思案しているうちに、席が埋まっていく。



「全員揃ったようですね。始めましょうか。我らが連邦を変革する為の会議を。」


変革、というのは議長の口癖だ。何かあると頻繁に口にする。

議員達もそれを理解し、また、それに慣れていた。


「話し合うことは一つです。いかにして王国の肥沃な大地を切り取るか。現在、それを可能とする転機が訪れています。」


議長の言葉に会議室が騒がしくなる。


「連邦は王国と国境を隔てていない。南海から海都方面を切り取るとのことでしたかな?」

「海都との貿易を行っている南の港、レイシャダに戦力を集結させるという前回の提案はこういうことですか。」

「私はてっきり、活発化するフィッシャーマンズ連合への対策かと思っていましたよ。」


議員達から様々な声が飛び出す中、議長が口を開く。


「それに関して、皆に伝えねばならない情報がある。」


王国にて新たな勇者の誕生。

そして、フィッシャーマンズ連合と南海の主シロガミが勇者によって討伐されたこと。

同時にシロガミの襲撃によって海都の護衛戦力が壊滅状態にあること。


「以上の情報から分かる通り、現在海都メルク・リアスは無防備に近い状態だ。そしてさらに。」


議長は横に座った女術士に目配せする。

それに頷いた女術士は頷き、立ち上がり皆に一礼してから発言する。


「初めまして、連邦の重鎮の方々。私は白銀帝国外交戦略筆頭顧問のバルディアと申します。」


「な、何だと!?どうして帝国に人間がここに!?」

「議長!これは一体どういうことだ!!」


騒然となる会議室に、バルディアの声が響く。


「落ち着いて下さい。私はラスタバン議長の命で帝国に潜り込んだスパイです。皆さんの味方ですよ。」


「彼女は情報収集の為に密偵として帝国に潜んでいたのだが優秀すぎてね。筆頭顧問なんて肩書まで手に入れてしまったようなんだ。」


議長もバルディアを援護する。

議員達も納得したのか、会議室に静寂が戻ってきた。


「私の権限で、連邦の南方からの奇襲と同時に帝国はアムドシア要塞前に布陣します。」


そしてバルディアの一言で再度、会議室は騒がしくなる。


「布陣だけでも一定の効果は見込めますが、実際に城塞都市を攻めようと考えています。帝国にも飴は必要でしょうから。」


「なるほど…。これならば王国の切り取りも成功するやもしれん!」


頷く議員に対して、バルディアはさらに続けて述べる。


「さらに、今回の王国攻めに関してのみ。となりますが、連邦の陸上戦力の帝国領一時通行許可を取り付けてまいりました。」


コーンウォール沿いに帝国領を通り抜け、王国へと至るルート。

ここの通行を黙認する。というものだった。


「それならば連邦戦力による挟撃も可能ではないか!すばらしい!」


「皆に朗報がもう一つあるぞ?王国西部の辺境都市エッフェ・バルテは現在ウートガルドの魔獣達の攻撃を受けている。」


今度は議長からの追加情報だ。


「おおっ!それはまさに朗報!ということは王国は三方向から攻められるということになる!」

「ここまで聞くと成功以外の結果が想像できなくなりますな…。」


ここで笑顔の議長が皆に重要なことだと注意事項を伝える。


「実はね、王国にも内通者を忍ばせているんだ。彼が活動している場所は攻撃の対象外として欲しい。」


迷宮都市ラビュリントスとその衛星都市ロマリアは侵略の対象外。

議員達は快くそれを了承した。


「一応、城塞都市も対象外でお願いします。帝国と連邦が争うのは王国に利するだけだと思いますので。」


バルディアの提案もまた、議員達は快諾した。



「最後に、唯一の懸念事項を伝えたい。超人的な力を持つ王国の勇者に関してだ。」


議長の言葉に、少々浮かれていた議員達も真剣な顔になる。


「基本的にはなるべく敵対しない方向で。どうせ勝てないからね。三方向の攻めに対して勇者は一人だ。無理はしない方向でいこう。」


「もしもその勇者が立ちふさがった時にはどう対処しますかな?」

「攻撃はしない。時間を稼げば他が攻められるんだ、いなくなるのを待とう。連邦は海と陸から攻めるんだ。どちらかでも十分だ。」


バルディアは追加で提案する。


「もし可能であれば、民の入植も同時に行うべきかと具申いたします。おそらく勇者は、非戦闘員には攻撃を仕掛けません。」

「民の存在を有効活用する訳だね?ならいっそのこと、亡命を装っての長期的な乗っ取りも一つの手かもしれないな?」


ラスタバン議長がその提案にすかさず返答する。

そうして、開戦に向けての細かい調整の話し合いへと移行し、会議は続く。


ラスタバン議長とバルディアは顔を見合わせるとお互いに笑顔で頷いていた。




その頃、王国北方、城塞都市ラムドウル。


サブナクは都市の四方を守る騎士団の情報収集に精を出していた。

現在はそのうちの一つ、赤銅騎士団が溜まり場にしている東区の酒場、マリマ酒家にて一般客を装い酒を飲んでいた。


「そもそも、見た目から奇抜すぎると思っていたんだが、こいつらこれで騎士団なのか?」


赤銅騎士達の恰好と、その騒がしい様子を眺めつつ小声で呟くサブナク。



「フカシてんじゃね~よタコォ!」

「バラチョンよ~!」

「行くとこまで行くぜ…。」

「よっくゆ~よ、ビビコイてたじゃんかよ~。」


会話の内容も意味不明ならその恰好も同様だった。

まず、皆が来ているのは騎士装束ではなく作業着だ。しかも各所に色々な文字が書いてある。


【天下無敵】【赤銅小僧】


(なんだ?赤銅騎士団じゃないのか?小僧ってなんなんだ?団体名の変更か?)


団員達の会話から、着ている作業着が特攻服という名称であることを聞き取る。

困惑しながらも騎士団のメンバーを見渡すサブナク。


(そもそもこいつらの髪型はなんなんだ!?頭になんか乗っけてるみたいだぞ?流行ってるのか?それとも頭部を保護する為!?)


頭髪を頭上でモコモコにした集団を見て、続けてサブナクは思い悩む。



そして酒場の外から、音が聞こえる。

どうやら一頭の馬が走ってきているようだ。


(街中を馬が駆けてくるのに皆、驚いた様子もない。どうなっている?これが日常風景とでも?)


やってきたのは深紅の馬着を装着した馬に跨る特攻服姿の金髪の男。男?


髪型こそ普通の金髪なのだが、まるで女性のような顔つきの男だった。


「お?マチャ君のポアだ!」

「マチャ君が帰ってきたんだ!」

「こりゃイケイケか~!?」

「やっちまうしかねぇべ!?」


サブナクは店の隅でひっそりと頭痛に耐える。


(だからこいつらは何を言っている!?ちゃんと喋れ!!くそっ!!)


とりあえず、後から来た金髪の男が赤銅騎士団、いや、赤銅小僧?なのか?

とにかくこいつらの団長であるマチャルであることは間違いないだろう。


「マチャ君、やっぱり、リューニャんトコと?」


ここでマチャルの顔つきが凶悪なものに変化する。



「ゆるさね~よ青銅幽霊あいつら、この街で暴走ハシらせちゃおけね~んだよ。」





同時刻、西区の路地裏にロッテ達サブナク確保チームが到着していた。


「本当にサブナクを尾行しなくてよかったんで?」

「はい、ジルの探知でその方を探せるのは確認済ですので、通常業務に戻って下さい。」

「わかりました。ロッテさんも気を付けて。」


ナナの転移で商会員を王都に送り届けて、一行は路地裏を出た。



そして大通りに出て、目の前に広がる光景に、ロッテ、ジル、アランの三名はサブナクと同様の衝撃を受けていた。


おかしな恰好をした集団同士が馬を降りて睨み合っている。


「あの…なんなんでしょうか?この人達…。」


ジルの質問に答えたのはナナだった。


「こいつらまさか…。伝説の種族、ヤンキーだ!!きっとそうだ!!リーゼントだ!特攻服だ!!」


ナナは大騒ぎしているが、睨み合う集団同士は気付いていない。


片方の集団は、特攻服に、【天下無敵】【赤銅小僧】。

そしてもう片方の服には、【狂乱麗舞】【青銅幽霊】。


「マリマ酒家行く前に、ちっと運動してこ~ぜぇ!」


好戦的な赤銅小僧に対して、青銅幽霊は若干上から目線の対応だ。


「コォ~~ら…な~にイキがってんだよ?」


「あんたらイジメにきたんだよ。」


ニヤリと笑う赤銅小僧のヤンキー。


青銅幽霊うちの看板にケンカ売ろ~ってのか?」

「聞いたかよ?カンバンだってよ?腹イテ~よコイツらぁ…なぁ~?」


味方を振り返った赤銅小僧の一人は余裕の態度で仲間に話しかける。


「よっくいるんだ~、カンバンだとかノーガキでど~にかなると思ってんバカタレがよ…。」


振り返って隙を見せている赤銅小僧の頭部に、金属の棒で一撃を加える青銅幽霊の男。


「ナメっだらね~ぞ、小僧がぁ!!」


この一撃が戦闘開始の合図となったようだ。


「カンバンだぁ?笑わせんじゃね~ぞ!ダボォ!!」


あっという間に大乱闘が始まっていた。



「わ、わわっ。どうしましょう?止めないと…。」


突然の騒ぎにロッテもパニックになっているようだ。


「大丈夫だって、放っといていいよ。武器もなしに殴り合っている奴がほとんどだ。死にはしない。」


余裕の態度を見せるアランは続けてロッテに解説する。


「城塞都市には各区に治安維持の騎士団がいるんだ。そのうち鎮圧されるって。」


その騎士団が目の前で乱闘しているとは夢にも思っていないようだ。


「おお~!いいぞ!!いいパンチだ!!」


ナナは観戦に夢中だ。


「ナナちゃん、めっ!」


ジルはそんなナナを叱っているようだ。



やがて遠くから馬に乗った一人のヤンキーが近づいて来る。


フレアーラインの鞍に豹柄の馬着。青銅幽霊、総長の愛馬であるヌンジャだ。

それに跨っているのは左頬に大きな傷のあるごつい女だった。


「やけにハデに踊ってんじゃね~か?マチャルんトコのパシリがよ~。」

「リュ…リューニャ!?」


「こなクソヤローがぁ!」


襲い掛かる赤銅小僧の一人はカウンターの頭突き一発で地に伏した。


「誰が…あたいにケンカ売るって…?」


リューニャはそれを冷たい眼で見下ろす。


「上等だぁ!ぶっ殺す!!」


赤銅小僧のもう一人がリューニャに殴りかかる。


「上等だけじゃよぉ~!!」


馬に跨ったままのリューニャの拳が赤銅小僧の腹に刺さる。


「ケンカにゃ~…」


そのまま頭をわしづかみにして、


「勝てね~んだよ!!」


顔面に蹴りを入れるリューニャ。


二発で沈む赤銅小僧。



「デカ姉ちゃんつえぇ!!」


一瞬の出来事に驚くナナ。

そしてナナ達の元に馬を降りたリューニャが歩いて来る。


「てめぇも赤銅小僧か…!?」


睨みつけながら問いかけてくる。


「あたしは…。」


ナナは名乗り返そうとするが、同時にさらに一人のヤンキーがやってきた。

深紅の馬着のポアに跨るマチャルだ。


「マ…マチャル!?」


「リューニャァ…テメーのうのうとこの街で暴走ハシってんじゃね~よ…。」

「ケッ、テメーこそ未練がましく、死んじまった奴の馬に乗りやがって…。」


睨み合う二人。



「「てめぇら絶対ェ……許さねえっ!!」」



二人がお互いに睨み合っている隙をついて、ナナを抱っこして南に走るロッテ。


「こら!ロッテのバカちん!まだ親分が名乗ってないんだぞ!?」

「名乗らなくていいんです!!まったく、城塞都市がこんな無法地帯になっていたなんて…。」


南区への門をくぐり一安心する一行。


「ここまでくれば…。」


そう呟いたロッテの目前に、また別のヤンキーがやってくる。


それは、日章カラーの馬具を装着した馬、インポルスに跨るヤンキー。

黄銅騎士団長のタコマルだった。その背には、【冥府魔道】【黄銅】と記されている。


「…疼くんだよぅ……。」


ロッテの真横にやってきたタコマルが呟く。


「ひぃっ!」


思わず驚きの声を上げるロッテ。そして反射的にナナの口を押える。


「もごっ!もごもごっ!」(なんだこいつは!?頭の上におにぎりをのせているぞ!?)


これまでのヤンキーの髪型と比較しても、一際見事な鶏冠だった。



「接いだハズのマチャルやつに折られた鼻がよ…奴を殺しちまえってよぉ~~!!」


恐ろしい形相になるタコマルの顔を直視したロッテは、


「きゃあああぁぁぁぁぁああぁ!!!!」


ナナを抱っこしたまま悲鳴をあげて中央方面へと走り去っていった。



そのまま北区へと辿り着いたロッテは周囲を見渡し、ヤンキーの姿がないことに安堵する。


街を歩いているのはごく普通の一般人ばかりだった。


「ちょっと休憩しましょう…。」


疲れていたロッテは、その辺の屋台で飲み物を注文すると、近くの椅子に腰を下ろした。


「なぁ、おっちゃん。なんでこっちにはヤンキーいないんだ?」


ナナは自然に屋台のおっさんに話しかけていた。

ロッテもそれは気になっていたので、店主の返答を待っている。


「君たち、よそ者かい?驚いたろう?あのヤンキー集団、あれでも元は騎士なんだよ?」



東区の元赤銅騎士団の赤銅小僧。頭のマチャル。

西区の元青銅騎士団の青銅幽霊ブルースペクター。頭のリューニャ。

南区の元黄銅騎士団の黄銅。頭のタコマル。


この三人は元から仲が悪く、抗争ばかり繰り返していたのだが、それが段々エスカレートしていって現在の姿になったのだという。



「北区にも騎士団がいたのではないのですか?」

「ああ、いた、白銅騎士団ってのがいたんだがね…。」


北区の白銅騎士団もまた、もれなくヤンキー化したそうだ。

皆が特攻服に【喧嘩上等】【一撃打倒】【白銅天】の文字を背負って暴れていた。

だが現在は一人を除いて全滅状態にあるらしい。


「白銅天はそのメンバーの一人、ペロニアスという男に潰されちゃったんだよ。」


「一人で騎士団を一つ壊滅させる?危険人物じゃないですか!?」


ロッテは驚いて思わず立ち上がる。


「もし、上着の背に【乳神】の文字を背負う男を見たら隠れるんだ。奴はこの街で、誰も勝てないくらいに強いんだ。」

「にゅうじん?隠れる?逃げたらダメなのか?」


「ペロニアスの馬は地上最強の馬、とまで呼ばれるルシファーズ・範馬だ。逃げきれないよ。」


そう言いながら、何を見たのか、店主の顔色がどんどん青白いものへと変化していく。

思わず背後を振り返る一行。



いつのまにそこにいたのか、ごつい馬に乗った浅黒い肌のロングコートを着込んだ男が立っていた。

装着している馬着には大きく描かれた【範馬】の文字。


「くっくっ…くっ……、ルシファーズ・範馬だよ……?」


緋い瞳に、白の長髪が全て逆立っている。おかげで異様に頭がデカい。


「くっくっく……、コンバンハ……。」

「ペ、ペロニアスさん!?」


驚愕する屋台の店主。


「ペロ?こいつがにゅうじんなのか?」


ペロニアスは自分を知らないそぶりを見せるナナ達を無視して一人で語り始める。


「あぁ…今夜は殺したいような月だナ………すがすがしいよ……?月も風もとても嬉しそ~だ……。」


「今は昼だぞ!?おまえは何を言ってるんだ!!」


「お、お嬢ちゃん!そんなこと言ったらダメだよ!!」


店主は懸命にナナを止めようとしているが、ペロニアスはナナに興味を持ったようだ。


ナナの眼の前に二つの女性用下着を出すと、


「さて、あなたの落としたパンツはこの金のパンツですか?それともこちらの銀のパンツ?」


「なっ!いつのまにあたしのパンツを!!?」


ナナは自分のスカートの中を覗き込む。

雪だるまパンツは普通に穿いていたままだ。


「なぁ~~~んて……ネッ♪」


金銀パンツをナナの頭に被せるペロニアス。


「オレのパンツもあげるよ♪今夜はいい夜だから。」

「まだ昼だぞ?」


「オレはたくさん持ってるから……。」


そう言ってペロニアスは去って行った。その背には【乳神】の文字。



「ただの変態男じゃないですか…。」


呟くロッテはこめかみを押さえながら店主に問いかける。


「このような事態に黒鋼騎士団は一体何をしているのですか?」


店主は首を横に振る。


「あそこのゆとり騎士はもう駄目だ。たしかに高い能力を持つ者も多いんだが、基本的に自分の興味を引く事柄にしか関わらない。」

「え?ゆとり?」


黒鋼騎士団に採用されたゆとり訓練の概要と、それに育てられたゆとり騎士の実態について説明を受ける。


「優秀な騎士もいるそうなんだが逆にそいつらが不憫だ。ゆとり騎士と一括りにされて不当な評価を受ける者もいるらしい。」


「そんな…。もしこんな時にまた帝国が攻めてきたら…。」


ロッテとジル、そしてアランは心配そうにしている。

しかしナナは難しい話になったのでいつものように寝息を立てていた。



やがて日が暮れて、目覚めたナナが、パンツを被ったままの状態でロッテの服を引っ張る。


「ロッテ、親分お腹減ったから帰ろう?」


「そういえば、もう夕方ですね。セロさん達もエッフェ・バルテに到着している頃でしょうか?」


ロッテは通信でセロに連絡を取る。


「どうだった?無事サブナクを確保できた?」


「!!!?」


そんなセロの問いかけに、やるべきことを完全に忘れていたことが発覚したのだった。



一度、セロの元に転移して皆と合流する。


魔導車はエッフェ・バルテの正門前に止まっていた。


「中に入るのは明日以降にするよ。ジェイとメイサも今晩はうちに泊まっていくといい。」


アキームを衛兵に引き渡し、事情を伝え、エトワールが厳罰に処することを確約させた上で、

残ったメンバーは皆、こっそりと王都へと転移していった。


「貴様ら!すぐに縄を解け!私を誰だと思っている!!お前たち!罪人になりたいのか!!」



エッフェ・バルテの空にアキームの叫びが響き渡っていた。





そしてビフレスト商会にて、食事を終え、皆が就寝した頃。


中庭のベンチで泣きじゃくるロッテがいた。


「ごめんなさい、ごめんなさい。せっかくセロさんが私に任せて下さったのに…。」

「いいって。そんなことがあったのなら仕方ないよ。また明日頑張ろう?」

「ロッテ、泣くな。親分がついているぞ?」


セロとナナは懸命にロッテを慰める。


「南海での戦いでも、私は全然お役に立てませんでした…。こんなんじゃ…。」

「そんなことはないよ。俺はいつだってロッテを頼りにしている。」


「うぅ~。兄ちゃん、どうしたらロッテは元気になるんだ?」


ナナはセロに問いかける。


「ロッテは自信を無くしちゃってるんじゃないかな?少し失敗しちゃったから落ち込んでるんだと思う。」

「少しじゃありません…。大きな失敗です…。やっぱり私にはお二人を支える力なんて…。」

「力?筋肉か?あたしが筋肉を付与できるようなればロッテは元気になるのか?」


ロッテは力なく首を振る。


「支える力か…。」


セロはその言葉について考える。

ロッテはそんなセロを泣き顔のまま見つめている。


「今のままでもロッテは十分俺達の支えになってくれているんだけど、それでロッテが元気になるのなら…。」

「どうしたんだ?兄ちゃん。何か思いついたのか?」


セロはナナに向き直ると、笑顔で頷く。


「ナナ、ロッテにはまだ発現していない才能があるって言ってただろ?」

「うん。お勉強の恩恵がたぶん隠れてる。」

「ナナの恩恵付与は、厳密には恩恵の移動だ。これまではそうだった。」


ロッテとナナはきょとんとしてセロの顔を見ている。


「ナナには何もない所から恩恵を付与することが出来るかも知れない。ロッテの隠れた恩恵を発現させることだって。」


「え?親分にそんな力が?」


ロッテはナナを見つめる。


「今はまだ出来なくても、出来るかもってナナが意識すればそれは可能になるかもしれない。ナナは付与に関しては天才だ。」

「ロッテがそれで元気になるなら、あたしやるぞ!!」


「そんな!私が不甲斐ないせいで親分に無理をさせる訳にはいきません!」


「こうなると逆に俺が不甲斐なさを感じるよ。普段はロッテからいっぱい元気をもらってるくせに肝心な時に役に立たない。」

「そんなことはありません!私はいつもセロさんに助けてもらってばかりです!」


「俺もちゃんとロッテに助けてもらっているよ。」


セロはにっこりと微笑み、ロッテの手を握る。


「あぅ…。」


ロッテは赤くなって言葉が出なくなっているようだ。


「ロッテ、親分がロッテを助けてやるからな?だから元気になれ。」


「親分…、親分…。」



ナナをぎゅっと抱きしめてまたも泣き出すロッテだった。

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