004 付与術士
「先生、いるかい?」
セロはナナを連れてエルンストを訪ねていた。
中層の中程、入口の看板には書庫と記されており、エルンストはここの管理人という立場だった。
部屋には大き目の本棚が四つ、そこには様々な書物が納められていたが、あくまでも国が閲覧の許可を出した物に限定されていた為、ジャンルは偏っていた。
外界に興味を抱かせるような書物はひとつもない。
魔術や生産に関する専門書、基本的な学問書等がほとんど。
それに部屋の広さの割に本は少なく、本棚の逆側には木箱やロープ、金具がぎっしり入った麻袋等の資材が大量に積まれている。
書庫というよりは、倉庫と言った方がしっくりくる。
エルンストはその本棚に、手に持った薬学の書物を収納していたところだった。
「おや、セロがここに来るのは珍しいですね。」
「今日は妹を連れてきたんだ。」
エルンストはセロの後ろに隠れたナナを見るなり、驚いた表情を見せる。
「おやおや、これは可愛らしいお客様です。」
ナナはエルンストを警戒してセロにしがみ付いていた。
「甘い飲み物などはいかがですか?」
ナナは果実水を振舞われ、それを口にした途端に眼を黄色にする。
「兄ちゃん、この水は実にうまい。」
そう言って、くぴくぴとひたすら飲んでいる。
セロはそんなナナを見て、あれ?なんか大人しいな。そんな考えがよぎる。
普段ならうまいものを口にしたら興奮して騒ぎそうなもんだが。
(これはナナと先生の会話って難しいのかなぁ。)
そんなことを考えていた。
「おかわりをどうぞ。」
エルンストは、ナナが空にしたカップに果実水を継ぎ足す。
「先生ありがとう。」
お礼の言葉のみを口にして、両手でカップを握り夢中で飲んでいる。
「すみません。」
セロは頬を掻きながらエルンストに謝罪した。
「今日来たのは…。」
そう切り出して、自身の考えをいくつかエルンストにぶつけていた。
地上の集落が襲撃された件、そしてそれが何者かが意図的に起こしたことではないかと疑っている件。
そしてそのまま続けて、最も聞きたかった質問を口にする。
「鬼について教えて下さい。」
セロに試すような視線を向けて、エスンストは質問を返す。
「鬼の関与を疑っているのですか?」
「あくまで可能性ですが、襲撃が人為的な災害だと仮定すると、ビフレストに敵対する動機としてはそれくらいかな、と。」
「勝てる保証もなく弓は引かない、ということですか。」
「あくまで用心のために知っておこうってくらいですよ。」
「まぁ、たしかに狩猟者向けの座学では人害については語りましたが鬼については名前だけ。でしたからね。」
それでは、とエルンストは語り始めた。
鬼とは害獣の一種であり、人間が虹素に汚染され変異した者の中で特別な個体をそう呼ぶ。
人間が害獣に転じると、ほとんどは理知を失い狂暴化。基本的な特徴は害獣と同様。
ただし、その形態は個体差が大きく、元になった人間の素養や恩恵が影響していると推測されている。
これらは人害と呼ばれ、体躯は小さくとも大型種と同等の脅威と見なされている。
かなり巣に接近しなくては出会うことはできない。
そして本題である鬼、これは元になった人間が、特に虹素と親和性が高い者であった場合に生まれる。
理性を持ち、人害をさらに上回る強さ。強力な個体になると会話もできるし、変異前の記憶をそのまま持ち越すケースもある。
知性の高い者程、強力な個体であると言える。
人害と違い、鬼は見た目が変異前とほとんど変わらない。
頭部に角が生えるくらいで、それも高位の鬼になると伸縮が可能で、それを隠して人に擬態することも可能。
「12年前に出現した鬼が最後に観測された者となっています。当時はこの個体に集落が二つ滅ぼされました。」
「オルガンさんが討伐したんだっけ?」
エルンストはよくできました。と言いたげな表情で続けた。
「ええ、多くの警備兵や狩猟者が犠牲となり、彼以外の者では対処できなかった。」
そして、真剣な顔つきになる。
「セロ、もし鬼に会うことがあったなら、迷わずに逃亡を選択することです。」
ナナの勉強のために本を何冊か貸してもらい、エルンストの部屋を後にした。
エルンストは兄妹の背を見送りながら、聞かれないようにひっそりと呟く。
「虹眼所有者が汚染された場合は確実に鬼となる。おっと、言い忘れてしまいました。これは内緒にしておきましょうかねぇ。」
ナナを自宅に送り、セロはそのまま下層のオルガンの元へ向かう。
下層の通行許可はセロのみなので、一緒に来たがったナナは渋々帰宅。
「兄ちゃん、本読んで待ってるから早く帰ってくるんだぞ。」
「あぁ、なるべく急ぐよ。」
セロはそう言いながらも、長い話になることを予想していた。
襲撃に関しての報告もするつもりだったが、それとは別に、セロには考えていることがあった。
現在の指針となっている西の大絶壁を踏破する未知のルートを発見すること。これもまた現実的ではない。
可能性はあるかもしれないが、不確実な選択は避けたかった。
川を遡る。これもない。可能であるのなら川から外界の人間がやってこないのはおかしい。
やはり選ぶのは確実に存在する道、最下層の先にある真の楽園。未来はここにしかない。
これが家族にも伝えていない、セロの本当の考えだった。
たしかにオルガンに今の自分は勝てない。それをさらに上回る王など討伐できる訳がない。というのが家族の考え。
しかし、仮にオルガンを味方につけることができたらどうだ?
ナナの付与で強くなった自分とオルガンの二人で同時に王を襲う。
これなら…。
そんな考えを巡らせている間に最下層に到着してしまったようだ。
セロは大広間に設置されたソファーに腰を下ろす武人を見つめる。
まずはオルガンの人となりを確実に見極めなくては。
同時に先の交渉の為の牽制くらいはしておきたいな。
あぁ、会話とか交渉とかの恩恵があればなぁ。
まだ再会したばかりなのに随分とナナのペースに染められたものだ。
いろんな考えを巡らせつつ、セロは微かな笑みをつくり、オルガンと相対した。
「どうした?セロ。おまえがここにくるなんて珍しいな。」
「オルガンさん、地上の襲撃について考えてることがあって、答え合わせがしたいんだ。」
オルガンはしばし考えるそぶりを見せる。
「なんとなく想像はつくが、俺は答えなんて持ってねぇぞ。」
「それでも真実に近づける気がしたんだ。」
「…話してみろ。」
セロはエルンストにはぼかして伝えた部分も、オルガンには隠さず話した。
おそらくビフレスト周辺のどこかの集落が裏切っていること。
集落の襲撃は、ビフレストを攻める本番の予行演習。
何らかの手段で害獣にここを襲わせるつもりではないか。
そして、その裏切りの集落の背後にいるのは、高い知性を持った鬼ではないかと予想していること。
「正解かもしくは、それに近いかもしれねぇ。」
「集落が裏切ったのではなく、鬼が発生して牛耳られている可能性もあるかも。」
「かもな。警備兵から報告にあがらねぇってことは、表面上は従順にしてるってことだしな。」
そうなると、鬼は会話も可能で、さらに高い知性を有していることが確定する。
オルガンも同様のことを思ったのか、鬼についての所見を述べる。
「その予想が真実であれば、おそらくその鬼は俺よりも強い。」
この発言にはセロも驚いた。
「まさか。オルガンさんより強いなんて。」
「別に驚くことじゃねぇ。俺が昔ぶっ殺した鬼は片言しか喋れない下級鬼だった。それでも俺は死にかけた。」
セロはオルガンが語る鬼の強さに、しばし絶句していた。
「どちらのケースでも、集落が一つ以上、敵に回っている、と考えてよさそうだ。」
「オルガンさん、対策は?俺は何をすればいい?」
家族のいるビフレストの防衛はセロにとっても重要だ。
「何もしねぇ。」
対してオルガンの返答は素っ気無いものだった。
「俺らにできることは害獣から皆を守ることくらいだ。おそらくその鬼は、王が出張らない限りは無理だな。」
「…。」
「あとな、楽園の情報を持つ者が裏切っている可能性もあるぞ。」
オルガンは続けて自身の考察を語る。
「王の強さなんてビフレストの人間は誰も知らねぇ。昔、半殺しにされた俺くらいだ。」
そこで言葉を切ったオルガンに代わり、セロが続ける。
「なのに害獣の誘引工作なんて小細工を弄するってことは、おそらく敵は、王の強さを知る者ってことかな?」
「たぶんな。高位の鬼であっても、王とまともにやりあうことはできないって知ってやがるのさ。」
セロにとって無視できない情報がいくつもあった。
「ちょっと確認したい。オルガンさん、いいかい?」
「あん?何がだ?」
オルガンは立ち上がると、酒瓶を持って来て、またソファーに腰を下ろした。
「飲みながらでもいいだろう。で、何が気になる?」
「まずは、王が高位の鬼よりも強いって話。俺は高位の鬼の強さとか想像できないけど。」
「下位の鬼で俺と同等。レベル70~80程度くらいを想像するといい。」
「高位になるとそれがレベル90を超え、そんなのが高い知性を持ち、魔術なんかも使う。」
なんでそんなこと知ってるんだよ!と言いたそうな顔をしているセロに、そのまま続けて、過去に楽園で起きた事件を語ってくれた。
造鬼実験。
人為的に、記憶や知性を持った鬼を生み出す実験。
十年くらい前までは王の主導のもとに外から来る咎人の中で、死罪が確定しているものを対象に行われていた。
浄化した濃虹水を元にした秘薬を体内に注入、その後拘束してから汚染させ、変異を促す。
実験体のほとんどが人害となってそのまま処分された。
ただし、ごく一部ではあるが、高位の鬼となった者もおり、それの鑑定結果が記録として残っていたそうだ。
オルガンは楽園にいる知人から情報を得たのだとか。ちなみにその知人はすでに故人だそうだ。
そしてその実験はどうなったのか。
ある日、高位の鬼となった一人の実験体が拘束を簡単に引きちぎり、実験に参加していた研究者たちを大量に引き裂いた。
しかしその鬼も騒ぎの鎮圧に乗り出した王の魔術により一瞬で氷漬けになり、そのまま砕かれたそうだ。
このあたりで酒瓶が空になった。
「随分と話が飛んじまってたが、その鬼に関しては何もしなくていい。専守防衛のみだ。」
「鬼が出張ってきた時は皆で楽園に駆け込むしかねぇ。状況は楽園の者に伝えるから、対策は連中次第だな。」
セロはオルガンから得られた情報があまりに有益だったためか、勢いよく立ち上がってこう言った。
「オルガンさん、また来る。次は王にボコられた話を聞かせてくれよ!」
「バカ野郎!ボコられたとか言ってんじゃねぇ!」
オルガンは来るなと言わなかった。
セロが去った後、オルガンは会話を楽しんでいた自分に気付いていた。
ビフレストにおいて突出した強者であるオルガンにまともに話しかけてくる者などほとんどいなかった。
セロは強さにおいても自分に次ぐ実力者。
「どうせこれからも手柄を立てまくりやがるだろうからな。」
オルガンは広間を出て、地下街を歩く。
少し進んだ先には楽園の入口とされる、さらに地下へと伸びる通路があった。
そこには二人の守衛が立っており、オルガンはセロ達家族全員の下層への通行と居住許可の申請を出しておいた。
それから半年後、
ナナは狩猟者特別見習いという、未だ前例のない奇妙な肩書きを手に入れていた。
「大蜘蛛!?いや、あれは土蜘蛛だ!」
セロは各隊に指示を飛ばす。
「攻撃隊、足止めしろ。術士隊は糸を焼くのに専念。ナナ、弓隊に爆矢を!」
「おう!」
と元気よく返事をして弓隊に向かって狩場をちょろちょろと走るナナの姿があった。
三ヶ月前、廃棄孔への降下というセロの提案を実現するには、いくつかの障害があり、即実行とはいかなかった。
まず、廃棄孔に遺棄する死体がない。
怪しまれないように廃棄孔を利用するには不可欠なものだ。
孔の管理者に見つからないように侵入するにしてもそれを可能とする手段がない。
セロはチャンスを待つ間もナナの恩恵収集を続けるべきだと主張し、狩場に同行させることにした。
セロ隊の狩場は今現在取りうる手段の中でも、最も安全にナナが害獣の死骸に触れられると判断したからだった。
ナナの所持していた技能、魔眼:鑑定はいつの間にか魔眼:分析に変化していた。
視認した対象の恩恵、付与効果に加えて、名前、レベル、技能と、通常の鑑定結果と同等の情報を視認する。
それだけではなく、相性のよい恩恵や付与可能数、さらに見ようとすれば対象が潜在的に宿している恩恵等も看破してしまうようだ。
ただし、発現していない恩恵については、その詳細までは分からない。
あ、こいつなんか隠れた才能もってるな。そんな感じだそうだ。
そして、エルンストから借りた書物にあった情報から、いくつかの技能を習得していた。
やることがなく暇だったせいか、書物片手にひたすら付与魔術の練習をしていたようだ。
ナナの能力はこのようになっていた。
ナナ(虹人)
レベル 5
恩恵 付与魔法:恩恵+2
技能 魔眼:分析
付与術:祝福
付与術:停滞
付与術:爆裂
効果 浄化
解毒
まず、付与術:祝福。
これは肉体関連、魔力関連、全性能の微量上昇効果で、対象はナナの近くにいる味方全員。
ナナから離れたり、存在を忘れられたりしない限りは自然解除されない。
効果時間は一時間。なのだが、ナナは次に習得した付与術:停滞を、仲間ではなく付与した祝福に停滞を付与する。
という手法をとることで、効果時間の永続化に成功していた。
仲間たちに与える効果は、祝福:停滞、となっているが、鑑定結果には祝福としか表記されない。
ナナの膨大な魔力もあって、微量上昇のはずが少量上昇くらいになっていて、全体の能力底上げに貢献していた。
魔力を増やせば中量上昇くらいにはできそうだったが、セロの助言を聞いて自重した。
付与魔術は生物を対象とするものと、物品を対象とするもの。そう考えられている。
付与魔術を対象とする付与魔術というこれまでにない付与魔術を行使したナナ。
これにはセロも大いに驚き、妹の才能を再認識することになった。
そもそも、付与術:停滞を習得したきっかけは、自身の羽織る外套を魔眼で分析したことから。
付与された浄化そのものに付与された停滞と、定着という効果を認識したのが始まりだった。
何度でも、魔力を流すたびに浄化の効果を発揮するのは、停滞によって浄化が永続化されていたからだった。
もうひとつ、付与術:定着という効果もついていたが、これはおそらく術の範囲制限を解消する為の効果だとわかった。
もちろん、定着の効果にも、停滞が付与されていた。
停滞の付与は特殊で、ナナの眼にもこの付与術にだけは何らかの自壊要素が見つけられなかった。
つまり、術の範囲や時間に何の制限もない特殊な付与術である。
ナナは今のところ魔道具の製作にまったく興味がなかった為、定着付与の方はスルーされた。
いちいち術を上書きすんの面倒くせぇ。といった思考から停滞を習得していた。
次に付与術:爆裂。
これをナナは物品付与で使用し、付与対象を爆弾に変える。という使い方をしていた。
起爆条件はナナがある程度選択することができる。
見習いのナナは直接の攻撃参加を禁じられていた為、爆裂付与による攻撃補助で皆を助けていた。
瓦礫や石ころに衝撃を起爆条件とした爆裂を付与し手投げ弾として、投擲関連の恩恵や技能を持ったメンバーに渡す。
矢の先端に、同じく衝撃を起爆条件とした爆裂を付与し爆裂矢として弓を使用するメンバーに渡す。
布や板きれに、荷重を起爆条件とした爆裂を付与し即席の地雷を拘束担当者に渡してトラップとして使用してもらったりもした。
起爆条件も、燃焼起爆、荷電起爆、振動起爆、時間起爆といろいろ設定できる。
状況に合わせて様々な即席爆弾を作成して仲間に渡した。
味方への誤爆を避けるため、ストックはせず、使用時に直接付与術をかける。という方法を取った。
爆発力は、ナナが込めた魔力の量と付与した物品の質量に比例して大きくなる。
狩りに慣れてくると、ナナはメンバーの要望を聞いて爆発の大きさまで操作するようになっていた。
この付与術も大いに役に立ち、狩猟隊のメンバーは皆、ナナの参加を歓迎していた。
付与魔法の恩恵こそあるものの、レベルは5。しかも八歳の小娘が見習いと聞いた時は皆が反対したものだった。
しかしセロはナナが確かな戦力となることを約束し、付与魔術の運用についても皆でよく話し合った。
そして期待値を大きく上回る結果を出したナナは皆に受け入れられていった。
三ヶ月が経過した現在、狩りを終えた狩猟隊は詰所にて夕食をとっていた。
その中には、セロの隣に座って肉にかぶりついているナナの姿もあった。
「さすが隊長の妹ちゃん。セロ隊初の付与術士は優秀ですね。」
と術士隊の一人が口にした。
「祝福の効果もすげぇと思ったが、俺はあの手投げ弾が気に入った。俺達も攻撃に参加できるようになったしな。」
そう言ったのは斥侯隊の一員で投擲の恩恵を宿した者。
「牽制くらいしかできないことが多かった俺たちも何体も仕留めることができた。」
同じく爆裂矢のおかげで火力を増した弓隊の弓士も、喜びの感情を隠せないでいた。
「もう小型種はいくらでも狩れそうだな。」
害獣との直接戦闘を担当する攻撃隊の皆も部隊の強化を実感していた。
皆の視線がナナに集中する。
が、一心不乱に肉と格闘しているナナはまったく気付いていない様子でむぐむぐと口を動かしていた。
「ナナの入隊を祝して。」
笑顔になった一人の狩猟者が、酒の入ったカップを掲げた。
「祝して。」
「我らの姫君に。」
「「「乾杯。」」」
セロ隊の打ち上げはさらに盛り上がりを見せていった。
ナナの立場は、他の隊への配慮もあってか肩書は特別見習い。となっていた。
ただでさえセロの部隊は他の部隊と比較して隔絶した戦力を誇っていたのだが、ナナの参戦でさらに強化された。
さらに二ヶ月が経過した頃、オルガンの直属部隊、特別狩猟隊として独立することが通達された。
そして、ナナの付与帳にも少しずつ恩恵がストックされていく。
一角狼から風魔法、猪から身体強化×3。
大蜘蛛の亜種、土蜘蛛から土魔法:煙幕。
追加された恩恵は、土魔法:煙幕はナナに、他はセロに付与した。
ナナ(虹人)
レベル 8
恩恵 付与魔法:恩恵+2
土魔法:煙幕
技能 魔眼:分析
付与術:祝福
付与術:停滞
付与術:爆裂
土魔術:煙幕
効果 浄化
解毒
セロ(虹人)
レベル 47
恩恵 剣術:大剣+2
身体強化+8
風魔法:電撃+3
耐性:氷結
技能 風魔術:風壁
風魔術:放電
効果 浄化
解毒
そして休息日、ナナは自室で煙幕の魔術の練習、セロはオルガンに会いに最下層へと足を運んでいた。
最下層、大広間にて息をはずませ、片膝をついたオルガンの姿があった。
相対していたセロもまた、大きい瓦礫に背を預けて息を切らせていた。
「この野郎、本当に強くなっちまいやがって。」
レベルは大きくオルガンに劣っていたセロだったが、大量の恩恵の力と、オルガンが全力を出すことを控えた結果、なんとか互角の勝負に持ち込むことができていた。
「はぁ…はぁ…。まだ、足りない。」
オルガンは体を起こし棚から酒瓶を、セロには果実水を渡すと、セロの息が整うのを待って話し始めた。
「また集落が飲み込まれた。奴らは着々と力をつけていやがる。」
ビフレストの周辺に七つあった集落は、現在二つに数を減らしていた。
オルガンは緊急措置として残りの集落の人間をビフレスト上層に避難させていた。
「オルさん、やはり鬼の拠点はあそこか?」
セロの問いかけにオルガンは頷きを返す。
ビフレストから谷を挟んで向かい側にある咎人達の集落。
半年の調査を経て、オルガンはそこがそうだと確信しているようだった。
「敵はまず、誘引された害獣。これは俺たちや特隊の連中でどうにかなる。」
大型種は巣からほとんど離れない。
つまり誘引されるのは小型種か中型種に限定される。
今の特別狩猟隊、略して特隊のメンバーならいくらでも持ちこたえられる。
「問題は人害だ。一月前にやられた集落を襲撃したのは人害の群れだったそうだ。」
人害の強さは大型種相当。しかもそれが群れている。
どう考えても過剰戦力だった。セロは自分の手に余る事態であることを実感する。
「王はまだなのか?オルさん。」
と尋ねずにいられなかった。
王の強さなら事態を打破できる。そうなれば危険な戦場にナナを連れていくこともない。
オルガンは酒をあおる。
「王は離れられんとよ。俺らでなんとかしろってことだ。」
それでもセロはナナや家族の安全を諦めることができない。オルガンもまた、まだ絶望してはいない。
セロは状況を変える糸口がないか、考える。
そもそも、奴らはそれほどの戦力があって、何故攻めてこない?
その答えは一つしかない。情報源は不明だが、王を恐れてのことだ。
「王の情報はどこから漏れたんだろう?」
オルガンはセロの呟きに対し、返答する。
「少なくともここ数年、楽園から咎人の補充はないし、人の移動もない。これは間違いない。」
ならば情報だけが移動した。セロはそう考えた。
「オルさん、物資は?そこに手紙とか…。」
「いや、それもない。確認作業には俺も立ち会っている。」
セロはこの返答を受けて、ならば他にも道がある。と即断した。
「楽園から咎人達の集落への道がある、もしくは新たに開通した。」
オルガンは、はっとした表情になり、思考を巡らせる。
「その可能性は…、無いとは言えねぇ。証明できねぇ。」
「楽園は広大だ、外界まで通じているくらいだしな。」
この地下街が機能していた遥かな昔、楽園は地下鉄と呼ばれ、物資や人の運搬を担う施設だったらしい。
楽園にいたオルガンの知人によれば、当時の人間は上下水道なるものや、地熱発電所なるもの、様々な施設を地下に建造していた。
おかげで、楽園の全容は楽園に住まう者にすら把握できない規模らしい。
「道がもしあると仮定するなら、鬼はすでに楽園に潜伏している可能性もあるんじゃないか?」
「そうなると挟み撃ちじゃねぇか。クッソ。どうするよ。」
頭をボリボリと掻きながら悩むオルガンを見るセロ。
この時、天啓というのか、セロの脳裏にひとつのアイデアが浮かんだ。
そしてセロはそれを即実践する。
「オルさん、前に造鬼実験の話をしてくれたよね?」