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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
01 名無しの国
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003 再会

時は少し戻り。


狩りに出発した兄を見送ったナナは、自分に笑顔で手を振ってくれた兄を思い出し、よくわからないやる気に溢れ、興奮していた。



自宅に戻り、留守番をしてくれていた老婆に駆け寄るナナ。


「ただいま、ばあちゃん!」


そのまま老婆に体当たりするかのように抱き着いて、兄のことをまくしたてるように話した。


「兄ちゃんが手を振ってくれたんだ!」

「おやおや、よかったねぇ。」


老婆がナナの頭をなでていると、遅れて帰宅してきた老人が家に入ってくる。


「ただいま。すみませんメリルさん。留守番なぞさせてしまって。」

「いえいえフランクさん、こちらこそ住まわせてもらってるんですから、これくらいは。」


二人は名前で呼び合うようになっていた。


ナナの恩恵のことや、家族の目的についても打ち明けられたメリルは、自身も協力することを約束し、共に生きることを誓っていた。



フランクは家族からの手紙のことを二人に伝え、その封を開いた。



私たちの目的となった外界への脱出。

これを実現させるため、動き始めようと思う。


セロは強くなり、外界を知るメリルさんが味方になってくれた。

脱出ルートは不確実なものも合わせ、三つ。



1…楽園にあるとされる外界への道を使用するもの。


ただしこれには、現時点でセロをも大きく上回る強者であるオルガン氏の打倒。

さらにはオルガン氏以上の強者であると思われる王の打倒が含まれ、現実的ではない。



2…地下街を流れる川は外界から来ている。これを遡り外界へ向かうもの。


川はビフレスト最下層から建物を出た先にある為、このルートもまたオルガン氏が障害となる。

ちなみに楽園の入口は、川の逆方向にあり、そこからさらに地下に降りた先が楽園だそうだ。王もそこにいるらしい。


ナナ達はビフレストのことを楽園と呼んでいるようだが、ここが真の楽園だ。



3…誰も知らない未知のルートを利用するもの。


西の壁は広く長い。しかも密林に生息する害獣のおかげで、まともに調査もできない。

知られていないだけで、どこかに壁を登れるところがあったり、人が通り抜けられる裂け目があるかもしれない。


東の虹海を越えるルートは、除外とした。


海には虹素の発生源とされる邪悪な何かがあり、地上のものとは比較にならない強力な超大型害獣が生息しているらしい。

狩猟者の座学では、巣と海は絶対に避けるべきだと教えられるそうだ。



私たちは3案の、新しいルートを探す。というのを基本方針とするべきだと思う。

地上の調査はセロが担当する。巣さえ避ければ、今のセロであれば単身での調査活動が可能、とのことだ。


ただし、現在のセロには狩猟隊の隊長という立場もあり、すぐに調査開始、とはいかない。

なので、道を見つけるまで、ナナには付与魔法の習熟に努めてもらいたい。

セロにナナの付与魔法をかけて強化できれば、別の道も開けるかもしれないからね。



そこで、計画の第一段階として、家族の合流を目指したい。

計画内容に具体性を持たせるには、やはり一緒にいないのはやりにくい。家族会議の進行も遅いからね。


必須条件としては、ナナの恩恵の隠蔽。これのみだ。


実は三人が中層の私たちの家に来ることは、セロがオルガン氏より許可を得ているらしい。

セロの実績はそれに余りあるものだと評価してくれているそうだ。


ナナに鑑定板を持たされた時に備えて、肝心の隠蔽についてだが、こちらでも考えていたことはある。


もしナナが恩恵に干渉できる魔法を使えるのであれば、例えば一時的にナナの恩恵を何かに移して鑑定をクリアし、後に恩恵を元に戻す。

そういうことができたらと思い、今回のプレゼントを用意した。


もちろん、できなくてもいい。

その時は何か別の方法を考えるからね。



ナナに伝えて欲しい。


私たちはいつでも君を愛している。

何もしてあげられなくてすまない。



手紙を読み終え、やる気に満ちていた今日のナナは、手紙の内容を真剣に考えていた。


「あたしが頑張ればみんな一緒に暮らせる…。」


フランクは手紙を浄化灯の火にくべると、ナナにプレゼントを渡した。


「お母さんの手作りだそうじゃ」

「よかったねぇ。みんなナナのことが大好きなんだね。」


ナナはプレゼントを握りしめ、ピスピスと鼻息を荒くして、


「やってやるぜぇ!」


と叫んでいた。



そしてしばらくして、ナナは食事をとるのも忘れフランクの用意していた魔法の書物を読みふけっていた。



「そろそろおなかがすいただろう?食事にしよう。」


メリルが声をかける。


ナナはそんなメリルを見つめる。



「光魔法。」


とだけ呟いた。


メリルはナナが自分の恩恵を視認していることを唐突に理解した。



「見えているの!?」


驚きのあまり我を忘れてナナに駆け寄った。


ナナの技能に、魔眼:鑑定:付与が追加されていた。

この技能は、対象の付与効果を識別するものなのだ。

ナナはさらに、魔眼:鑑定:恩恵にも開眼し、対象に宿った恩恵までも看破していた。


「ばあちゃん、見て~。」


と言いつつ、メリルの光魔法の恩恵を、ナナが付与帳と名付けた母からのプレゼントの1ページに移動して見せた。


これには老人二人も大いに驚いた。


「まさかその日のうちにできるようになるとは…。」

「でもな、じいちゃん。これじゃダメだった。」

「何がじゃ?」


驚きっぱなしのフランクは疑問をぶつける。



「あたしの恩恵でこれやると、本に付与した瞬間に付与魔術使えなくなって元に戻せなくなるかもしれない。」

「おお、たしかにそうじゃ。」

「だからあたしは考えた!」


それは、自身から除去した恩恵を付与帳でなく自身に戻す。除去している間に鑑定を受ける。

という作戦で、現実に恩恵の表示されていない鑑定結果をナナは示して見せた。



フランクは孫娘の才能に驚きすぎて、開いた口がふさがらない様子だ。


「こんなにあっさりと解決してしまうとは…。」

「ムッフッフ。」


ナナは笑顔でない胸を張り、メリルはそんなナナを撫でていた。





一方その頃、森の中を疾走する黒い影があった。


影はひとつではなく複数。

しかもそれは広範囲に展開している。


疾走する黒い影は群れだった。



それぞれが、うねる樹木の間を足を取られることもなく四本の足で大地を蹴る。


群体は他の個体より一回り大きな影を中心に、統率のとれた集団である。



大きな影が疾駆する。その付近を沢山の黒い影が追従する。


群れは、ある目的の為に突き進んでいた。そう思っていた。



群れの目的とは?


それはわからない。わからないがそこに行きたい。


これはきっと我々の本能だ。



群れの中心を走る大きな影は思った。

自分を誘う何かがそこにある。皆も同じ気持ちであろう。



やがて遠くに篝火の明かりが見えてきた。

誘う香りも強くなってきている気がする。


明かりの近くに視線をやると、そこには貧弱そうな二本足の生物が歩いている。


あれは肉だ!肉がいる!


黒い影の思考は食欲で塗りつぶされていった。





フランクは立ち上がって、一言告げた。


「セロに会ってくる。二人はここで待っていておくれ。」


おそらくすでに狩りを終えてビフレストに帰還しているであろうセロ。

一刻も早く恩恵の隠蔽が成功したとの報を伝えるためフランクが家を出て行こうとした矢先、集落に鐘の音が響いた。


「ん?雨天警報か?タイミングが悪いのぅ。」


しかし、聞こえてきた言葉は予想だにしないものだった。


「害獣の襲撃だ!」


三人が驚きを隠せずにしばし茫然としていると、警備兵たちが応戦しているのか、激しい戦闘の音が聞こえる。



フランクは扉の覗き窓から外を確認する。


「一角狼の群れじゃ。警備兵では分が悪い。」


そんな時に、ポツリポツリと雨が降り出した。



フランクは苦虫を噛み潰したような顔を見せる。


「悪いことは重なるもんじゃ。」

「やばいのか?」


ナナは心配そうに見ている。


一角狼は狼が害獣に転じたもので、体長は1メートルから2メートル。

額から長く伸びた角が特徴的な四足歩行獣。その強さは猪には及ばないが、単体で複数の狩猟者と渡り合う。


しかもそれが群れで行動する。強力な個体は角から電撃を発生させるものもいる。

さらにはこの雨のおかげで浄化区域には近寄らない害獣の習性があてにできない。



念の為、フランクは浄化魔術を発動する。


「助けを待つしかできることはない。」


言いながらテーブルや棚を入口の扉に立て掛け、自らの背中でそれを押さえている。


ナナはメリルに抱き着いて震えている。

そして外の戦闘音が聞こえなくなった。



「害獣、やっつけた…?」

「いや、警備兵にどうにかなる相手ではない。声を出してはならん。」


直後、破壊音とともに扉に衝撃が走り、一角狼の角が飛び出した。


「ひゃあ!」


ナナは反射的に、微かな悲鳴をあげてしまった。

完全に一角狼に見つかり、扉は一部破壊され、狼が凶悪な顔を覗かせる。


「グルルルルル!」


恐ろしいうなり声をあげ、中に入ろうともがく狼。


フランクは懸命に扉を押さえ、メリルは必死に狼の顔面を棒で突く。

恐怖の余り、ナナは泣き出してしまっていた。

扉の穴はどんどん大きくなり、狼はすぐそばのフランクに食らいつこうとする。



「うぅぅぅ…。」


ナナは泣きじゃくり、もう駄目かと諦めかけた時、狼の背後に深紅の光が揺らめいたような気がした。



「何してんだ、クソ犬。」


扉の外に人の声。

そして狼の動きが止まった。


怒りに両目を真っ赤に染め上げたセロは、無造作に狼の首を掴み、背後に放り投げると即座に大剣で真っ二つに切り裂いた。



「じいさん、無事か?」


セロの実力を知るフランクは完全に安心し、力を抜いて床に座り込んだ。


「あぁ、大丈夫じゃ。」

「間に合ってよかった。」


ナナは初めて耳にするこの声が、兄のものであることを疑わなかった。


「兄ちゃん!」


扉に駆け寄ったナナは、兄を呼んだ。


「ナナ、声が聞けて嬉しいよ。もう心配いらない、三人で休んでいるといい。」


セロは外で扉を背に妹に声をかけ、そのまま決して振り返らず警戒を解かない。


暗闇の中、セロに襲いかかる狼が次々と両断されてゆく。

七体目、他の個体より一回り大きい群れの頭と思われる狼が死体になった頃、遠吠えと共に狼の気配が去ってゆくのを感じた。


しかしそれでもセロは警戒を解かない。



「兄ちゃん、もう害獣いなくなった?」


振り返らずにセロは返した。


「雨が降っている間はここは森の中と同様何が起こるかわからない。雨があがって周辺を浄化するまでは油断しては駄目だ。」



そのまま周辺の警戒をしているセロの元に、複数の足音が近づいてきた。

詰所を飛び出したセロを追いかけてきた狩猟隊のメンバーだった。


「隊長、無事ですか!」

「皆、悪いが残業だ。群れは去ったとは思うが一応周辺警戒。浄化完了までは気を抜くな。」


慣れた動きで散っていく狩猟者達。



二人程がこの場に残り、セロに提案する。


「ここは俺らが警戒します。隊長は家族を安心させてやって下さい。」


セロは表情を緩める。


「ありがとう、頼んだ。」


提案に甘えることにして、家族の部屋に入った。



「兄ちゃ~ん!」


飛びついてきたナナをセロは優しく受け止め、抱き上げたまま撫でていた。

ナナはセロにしがみ付いて泣きじゃくる。


「よく頑張った。えらいぞ。」


耳元で囁くように伝える。



そしてそのままフランクとメリルの方に顔を向ける。


「じいさんは怪我とかしてないか?」

「メリルさん、ひどい顔合わせになっちゃいましたが、ナナの兄、セロです。はじめまして。」


老人二人は顔を見合わせると声をあげて笑った。

つられてナナも笑い、それを見たセロも笑顔になった。




集落周辺を警戒する狩猟者の一団とその集落を一望できる少し離れた場所の樹上に、一人の人物がいた。


「濃虹水を使用した害獣の誘引実験は成功だな。」


集落を俯瞰しつつ小声で呟く。

そして目線をセロが両断した一角狼たちの死骸に移す。


「あんな化け物がいるのは予想外だったが、情報は得た。」


その人物は、狩猟者の警戒する中、ひっそりと姿を消していた。




浄化作業が終了した。

警備兵がそれを伝えるべく、叫びながら集落を移動していく。

それを聞いたセロは、ナナの手を握り、声をかけた。


「もう大丈夫だ。」


手を繋いだまま、ナナはセロと共に表に出た。

雨あがりでも、そこら中の血と臓物の匂いは残っている。



狼や警備兵の死骸等そのままになっていたが、後始末は警備兵が引き継ぎ、狩猟者達はビフレストに帰還していた。

警備兵は作業の準備に忙しく、今現在ここにはナナとセロの二人だけだった。


フランクとメリルは引越しの為の荷造りだ。



ナナとセロは荷造りもせずに何故か表に出ている。これには理由があった。


「あいつらの恩恵取っていい?」


なんて言葉がナナから飛び出したからだった。



一角狼の襲撃の後、ナナの成果を耳にしたセロは、驚愕したり歓喜したりと、様々なリアクションと黄眼を見せた。


そしてすぐにでも中層に来るよう三人にすすめた。



「少しでも安全な場所で暮らす方がいい。」


恩恵の隠蔽が可能であれば、なにも危険な地上に暮らす意味はない。

ビフレストであれば、セロの家族に害をなす者は皆無であるし、セロの稼ぎは破格だ。その日の食糧に困窮することもない。



実際、地上に暮らしていたフランクとナナは、それなりに苦労をしている。


めったにないのだが二日続けて雨が降らないと、浄化作業ができず、次の雨まで絶食しなければならなかった。

老人と子供の二人暮らしゆえに、森の果実を採取するのも命がけだったからだ。



セロはナナを見つめる。


「それに、父さんと母さんをナナに会わせてやりたい。」


一つの反論もなく皆それに合意し、準備の最中というわけだ。



家の外に出たナナは、そのままになっている一角狼の死骸に向かって走っていく。


「兄ちゃん、こいつ風魔法。」


セロに振り向いて笑顔で言った。

それはセロが最後に両断した、群れの頭であろう狼の死骸だった。


「回収~。」


力が抜ける掛け声とともに、恩恵が移動してゆく。


セロにはナナの行っていることを知覚する能力はない。傍目にはナナが死骸で遊んでいるようにしか見えない。



「こっちのとそっちの犬、身体強化だぞ。回収~。」


セロはナナを見守るかのように眺めている。


「ナナのやつ、あっさり俺より強くなっちまったりしないよな?」



ナナはさらに犠牲になった警備兵の死骸にも手を触れて作業を続ける。


「回収~。」



しかしセロの心配をよそに、ナナの脳内ではあたしのかんがえたさいきょうのおにいちゃん計画が始動していた。


とりあえず付与できそうな恩恵は片っ端から兄に付与しようという雑で単純な計画。

ナナは自身の強化よりも、自分を守ってくれる兄の存在が嬉しかった。



「あぁ、グロかった。」


一仕事終えたっぽい仕草でナナが体を休めていると、家から荷物を抱えた二人が出てきた。



「待たせたのぅ。」

「俺が持つよ。」


セロは二人の荷物を抱えると、恩恵の回収を終えたナナと、皆でビフレストへ向けて歩き始めた。



ナナの付与帳には、回収した恩恵が付与されている。


風魔法:電撃

身体強化

身体強化

耐性:氷結

彫金:銀細工

料理


以上の恩恵がストックされた。





やがてビフレストの前に到着する。

入口を守る門兵がセロの姿を確認すると、気安く声をかけてくる。


「セロさん、お疲れ様です。」

「ああ、お疲れ。」


セロは片手を上げてそれに応える。


「その三名が?」

「かねてより申請していた俺の家族だ。」


門兵は三人を一瞥すると、小さく会釈する。



「オルガン様の許可は確認済です。お通り下さい。」


セロはひらひらと手を振り、門を抜ける。


三人もそれに続き、中の大広間にて別の門兵の監査を受ける。



ナナに渡された鑑定板に付与魔法の表記はなかった。

セロは上手に隠蔽を成功させたナナの頭を撫でる。


ナナは眼を黄色にしてほっこりしている。


「ほぅ、虹眼ですか。」


と、それを見た門兵が言った。


「あぁ、恩恵はないが魔力はある。もしかしたら鍛えたらものになるんじゃないかってな。」


セロは返答し、その場を後にする。



そのまま階段へ向かう一行。

初めて目にするビフレスト内部の様子にナナはきょろきょろとあたりを見回し、緊張しているのか落ち着きがない。


周囲には屈強そうな男や、それに侍る女。

広間の隅に転がっている瓦礫に腰を下ろし本を読む術士風の男。


様々な人間がセロたちに注目していた。



「兄ちゃん、みんなこっち見てるぞ?」


セロはナナの頭に手を置いて、その言葉に応える。


「まぁ、襲撃の後だしな。害獣の襲撃なんて久しぶりだし。」

「そうなのか。」


しばらく階段を降りていくと、階段前広場の中央が下のフロアを見下ろせる吹き抜けに変化した。



「ここからが中層だ。」


さらに階段を降りていき、吹き抜けの最下層に到着。


「ここが中層の一番下、この先は下層になる。そして、このフロア全体が俺たちの家だ。」



ナナはセロに驚愕の表情を見せる。


「ここ全部!?」

「兄ちゃん頑張ったんだぞ?最初はもっと上の層の一部屋だけだったんだ。」

「すげ~~~!」


フランクとメリルも驚き、ナナはひたすら興奮して騒いでいた。



それを聞きつけたのか、一組の男女がこちらに小走りで近づいてくる。

それを見たナナはきょとんとして眺めていたが、背後からナナの両肩に手を置いたセロが言った。


「父さんと母さんだ。」


「!」


ナナは二人をじっと見つめた。

やがてマーサが口を開く。


「ナナ。」


涙を流すマーサを見て、ナナはゆっくりと近づき、母に抱き着いた。

マーサの目からさらに涙が溢れ、ナナは頭をぐりぐりと押し付けている。

アーキンはそんな2人をやさしく抱き寄せた。



「やっと会えた。」


それだけを口にした。八年ぶりの家族の再会だった。





部屋に移動し、アーキンが切り出した。


「無事、合流を果たせたことだし、計画の話をしよう。」



マーサとメリルは皆の飲み物を用意している。


「まずは、ナナの付与魔法で、恩恵を収集するべきだと思う。」


セロはそう主張し、続けて発言する。


「外の調査は俺にしか行けないし、何日もかかる。今の俺は部隊もあるし、立場上長期の離脱は難しい。」

「確かにそうだ。」


アーキンが同意する。



「俺たちは手札を増やすべきだ。」


セロの提案に誰も反論しなかった。


「方法は?」

「それに関して、俺はルールを決めようと思う。ナナ、聞いてくれ。」


セロが口にした、恩恵収集のルールは以下の通り。



1…人間から取得する場合は死者限定とする。


この国において恩恵を奪うことは殺人に等しい。

相手が悪人であったとしても、秘密を守る為に基本的には行わない。


2…害獣から取得する場合は死骸かもしくは完全に拘束され、ナナの安全が確保される場合のみとする。


3…物品から取得する場合はセロの判断を仰ぐ。


今のところ恩恵を宿した物品があるのかは未確認。


4…1~3のケースで判断に迷う場合はこれもまたセロの判断に任せる。


5…人目がある時は行わない。



「うむ。憶えた。」


ナナは握り拳を作って頷いた。

そしてそのまま、家族をひとりひとりぺたぺたと触り始める。


「ナナ、どうしたんだい?」


アーキンが尋ねる。


「皆に付与魔術する!」


どうやらストックしている恩恵を家族に宿らせるつもりのようだ。


しかし、恩恵には相性や、付与できる数に限りがあるようだ。


ナナ自身やセロにはいくらでも付与できそうだが、他の家族は二~三個が限界のようだった。

そして恩恵の相性から、彫金はアーキン、料理はマーサ、他はセロに付与した。



「なんか相性がいいとな、ぬるっと入る感じなんだ、ぬるっと。」


ぬるっという表現が気に入ったのか、二回言った。



セロ(虹人)


レベル 43


恩恵 剣術:大剣+2

   身体強化+5

   風魔法:電撃+2

   耐性:氷結


技能 風魔術:放電


効果 浄化

   解毒



アーキン(虹人)


レベル 9


恩恵 彫金:銀細工


技能


効果 浄化

   解毒



マーサ(虹人)


レベル 7


恩恵 料理


技能


効果 浄化

   解毒



付与を受けた三人は鑑定板による自身の鑑定結果を眺め、ナナを褒めちぎる。



「ムフフ…。」


嬉しそうにもじもじするナナ。

セロだけは自分の急激な強化に顔を引きつらせている。


「なんかズルしてる気分だ…。」


恩恵に振り回されぬよう、さらに鍛えよう。

セロは強化と同時に、前向きな決意も新たにしていた。



「話を進めるか。」


アーキンは計画についての話を再開する。


「恩恵の調達についてなんだけど、廃棄孔に降りてみようと思う。」


それに応じて、セロが提案した。



「廃棄孔っていうのは要は死体処理場だ。害獣や住民の死骸なんかを投げ捨てる穴があるんだよ。」


ビフレストに来たばかりの三人に説明する。


「父さんはじいさんとメリルさんの分の浄化服と解毒具を頼む。」

「まかせてくれ。」


普段から隊を率いているセロの決断は迅速だった。


「廃棄孔に降りるにはいろいろと準備があるから、その間、ナナはエルンスト先生とお話しだ。」

「先生?お話し?」

「ああ、俺も一緒に行くから、魔術のことや恩恵のこと、いろいろ教えてもらう。」


セロは、ナナの才能を信じるからこそ、魔術や恩恵の知識を増やすことは重要なことだと考えていた。



「それに、今回の集落が害獣に襲われた件。どうも引っかかるんだ。」

「何か気になるのか?」

「たぶん偶然じゃない。」


ナナ以外の皆が驚いた顔をする。

セロはよくわかってない妹の頭を撫でながらその思惑を口にする。


「先生に会ったら鬼のことも教えてもらうつもりだ。」



「鬼が出たのか!?」


アーキンは思わず立ち上がって大声を出した。


「いや、そうじゃない。」


セロは皆に自分の考えを説明した。


今回の襲撃が偶然ではない、とすれば何者かが暗躍した結果、ということになる。

何者かが人である可能性は高い。であれば近いうちに何かが起こるかもしれない。


それが何かはわからないが、人がこの国で何らかの凶事を起こすというのなら、この国の人災の中で最大の危険である鬼のことは知っておくべきだ。


あくまで可能性だが、用心はするべき。



「俺はこれをオルガンさんにも伝えておこうと思う。ここの安全が維持されなければ計画もままならない。」



「でもそれは明日のお話。」


マーサとメリルが皆の食事を持ってきた。


「今は再会を祝いましょう。」



難しい話を睡眠でスルーしていたナナは食べ物の香りに敏感に反応して覚醒。皆に向けて言った。


「皆、まずは食ってからだ。」


と、格好つけて寝ていたことを誤魔化そうとしていた。

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