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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
04 旅立ち
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025 新人育成

魔導車は海都へとひたすら街道を走り続けている。


助手席にはロッテとルーシアが座り、セロは二人に海都の情報を尋ねているところだった。

三人が会話に夢中になっている間に、恩恵を強化された後部座席の三人は自分の鑑定結果を確認していた。



まずはアラン。



アラン・ローグリア(人間)


レベル 22


恩恵 武術:打撃+1

   体術:剛体

   身体強化+5


技能 武技:連撃

   武技:反撃

   体技:硬化


効果 打撃強化

   浄化

   解毒

   障壁

   幸運



体術の恩恵による身体硬化の体技は、攻撃にも防御にも有効となる。

そして、身体能力+5。この恩恵が今現在のアランをそわそわさせている原因となっている。


「なぁ、ナナ。なんか落ち着かねぇ。自分の体じゃないみたいだ。」

「いきなり沢山付与ったからな。兄ちゃんは恩恵に振り回されたら駄目って言ってた。ちゃんと練習するんだぞ?」

「わかった!きっちり使いこなしてやるぜ!」



そしてエトワール。



エトワール・アルデアット・フィル・グランス(人間)


レベル 10


恩恵 火魔法:火球+5

   魔力強化


技能 火魔術:発火

   火魔術:火弾

   火魔術:火球

   火魔術:火爆


効果 火魔強化

   浄化

   解毒

   障壁

   幸運



火魔法の恩恵から、付与した途端に爆裂が消えてしまっていた。

エトワールには合わなかったのか、そう思ったのだが、

ナナの分析により、能力が足りず恩恵が休眠したということが分かった。


「つまりもっともっと訓練すればいいんですのね?」

「あたしは訓練よりも実戦がいいと思うぞ?狩りで鍛えるんだ。」

「ナナさんもそうして強くなった。そういうことですわね?」

「うん。あたし、昔は狩猟者特別見習いになって、みんなと一緒に狩りに出てたんだ。」


強くなる秘訣は廃棄場での狩りにある。そう思ったエトワールはその時を今か今かと待ち続ける。



最後にジル。



ジル・ラスターニ(人間)


レベル 9


恩恵 探知魔法+2

   土魔法:霊樹+1

   光魔法:治療


技能 探知術:条件

   探知術:検索

   土魔術:樹壁

   光魔術:治療


効果 浄化

   解毒

   障壁

   幸運



ジルには、新たに土魔法と光魔法の恩恵が追加された。

防壁として使用できる樹壁の魔術と、ダメージを回復させる治療の魔術だった。

これにより、サポート要員ではあるがジルも戦闘に参加できるようになった。


「ジルはあたしが守るからな?ちゃんと後ろにいるんだぞ?」

「うぅ、本当は私がナナちゃんを守りたいのに…」

「大丈夫だ。あたしがジルの木を爆弾にするから。きっとすごいぞ。」



そして3人にいくつかの魔道具を渡し、商会員の標準装備と同等の効果を得る。


「これで残った雑魚はロッテだけだ。はやくなんとかしないと…」


「親分?聞こえていますよ?」


「…ってくるくるが言ってたんだ。」

「言ってませんわ!!」



そして、適当な場所に道標を設置して、廃棄場へと転移する。修行の時間だ。


転移先には、オルガン率いる戦闘組が、山となった獲物の横で談笑していた。


「お?来たな?今日からひよっこ共を鍛えるんだろう?俺らも付き合うぞ?」

「いいのかい?助かるよ。アラン、格闘術はオルさんに指導してもらうといいよ。」

「アランさん、お願いですから変態さんにはならないで下さいね?」

「ほほぅ?エロッテのくせに言うじゃねぇか。そんな態度だと思わずセロを娼館に連れて行きそうになるな。」

「絶対にダメです!!!それとエロッテ言うな!!!」


一歩下がって見ていたルーシアがオルガンに挨拶する。


「オルガン殿、今日はよろしくお願いします。」


それを皮切りに廃棄場初体験のエトワールとアランが頭を下げる。


「よろしくお願いしますわ。」

「おなしゃっす!!!!」



ナナが山積みの獲物を収納している間、オルガンはセロに狩りの内容を説明させることにした。


「狙うのは小型種を一体ずつ、直接戦闘はアランとルーシアさん、援護はエトワールとジル。四人で戦ってもらう。」

「大丈夫か?四人で。二体目以降は俺らが始末しとくが、厳しくねぇか?」

「しんどくないと訓練にならないよ。でも援護の二人は低レベルだからナナが守ってあげてね。」

「フ…。世話の焼けるくるくるだぜ。アラン、ちゃんとくるくるとジルとこんびねーしょんするんだぞ?」

「それはいいが、俺の守護者はいねぇのか?セロがやってくれるのか?」


ここでセロは首を傾げると、アランを挑発する。


「あれ?アランは俺に守ってほしいの?俺と肩を並べて戦うんじゃなかったっけ?」

「そっ、その通りだ!別にびびってんじゃねぇんだ!ちょっと緊張してるだけだ!」

「アランの能力ならナナの強化を受ければ小型種なら十分やり合える。怪我してもジルが治療できる。」

「本当か!?ちょっとやる気がでてきたぜ!!」


「緊張してるのか?アラン。屁をこいたら駄目だぞ?」

「こかねぇし!!なんでそうなるんだ!」


「中型種以上は俺が始末するから、思う存分鍛えて強くなってくれ。」


先頭にアランとルーシア。その後ろにナナ、ジル、エトワール。さらに後ろにロッテ。セロは殿で全体を見ている。


「おし、俺らも配置につくぞ。」


オルガンの合図で戦闘組も周囲に散る。


「ジル、索敵お願い。」

「は、はい!」


害獣の誘引はオルガンがやってくれるようだ。


ジルがはぐれの一角狼を探知するや、オルガンが移動する。

そして狼を肩に担いで戻ってくる。誘引というより、もはや拉致だった。


「ほれ、アラン。対戦相手だ。」


そう言って暴れる狼を放り投げるオルガン。


「うおっ!いきなりかよ!」


身構えるアラン。退路を塞がれている一角狼は、一番弱そうなアランに牙をむく。


「やりますよ!アラン君!」


ルーシアの言葉に頷き、狼との距離を測るように移動するアラン。


「くるくる、味方に当たるといけないから使うのは発火の術にしとけ。」

「わかりましたわ!」

「ふんふんするんじゃないぞ?」




そうして狩りが始まった。




その頃、王都貴族区にあるアランの実家ローグリア邸にて、窓ガラスの拭き掃除をしながら溜息をつく一人の少女がいた。


「アラン様、大丈夫かなぁ…」


両面宿儺の襲撃で住んでいた村を焼かれ、家族を殺され、そしてただ一人生き残り王都に辿り着いた少女、リナだった。

ローグリア伯爵に情報を伝え、事態が収拾した後に伯爵に声をかけられ、住み込みで働かせて貰っている状態だった。


年齢が近いということもあり、アラン付きのメイドとなっていた。

デュランはしばらくは療養させるつもりだったのだが、

ふさぎ込んでいたリナは、現在は元気にメイドとしての業務をこなせるくらいには回復していた。


毎日のようにアランの世話を焼いているうちに、過去を忘れることはできなくとも気持ちの切り替えができていたのだ。


「また拳が熱いとか言って人様に迷惑かけてないといいんだけど。」


リナの心配は少し遅かった。


「早くお礼を言いたいのに、いつになったらセロ様に会わせてくれるのかなぁ…」


青鬼の討伐者はセロということになっていた。


家族の仇である青鬼を倒したセロにお礼を言いたい。

学院で同じクラスであるアランにそう頼んでいたのだが、実際にはアランは喧嘩を売っていた。


リナはまだこの事実を知らない。


しかし偶然にも同時刻、廃棄場にてリナの願いは叶えられようとしていた。




「ゼェ、ゼェ…」

「疲れたか?アラン。」

「ま、まだだ。少し休んだら、まだやるぜ!」


それなりの数の害獣を倒したアランは肩で息をしているような状態だったが、

自分が強くなっているのを実感してか、まだまだ気力十分だった。


「じゃあ少し休憩しよう。」


セロはそう言って皆を休ませる。

そこでアランはセロのとなりに腰を下ろし、思い出したかのようにセロにリナの事を伝えていた。



「そいつは大変だったな、そのリナって娘。俺は実際、青鬼を手にかけた訳じゃないからお礼されても困っちゃうけど。」

「いいんだ。リナも王都での出来事は一通り知ってるし、玉座の間でセロが青鬼の腕を飛ばすところもちゃんと見てる。」

「なら、狩りの後はうちでみんなで食事する決まりなんだ。そのリナも呼ぼうか。」


そう言って通信で商会にいる人間に伝言を頼むと、


「さ、休憩は終わりだ。やるぞ、アラン。」

「おう!俺の拳はまだまだいけるぜ!」



そして狩りは再開された。





さらに同時刻、今度はラビュリントス、カールレオン大公の屋敷にて。


重要な客人と会う。そう家人達に伝えたウィランは一人、奥の書斎でその人物と相対していた。


「うまくいかなかったねぇ、ヴォロス君。」

「そうですね、公爵殿。しかし、魔女殿が参戦しての結果です。仕方ありませんよ。」


ウィランは思い悩むような仕草を見せ、葉巻に火を点ける。


「まだ切り札はあるんだが、切るには少し早い気もするんだよねぇ。」

「大丈夫です。王国を疲弊させるだけなら方法はいくらでもありますよ。」


ヴォロスの仮面の向こう側に笑顔が覗いたような気分になるウィラン。


「ほぅ、さすがだね、ヴォロス君。君の知略にはいつも脱帽させられる。」

「策はいくつもありますが、単体では厳しいかもしれません。どうやら簒奪者は王国に所属するようですので。」

「ならばどうする?」


「要は鬼どもの代役を用意すればよいだけです。駒はまだまだ潤沢に用意できますからね。」

「うらやましいことだね。」

「公爵殿にはスピリタス伯爵がいるではありませんか。いよいよとなれば頼んで下さいね。」

「あぁ、心得ているよ。」


ヴォロスは書斎の壁に掛けられた王国の地図に近寄ると、それに手を触れさせてから言った。


「まず、最初の策なのですが、虹海の怪物を1体、南海に放とうかと考えています。」

「海門を開放するのかい?」

「一瞬だけですがね。公爵殿のおかげで必要な物は手に入りましたので。」

「神鍵ウィタユ、とか言ったか。あの妙な棒きれがそんなに重要なものだったとはね。」


「問題となるのは空の魔王ですが、彼女は彼女の目的がある。複数のアプローチには対応できないはずです。」

「なら伯爵を動かすかい?」


ウィランは鋭い目つきになり、ヴォロスに確認をとる。


「いえ、今回は獣殿に依頼するつもりです。ついでにイレギュラーとやらも解決のお手伝いが出来ますしね。」

「ヴォロス君、獣殿はそのイレギュラー、放置する腹積もりのようだよ?」

「そうなのですか?なら話は早そうだ。けどイレギュラーの確認だけはしておきたいですね。」

「まぁ、それはそうだね。」


「サブナク大司教については?彼にも動いてもらいましょう。そして、迷宮都市でも事を起こしましょうか。」

「彼については破門した旨を王国に伝えてあるよ。個人で動かす分にはいつでも可能だ。」

「では彼は北を担当してもらいましょうか。迷宮都市の方はお任せしますよ。」

「王国四方の大都市に負荷をかけるのかい?」

「王都には簒奪者がいます。直接敵対するのは避けたいですしね。」


「内側が崩せないなら外からという訳だね。東は獣殿に、南は怪物に、か。」

「この四方からの干渉をもって、空の魔王への対策としましょう。仮にひとつふたつ粉砕されたとしても王国の国力は低下する。」

「時期はずらした方がいかねぇ、国を潰してしまうことになりかねない。」

「そうですね、全てを同時に発生させたらさすがに対処できないでしょうし。」


「ヴォロス君、空の魔王は動くと思うかい?」

「そればかりは私にも見通せません。そもそもなんで目覚めたのかも不明ですし。」

「まぁ、空の魔王の立ち位置を見極めることができると思えば策のひとつやふたつ、許容範囲か。」


よかった、計画は順調だ。ウィランは用意してあったワインを口に含む。


「これで公爵殿の変革計画が揺らぐことはなさそうですね。」

「皆の協力があればこそさ。本当に助かっているよ。」

「いえいえ、私は私の目的に公爵殿の計画が都合がいい、というだけですよ。」

「それでもさ。」


ヴォロスはウィランに向き直ると、懸念事項も伝える。


「しかし懸念もひとつあります。」

「何か問題があるのかい?」

「この干渉の結果、確実に簒奪者は我らの存在に勘付くことでしょう。おそらく公爵殿が黒幕であることはすでに看破されています。」

「そういえばそうか、たしかに彼なら。そう思ってしまうね。」

「実に優秀です。公爵殿ではありませんが部下に欲しくなる気持ちもわかるというものです。」

「フフフ、わかってくれるかい、ヴォロス君。」


そう言って二人は笑い合うと、


「クフフフ…、それでは私は海門へ向かうとしましょうかね。」


ヴォロスの姿はいつの間にか書斎から消えている。


「カールレオン公爵もここまでか。どうせなら迷宮開放をもって、四方干渉といこうじゃないか。」



そして今度はウィランの姿もなくなり、書斎は無人となっていた。




そして夕刻、廃棄場では時間がよくわからないのだが、


「ロッテ、親分おなかへったみたいだ。家に帰ろう?」

「そういえばそろそろ夕刻ではないでしょうか?」


そんな会話を耳にしたセロが狩りの終了を告げる。


「お…終わったのか…」

「ハァ、ハァ。」


特に前衛を務めていたアランとルーシアの消耗が激しい。


「はぁ、セロ、これ、毎日、ふぅ、やって、んのか、?」


息を切らせたまま尋ねるアラン。


「昔はそうだったけど、今は毎日じゃないな。今は効率も上がってるから、毎日やると獲物が供給過多になっちゃうそうなんだ。」



ひよっこ集団だけが消耗している状況で、ナナはさっさと獲物を収納。同時に恩恵も回収していく。


風魔法:電撃

身体強化×4

耐性:刺突


以上の恩恵を回収した。


「兄ちゃん、早く帰ってメシ食べよう?」

「そうだな、そうしよう。」

「親分、今日の夕食に、ハンナがプリンを作ってるはずですから出してもらいましょう。」


途端に瞳を輝かせるナナはロッテの服をぐいぐいと引っ張る。


「本当か!?早く帰ろう!すぐ帰ろう!ハンナのもぷりぷりなんだろう?」

「慌てちゃ駄目ですよ?親分。」


そんなナナを眺めているのは、へろへろになったジルとエトワール。


「なんでナナさんはあんなに元気ですの?私達よりも大量の魔術を長時間かけっぱなしだったはずなのに…」

「本当だね。魔力量が多いとは知ってたけど、私達とは全然違うんだね…」

「ジルさん、諦めてはいけませんわ!私達だってこれからですわ!」

「う、うん。頑張る。」




夕刻の王都。

ビフレスト商会裏手にあるビフレスト酒場はそろそろ忙しくなる時間帯だ。

マーサ他、家政組の面々は料理の仕込みに慌ただしい。


そんな酒場に入ってくる少女に、マーサは声をかける。


「すみません、まだ営業時間になっていないので、お食事は…」

「あっ、いえ!あの私、伝言をいただいて。リナと申します。ローグリア伯爵家で奉公を…」

「あ。リナさんですね?聞いています。私はセロとナナの母です。マーサといいます。」

「はじめまして、アラン様付きのメイドをやらせていただいてます。リナです。」


少し緊張した様子でおじぎをするリナ。


「まぁ、アラン君の。少し前に連絡がありました。うちのセロもいい友達ができたって喜んでいました。よろしくお願いいたします。」


今度はマーサが頭を下げる。


「マーサ様、私、早く来ちゃったみたいなので、何かお手伝いさせて下さい!」

「そんな、招待したお客様にお手伝いなんて。休んでてくれていいのよ?」

「もともと、セロ様やナナ様にお礼がしたいって思っていましたので!是非!」


そう言って店内の清掃を始めるリナ。



そして開店の時間になった。

人気店であることを証明するかのように、どんどん席が埋まっていく。


「リナさん、そろそろみんな帰ってくると思うから2階へどうぞ。」

「はい!ありがとうございます!」


2階で待っていると、酒場の裏手にある外階段から大勢の人間が2階に入ってきた。そしてその先頭はナナだった。


「ぷりんぷりん!!」


そんな掛け声とともに扉が開け放たれる。そして中にいたリナと目が合う。


「ん?誰だ?見ない顔だな?パンツ穿いてるのか?」


メイド姿のリナを店員と勘違いし、オルガンのノーパン酒場構想を真に受けているナナだった。


「ナナ様、初めまして。って、ええっ!?パンツ穿いてたらまずいんでしょうか?」

「ここでパンツを穿いていいのは客だけなんだぞ?あたしはそれを覗くのが仕事なんだ。」

「そっ、そんな。脱がないといけないんでしょうか…?」


やってきたセロがナナを抱き上げ、


「ナナ、それ違うからね?」


そして次々と入ってきた商会メンバーや日冒部員達が2階の席を埋めていく。


「もしかして、リナっていうのは君の事?俺はセロ。よろしく。」

「あたしはナナだ。そんでそっちの可愛いのがジルで、雑魚っぽいのがロッテ。変なのはくるくるだ。」

「親分!もう少し違った紹介の仕方をして下さい!」

「私は変ではありませんわ!!それにくるくるではなくエトワールです!!」


「ふぅ。困ったやつらだ。」


リナへの紹介をやり直すナナ。


「兄ちゃんのパンツを穿いているロッテと紐でできたパンツを穿いているエテ公だ。ジルのパンツは青の縞々だ。」


「親分!その言い方だと私が男性用の下着を穿いている変態さんに聞こえます!!」

「エテ公ではありませんわ!エトワールです!!それに普段は普通の下着ですわ!」

「ナナちゃん!?いつのまに私の下着を!?それにパンツの紹介をしてどうするの!?」


三人からよってたかってほっぺたを引っ張られるナナ。


「むにゅう!!?」


そして床に手をついているアラン。


「ロッテさんは自分の下着の所有権がセロにあるという部分は否定しない…わかっちゃいたんだ…けどやっぱり…」

「ちちち違います!アランさん、誤解してはいけません!!」


真っ赤になってあたふたするロッテ。


「ごめんね、リナ。初対面なのに騒がしくしちゃって。」

「い、いえ!少し驚いただけです!大丈夫です!」

「アラン、落ち込んでないでそろそろリナの事、みんなに紹介してくれよ。」

「え?セロ様、皆さん私の事を聞いていないのですか?」

「ん?ついさっきだよ?リナの話を聞いたのは。」


リナは考え込んでいる様子だ。何かおかしい。


「セロ様、私がセロ様にお礼を言いたいからと、アラン様に橋渡しを願ったのは今朝のことなんです。」

「今朝?朝に言われたのは決闘を申し込むだとか拳で語るだとか、そんなことだったけど。」


ぐるりと反転し、這いつくばるアランを見下ろすリナ。


「アラン様!!!」

「い、いや、リナ。これには男にしかわからない深い事情があってだな…」



そしてお説教が始まっていた。



そしてテーブルに大量の料理が運ばれてくる。

王都にある材料を使用した物もあるが、主菜となるのは害獣の肉料理となる。廃棄場の果実や野菜も人気メニューとなっている。


これらを常食していた廃棄場の人間は平均魔力も高い数値を示す。

そんな説明を受けたエトワールは、


「この食事がナナさんの膨大な魔力の秘密!?」


そんなことを言って必死に肉を食べる。


「あら?でも普通に美味しいですわ。いえ、むしろ王都に流通している肉と比較してもかなり上質な部類なのでは…」

「うん。私も初めて食べた時はそう思ったよ。」


ジルは普通にフォークとナイフを使い、小さく切り分けて食べている。


「がるる~!!」


ナナだけはナイフを使わず、フォークに刺した肉に直接かぶりついている。口の周りはソースだらけだ。


「ナナさん!?下品ですわよ!?」

「くるくる、あたしは切る暇があれば食べたい。そんな女なのだ。」


アランとリナも、初めての肉の味に驚いている。


「うめぇ!あの化け物共の肉がこんなにうめぇとは!」

「本当ですね、アラン様。すごく美味しいです。」

「へっへっへ、俺達が狩ってきた獲物は美味いだろう?リナ。」

「お礼に来たはずなのにこんな美味しい食事まで頂けるなんて申し訳ないです。」


「お礼なんていいのに。結局俺も魔女さんにやられちゃったし。」


と、やってきたセロはリナに声をかける。


「そんなことないです。セロ様はとっても素敵でした。」

「魔女なぁ、あの女もとんでもなかったが空飛ぶ美女もすごかったよなぁ。」


魔女の話題を聞きつけたナナもやってきた。


「マゾはあたしが倒す!!」


ソースだらけの顔で宣言するナナを後ろからロッテが捕まえて、その顔をぬぐっている。


「もう、親分。お口の周りが大変なことになってますよ?」

「むぐぐぐ…」


その横で、食べ終わったアランとセロが話し始めた。


「そういえばセロ、次があるとかって言ってたよな?あの魔女、また来るのか?」

「魔女さん本人とは限らない。新たな鬼だったりするかもしれない。あちらさんの保有戦力は不明だから。」

「今度は俺も戦う!こないだの襲撃の時みたく、見てるだけはもういやだ!」

「アラン様!?一体何を?」


リナは心配のようだ。


「大丈夫、アランは強くなれる。今すぐってのは難しいけど、しばらくすれば驚く程に成長していると思うよ?」

「本当か?セロ!」

「才能はナナの保証付きだ。さぼったりしなければ大丈夫。」


アランは自分の拳を見つめて嬉しそうにしている。


「アラン様?また拳が熱いとか言っていきなり妙なトレーニングを始めたりしたらダメですよ?」

「え?何その脳筋行動?」


「俺は脳筋じゃねぇ!!頭脳プレイとか超得意だ!」

「うむ、軽度の脳筋だな。脳筋は重度になると筋肉で会話したりするらしいからな。本で読んだんだ。」


顔をぬぐい終わったナナが返答する。そしてそのままセロと会話している。


「軽度って?なんか違うの?」

「できないのに頭脳プレイとか言ってるあたり、脳筋の初期症状に似ている気がする。」

「知略と力技の区別がついてない的な意味?」

「おっちゃんと一緒だ。こないだ知恵の輪を外してくれって頼んだら引きちぎってた。」


再度床に手をついて落ち込むアラン。


「俺はそんな風に見えるのか…」



2階にあがってきたハンナがきょろきょろしている。ナナを探しているのだ。


「プリンだ!!」


ナナはハンナの元に駆けていき、ハンナの持った盆に手を伸ばしてぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「ナナ様?プリンが落ちちゃいますよ?」

「ハンナ!あたしプリン食べたい!!」


空いている席に座り、夢中でプリンを食べているナナ。



そしてナナが食べ終わるのを待って、日冒部の面々はそれぞれの家へ帰宅していった。




それから数日が過ぎた。


日冒部は前日の移動で、海都の前に道標を設置する所まで来ていた。


そしていよいよ海都に入る当日、部室にて活動前のミーティングを行う。


「実はね、北や西にもすでに手を伸ばしてるんだ。」


ビフレスト商会の販売する素材や、それを元に製造された製品を他の都市で販売する行商人。

彼らの道中の護衛任務を請け負った諜報組のメンバーに持たせた道標もしばらくすれば各地に到着する。


セロは部員達にそんな進捗状況を説明していた。


「兄ちゃん、いつのまにそんなことやってたんだ?」

「日帰り冒険の話がでてすぐかな?移動とかかったるいだろ?転移できるんだから。」

「すげぇ!さすが兄ちゃんだ!」

「そこから先の移動は魔導車になりそうだけど、国内くらいは楽しないとな。」


「さぁナナ、お刺身が待ってるぞ。」

「兄ちゃんも一緒に食べような!な!」

「もちろん。俺はお刺身も楽しみだけど、海を見れるのも楽しみだ。」


セロとナナにとっては初めての海。


ナナは期待に胸をときめかせつつ海都への転移門を開いた。

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