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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
11 白銀帝国
236/236

193 提案

南北に伸びた白銀帝国の国土の南端。


この辺りまでくれば、積もった雪の量も少なくなり、足元には土が露出し始めている。


僅かではあるが帝国の過酷な寒さも和らいでいるようだ。



「どうやら我々が一番乗りのようだな。」


「そのようですな。他の部隊は見当たりませんぞ。」


部隊長と副官は白い息を弾ませながら話していた。



先行して帝都を出立していたとある部隊は、すでに南の国境壁を視認できる位置まで辿り着いていた。


彼等はナナ達が帝都を訪れる以前より、先行偵察隊として派遣されていた部隊の一つだ。


国境の状態の監視が主な任務ではあるが、王国への追加派兵が決定すれば国境門を通過してラムドウルを制圧しているバルディアへの伝令役も兼ねていた。



「よし。命令通りここで待機だ。別命あるまではここから国境を監視する。」



部隊長の指示に従い、兵達が機敏に動き始める。


一部の兵は国境門を監視できる位置で待機。


他は門側から視認できない位置に天幕を張り、食事や寝床の用意だ。



「しばらくは退屈な監視任務か……。」


「さっさと壁の向こうに行ってお宝にありつきたいもんだな。」


兵達はぼやきながらも手を動かす。


その様子からは緊張感等はまったく感じられない。



そんな時、高所から国境門を睨んでいた兵から声が上がった。


「おおい!何か変だぞ!」


「どうした!?」


周辺で作業に従事していた兵達も手を止めて集まってきた。



しばらくすると異常を察知した部隊長と副官も監視員の元へ姿を見せた。


「報告せよ!」


「はっ!!外戦顧問殿によって解放されたはずの国境門が閉ざされております!!」


「何だと!?バルディア殿は扉自体を撤去して国境門を完全開放したのではなかったのか!?」


監視員は今一度筒状の魔道具を覗き込み、国境門を確認した。



「たしかに扉は撤去されているようですが、門は岩石と土砂によって埋められております!」


「これは一体……。」


部隊長は愕然となり思考を停止させている。


「……っ!帝都に早馬を出せ!アイギアス殿下にこの事を伝えるのだ!」


「はっ!!」


惚けている部隊長に代わって副官が命令を出し、兵の一人が慌ただしく出立する。



「残った者達は監視と偵察だ!早急に国境門の状態を確認せねばならん!」


帝都へと引き返す兵を見送った後、残った兵達もまた、慌ただしく状況に対応していった。





その頃、地下の実験室に立ち入ったナナは早速騒いでいた。


「ひゃっ!!?ちべたいぞ!!」


ロッテに抱っこされているナナは首筋に落ちた水滴に反応している。


「親分、ちべたい、じゃなくて冷たい、と言って下さい。」


ナナは自分の首筋に落ちた水滴を掌で拭い取ると、その手をそのままロッテのほっぺたにぺとりとくっつけた。


「親分の驚きを知れ!!」


「ちょっ!?何をするんですか!?親分は大人しくしていて下さい!!」



直前まで大量の水で洗浄されていた実験室は完全に水浸しだ。


そこら中からポタポタと、雨のように水滴が落ちている。



「親分は濡れるのは嫌だ。」


ナナは頭上に傘のような巨大な障壁を張って水滴を防ぐ。


同じく濡れるのを忌避した仲間達もナナに近寄り、その傘の下に入ってきた。


しかしセロだけは濡れるのも構わずに室内を観察していた。



円筒状の部屋、その最上部の踊り場の端で手摺から身を乗り出したセロは下を睨んでいる。


第一皇女が栽培していたという何かは完全に水没しており、その全容を窺い知る事はできない。


「うっすらと紫色の何かが見えるな……。あれは花のようにも見えるけど……?」


セロが水中に視認できたのはそのくらいだった。



真剣な表情で下方を見つめるセロの元へワンダー・リンリンが歩み寄る。


魔女人形は濡れるのを嫌ってか、部屋の入口で待機したままのようだ。



「そうそうっ!その花みたいに見えるのがあのクソ女の切り札のひとつだよっ!」


リンリンはいつもの調子で話してはいたが、その眼は微かに細められ、怒りの感情が見え隠れしているかのようにも感じられた。


「以前にこれの被害に遭った人の事を思うとねっ!こんなものさっさと処分してしまいたいところだけどっ!殿下はクソ女をもう少し泳がせておくお考えなのさっ!」



「今は水没してるから安全だけど、平常時だとあの紫色のやつが毒を吐き出す。でいいのかな?」


「うんうんっ!そんな感じっ!その毒は目に見えないほど小さくて軽いから、大気中を漂うんだ。吸い込めば極少量でもすぐに致死量に達する危険物なんだよっ!」


下方に見える水には、その危険物が大量に含まれているので絶対に近寄ってはならない、と念押しされた。



「いいか、ロッテ。下に行ったらダメというのは、実は親分が下に行けるかどうかを試しているんだ。親分はどんな挑戦からも逃げない。だから親分は下に行ってみないといけないんだ。」


「全然違います!親分が下に降りたら危ないから行ったらダメなんです!!」


ナナはロッテの制止を聞き流してどうやって下に降りようかと考えているようだ。


「親分の障壁で階段を作ってそれに乗って下りて行けば簡単だぞ?」


説得に効果なしとみたロッテはナナを抱く腕に力を込める。


「私は絶対に親分を離しませんからね!」


「こら!ロッテ!子分が親分を拘束するとは何事だ!」



「ナナちゃん、大人しくしてないと、めっ!」


「ジル!めってするな!」


「ナナさん!?暴れてはいけませんわ!!」


「くるくる!貴様!」


ジルとエトワールもナナを止めようとロッテを手伝っている。



「またか……。」


アランは濡れるのを嫌ったミケとクルルとトラを抱いて、暴れるナナを眺めては嘆息していた。




「むぅん……。」


しばらく暴れていたナナだったが、唐突にぷるぷるとその身を震わせた。


「ロッテ、親分しっこ。」


どうやら室内の水気のせいか、ナナは尿意を感じ取っていた。


ナナはさらにぷるぷると激しく震える。


「ロッテ、親分もれそう。」


「すみません、親分をトイレに連れて行きます!」


ロッテはこれ幸いと言わんばかりに、手際よくナナを抱いたまま退室した。


ジルとエトワールもそれについていき、ナナがいなくなったことで傘になっていた障壁も消失。



「傘もニャいのに雨の下のいるのはアホのすることニャ!」


「そうニャ!アホニャ!」


濡れるのを嫌ったミケとクルルはぺちぺちとアランを叩く。


「わかったから落ち着け……。」


「やれやれニャ。」


ニャンニャン達を抱いたアランも少し遅れて実験室を出ていった。



「はぁ~、ようやく静かになったよっ!お兄さんはどうする?一人になっちゃったけどっ!」


水面を眺めていたセロは顔を上げると、扉へと足を向けた。


「うん、ここにはもう用はないかな。俺も戻るよ。」


「それがいいよっ!あと、ここは本当に危険だから、もうナナを連れてきたら駄目だよっ?」



全員が退室し、ワンダー・リンリンはしっかりと気密扉を施錠する。


「さて、お兄さん。騒がしいナナがいなくなって都合がいいから今後の話をしてもいいかなっ?」


ワンダー・リンリンと魔女人形は一人残ったセロに話し始めた。



元々の依頼であった貧民の救出は完了。


追加の依頼である皇族との接触も、第一皇女を以外は済んでいる。


「現状を知って欲しかったからねっ!とりあえず追加依頼も完了って事にしようっ!」


「ん?じゃあ俺達の役目も終わりって事でいいの?」


ワンダー・リンリンはにっこりと微笑み、魔女人形がセロの問いに答える。


「依頼が完了したとは言っても、ここで終わりというのも物足りないでしょう?」



結局、帝国の二度目の侵攻は止められなかった。


セロは確かに決着が気になったし、仲間達もそれは同じだろうと考えた。



「王国の防衛側で参加するのもいいけどっ!どうせならリン殿下の護衛として参加してみないっ?」


「そうね。皇太女殿下は参戦の意思はないから王国と戦う必要はないし、身の安全は保障するわよ?」


今回の侵攻における、王国側からはわからない帝国側の情報が手に入るかもしれない。


「エメラダさんもいるし、リンさんに護衛が必要とは思えないけど……。」


「いやいやっ!それには私達にも事情があってねっ!君達が手伝ってくれるといろいろと都合がいいんだよっ!」



侵攻時の日中の護衛は、エメラダ一人だけでも過剰なくらいの戦力となる。


さらに人狼フォボスも同行するらしく、侵攻中のリンの守りは完璧であると思われた。


「ただ、寝込みを襲われたりしてもつまらないしねっ!二人も昼も夜も護衛に気を張るのも大変でしょっ!?」



ワンダー・リンリンの提案は、日が落ちれば転移で王都に帰還するセロ達に皇太女リンも同行できないか、という申し出だった。


王都に転移してしまえば他の皇族達が皇太女リンに干渉する事はできなくなる。


「日没後だけでも護衛から解放されてゆっくりできるというのは私も歓迎するわ。」


「ねっ!?安全も確保しつつっ!護衛に関わる全員が楽になってっ!尚且つ君達は結末を見届ける事が出来るんだよっ!どうかなっ!?」


「う~ん……、俺個人としては構わないんだけど、帝国の皇太女殿下が単身で王都入りって大丈夫なのかな?」


「それは持ち帰って相談してみてよっ!王国側だって殿下と接触できる機会が得られると考えれば悪い事ばかりじゃないと思うしねっ!」



「わかったよ。ならみんなの意見を聞いてから、明日返答するね。」


セロは皆と合流するべくリンリン達と別れ、階段を登って行った。

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