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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
11 白銀帝国
230/236

187 遅刻

皇太女リンの隠し部屋から転移で帰宅し、翌日の朝。



「ぷぁっちゃ!ぽああああっ!!!!」



ビフレスト商会の中庭にて、ナナは奇声とともにぶんぶんと手足を振り回す。


「ニャニャ、どうしたニャ?」

「ニャにをしているのニャ?」


それを見ていたミケとクルルはナナの奇行について質問していた。


「フフフ。これはあたしの七星爆裂拳の型なんだぞ。あたしは伝承者なんだから修業は大事なんだ。」


そう言って機嫌を良くしたナナは奇妙な踊りのようにしか見えない修行を再開させる。




「ふぅふぅ、あたし疲れたぞ。今日の修業はこのくらいで大丈夫だ。」


そして5分もしないうちに息切れして修行を終わらせた。



休憩しながらもきょろきょろと辺りを見渡す落ち着きのないナナは何かを見つけて立ち上がった。



「おい、お前達。親分と遊ぶぞ。」


中庭の片隅に移動したナナが声をかけたのは、子分にして廃棄場から連れ帰った子供達だ。


そこは子供達が使用している住居の傍だった。



「親分、俺達これからお仕事のお手伝いがあるんだ。」


「そんなことより親分と遊ぶんだぞ。」


問答無用で子分達を連れ出そうとナナが近付いていく。



「臭いニャ!?」


「毒ガスニャ!?」


真っ先に異常に気が付いたのは嗅覚に優れたミケとクルルだ。


「ぐおっ!?うんこの匂いがするぞ!?」


少し遅れてナナも異臭を感じ取って鼻をつまんで立ち止まる。



「親分、実は……。」


子供達は俯いて、ナナに事情を説明した。



「ここ、雨もあまり降らないし、匂いが消えないんだ。」


外界での便所を知らない廃棄場の子供達は、これまでと同様に穴を掘って排泄を行っていたようだ。


廃棄場であれば、用を足して埋めておけば短時間で匂いがしなくなる。


虹素を含んだ土に埋める事で、外界とは比べ物にならない速度で分解されるのだ。



当然、ナナにはそのような知識はない。


匂いが消えない理由も説明できないので、子分達には別の対処法を教えてやることにした。


「うんこは便所でするんだぞ。親分が教えてやるぞ。」



うんこのやり方についてはナナは毎日試行錯誤を繰り返している。


立派なとぐろを実現させるべく、ナナは研究に余念がないのだ。



子供達の住居にずかずかと入って行き、便所の扉を開ける。



部屋の中央に木製の大きな穴の開いた円形の台が据えられていた。


隅には尻を拭くためのボロ布や、使用後に流す水が入った樽が置かれている。



「親分、これは何だ?」


「これはうんこする台だ。便器って言うんだぞ。」


子供達は便器の使い方がわからなくて、便所は未使用となっていた。



「使い方はこうだ。」


ナナは便器によじ登る。


そして便器の穴を跨いで立ち上がった。



「ここでふんばるんだ。気合が足りないと床に落ちたり穴の中のうんこを踏んだりするから気を付けるんだ。」


そのまま屈み、便器の上でふんばる格好になった。



この便器は椅子のように腰掛けて使用するタイプのもので、ナナの使い方は間違っていた。


しかしこの場にそれを指摘できる者はいなかった。



「この体勢でうんこするんだ。そしてうんこが出て来たと思ったら尻を回転させるんだ。ひねるようにやるのがコツだぞ、いいな?」


そう言ってナナは便器の上で尻をクネクネと動かす。



「熟練者の親分でも今のところ2段が限界だ。だが1段と2段の間には大きな壁があるんだぞ。うんこの道は長く険しい。お前達も励むんだぞ?」



子供達は1段とか2段とか言われてもよくわからなかったが、とりあえず排泄の方法はわかったのでこくこくと頷いた。


便器の使い方は間違っていたが、おかげで中庭でうんこする子供はいなくなることだろう。



ナナの便所講座が終わったところで、一人の子供が前に進み出た。


「親分、俺、うんこしようと思って穴を掘ってたら変なのがいたんだ。」


子供はナナにとあるものを差し出した。



「これは……!!」


ナナの両目が大きく見開かれ、その瞳は黄色に輝いていた。





「親分!何処ですか!?」


「ナナちゃん!何処にいるの!?」


中庭でロッテとジルがナナを探している。



今日も帝都に赴く予定になっているが、移動は転移門を使用するのでナナがいないと始まらないのだ。


「もう!ちょっと前まで変な叫び声がしてたからここだと思ったのに……。」


「う~ん、遠くには行ってないとは思うんだけど……。」


セロは辺りを見渡すが、中庭周辺にはナナの姿は見当たらない。



「ニャニャの匂いは残っているニャ。近くにいるニャ。それとニャんかあっちが臭いニャ。」


捜索を手伝っていたトラも戻ってきた。



探しているうちに、通用門の方からアランとエトワール、それと護衛としてルーシアもやってきて中庭に集合した。


「セロさん、シャルロッテ様、今日も姫様をお願いします。」


ルーシアの護衛はここまでで、この後は近衛騎士団の訓練についてオルガンに相談事があるらしく店舗の方に足を向ける。


「あ、ルーシアさん、待って下さい。」


ロッテはルーシアを呼び止めた。


「帝都での帝国軍の動向について報告を受けていますか?小父様はどう対処されるのでしょう?」


「ああ、すみません。気になりますよね。昨夜、姫様からも報告がありましたが、すでにバルディア殿からも連絡が届いておりましたので、対策は進めておられます。」



まず、城塞都市ラムドウルの帝国戦力だが、新たに南下してくる帝国軍と協調するつもりはないそうだ。


ただし、先日より転移門を通じて大量に避難してきた帝都難民の受け入れ対応によってラムドウルの帝国軍はその大部分が動かせない状態にあるらしい。


援軍要請には可能な限り応じるというバルディアとの一応の約束はあるが、基本的に防衛は王国軍のみであたることになったようだ。



南のドランメル要塞に駐留していた連邦陸軍は現在、ブリーズランドとの境界にある丘陵地帯でベルフェン氏族の軍勢と睨み合っている状態だ。


こちらからは完全に援軍は望めない。



王国軍の対応としては、バルディアによって一度解放された北の国境門を再度封鎖。


国境の城壁を利用して兵力差を埋める形での防衛が計画されている。



「ルーシアさん、ウチの商会には何かあるの?」


ビフレスト商会は人数こそ少数だが現在では王国の最大戦力と目されている。


セロは当然のように商会にも何か役目があるものだと考えていた。


しかしルーシアは首を横に振ってそれに応える。


「騎士でもない、王国軍に所属している訳でもない商会の方々を戦場に送り出すことは可能な限り避けたいというのが宰相閣下の方針です。」



王国貴族達の中には商会の参戦を強制するべきだという意見もあったそうだが、レギオン宰相はそれを却下したそうだ。


「ただ、オルガンさんと商会の狩猟隊から数人、あ、そっちは近衛の者と懇意にしている方らしいのですが、個人的に従軍して下さるんだそうです。」


希望者のみが数人だけ参戦する、ということだそうだ。



(こっちは大丈夫っぽいかな……。)


オルガンの参戦、それを聞いただけでセロは安心して息をついた。



「で、ナナさんは何処にいますの?」


何気ないエトワールの言葉と、ナナとミケとクルルが中庭に戻って来るのはほぼ同時だった。



「きゃあっ!!親分!!何を握ってるんですか!!?」


ロッテはナナが掴んでいる物体を見て声を上げた。



「むん?こいつはホワイトファングだ。うんこ穴の中にいたんだ。」


それは芋虫のような形状の幼虫だった。


体表は真っ白で、胴体はナナの腕くらいの太さがあり、かなり大きい。


どうやらナナは子供達から受け取った幼虫にホワイトファングという名前をつけたようだ。



「今からこいつを母ちゃんの所に持って行って料理してもらうんだ。うまそうだぞ。」


ナナはせっかく名付けたホワイトファングを食べるつもりらしい。



「そんなの食べちゃ駄目ですっ!!」


「うんこ穴って、トイレの中で捕まえた虫を食べますの?あり得ませんわ!!?」


「ナナちゃん!?そんなとこにいた虫を手掴みしないでっ!!!」


すっかり大騒ぎになってしまった。



「むむん?うまそうなのに何でみんな騒ぐんだ?食べたいのか?ダメなんだからな?あたしのだぞ?」


ナナは捕食者の目でホワイトファングをじっと見つめる。


そんな目線に何かを感じ取ったのか、ナナの手の中でホワイトファングはもぞもぞと体を動かす。



「痛っ!?」


ナナはなんかちくっとした。


よく見るとホワイトファングは自身の胴体を鷲掴みにしているナナの中指に噛みついていた。



「こっ!この虫けらがぁっ!!」


叫んだナナは目を閉じて反射的にホワイトファングを投げつける。



「ぷっ!?」


ホワイトファングはナナの正面にいたロッテの顔面に激突し、そのままぽとりと地面に落ちた。



「痛いぞ。ロッテ、親分の指をフーフーするんだ。」


ナナは噛まれた指を差し出し、ロッテはぷるぷると震えている。



「ロッテのメガネに変な色の汁がついてるぞ?何の汁だ?」


そう言った途端にナナは微笑んだロッテに顔面を掴まれた。


「!!?」


「皆さん、すみませんが親分をお風呂に入れてきますので少し待ってて下さい。」


帝都での活動のために全員が正装、なのにナナだけが普段着でいつものように遊び回っていたので当然の措置だった。



「!?……!!?」


じたばたともがくナナはロッテに連行され、残った者達が嘆息する中、ジルは地面に横たわるホワイトファングに治療魔術を施していた。



こうして、予定よりも大幅に遅れてナナ達は帝都に向かうことになった。

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