185 会話
「え~っと!ぶっちゃけてしまいますとっ!救助対象者の避難が完了した時点で依頼は完了だよっ!」
ワンダー・リンリンは力強く言い切った。
「あとはリン殿下と皇帝陛下を帝都から退避させたら完了っ!って事になるんだけど、帝都はこんな状況だからねっ、リン殿下はまだやることがあるから救助はちょっと待ってねっ!」
帝都に残留した勢力の中でも最大派閥である第一皇子派が南への侵攻を企てている最中、皇太女であるリンが何もせずに脱出する訳にもいかない、という事にも皆が納得を示した。
「ムッフフ。」
おかわりを要求してご機嫌のナナは椅子に戻り、それに続いて配膳係のメイドがやってきた。
「追加の白銀プリンにございます。」
ナナの前に新しいプリンが配膳された。
「うむ。今度のもうまそうだぞ。あたし褒めてやる。」
「ご満足頂けて料理人も喜ぶと思います。」
丁寧にお辞儀したメイドは緊張しつつもどこか困惑した様子で後ろに下がった。
ナナがプリンを食べ始めたのを見計らって、その隣に座っているセロが口を開いた。
「なら明日以降は皇帝ってのを脱出させることに注力すればいいのかな?」
「こちらからの要望としてはねっ!必要最低限ってことならそうなるかなっ!でも君達だってここでやりたい事とか出来たんじゃないのっ?」
ワンダー・リンリンは自分の発言に確信を持った様子で微笑む。
情報収集によりいろいろと見知ったことで、何か思うところがあるのではないか、ということだ。
ガツガツとプリンを頬張るナナを挟んで、セロとロッテが互いに向き合った。
「王国に向けて侵攻しようとしている勢力を前にして何もしない、というのはちょっと……。」
ロッテが最も強く思っているのはそれだった。
自国に攻め込む事が確定している勢力が目の前にいて、自分達に何か出来る事はないかとずっと考えていたのだ。
侵攻そのものを止めさせる。
それが出来ればベストだが、出来ないにしてもどうにか双方の被害を減らす事は出来ないか。
今のところ、ロッテの脳内ではよい方策は浮かんでこない。
「それにロッテはラスティーヌさんと何か約束してたよね?」
「はい、情報提供の対価として、望まれれば帝都からの脱出に助力すると言ってあります。」
もぐもぐ。
「親分はナナチーヌだぞ?」
「はいはい、親分、食べながらお喋りするのはお行儀が悪いですから……。」
ナナのお口の周りに付着した食べカスをロッテがぐりぐりと拭き取る。
「帝都の状況をレギオン宰相に伝えておきたいのですけど、よろしくて?」
タイミングを計っていたエトワールの発言だ。
「ああ、うんっ。いいんじゃないかなっ!バルディアからそちらの宰相には伝えてあるはずだけど、君達の口からも教えてあげるといいよっ!」
帝国からの侵攻があるのなら、すぐにそれを知らせねばならない。
エトワールはそれを知ってからというもの、内心では早く国元に伝えたくてそわそわしていたのだ。
「リンリンさん、リン殿下は帝都で何をやろうとしていらっしゃるのですか?」
ナナのお口を拭き終えたロッテは気になった事を尋ねた。
「んんっ?気になるかいっ?」
「帝国の侵攻に関しての事なのかと思いまして。場合によっては協力できることもあるかもしれませんから。」
もぐもぐ。
「こらロッテ。」
もぐもぐ。
「そんなことより大事なのは……。」
もぐもぐ。
「このプリンを作った奴だ。」
もぐもぐ。
「このプリンは実にうまいぞ。」
ごっくん。
「だから親分はこれを作った奴を子分にすればいいと思うんだ。」
「……。」
「むぅっ!?」
ロッテは無言でナナのお口をぐりぐりと拭いてとりあえず黙らせた。
改めてワンダー・リンリンは会話を再開する。
「リン殿下の私的な要望に関しては私達が全面的に協力しているからねっ!そこは気にしなくても大丈夫だよっ!」
ワンダー・リンリンの言う私達、それが変革機関と名乗る組織を示していることはすぐに察しがついた。
リンにはすでに十分な助力が与えられているということだ。
「リンさんの私的な要望って?」
今度はセロからの質問だ。
もぐもぐ。
「おい、おまえ。まだおかわりはあるのか?」
真面目な会話中であってもナナは構わずメイドに質問した。
「……。」
ぐりぐりぐりぐり。
「!?」
ナナの質問はロッテの顔面ふきふきによって封じられ、呆れた様子のワンダー・リンリンはセロを見る。
「殿下のプライベートだからねっ!それを私の口から言う訳にはいかないなっ!」
その返答も予測していたのか、セロはそれ以上の質問をしなかった。
「あとね、シャルロッテお嬢様には申し訳ないんだけどっ、君達が侵攻を実行しようとしている勢力に直接干渉するのは無理っ、というかかなり難しくなったんじゃないかなって思うよっ!」
ワンダー・リンリンの発言に、皆の目線がナナに集中する。
当人はまったくそれに気付かずにプリンを食す事をやめようとしない。
「そうですね。私もそう思います……。」
がっくりと項垂れるロッテ。
その理由は、侵攻勢力のトップである第一皇子アイギアスに対してナナが行った蛮行が原因だ。
アイギアスは自身に暴行を加えたのがナナだと気付いていないかもしれないが、暴行現場は他の皇族にも目撃されているので遠からず事実は伝えられるだろう。
次にアイギアスと接触すれば、交渉以前に即座に捕らえられる事は想像に難くない。
リンとの繋がりを考慮されなければ、できるかどうかは別としてそのまま処刑というケースも十分に考えられた。
「本人との交渉は無理だと思った方がいいねっ!そうなると、手段は限られてくるかなっ!」
限られた手段についてロッテは考える。
アイギアス本人が駄目ならさらに上位の人物。
帝国においてアイギアスに対して命令権を持った人物との交渉だ。
対象となる人物は二人だけ。
現皇帝ガルシア・ヴェイン・グラシアルと次代の皇帝となる皇太女リンである。
プリンを食べ終えたナナはさりげなく椅子を下りて付近に待機していたメイドの元へ。
同じく最初のプリンを食べ終えたミケとクルルもナナを追いかける。
「リン殿下はさっきも言った通り、ちょっとやる事があるから残念だけど手伝ってあげられないよっ!」
そうなれば残るは一人だけ。
「では皇帝陛下への謁見は叶いますか?」
「謁見はどうかな~?うん、無理かもしれないけどっ、一応救助対象なんだから接触してもらわないとねっ!」
ロッテはこれまでのワンダー・リンリンの言動から、今後の行動について考える。
謁見という形を取るのは難しい、なので接触は秘密裏に。
これは最初から言われていたことでもあるので問題ない。
しかしナナの蛮行によって、アイギアス派閥の者に露見しないように実行せねばならないという条件も追加されてしまったことは想定外だ。
さらに、接触がうまくいったとして、救助の前に第一皇子派閥の王国侵攻に関して接触した皇帝と交渉することも視野に入れる。
こちらについては、全力を尽くすつもりではあるが、実現は難しいと思われた。
今後はリンの助力が期待できないという事実もロッテのそんな考えに拍車をかける。
(侵攻の阻止……、は難しい。なら、ここにいる私達に出来る事、それは……。)
ロッテは打開策を懸命に考えていた。
「おい、あたしにおかわりを寄こすんだ。」
ナナはメイドのスカートを引っ張っている。
「よこせニャ!」
「よこせニャ!」
ミケとクルルもナナの真似をしてスカートを引っ張っている。
そしてナナ達は慌てて駆け付けたジルとエトワールに取り押さえられ、メイドの口からは絶望的な一言が告げられた。
「申し訳ございません。白銀プリンは先程お嬢様に配膳させていただいた物が最後だそうです……。」
「何っ!?もうないのか!?すぐに作れって言うんだ!!」
「白銀プリンに使用されている材料には帝国では手に入らない貴重な物も含まれているそうで、材料がなければさすがに追加は難しく……、すみません。」
「……。」
しょぼんとなったナナ達はとぼとぼと席に戻っていった。




