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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
11 白銀帝国
225/236

182 赤

壁上通路の中間地点、内壁支柱の屋上では赤い道化とナナが睨み合っていた。



「中ボス~?お嬢ちゃんは何を言ってるんですか~?」


強敵との相対に胸を躍らせている感じになっていたナナはその声を聴いた瞬間にぷりぷりと怒り出す。


「何だお前は!変な喋り方だぞ!もっと中ボスらしくしろ!!」


どうやら赤の道化の間延びした話し方はナナのお気に召さないようだ。



「中ボスらしくと言われましても~。これが私ですから~。」


「ふふん。中ボスは所詮やられ役なんだぞ?しかも相手は最強美少女であるあたしだ。お前はもう終わりだぞ?どうするんだ?」


「どうするんだ?と~、言われましても~。私はお嬢ちゃん達を通せんぼするだけですが~。」


「何っ!?通せんぼだと!?あたしは奥へ行きたいのに邪魔をするのか!おまえ、生意気だぞ!!」



ほんのわずかなやり取りでヒートアップしていくナナ。


文句を言いながらつかつかと道化に歩み寄ったナナは瞳を真っ赤にして、じろじろと不躾な目線で道化を観察する。



「そもそも何だその恰好は!!変なお面までしやがって!寒くないのか!!馬鹿っ!おまえ、馬鹿っ!!」


「寒いのに厚着をしニャいのはアホのすることニャ!!」

「そうニャ!こいつの服はアホ着ニャ!!」


ナナに続いてミケとクルルも赤の道化に向けて文句を言う。



「……言ってくれますね~。なんて失礼な子供達なんでしょうか~。」


赤の道化は仮面に隠れて表情こそ分からないが、ナナの言動に対し微かに体を震わせている。


予想外の反応に少なからず動揺しているようだ。



その動揺を気取られぬ様、間を取った赤の道化は改めて言葉を発する。


「薄着に見えても私は寒くなんてないですよ~。能力で暖かくしてますから~。お嬢ちゃんこそそんなドレス姿で寒くないんですか~?ここ~、屋外ですよ~?」


ナナは間髪入れず即座に切り返した。


「馬鹿め!あたしの暖房拳によってこの服はぬくぬくになっているんだ!!」


いつのまにか加熱付与を暖房拳という技名に変更していたナナは自慢げに胸を張る。


「暖房拳~?付与魔術じゃないんですか~?」


初対面のはずの赤の道化は何故かナナの付与魔術に気付いていた。


「怒りは服をぬくぬくにする!暖房拳の神髄すら忘れたか!!」


「ニャ!」

「ニャ!」


しかし向き合う一人と二匹はそのことにまったく疑念を抱かずひたすら悪口攻撃を繰り返すのだった。



「やれやれニャ……。」


ナナ達の背後で様子を見ていたトラはひっそりと嘆息した。




ナナと赤の道化の不毛な会話はしばらく続き、その間に遅れていたジル達が追い付いてきた。


「はぁ、はぁ、やっと追いついた……。」



必死に走ってきたジルは息を切らせつつも到着するなりナナを捕まえる。


「ナナちゃん!めっ!」


「こらっ!ジル!何をする!あたしをめってしたら戦えないんだぞ!?」


ジルの拘束に対しナナはじたばたと手足をばたつかせて抵抗している。



「まったく……、ようやく追いつきましたわ。」


「で?あのちっこい赤いのは何だ?」


エトワールとアランも支柱の屋上にやってきた。


鍛えているアランは平然としているがエトワールは肩で息をしている状態だ。



「失礼なお嬢ちゃんの~、保護者の方々もいらっしゃったみたいなので~、このあたりで自己紹介をしますね~。」


奥側に陣取っている赤い道化は、ナナ達に向けておどけたような様子でお辞儀した。


「私は~、クラウンシスターズの片翼~、ルージュと申します~。」



「え……?」


その言葉に反応を示したのはジルだった。


ジルの背後で服を掴んでいたトラも何かに気付いている様子だ。



「ジルさん?どうしましたの?」


逆によくわかっていないエトワールはジルの様子に首を傾げる。


「この赤いのがどうかしたのか?初対面だと思うんだが……。」


わかっていないのはアランも同様だ。



「アランさん!?アネットさんが言ってたじゃないですかっ!!」


ちょっと前に教えてもらったばかりの事をまったく憶えていない二人にジルは憤慨する。


「んん?何か言ってたか?」


アランは心底わからないという顔だ。



それは帝都の街区で拠点にしていた姉妹の家に暮らすアネットから得た情報だ。



帝都に出没する道化の格好の二人組、クラウンズ。


貴族を対象とした略奪行為はただの一度も失敗したことはない。


その強さは帝国最強と言われている将軍を上回る可能性。



「この人、きっとアネットさんが言ってたクラウンズって盗賊だと思います。」


簡潔に素早く皆に説明したジルはそう断言した。



「盗賊ですか~。自分では一応~、義賊のつもりなのですが~。まぁ~、盗賊であることに変わりはありませんが~。」


ルージュはジルの言葉を否定しなかった。



拘束を抜け出したナナとミケとクルルは話を完全に無視していつの間にか広場の隅で雪玉を作って遊んでいる。


ジルはその様子を横目でちらりと確認し、ナナが雪遊びに夢中になっていることに安堵してルージュへと視線を戻した。



「ルージュさんは私達をどうするつもりなのでしょうか?」


「ん~?どうもしませんよ~?この先に進む~、ということであれば~、その限りではありませんが~。大人しく引き返して下さるなら~、それでいいですよ~。」



ルージュの返答にジルは密かに安堵していた。


セロがいない状況で戦闘になることは絶対に避けねばならないと考えていたからだ。


ナナやアランも強者としてカウント出来ないこともないが、相手の能力が未知数の今、危険は避けたいところだ。



ジルが対応に悩んでいたところ、屈みこんで雪遊びをしていた筈のナナがすくりと立ち上がる。


その足元には大量の雪玉が転がっていた。



「準備できたぞ。ようやく最強美少女であるあたしの出番だ。」


ルージュはナナに向き直るとあきれた様子で言葉を返した。


「あの~、美少女がどこにいるんですか~?」


「ここだ!!あたしのことだぞ!!!」


ナナは地団太を踏んで憤慨している。



「あたし知ってるんだぞ?好きな子や可愛い子にはイタズラしたくなるんだ。つまりこいつが通せんぼして意地悪するのはあたしが可愛いからだ。だからあたしは美少女だ。」


「ちょっと~、何を言ってるのかわかりませんね~。」



「……。」


ジル達は絶句しながらもナナの足元に転がる大量の雪玉に目を見張る。


そしてその用途に気付いて顔色を変えた瞬間、ナナは行動を開始した。



「ふりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃっ!!!」


両腕をぐるぐると回転させるようにして、ナナはルージュに向けて勢いよく雪玉を連続で投げ始めた。


「「ニャニャニャニャニャニャニャ!!」」


ミケとクルルもナナの真似をして雪玉を投げている。



「ナナちゃん!?」


「何でそこで雪玉を投げますの!!?」


驚いて声をあげるジルとエトワール。


対して、標的となったルージュは驚く様子もなく落ち着いて指をぱちんと鳴らす。


すると雪玉はルージュに届く前に空中で静止すると続けて発火、炎上して水となって溶け落ちた。



「いきなり~、何をするんですか~?」


「何だ!?あたしの雪玉がいきなり燃えたぞ!!?」



「ナナちゃん!めっ!!」


すかさずナナを羽交い絞めにするジル。



「こらっ!ジル!めってするな!」


「いきなり雪玉をぶつけたりしたら、めっ!」


「セロ様がいらっしゃらないのに無茶は駄目ですわ!!」


エトワールも加わって、ナナは身動きが取れなくなった。



アランはナナの拘束を確認して、通信具を手に取りセロに連絡を入れる。


「あ~、セロ。ナナが暴れて大変なんだ。まだ合流できなそうか?」


「そうなの?こっちは広間は出てるんだけど、皆が何処にいるのかもよくわからないし……。肝心のナナが興奮しちゃってるんじゃ転移も難しいかな……。」


場所がわからなくては合流のしようがない。


セロはナナに所持品に付与した道標を感知させて転移門を使って合流するつもりのようだった。


「そっちの状況は?」


「ああ、こっちは……。」


アランはセロに簡単に現状を説明した。



「ジル、くるくる、心配するな。次の雪玉には火が効かなくなる障壁を付与する。そうすればあいつは死あるもみだぞ。」


「それでも、めっ!!!」


「駄目に決まっていますわ!!」


「イヤだ!あたしはあの赤い奴をやっつけるんだ!!」


拘束された状態で駄々をこねるナナの耳にアランはそっと通信具を当てた。



「ナナ?俺達もそっちに合流したいから、転移門を頼めないかな?」


セロの声に、ナナはパタリと抵抗をやめた。


「むん?わかったぞ。」


出現した転移門からセロとロッテが顔を出す。



「何で外に!?」


屋外に出たのが予想外だったのか、ロッテは思わず声を出していた。


セロは黙したまま、周囲の把握に集中している。



「兄ちゃん!あたし良い子で大人しくしてたぞ!良い子だぞ!」


さっそくセロにくっついて褒めて貰おうとするナナ。



……むぎゅっ。


「親分が悪い子で大人しくしてなかったからこんな場所にいるんですっ!!」


「ロッテ!いきなり親分に何をする!!」


ナナはいつものようにロッテに顔面を挟み込まれていた。



「おや~?また来客ですか~?」


ルージュはセロとロッテが現れても余裕の態度。


そして使い手が限られる筈の転移魔術を前にしても驚く素振りすら見せない。



「で~、どうされますか~?通行は認めませんが~。」


「……いや、俺達は戻るよ。」


「わかりました~。」


セロはあっさりと引き返す事を決めた。



「何でだ?兄ちゃん。悪者をやっつけないのか?」


それとなくセロはルージュを見る。



これまでに戦った、エメラダやフォボスのような圧倒的な強者という感じではない。


しかし、目の前の道化はどこか得体が知れない。


セロは自分ではなく、仲間達の安全を考え撤退を選択した。




一行はその場を離れ、壁上通路を引き返す。


セロの隣にはロッテと手を繋いで歩くナナ。



「さて、皇宮の奥には入れないみたいだし、どうしたものかな……。」


大広間を出る時にラシュマン大司教に伝えられたリンの言葉を思い出す。


(リンさんが監獄の貧民救助と皇族達の相手を引き受けてる間に出来る事、ね……。)


リンに何を期待されているのか、いまいち見えてこない事にセロは首を傾げた。



「兄ちゃん、どうしたらいいか悩んでるのか?」


深刻な表情を見せるセロに向けて顔を上げたナナはセロに声をかける。


「この後はどうしようかって思ってね。」


「兄ちゃん、あたし重要な事を思い出したぞ?」


セロにはなくとも、ナナにはこれからの行動の指針があるのだ。



「あたしはまだ白銀プリンを食べていないぞ?だから食べに行くんだ。」



ロッテは盛大に溜息をつく。



「まだ食べるんですか……。」

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