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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
11 白銀帝国
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180 指輪

探究者とは帝国を導く存在である、とされている。


少なくとも帝国史に登場する探究者と呼ばれる人物はそうだった。



白銀帝国の建国の礎となった聖女ディリータの従者としての探究者がここでは最も知られている。


帝国で生まれ育ったデボラもまた、目にした書物や先人に語られた探究者像のままに目の前の黒づくめの人物を印象付ける。



「我は指し示すだけだ。選択は己で成すがよい。」


そう言って探究者は鉄格子越しに小さな装飾品を投げ入れた。



デボラの獄舎には様々な調度品が運び込まれており、とても牢獄の中とは思えない状態だ。


指輪も石畳の上ではなく、豪華な絨毯の上に音もなく転がった。


その指輪を照明の魔道具から放たれる光が照らし、デボラはそれを一瞥するとそのまま探究者を見据えた。



「私にどうしろと言うの?」


「その指輪から放たれる魔力に晒された者に隷属の効果を発生させ、指輪を装着した者の傀儡となる。」


「隷属の魔道具?たしか皇宮の宝物庫にもあったけどあれは対となる魔道具を対象者に装着させる必要があった筈……。」



つまりそれは単体で機能する隷属の魔道具。


デボラはそのような魔道具の存在をまったく知らなかった。


かつては帝国においてあらゆる情報を牛耳っていたと言っても過言ではない立場にあったデボラが知らないのだ。


このような魔道具について知る者はまずいないと断言していい。



(隷属……。お父様を対象とすれば、私の願いを叶えるのにこれほど都合の良い能力はない……。)


そのままデボラはこの指輪を自らの策略に組み込んで思考する。



隷属効果であれば、鑑定を受けない限りそれが発覚することはない。


そして帝国で最高位にある皇帝を鑑定する権限を持つ者など存在しない。


仮に鑑定を受けて皇帝が隷属状態にあることが発覚しても、その原因を特定するのは困難を極めるはずだ。


帝国では対となる魔道具を必要としない隷属魔道具などその存在すら知られていないからだ。


余程の失敗をしない限り、終身刑となったデボラが密かに所持する装飾品を鑑定しようとは誰も思わないだろう。



「この指輪はいただけるのかしら?」


目的を果たすのに役に立つどころか、十分に決め手になり得るとデボラは判断した。



「好きにするがいい。」



探究者は踵を返した。


「もし、何かある様なら帝都にて暗躍する赤と黒に伝えるがよかろう。」


そしてこの言葉を最後に地下監獄から去って行った。



(暗躍する赤と黒ですって?それってレヴィアが言ってた、最近噂になってる二人組の犯罪者……。)


「たしか……、クラウンズだったかしら?」



道化姿の怪人の噂はデボラも聞いた事がある。


それはデボラが囚人としてここに放り込まれる前の事だ。



「シャーベル外務卿の宝物庫を破ったのがそうだったわね。」



白銀帝国は帝国を名乗ってはいるが小国だ。


その前身であるグラシアル帝国のような大国であった頃とは違う。



帝国の精兵をもってしても捕縛どころかその足取りを追うことすら許さない。


そのような怪人がこんな小国にそうそういるとは思えない。


デボラは迷いなく過去に耳にした道化姿の怪人とクラウンズを同一視していた。



(探究者とクラウンズに関りがある……?)


思考を続けるデボラは探究者の投げ入れた指輪に目線を落とす。



(この指輪が私の切り札……。)


デボラの脳裏に薄紫の花の映像が浮かび、そしてそれはすぐに消えていった。


(いいえ、まだよ。この指輪の効果が確かなら切り札としては申し分ないわ。でも足りない。)


ゆっくりとした動作でデボラは指輪を拾い上げた。



(誰にも知られず、決定的な状況下でお父様に対してこの指輪を使用すること。)


その準備の為に必要な手駒として幾人かの人間を思い浮かべる。



デボラの母である第二皇妃ダリア。


ダリアに心酔している近衛騎士団長、凍将軍バリントス。


そして現在のデボラの世話役であり、連絡役でもあるレヴィア。



(それとあの怪物への対処。)


次に思い浮かべるのは皇太女となった第二皇女リン。



デボラがガルシアを隷属化させ、望みを叶えたとしても。


その全てをひっくり返すだけの力を持っているのがリンである、とデボラは考えている。



リンへの対処として思い浮かべた強者は三名。



直前まで会話していた探究者。


こちらの実力は未知数ではあるが、デボラは対峙していた時の威圧感から、かなりの強者であることを感じ取っていた。


そして帝国最強とも言われるバリントスですら手玉に取ってしまう二人組の怪人、クラウンズ。



(ただ、私には個人の強さなんてよくわからない。確実にリンを押さえられるという確信が欲しいところね。)


デボラにとっての最後の難問だ。


そこさえクリアできればいよいよ計画を実行に移すことができる。



静寂に包まれた獄舎の中でデボラは考え続けた。




そして今、デボラは誰にも知られずに一対一の状況で父ガルシアに向けて隷属の指輪を向けている。


(少し時間がかかってしまったけど、ようやくここまで来れたわ。)


対するガルシアは、都合よくリンの助けが得られない事を認め、デボラに抗する事を諦めた。



その指輪はガルシアには見覚えのない魔道具であり、その効果も不明だ。


しかし状況を鑑みて考えればそれは容易に想像がついた。



「その魔道具の力で儂を傀儡とするか。それしきのことで貴様がリンの上に立てるとは思えんがな……。」


「フフ……。それはもうお父様が気にする事ではないわ。どうせもうじき何も考えられなくなるのだから。」



指輪がより強い光を放った。



「ぐぅっ!!」



びくりと一瞬だけ身体を強張らせたガルシアは、直立不動のままに握っていたグラスを床に落とした。

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