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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
11 白銀帝国
220/236

177 伝言

「まったく、親分ったらいつもいつも……。」


ロッテは大広間からいつの間にかいなくなるという問題行動を起こしたナナをどうするか思案する。


「捕まえたらお仕置きです!」


とりあえず確保してからの顔面サンドイッチは確定のようだ。



「ごめんね、ナナがロッテのこと振り回しちゃって……。」


「いえ、いいんです。気にしないで下さい。」


大広間に残ったセロとロッテは互いに申し訳なさそうにしている。


気が付いてみれば他の仲間達も皆いなくなっている状況だ。



「とりあえずこっちも皆に合流しようか。」


「そうですね。親分を放置しておくのは嫌な予感しかしませんから……。」



セロとロッテが揃って大広間を後にしようとしたその時。



「待ちたまえ。」


タイミングを計ってやってきた第一皇子アイギアスに呼び止められてしまった。


その傍らには第二皇子ジノ。

さらに背後には変わらず第二皇妃ダリアと凍将軍バリントスの姿がある。



「ようやく邪魔者がいなくなったようなのでね。改めて声をかけさせてもらうよ。」


アイギアスの言う邪魔者とは、当然ながらリンの専属道化師であるワンダー・リンリンのことだ。



セロは顔には出さないが今この時のアイギアスらとの接触をあまり好ましく考えてはいなかった。


(できれば地下監獄に収容されてる貧民達を解放してからだったらよかったのに……。)



じろりとセロとロッテを一瞥したアイギアスはストレートにその疑問を口にした。


「貴様等は何者だ?リンの客だとは言うが、帝国の者ではなかろう?まさか王国の間者ではあるまいな?」


「いいえ、殿下。それは違います。」


ロッテは間髪入れずにアイギアスに丁寧に返答する。


王国の者ではあっても別に間者という訳ではない。

そんな簡単な自己暗示によって、ロッテの態度は堂々としたものだった。



「本当に?もしそうであるなら、皇太女殿下が敵国と内通していたという証拠になってしまうわよ?」


続けて発言したのは第二皇妃ダリアだった。


ダリアの眼光からは疑念どころか、それを完全に確信しているかのような自信が伝わってくるようだ。


ロッテ達が、と言うよりもリンの弱みとなるような事実をこそ求めていることがよく分かる。



「はい。私達はあくまでリン殿下の友人であり、間者などといった存在ではありません。」


ロッテはそんなダリアの眼光を真っ向から受け止め、毅然として言い放った。




「アイギアス殿下、お戯れはそのくらいに。」


遅れてやってきた人物からの制止の声。



ゆったりとした歩みで一団に近付いてきたのはラシュマン大司教だった。


「こちらの方々の身分は私が保証いたします。リン殿下との関係性も確かですぞ?何せ殿下とのお引き合わせには私もご助力させていただきましたから。」


ラシュマン大司教の微笑みとその言葉に、アイギアスを始めとした皇族達は息をついた。



「大司教がそうおっしゃるのでしたら、我々もこれ以上の追及はやめておきましょう。」


アイギアスは不本意そうではあるが、あっさりと引き下がった。



白銀帝国において、教会という組織は特別なのだ。



遥かな過去、グラシアル帝国として平原にあった大国が戦争に敗れ、北の大地に落ち延びて新たに白銀帝国を建国した。


北へ向けての撤退戦の際、グラシアル帝国最後の皇帝と生き残った民達を助けたのが教会という組織を創設した聖女である、とされている。


聖女は後に探究者と呼ばれる従者と共に帝国を助け、最後には矢を受けて雪原に散ったと書物に語られている。



当然、帝国ではその存在は神聖視され、教会は大きな権力を持っており、代々の皇帝もそれを認めてきた。


帝国では、皇族であっても大司教の言を蔑ろにはできない、ということだ。



僅かな沈黙がその場を支配し、大司教は続けてアイギアスに目を向けた。



「アイギアス殿下、もう間もなくリン殿下がこちらにいらっしゃいます。皆様はそれまでこの場に留まって下さいますように、とのことです。」


「何!?リンがここに来るだと!?」


リンの名を出された瞬間に皇族達の顔色が明らかに変化した。



「立太女の儀より、まったく表に出てこなかったリンが何故今になって……。」


憔悴するアイギアスに、ラシュマン大司教は何でもない事のようににこやかに告げる。


「ふむ。リン殿下も昨今の状況には思うところがおありの様子でしたな。アイギアス殿下に問いたい事でもあるのでは?」



「く……。」


アイギアスは分かり易く動揺していた。


「落ち着け、兄上。リンとていきなり取って食いはすまい?」


「あ、ああ。そうだな……。」


そしてこれまで沈黙を守っていたジノがアイギアスを落ち着かせる。



ラシュマン大司教は焦りを見せる皇族達をそのままにセロ達へと向き直った。


「お二人もよろしいですぞ。アイギアス殿下達はリン殿下を待たねばなりませんから。」


言外にこの場を去ることを促すラシュマン大司教は、セロの耳元で小さく何かを囁いた。



「……ああ、うん。わかったよ。それじゃ、俺達はこれで。ロッテ、行こう。」


「は、はい。」



セロは踵を返し、ロッテもそれに続いた。


入ってきた大扉を抜けると、すぐに使用人によって扉は閉められる。



使用人からすこし距離をとってからロッテはセロに尋ねた。


「あの、セロさん。大司教様は何をおっしゃっていたのですか?」


「うん、リンさんがね、皇族連中を釘付けにしておくから、その間に出来ることをやれ、みたいなことをね。」


皇族達に関しての情報収集はリンから追加された依頼だ。


大司教の伝言から、当人がいないからこそ得られる情報を、とそう求められているとセロは解釈した。


「あとさ、地下監獄に収監されてる貧民達は引き受けるからそっちに集中して欲しいってさ。」


「え……、いいんでしょうか?貧民達の救助は私達が……。」


ロッテは突然の変更に戸惑っている。


「いいんじゃないかな?リンさんがそっちを引き受けるって言うのなら……。」


セロはリンが地下監獄の貧民達の対処を行った場合のことを想像する。



(さっきまでの皇族達のびびり具合からして、リンさんが一言命じるだけで問題は解決しそうな気がするけど……。)


ただし、その当人であるリンは現在こちらに向かって移動している。

すでに指示を出している可能性もあるが、セロは別の人物が対処する場合も考えた。


(いなくなっているワンダー・リンリン。彼女でも対処は可能だろう。)


ワンダー・リンリンの多彩な技能を思い出したセロはそれを確信する。



「俺達がやるよりもずっとうまくやるだろうから、心配いらないと思うよ。」


「なら私達は……。」


「まずはナナを捕まえてからだね。」


「そうでした!親分はお仕置きです!」


ロッテはナナのお仕置きを思い出した。





場所は変わり、帝都中央の地下に位置する大監獄。



少し前までは、不当に捕らわれていた貧民達の怒号や罵声が飛び交っていた場所だ。


しかし今では、全ての牢は開け放たれ、声を上げる貧民達は一人もいない。



「これで全員ね。まったく、つまらない仕事だわ。」


「申し訳ありません。道化殿は少々手が離せないようですので。」



囚人もおらず静寂に包まれていた地下監獄に男女の声はよく通った。



「彼らはラムドウルにて新たな白銀帝国の貴重な財産となる者達ですよ。これも大事な仕事です。」


「それも分かってはいるのだけど、こうも簡単だとちょっとね。」



地下監獄の中央通路に展開されていた巨大な転移門が消えていく。



「とはいえ、私達の仕事はこれで完了です。あとはのんびりと観劇といきましょうか。」


「そうね。道化殿の変革の舞台ですもの。特等席で楽しませてもらうことにするわ。」



転移門が消失し、そこには白衣に仮面の人物と、黒いローブの女性が立っていた。

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