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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
11 白銀帝国
207/236

164 皇太女

ワンダー・リンリンは扉も何もない通路で突然立ち止まる。


「ここだよっ!!」


ここと言われても何もない通路にしか見えないことに皆は困惑していた。



「むん?何もないぞ?リンリン迷子なのか?あたしが助けてやってもいいぞ?」


ナナだけは冷静に助け船を出してやる。


「案内してる私が迷子になるわけないだろっ!?それに助けるとかって皇宮に初めて来たくせにどうやったらそんなセリフが出て来るんだよっ!!」



「何か仕掛けでもあるの?秘密の入口とか。」


セロはワンダー・リンリンがここだと言うのであれば実際にそうなのだろうと考えたようだ。


「はいっ!お兄さん正解っ!ナナはブッブー!不正解っ!!」

「何でブーブーなんだ!あたしは不正解じゃない!!兄ちゃんが正解ならあたしも正解だ!!」


騒ぎ始めたナナをロッテが抱き上げる。


「親分、良い子にしていないとプリンが貰えませんよ?」


「大丈夫だ。親分は良い子だ。良い子で正解っ子なんだ。ブーブーじゃない。だからプリンを貰うぞ。」


「正解っ子って何ですか……。」



まともにナナの相手をしていては皇太女を待たせることになってしまうと思ったのか、ワンダー・リンリンは説明を始める。


「これねっ!壁に見えているけど付与魔術で偽装しているんだよっ!本当は扉なのさっ!」



ワンダー・リンリンがさっと壁を撫でると、まるで壁紙が剥がれるように壁だと思っていた薄膜が剥がれ霧散する。


壁が無くなったその向こうには、大きめの扉があった。



「殿下っ! お客人を案内してきたよっ!」


「はい。待っていたよ。」


その声に対する返答は、よく注意していなくては聞き取れないようなか細いものだった。


軽いノックの後、ワンダー・リンリンは扉を開けて中に入る。


一行はそれに続き、部屋の中を見渡した。



そこには皇太女どころか誰もいない、無人の部屋だ。

清掃こそされてはいるが、普段から誰かが使っているような感じはしない。


片付き過ぎていて逆に生活感が感じられない部屋だった。



「誰もいないぞ?」

「本当ですね。」


きょろきょろと辺りを見回すナナにロッテも同意している。


そして当然のようにワンダー・リンリンに視線が集まる。



「殿下の身の安全の為にねっ、偽装は二段構えなのさっ!天井を見てごらんっ!」


ワンダー・リンリンは派手なステッキを一振り。


先程の通路の壁のように、今度は天井が剥がれて霧散する。


本当の天井は更に上。

そこは偽装の天井の時と比較しておよそ倍以上の高さの吹き抜けになっていた。


しかし高くはなっても上には何もない空間が広がるばかり。


疑問に思った皆がワンダー・リンリンに視線を戻す。



「殿下の部屋は後ろだよっ!」


振り返るとそこは入ってきた大扉。

その周囲はただの壁。


だがそのまま吹き抜けになった天井に向けて見上げてみると、壁の上に手摺が見える。


「あそこさっ!ちなみに階段とかはないからねっ!」



ワンダー・リンリンの能力はブリーズランドでのナナとの勝負の際に散々目にした。

彼女であれば別に階段がなくとも移動は苦ではないと思われる。


「階段がない?皇太女殿下は移動が大変なのではないのですか?いえ、そもそもどうやって行き来されてるんですか?」


ロッテは貴人の住まう部屋としてはありえないとすら思っていた。


しかしその疑問はすぐに氷解する。



「殿下も普段はちゃんとした部屋に住んでいるよっ!今日は君達と会うために特別に邪魔の入らないこの隠し部屋を使うことにしただけさっ!」


移動時はワンダー・リンリンの付与魔術によって道を造っているそうだ。


皇太女リンが所在不明であることは散々言われてきたことだ。

普段住んでいるちゃんとした部屋というのも誰も知らない秘密の場所なのだろう。



「リンリン。そろそろお客様を上に案内してくれないかな?じっと待っているのもそろそろ退屈なんだ。」


「はぁいっ!すぐそっちに行くね、殿下っ!」


頭上より聞きなれない女性の声。


おそらくは皇太女リンのものだろう。



「親分が階段を作ってやるぞ。」


ナナはロッテに抱かれた状態のまま、階段状に不動障壁を展開しようと手を伸ばす。


「ああ、いいよいいよ。招いたのはこっちなんだし私がやるよっ!ナナにはとても真似できない素敵な階段を出すからねっ!」


「何っ!?あたしに出来ないだと!?リンリンが出来るならあたしだって出来るんだ!!美少女に不可能はない!!」

「親分!暴れないで下さい!!」


ワンダー・リンリンの余計な一言にナナが反応し、ロッテがそれを宥めている。



「それじゃ、みんな後ろに下がってねっ!」


言う通りに全員が後ろに下がりスペースを作ると、ワンダー・リンリンは派手なステッキをさっと一振り。



すると無意味に派手な装飾の施された階段が床からせりあがってきた。



「階段が生えて来たぞ!?」


どういった仕組みでそれを実現させているのかは不明だが、ナナの発言の通り生えて来たように見えた。



「親分が一番だ!!」


ナナはまたも一番乗りを狙ってロッテから飛び降り、階段を駆け上る。


「親分!待って!みんなと一緒に……。」


ロッテの制止も空しく、ナナは手摺の向こう側に消えていく。


「もうっ!」


慌ててロッテはナナを追いかけ、皆もそれに続いた。



階段の先、手摺の向こう側は椅子とテーブル、それと小さな本棚があるだけの殺風景な部屋だった。


椅子には銀髪の美しい女性が腰掛け、本を読んでいる。

歳はロッテと同程度、活発そうな印象を受ける顔立ちだ。



「うんしょ。」


先行していたナナは勝手に女性の対面の椅子によじ登っていた。

そして女性と向き合うとナナが先に名乗りを上げる。



「あたしはナナだ。天才美少女付与術士だぞ。おまえは誰だ?」


初対面の他国の皇太女をいきなりお前呼ばわりのナナだった。



女性は読んでいた本を閉じ、テーブルの上に置いた。

タイトルは、楽園からの追放となっている。



「初めまして。王国筆頭付与術士のナナちゃん。私は白銀帝国の第二皇女リン。よろしくね。」


銀髪の女性、皇太女リンはナナの暴言にも動じずに返答する。



「ナナちゃんはここに救出依頼についての話をしにきたってことでいいんだよね?」


「むん?そんなことより大事なのはあたしが白銀プリンを食べれるのかということだぞ?」


二人の見立てはまったくかみ合っていなかった。



「え?プリン?何の話?」


話がおかしな方向に進もうとした頃、遅れて来たロッテは素早くナナを捕獲する。


「申し訳ございません、リン殿下。大変なご無礼をいたしました。」


ロッテは深々と頭を下げる。


「ナナちゃん、めっ!」

「ふにっ!?」


ジルは確保されたナナのほっぺたを引っ張ってお仕置きしていた。



「大丈夫。気にしてないよ。むしろ私の無理な頼みを聞いてくれて感謝してるくらいさ。」


リンはナナの無礼な態度にも怒った様子はなく、上機嫌に笑っている。



「ミケニャ!」

「クルルニャ!」


ミケとクルルはナナの両隣の椅子に飛び乗って名乗った。

礼の欠片もない挨拶は完全にナナの影響だ。


「トラですニャ。」


トラだけは礼儀正しくお辞儀する。



「ニャンニャン族については話だけは聞いていたけど、本当に喋ってるね。見た目は完全に猫なのに。」


珍しそうにミケ達を眺めるリン。


その間にワンダー・リンリンはリンの隣に移動した。



「リンリン、案内ありがとう。」


「お安い御用さっ!ちょっとナナがあれだったけどっ!」



「ラシュマン大司教も久しぶりだね。リンリンがいるんだから味方してくれるんだろうなとは思ってたけど、来てくれてありがとう。」


「いえいえ、陛下自らが選ばれた皇太女殿下にお味方するのは当然ですとも。」


ワンダー・リンリンが共にある以上、おおよその予測はしていたがやはり皇太女リンはアルカンシエルの内情もある程度把握しているように見受けられた。



続けてリンの視線はジルとエトワールへ。



「あっ。は、初めまして。ナナちゃんの友達のジルです。」


ジルはどこかぎこちないカーテシー。


「はい。私はリン。よろしくね。」



エトワールは僅かに考え込む仕草を見せた後、ジルに続いた。


「……グランシエル王国第一王女エトワールですわ。」


身分を明かすことを逡巡したエトワールだったが、どうやら偽りたくないという気持ちが上回ったようだ。


「へぇ。君がエトワール王女か。まだ幼いのに立派だね。けど帝国ではその身分を明かしちゃダメだよ?」



バルディアいわく、帝国の全ての国民はグランシエル王族やそれに近しい者を八つ裂きにしたい程恨んでいる。

リンの言葉からどうやらそれが間違いないことが察せられた。


「いきなり襲い掛かって来るようなのは一部だとは思うけど、少なくとも安全は保障できないからね。」


「肝に銘じておきますわ……。」


エトワールは落胆し暗い表情を見せている。



「そちらの男性は?若き大公閣下のご友人かな?」


次にリンが目を向けたのはアランだった。



「アラン・ローグリアです。帝国の未来の道標たる皇太女殿下にお目にかかれて光栄の極みにございます。」


「ああ。王国最強騎士と言われているデュラン殿の息子さんだね?うん、実に強そうだ。」



アランの挨拶は貴族らしい、堂々としたものだった。



「兄ちゃん、アランが変だぞ?いつもみたいにチンピラっぽくパンチがどうのって言わないんだ。変だぞ?」


「チンピラ!!?」


ナナは変と二回言った。

そしてアランは思わず叫んでいた。



「親分!何てことを言うんですか!?皇太女殿下の御前ですよ!?」


アランと違い完全にいつも通りのナナの言動にロッテは慌てふためいている。


「ナナ、アランは皇太女さんが美人だからいい感じの挨拶をしようと頑張ってるんだよ。」

「そうなのか?アランはリンリンの姉ちゃんをナンパしているということなのか?あたしリナに言うぞ。」



「セロさんまで!?」


「私は殿下の妹じゃないよっ!?」


「どこをどう見たらナンパになるんだ!?それとリナには言わないでくれ!!」


ロッテ、ワンダー・リンリン、アランがそれぞれの反応を返す。


皇太女リンはそれを見てくすくすと笑いながらセロを見やった。



「えっと。ナナの兄のセロです。よろしく。」


ぺこりとお辞儀をするセロ。


「知っているよ。セロ君とナナちゃんについてはリンリンからよく聞いているからね。」


強く賢く、優秀で妹思いの兄であると聞かされているそうだ。



「当然だぞ。あたしは良い子で強い子で賢い子なんだ。だから兄ちゃんもそうなんだ。」


兄を褒められたナナは機嫌を良くして偉そうにふんぞり返る。


「何で親分が偉そうにするんですか。良い子なら大人しくして下さい……。」


肩を落とすロッテ。


そんなロッテに皇太女リンの視線が向けられた。



「シャルロッテ・カールレオンと申します。初めまして、皇太女殿下。」


「初めまして、大公閣下。お父さんとは面識があるんだけど、あんまり似てないね?お母さん似なのかな?」


「はい。皆さんそう言われます。」



ロッテの父、ウィランについて。

それと公爵領からの物資の援助に対しての謝礼等、ロッテとリンの会話は弾んでいた。



(ウィランさん、今はサーレントさんか。彼と面識がある?)


セロはその部分が少し気になった。



王国と帝国は明確な敵対関係にある。


王国貴族の頂点に立つカールレオン公爵と帝国の第二皇女に接点を見いだせず、簡単に接触できるとも思えない。



(考えられるとすれば、王国貴族としてのウィランさんでなく、サーレント枢機卿としての面識なのかも……。)


そうであるのなら、魔女エメラダの転移魔術があれば簡単に接触が可能だろう。



(リンさんとアルカンシエルの関係は俺の想像以上に深いのかも知れない。)


セロは用心にこしたことはないと気を引き締める。



「皆、座って。あまり時間はとれないけど、話をしよう。」



リンに勧められ、全員が席に着いた。

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