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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
11 白銀帝国
204/236

161 雪人形

大聖堂をしばらく留守にするラシュマン大司教は業務の引継ぎの為に退室していった。



「皇宮に行くとなると、ナナもそろそろ人間に戻っておいた方がいいんじゃないかな?」



いい加減猫の着ぐるみを脱ぎたいジルとエトワールはセロの提案に懸命に頷いている。


「兄ちゃん、お城に行くのならニャンニャン探検隊の出番なんだぞ?お城を探検するんだ。」


「ナナちゃん、探検してもいいから元の姿に戻ってからにしよ?ね?」

「そうですわ!別に猫の姿に拘る必要皆無ですのよ!」


ナナの探検行為を許可してでも、ジルとエトワールはとにかく人の姿に戻りたかった。


それには誤認付与の解除に加えて、普段着を暖房着にしてもらわなくてはならず、全てはナナ次第ということになる。



「むう。兄ちゃんがそう言うのなら元に戻ってもいいぞ?でもニャンニャンが五匹になっちゃうぞ?いいのか?」


兄の言うことは素直に聞くナナは自分だけ元に戻り、ジルとエトワールは猫のままにして皇宮に行くつもりのようだ。


「何でそうなりますの!?」

「ナナちゃん!?私達も元に戻して!?」


ジルとエトワールは必死の抗議。



「元々ニャンニャンのミケ達はそのままでいいけど、ジルとエトワールも元に戻してあげないと可哀そうだよ?」


「しょうがないな。わかったぞ。」



人の姿に戻ったジルとエトワールの衣服を加熱付与で暖房着に。


二人がほっと息をついた頃、ラシュマン大司教も戻ってきた。



「準備はよろしいですか?」


その言葉に皆が頷いた。



「では出発しましょうか。」



大司教と共にある以上、戒厳令下にあっても地上を歩いて移動することも可能だが、あえて地下を進むことにした。


目的地が皇宮となると、地上を行けば貴族街を横断することになり、非常に目立つ。

地上を歩けば多くの貴族の目に留まることになり、第一皇子の派閥を刺激することになりかねないと考えたゆえの判断だ。



帝都外縁部とは違い、内縁部になると地下道にも普通に警邏の守備兵はいるのだが、地上に比べれば少数なので迂回して進むことになった。



「移動に手間も時間もかかるでしょうが、皇太女殿下と合流するまでの辛抱です。」


皇太女リンと合流し、その庇護下にある事を知らしめるまでは大人しく。


余計な騒ぎや揉め事を避けたいのはセロ達も同意するところだったので特に反論はない。



長年帝都に暮らしているラシュマン大司教は、地下道の構造も熟知している。

それにジルの探知魔術も加わり、一行は守備隊と出くわさないルートを選択することができた。



何の問題もなく地下道を進み、ラシュマン大司教の案内に従って螺旋階段を登って地上へ。



「でっかい壁だぞ?」

「本当ですね。城壁がいきなり高くなった感じがします。」


ナナとロッテは皇宮を囲む城壁を見上げながら話している。



外敵よりもむしろ寒気を防ぐためとして、帝都の外壁は高く大きかった。

だが皇宮の城壁はそれをさらに上回る大きさだ。



正面には皇宮パルネイの東通用門が見える。


「バルディアさんが言ってた通用門はあれかな?あそこから入るといいんだよね?」


「そうなりますね。道化殿が準備して下さっている筈です。」



ラシュマン大司教を先頭に、通用門の扉へと向かう。


正門のように馬車も通れるような大きな扉ではなく、人間が二人程度並んで入れるくらいの小さな扉だ。



扉は鍵などはかかっておらず、ぎしりと音を立てて開いた。


城壁の内部に入るとそこには数名の衛兵の姿があったが、すでに連絡がいっているらしく驚いた様子もない。



「大司教様、お待ちしておりました。話は聞いております。奥へお進み下さい。」

「ご苦労様です。」



奥の扉を抜けるとそこはもう皇宮パルネイの中庭だった。


石像や花壇らしきものはあるが、すべて雪に埋もれていて殺風景な庭だ。

まったく手入れのされていない庭が、困窮している帝国の現状を代弁しているようにも感じられた。



セロ達がしばし中庭の光景を見ていると、一部の雪がまるで意思を持ったかのように動き始めた。


「!?」


反射的に前に進み出るセロ。

セロの斜め後ろにはアランが躍り出た。



残った皆はナナの周りに集まる。


「むん?何だ?」


危険を感じたらナナの近くに移動してナナが障壁で皆をガードするという約束事があったのだがナナは完全に忘れているようだ。



動く雪は次第に一ヶ所に集まり、やがてそれは人の形に。



頭身から言って子供の姿だ。


ナナよりも一回り大きいくらいで、ジルやエトワールと同程度の体格となった。



セロとアランは警戒したまま雪人形を観察する。


「セロ、敵か?」

「ん~。どっちかと言うと……。」


これまでにも毎回奇抜な登場シーンを演出してきたとある自称旅芸人の姿が思い起こされた。



「たぶん心配いらないよ。」


セロは警戒を解き、アランもそれに倣う。



髪、顔、衣服など、雪人形は細部まで形作られていく。



「親分ですね……。」

「うん。ナナだね。どう見ても。」


「……。」



完成した雪人形はナナの姿をとった。



「あたしにそっくりだぞ!?美少女だ!!」


その身体が雪で構成されていることを除けば完全にナナの姿だった。



「やぁやぁ。皇宮パルネイにようこそ。本来なら歓迎したいところだけど今は非常時だからごめんねっ?」


雪人形から発せられた声はワンダー・リンリンのものだった。

やろうと思えばナナの声で発声することもできたが、あえてそれはやらない。



「むん?」


ナナはその声を聞いても状況がわかっていないようだ。


ミケとクルルは何処かで聞いた事がある声だと思って首をかしげている。



そしてそれ以外の皆はワンダー・リンリンによる出迎えであるときちんと理解していた。



「ぬりゃ!むりゃ!ふりゃりゃ!!」


ナナはいきなり雪人形に向けて雪玉を投げつけ始める。


「わっ!?いきなり何をするんだよっ!?」


しかし制球力が皆無な為、投げた雪玉は一発も当たっていない。



「親分!?何で雪玉を投げるんですかっ!!」


ロッテは妙な事を始めたナナを制止するが効果はない。


「こいつは親分のふりをして悪いことをする気だ!だから親分は偽物を倒すんだ!美少女は一人で十分なんだぞ!」


自分そっくりの雪人形を見たナナは当たらない雪玉を投げつける。



「何でそうなるんだよっ!!ナナのあほっ!!」


雪人形の姿のワンダー・リンリンは雪玉を投げ返した。



「あぷっ!?」


雪玉はナナの顔面にヒット。

運動神経が鈍いナナは飛んでくる雪玉に対し回避行動すらとれなかった。



「こいつ!何をする!!」


ナナもさらに雪玉を投げ返し、一対一の雪合戦が始まっていた。



「早速騒いでるけど……、大丈夫なのかな?」


「どうなんでしょう?でも不思議と誰かやってくるような気配はないみたいですね。」


セロとロッテは皇太女に会う前に第一皇子陣営の者に見咎められることを心配していた。



「そのあたりは道化殿がしっかりと対策しておられると思います。」


ラシュマン大司教はワンダー・リンリンを信頼しきっている様子だ。


「そうみたいです。何故かこの辺りだけ衛兵もいないみたいですし。城壁内の先の衛兵だけですね。」


探知魔術で周辺を確認したジルがそれを肯定する。



「そうなんだよねっ!トラブルが起きないようにってこの区画の人間を遠ざけておいたのにっ!ナナの反応だけが計算外だよっ!!」


ワンダー・リンリンはナナの雪玉を回避しながら言い捨てる。


対するナナは大量の雪玉を被弾して真っ白になっていた。

未だに目の前の雪人形がワンダー・リンリンであることに気付いてすらいない。



「あたしに挑むとは馬鹿な奴だ!後から謝っても遅いんだからな!!」


ナナはますます興奮してまったく当たらない雪玉を投げまくっている。


まるでキレたいじめられっ子のように両手をグルグルと回転させて大量射出されるナナの雪玉を雪人形は優雅に避ける。



「ぷっ!?ひゃっ!?ふおお!!」


逆に雪人形が時折投げる単発の雪玉は的確にナナに命中していた。




しばらくして、しびれを切らしたロッテがナナを後ろから抱き上げ、ようやく不毛な雪合戦が中断された。


「親分、雪合戦はそのくらいにして下さい。皇女殿下に会いに行かないといけないんですから。リンリンさんもお願いします。」


「ロッテのあほっ!!偽物は倒さないと駄目なんだぞ!?」

「あほは親分ですっ!話が進まないので大人しくして下さい!!」



このままでは本当に話が進まない。

ワンダー・リンリンもその結論に至り、雪人形の偽装を解除することにした。


「まったくっ!せっかくみんなをびっくりさせようと思ったのにナナのせいで台無しだよっ!!」


ナナの姿になっていた雪人形はただの雪に戻りどさりと地面に落ちる。

そしてその中から出て来たのはいつものド派手芸人、ワンダー・リンリンだった。



「改めましてっ!皇太女殿下の専属道化師、ワンダー・リンリンですっ!ちなみにリンリンってのは芸名だよっ!よろしくねっ!」


皇太女の名前がリン。

その専属道化師がリンリン。



「リンリンさん、殿下の名前を使っちゃってていいんですか?」


ロッテはナナを地上に降ろしながら尋ねる。

それは不敬にあたるのではないかと気になったのだ。


「殿下はそんなことは気にしないよっ!何と言うか、大雑把な人だからっ!」



主である皇太女に対して大雑把とか言い出したワンダー・リンリンにロッテは閉口してしまう。


(皇太女殿下って一体どんなお方なんでしょうか?何だか不安になってきました……。)



「リンリン!?あたしに化けるとは何事だ!?さてはこのまま美少女勝負になったらあたしに勝てないって思ったんだな!?」

「そんな訳ないだろっ!!?あほかっ!!!」


(親分はこんなですし……。)



美少女勝負とやらが開始されれば確実にナナが勝つと本人だけが確信している。


ならば敗北が確定しているリンリンはどうするか。


ナナに化けてギリギリの引き分けに持ち込み、決定的な敗北を回避する。



これがナナの推測だ。


「ふふん。リンリンの企みは読めているんだ。あたしは天才美少女だからな。」


「別に何も企んでなんかないっ!?私は皆を殿下の所へ案内するだけだよっ!?」



ワンダー・リンリンの訴えもナナにはまったく通用しない。

完全に話を聞いていないのだ。



「ふりゃりゃりゃ!!」


そしてナナは雪玉投げを再開した。

ワンダー・リンリンに雪玉が一発も当たっていない以上、雪合戦は終わらないのだ。


「あたしが勝つまで勝負は終わらないんだぞ!!」


「こらっ!あほナナ!!いい加減にしろっ!!」


ナナの乱射する雪玉はやはり一発も当たらない。



「親分……。」


ロッテはナナの背後に立って呟く。



ナナがいつものお仕置きを喰らうのは直後のことだった。

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