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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
11 白銀帝国
203/236

160 協力

皇太女となった第二皇女リンは現在16歳。


16で成人とされる白銀帝国においてはまだまだ若輩となる。



そんな皇太女には政務を補佐する後見人を付けることとされた。


リンの後見人は皇族より選出することになり、皇帝に指名されたのがリンの腹違いの兄にあたる第一皇子アイギアス。



「それを決めたのは皇帝陛下ですが、そこにどのような思惑があったのかは不明です。」


ラシュマン大司教は皇帝ガルシアとも親しい間柄だそうだが、リンが正式に皇太女となってからガルシアは表に姿を現さなくなったのだ。



「少し前の王国への派兵の際にはバルディア殿と遠征軍の指揮をとった三人の将軍は直接お言葉を賜っていたらしいのですが……。」



それ以降は皇帝は皇宮の奥から出てこない。


そしてそれは皇太女リンも似たようなものだ。


ただしリンの方は稀に皇宮内を歩いている姿を目撃されたりと、完全に姿を隠しているわけではないようだ。



「現在の帝国を動かしているのは第一皇子アイギアス殿下です。リン殿下の代理として政務の一切を取り仕切っておられます。」



第一皇子アイギアスは第二皇女リンが皇太女となった今でも野望を捨てていない。


セロは帝国の事情にうとく、ラシュマン大司教の説明はかなり簡略化されてはいたがその部分だけはなんとなく想像できた気がした。

アイギアスの人となり等はまったく知らないが、ラシュマン大司教の言動や態度からそれとなく読み取っていたのだ。



「捕らえられた貧民達を解放するにはそのアイギアスってのをどうにかしないといけないってことかな?」


「ご理解が早くて助かります。力にものを言わせての強行も可能ではありましょうが、それがベストとは言い難い。」



アルカンシエルの高レベル者を動員して力ずくで対象者を救出する。


セロはそれが最も簡単で確実な方法ではないかと思っていたがラシュマン大司教は違う考えのようだ。



「救出を優先する二人の皇族は帝国において最大の権力を有しております。お二人が否と言えばアイギアス殿下はそれに従う他ない。」


皇帝と皇太女は第一皇子アイギアスに対して命令する権限がある上位者だ。


二人の確保に成功し、ラシュマン大司教の思惑通りに事が運ぶのであれば一滴の血も流れずに全てがうまくいくだろう。



(けどアイギアスは素直に従うのかな?今の時点で政治と軍事を掌握しているってことなら反発できるだけの力は持っているだろうし……。)


セロはクーデターを心配しているようだったが、会ったこともないアイギアスの心中など推し量れるはずもなく何も言わない。



会話が途切れたタイミングで執務室の扉がノックされた。


やってきた修道女の姿を見て、ナナは素早く駆けていく。



「あたしのお菓子が無くなったのに気付いたのか?おかわりの先読みとはできる女だな?あたし褒めてやる。」


ナナは究極特盛の甘雪を平らげ、もっと食べたいと思っていたところだった。


「親分、そんな訳がありませんから。邪魔をしたらいけません。」


修道女に絡み始めたナナをロッテは慣れた手つきで捕獲していた。



修道女はナナの行動に苦笑しつつも、大司教に用件を伝える。


「大司教様、バルディア様がお見えです。こちらに案内してもよろしいでしょうか?」

「ええ。構いません。むしろよいタイミングですね。」


救出計画の依頼主であるバルディアは今の議題となっている事柄にも大きく関わっている。

この場に参加してもらった方が情報の共有化には都合がいいということだ。



「あたしのおかわりも忘れたら駄目だぞ?」

「は、はい。わかりました。」


バルディアを案内するべく退室しようとした修道女にまたもナナが絡んでいる。


「親分!?修道女さんはこれからバルディアさんを案内するんですから!我儘を言ったら駄目です!!」

「親分は女神だから大丈夫だ。」


「よりにもよって光の女神様を信仰する場所で何を言っているんですか!?」


ロッテは赤い猫の顔面を挟み込んでいる。



「ご心配なさらずとも応援を呼びますので大丈夫ですよ。」


修道女はロッテとナナに微笑んで退室して行った。



「そういえば大司教さん。アネットとマインって姉妹がここに来なかった?」


セロはバルディアを待つ間、丁度いいと思い立って質問していた。


「ああ、あのお二人ですか。確かにここに来ましたね。何やら随分と思い詰めておられる様子でしたが……。」


マインはともかく、アネットの方は貧民達の多くが地下監獄に捕らえられたことに思うところがあったようだ。


「なんか悪い気がするなぁ。アネットさんは俺らを手伝ってくれただけなのに。」



「アネットさんとマインさんのお二人には、まだ捕らえられていない者を匿う為に修道女の姿で各所を回ってもらっています。」


もちろん戒厳令下であるから地下道を使ってのこと。

そして教会関係者の姿であれば守備隊に強く咎められることもない。


「何か手伝わせて欲しいとのことでしたので。お二人は修道女の姿になっていますから安全は保障されていますのでご安心を。」


白銀帝国では国民の光の女神への信仰心が強く、修道女が害されるということは考えられないことだそうだ。


その理由は、帝国の建国時の逸話に関わっているのだが、この場でそれについては語られなかった。




ノックの後、戻ってきた修道女によって執務室の扉が開かれる。


現れたのはバルディア一人だ。

一緒にいたワンダー・リンリンはいなくなっている。



「あら。セロ君達もここに来ていたのね。」


バルディアはそのように言ったが、密かにとある事情からセロ達がここに来ているであろうことは確信していたので特に驚いた様子はない。



少し遅れて、ワゴンを押す別の修道女が入室する。



「あたしの冷やっこいお菓子!!」


ナナはワゴンに突撃し、ミケとクルルもそれに続く。

カラフルな猫達にまとわりつかれた修道女は困った顔になっていた。


「親分!大人しくして下さいっ!!」


騒ぐ三匹にはロッテとジルとエトワールが対処し、三匹は席に戻された。



「ひんやりしてて、甘くてうまいんだ。」


そのまま配膳された甘雪を食べ始めると、ナナ達はすっかり大人しくなった。



「貧民達の状況を確認に来たのだけど、君たちもいるのなら丁度いいわ。これからの行動についての話もできそうね。」


続いてバルディアはラシュマン大司教に向き直る。


「お久しぶりですね、大司教。半年前の立太女の儀以来になりますか。」

「そうですな。ですが貴女のご活躍は耳にしておりましたよ。」


「ありがとうございます。ならば私がここを訪れた理由もお分かりですね?」

「察しはつきます。こちらの王国の方々にも協力を約束していたところですので、有意義な話ができると思っています。」



バルディアはラシュマン大司教の返答に、満足そうにして笑みを返す。


「ありがたいことです。皇太女殿下もお喜びになることでしょう。」



(皇太女殿下かぁ……。)


セロは近頃頻繁にその名を耳にする、まだ見ぬ皇太女リンについて考える。



以前の王国包囲侵略時にはバルディアは皇帝であるガルシアに意に沿って動いているように言っていた。

しかし今は皇太女リンの命で動いていると口にしている。


(考え過ぎなのかも知れないけど、侵略の悪名は皇帝に、解放の名声は皇太女に。ってことなのかな……。)



これまでの会話の共有を手短に済ませてから、今後の行動を決める。


ラシュマン大司教の提案した、とりあえず貧民の救出を保留として皇族の二人の身柄を押さえるという案にバルディアも賛成のようだ。



「先に地下監獄の貧民を開放するとなると、十中八九戦闘は避けられないでしょうから。」



無論、そうなってしまってもこちらに敗北はない。

バルディアにもそれは分かっているのだが、それでも戦闘を避ける方針は変わりない。


「皆さんと帝国兵との間で交戦の事実があったことは、場合によっては後に枷となってその身を縛るやもしれません。」



どこかはっきりとしない言い方だったが、セロはその発言の意図が気になった。



「皇帝と皇太女の救助について具体的にはどうするの?」


「兄ちゃん、このお菓子うまいぞ。兄ちゃんの分もあたしが食べてもいい?」


大事な話をしていたところだったがナナの駄目な要求が差し込まれる。


「いいよ。どうぞ。」


セロは自分の甘雪をナナに差し出す。



「親分!!」


ロッテは小声でナナを叱り、顔面を挟む。

しかしナナは顔面を挟まれながらも懸命に甘雪にがっついていた。



「皆さんには皇宮パルネイに移動してもらいます。中に入れるようリンリンが段取りをつけている筈です。」


皇帝が表に出てこない以上、バルディアは第一皇子アイギアスの手の者と接触すればまず間違いなく身柄を押さえられる。

皇宮で自由に動けないバルディアの代わりにワンダー・リンリンがいろいろと手筈を整えているのだ。



(ワンダー・リンリンは皇宮内でそれができる地位にあるということなのかな?)


「いろいろと疑問はあるでしょうが、まずは皇宮に入り、皇太女殿下と会って下さい。」



今回のバルディアからの救助依頼は、実際は皇太女からのものでバルディアは仲介人なのだ。


状況が変化し、当初の計画通りに事を進めるのが難しくなった以上、依頼人の話を聞いておくことは必要なことだと思えた。


さらに、皇太女リンは救出対象の一人でもある。


そのように考えを巡らせたセロは、皇太女リンとの合流を素直に了承した。



「ならば私も同行しましょう。教会が皇太女殿下を支持していることを今一度知らしめる必要もあるかもしれません。」

「そうですね。私は共に行けませんから是非お願いします。」


ラシュマン大司教は皇宮に同行することを初めから決めていたようだ。



皇宮周辺の地理に疎いセロ達は、皇宮への移動に関してはバルディアとラシュマン大司教の提案に頷くばかりとなる。


騒ぎを避けるため、正門からではなく東の通用門から中に入る。

事前にワンダー・リンリンがそこを通れるように準備しているのだそうだ。



「私がお手伝いできるのはここまでです。セロ君、よい報告が聞けるのを楽しみにしていますね。」


現在のラムドウルは転移してきた貧民達の対応に追われている。

指導者であるバルディアはあまり長期間ラムドウルを留守にする訳にはいかないのだ。



まだまだバルディアには聞きたい事が山ほどあったが、無理に引き留めることもできなかった。



「ナナちゃん、私をラムドウルへ送ってくれるかしら?」


「むん?いいぞ?」



バルディアはテーブルを囲む面々に今一度頭を下げる。


「殿下をよろしくお願いいたします。」


甘雪を完食したところだったナナは転移門を開き、バルディアは去って行った。



(陛下はよろしくお願いしなくていいのかな?)


一応、救助対象であるはずの皇帝についてまったく話に上がらなかったことがセロは少し気になっていた。

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