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フヨフヨ  作者: 猫田一誠
02 公爵領
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009 試練場

もう慣れた。そう思っていた。そのはずだった。


セロはぼんやりと遠い目をしてそんなことを考えていた。



「すげーだろ!すげーだろ!どうだ兄ちゃん、これであたしも街に入っていいだろ!?」


はしゃぎまくるナナ。



「確かにこれはすごいな。いや、もうすごいなんて表現すら陳腐かもしれないな。」



目の前にあるのは黒みがかった紫色の半透明の光の幕だった。

幕の向こう側は見えないのだが、そこに顔を突っ込んでみると、そこはナナとフランクが生活していた小屋の中だった。



空間術:転移門の効果らしい。

収納の術式をいじり倒すうちに、習得してしまったそうなのだ。



「俺がいろいろ頑張るよりも、ナナに丸投げしちゃった方がよかったのかなぁ…。」


これまでの苦労を思い出し、せつない気分になるセロだった。



気を取り直して、セロはナナに追加された技能の検証を始める。



まず、付与術:道標。これはマーカーのようなもので、転移門とセットで使用する。


転移門の転移先は、ナナが行ったことのある場所、しかも強烈に印象づけられている場所に限られる。

その性能を補完する付与術であった。


道標を付与して、それに停滞と定着を追加付与。効果を不変化して魔道具とする。

それがある場所は、ナナの記憶があるなしに関わらず転移が可能になるというものだった。



「これを試練場のどこかに設置すれば俺らも入れるってことか。なるほど。」


設置するなら人目につかない場所がいいな。

そんなことをセロが考えていると、ナナは次の技能を紹介してきた。



「兄ちゃん、これもすげ~んだぞ。見てろよ?」

「え?まだあるの?」



ナナの姿が背後の風景と同化していく。


付与術:隠形の効果だった。


セロは開いた口が塞がらない。

そんなセロの頬を、見えなくなったナナがつんつんとつついてくる。


「!?、ナナ、そこにいるのか?すごいな、まったく見えないよ。」



たしかに気配は感じるのだが、まったく視認できない。


「兄ちゃん、明日はこれ使ってみんなで街に行こう?な?な?」

「わかったよ。皆に相談してみよう。」



最後に、付与術:認証。


自分の作成した魔道具を売りに出すという話から編み出した術だった。


盗難を防止するような効果を付与できないか。

いろいろやってたらなんか違うのができちゃった。

そんな技能だそうだ。


一言で言えば、使用者を限定する付与効果だった。

認証:セロ、と付与した場合、セロにしか使用できない魔道具となる。


これはこれで何かに使えそうなので、これも皆に相談することにした。



日没まであと僅か、夕食の用意をするマーサ達のもとから肉の香りが漂う。

当然それに吸い寄せられたナナは、マーサの衣服にしがみ付いていた。



「母ちゃん、あたし味見得意だぞ!味見してもいいぞ!」


涎が少し垂れた顔でせがむナナ。


「ちょっとだけよ?」


マーサはひとかけらの肉片を、大きく口を開けたナナに食べさせてやる。


「今日のお肉もうまい!」


ナナが喜んでいるところに、買い出しメンバーが戻ってきた。


「只今戻りました。」


アーキンが皆に帰還を報告する。


成果は大量の食糧、衣服。そして大型の馬車を4台だそうだ。



「馬車はまだ都市に預けてあります。馬を扱えるメンバーがいなかったので。」


ナナが食糧と衣服を収納する中、何故か皆が愕然とした表情になっている。



その理由をオルガンがぼそっと口にした。


「扱えない?というかそもそもだな………、ウマって何だ?」


アーキンが初めて見たであろうウマについて、オルガンにその特徴を伝える。


「とりあえず、変な顔でした。縦に長いんです。強さについてはよくわかりませんが、蹴られて死ぬ者もいるとか。」

「ほぅ、ならウマを扱うのは戦闘のできる者が望ましいな。」


「あと、その肉は大変美味であるとのことです。走れなくなったウマはもれなく食肉になるそうです。」

「美味だと!?なら購入した馬車にくっついてるやつ、まずは食ってみるか?」


「あたしが味見してやるぞ!?ウマだからきっとウマいに違いない!」



ここでせっかく購入した馬車を引く馬をいきなり食べられてはかなわないと慌ててやってきたメリルから馬、馬車について説明を受ける一同。



真剣な顔つきのオルガンが説明をまとめる。


「つまり、荷車をウマという原生動物に引かせて移動する物、それが馬車。ここまではいいな?」


皆が緊張した表情で頷く。


「ウマの強さはたいしたことはねぇ。こっちのやつらが扱えてるくらいだしな。」


ここでセロも会話に参加する。


「肝心なのは扱うのに技術が必要である。ということだ。」


そんな技術は誰も所有していない。


重苦しい雰囲気が場を支配するも、空気を読めないナナは言った。


「街の奴らに教えてもらおうぜ!」


親指をグッと立てて決めポーズをとっている。



「しかしな、入口で鑑定を受けるんだ。ナナ達三人が鑑定を受けると騒ぎになることはメリルさんも保証している。」


アーキンの返答に、メリルも頷く。



「いや、実は…」


それに対しセロが、何か言いかけるが遅かった。



「ふぉっふぉっふぉ~。」


セロの言葉はナナの変な笑いに遮られる。



「みんな見れ!あたしの新技!」


ナナは自身に付与術:隠形を行使した。


その姿が消えてゆくのを目撃した一団から驚愕の声があがる。


「ナナの奴、消えちまったぞ!?」

「うおおっ、マジで見えねぇ!」


顔を引きつらせるセロを見て、オルガンは言った。



「セロ…、説明だ。」

「わかったよ。」



そして一通りのナナの新付与術についての説明が終わると、半信半疑なオルガンが立ち上がる。



「おし!ナナ、試しに転移門で俺をどこかに送ってみろ!」


論より証拠だ。とでも言わんばかりに要求する。


「まかせろ!おっちゃん!」


ナナは空間術:転移門を行使し、目の前に転移門が開く。


「んじゃあ、ちょっくら行ってくるぜ!」


オルガンは言い放つと堂々と門を抜けていった。



そこはオルガンが脱走時の戦闘でギンデムを吹き飛ばした部屋だった。


「あん?誰だ?」


オルガンの目の前に二人の鬼がいた。

ラダマンティスとアレクシオンだった。




「…。」


無言で引き返すオルガン。戻り次第即、叫ぶ。


「ナナ!!門を閉じろ!!」


門の向こうから獰猛な叫び声が聞こえる。


「待ちやがれこらぁ!!」


身構える一同。ナナは素早く門を閉じ、閉門を確認して皆が息を吐く。



「オルさん、何だったの?さっきのは誰?」

「たぶん楽園で俺らを追ってた鬼だ。赤いのと青いの、二人いた。死ぬかと思ったぜ。」


皆が絶句する中、セロが呟く。


「ナナ、よりによって何て場所に…。」

「あぅ、知らなかったんだ。わざとじゃない!」


オルガンもそれが分かっているので怒ったりはしない。


「でもまぁ、転移が可能だってのは証明された。うまく使えばこの魔術は有用だ。計り知れねぇくらいにな。」

「たしかにね。できれば各地に道標を設置しておきたいね。」


セロも同意する。



「ビフレストの目が届かねぇ安全地域を確保して、そこにも道標だな。害獣狩りができれば素材や虹石の供給ができる。」

「それなら…。」


セロは狩猟者時代によく休憩で使用していた、ビフレストから少し離れた位置にある建物の内部を提案した。


「地下へは行けないけど、地上部分はわりと使えるところも多くて、獲物を仮置きしたりとかもしてたんだよ。」



早速、ナナを伴ってセロと数人がナナの住んでいた小屋に転移し、セロの提案した建物へと移動する。

そして道標とした適当な瓦礫を土に埋めた。


オルガンがビフレスト最下層に保管していた物資には浄化具も含まれていたのでそれも設置して魔力を流し、周辺を浄化。



「これでいつでも狩りに行ける。虹砂はいくらでも供給できるね。」


戻ってきたセロがそう言うと、元特隊のメンバーから歓声があがる。



「てこたぁ俺らは飯の心配はしなくていいってことだな。」


彼らは狩りのエキスパートだ。セロに率いられ、ナナの補助があれば、現在では大型種ですら狩れる力を有していた。


「狩猟組が狩りを担当するようにするか。護衛組と諜報組もメンバーを入れ替えてレベル差ができないように回そう。」


これまで磨いてきた技術でこれからも生活の糧を得られる。これは彼らにとって朗報だった。

そして自分達の未来が明るいことを理解し、それをもたらしたナナに皆が感謝した。



「明日は全員で街に行くぞ。」


ナナは初めての街が楽しみで仕方なかった。

興奮して眠れないのでセロの寝床に潜り込んだりしていた。



そして翌朝、アーキンを先頭に大家族がゾロゾロと鑑定を受ける。

最初の非戦組、家政組は何も問題はなかった。

しかし、護衛組、諜報組、狩猟組に振り分けられた元特隊のメンバーが鑑定を受けるごとに守衛の顔が引きつっていく。



「お…、おい…。」

「ん?なんかあんのか?」


護衛組の一人が門衛の声をに反応する。


「い、いや。大丈夫だ。」



ゾロゾロと列をなすのは全員がレベル30を超える集団。


「何者なんだ?あいつら…。」

「誰かが本気で迷宮を攻略しようって呼び寄せられた凄腕集団?」

「何かが起ころうとしている?」


様々な噂が飛び交う中、集団の最後尾を透明になったナナとセロとオルガンが歩いていた。


セロは普段通りリラックスして歩いている。ナナの付与効果を完全に信用しているのだ。

オルガンはもし見つかったら全員ぶっ飛ばそうと考えていた。


そしてナナはガチガチに緊張していた。


くしゃみとかしたらどうしよう?こけたりしないように足元に注意しなきゃ。


いろいろ考えてるうちに最後の一人が鑑定を受けた。


そのまま見えない三人は背後を追従して守衛をスルーする予定だ。


その時、守衛がナナに近寄ってくる。そんな気がした。

思わず、セロの服を掴んでいる手に力が入る。

さらに守衛が近づいてくる。そんな気がする。心臓が早鐘を打つ。

そして全身に力が入る。



「ぷぅ~。」


ナナは屁をこいた。


「ぶふっ!」


オルガンは噴き出していた。


「だっ、誰だ!?」


守衛があたりを気にするも、セロのすぐ前にいた諜報組の一人が機転をきかせた。


「あ~。わりぃ、こいちまった。」


その前の男も会話を合わせてくる。


「くさっ!何食ったんだおまえ!?」



「くっ、さっさと行ってくれ!」


守衛も恥ずかしくなったのか、そう言って鑑定作業を再開した。



皆は無事、試練場に入場した。



入口を少し離れ、人目のない路地裏で三人は不可視の付与を解除した。


ナナは真っ赤な顔をしてうつむいている。

オルガンは腹を押さえてしゃがみ込んでいる。


セロはそんな二人を見て溜息を吐いていた。



「うぅ~。おっちゃん!笑うな!!」


ナナが癇癪を起こすが、ツボに入ったのかオルガンは震えるばかり。


「あれはおならじゃないんだ!あたしはレディーなんだぞ!」


そう言ってオルガンの背中を叩きまくるナナ。さらに震えるオルガン。

セロはそんなナナをおんぶして、大通りまで歩く。


「違うんだからな、兄ちゃん。」

「分かってるよ、ナナ。」


そして大通りから試練場の街並みを眺める。


外から眺めた時は高い城壁に阻まれ何も見えなかったが、いざ中に入れば、さすがは王都に並ぶと称される大都市。

セロとナナは見るもの全てに圧倒されていた。


コーンウォールの麓に大量に土砂が盛られ、壁際に出来た小高い丘。そこに建設された都市。

上空から見下ろすと、樹木の年輪のような形に何層も高い城壁が走り、壁のところで両断されているような構造。


そして、内側に行くほどに地面が高くなっていく。

最も高い位置となる街の中央最奥、壁にへばりつくような形状の巨大な城が見える。

ラビュリントス大公の城だそうだ。


セロは城のテラスに立って、こちらを眺める女性に気付いた。

あちらはおそらく、立ち止まってる人がいる、くらいしか視認できないだろう。


しかしセロの視力は身体強化の恩恵で強化されている。その女性の人相や服装まで完全に見えていた。



「綺麗な女の子だなぁ。」


金髪を後頭部の高い位置でまとめて、それが腰のあたりまで届いている。


セロにとってはこれまで見たこともないくらいの美しい顔立ちだと思った。

意思の強さを感じさせる碧眼も好ましい。年は自分と同じか少し上、くらいに見える。




その女性、名をシャルロッテ・カールレオンという。

ラビュリントス大公、ウィラン・カールレオンの一人娘。公爵令嬢である。


16歳になったばかりの彼女は、そろそろ社交界へのデビューも間近。


公爵家との繋がりを欲する者、公爵領の内外問わず多数の貴族の息子達からの食事の誘い、お茶会の誘い等。


父親であるカールレオン公爵が全て断っているにも関わらずその申し込みは一向に減る気配がない。


シャルロッテは正直、うんざりしていた。大した実力もないくせに家柄を笠に着て口ばかり達者な中身のない者達。

自分もいずれ、その中の誰かの妻になるのかと思うと、テラスの手摺に肘を立て、思わず深い溜息をついていた。


そんな時、街の入り口近くの大通りで、小さな女の子をおぶった少年を見つけた。

シャルロッテはかなり視力はいいのだが、それが自分と同じくらいの年齢であろう少年、くらいしか認識できない。


なのに視線を感じる。見られている気がする。

そんなはずはない、とかぶりを振る。いつの間にか少年は姿を消していた。



「なんなの?」


シャルロッテは何か予感めいたものを感じていた。




ナナをおぶったセロは皆と合流し、今後の行動予定を検討していた。


オルガン達は、すでに人数分の宿を確保済だそうだ。

セロはオルガンに自分達の宿の場所を確認する。その後、オルガンがセロに向けて言った。


「とりあえず必要なことは俺らがやっとく。昨日も言ったろ?ガキは遊ぶのが仕事だ。」


「でも…、俺らだけ何もしないってのも。」

「それにおめぇはナナと約束してんだろうが。いくらでも一緒に遊んでやるってな。」


オルガンの言葉にナナは劇的な反応を示した。


「そうだった!兄ちゃん、遊んでくれ!」

「そういえば約束したなぁ。じゃあ街を見てまわるか。オルさん、ごめん、後を頼むよ。」


「おう、行ってこい。」


そう言うと、セロはナナをおぶったまま大通りを歩いて行った。



それからオルガン達はいくつかのチームを作って旅の準備を始める。


まず狩猟組は馬の扱いを学ぶ。

これは馬車を購入した商人に追加料金を払い、手配してもらった。


次に諜報組は、試練場の情報収集に。


そして護衛組は非戦組、家政組の護衛。

オルガンもこのチームで、メリルに交渉を任せ、街外れの小さい倉庫を購入した。


道標を使って転移する際の転移先だ。転移してくるのを見られないように、地下倉庫を選んだ。



馬車の用意が整うのは、御者の訓練も含めて日数がかかりそうだ。

それまではここに滞在することになる。

オルガンは、セロとナナを連れて迷宮探索なんかもいいかもな。と今後の予定を思案するのだった。



大通りを歩くセロ。背中のナナはご機嫌だった。


必要経費は皆に渡してあるが、それでもナナの収納には大量の虹砂があった。


オルガンも好きに使え、そう言っていたこともあり、二人は屋台巡りを楽しんでいた。



「兄ちゃん、この肉なかなかうまい。これなんだ?」


何かの串焼きを頬張りながらナナが質問する。

当然、外界の肉の知識などないセロは店主に尋ねる。


「西の商業都市への街道沿いにいくつか牧場がありましてね。」


そう言うと店主は串焼きを焼きながら顔を西に向けた。


「そこらは草原地帯ですから。畜産が盛んなんですよ。この肉はそこから仕入れたグラン牛になります。」


こんなやり取りを各屋台で繰り返しつつ、ナナの口のまわりに付着したソースを拭いてやる。

そうしているうちに、ナナが一人の男を指して言った。


「兄ちゃん、あいつすげえ。レベル33だ。」

「へぇ。どんな感じだい?」



ヴィンセント・マクレガー(人間)


レベル 33


恩恵 剣術+1


技能 剣技:受流


効果 剛力



戦闘班のメンバーと比べても遜色がない能力だった。



「あいつがこの街で一番強い奴かな?」


セロの呟きを耳にした屋台の店主がそれに答える。


「そりゃそうだよ。勇者様だよ。知らないのかい?」


「勇者?あいつが?」


セロは驚きを素直に顔に出していた。


「兄ちゃん、あいつ偽物だ!称号ないし。なんちゃって勇者だ!」

「ナナ、そこは自称勇者とか言ってあげたほうが…。」


小声だったセロと違ってナナは遠慮なく叫んでいた。



「おやおや、そこのお嬢さん。もう一度言ってくれるかな?」


やはり聞こえていたようだ。どんどん近づいてくる。


「おおおお嬢ちゃん!早く謝って!」


屋台の店主が叫ぶも、ナナの返答は真逆だった。


「偽物ってことはこいつ悪者だ!兄ちゃん、やっつけてくれ!」


ナナは何故か悪人と決めつけている。



「おいおい、騒ぎを起こすとみんなに悪いよ。」


そう言うセロも余裕がある。負ける要素がまったく皆無だからだ。

いつのまにか周囲には人だかりができていた。


そこは街の大通りの中ほどの位置になる。

大勢の人間に囲まれるセロとナナを、シャルロッテは城のテラスから見ていた。



「あれはさっきの…。」


シャルロッテは駆けだしていた。


この気持ちが何かはわからない。しかし、そこに行かねばならない。


何かに急かされるかのようにシャルロッテは走る。

そして城の入り口を出たところで城の門衛が驚いてシャルロッテの進路を塞ぐ。


「お嬢様、一体どうなされましたか!?」


はじかれるように門衛に命令するシャルロッテ。


「お二人も私についてきて下さい!」


自覚していなかったが、これは少年と少女を守ろうという行動だった。

顔を見合わせる二人の門衛は、シャルロッテを守るように両脇を固め走り出した。




すっかり周囲を囲まれたセロとナナ。


囲んでいるのはどうやら勇者の取り巻きのようだ。

ナナはそんな取り巻きを魔眼で分析。


「兄ちゃん、まわりのやつらはみんな雑魚だ!」


正直に火に油を注ぐ。


「なんだとこら!」

「痛い目に遭いてぇのか!ガキ!」


ナナの眼が若干黒く、セロの眼は若干赤く変化する。


ここでシャルロッテ達も現場に到着する。

すぐにやめさせるつもりだったのだが、シャルロッテは違和感を感じ踏みとどまる。


相手は都市最強の勇者の称号を持つ者。

そして周囲を固める者達は試練場が誇る屈強な冒険者達。


なのに何故か、あの少年はまったく恐怖を感じていないように見える。

シャルロッテは少年を注視し、少年もまた、自分に視線を送ったかのように感じた。


そして少年が微かに笑った。



「自称勇者様はこんな大勢で俺らみたいな子供を嬲るのかい?」


セロの声が響いた。同時にナナを下がらせる。


「その自称って言うのを取り消して、そこのお嬢ちゃんと一緒に謝罪してくれるんなら許してやる。かもしれないぞ?」


そう言って笑顔になるヴィンセント。

まわりの冒険者達も凶悪な笑みを見せる。


しかしセロは平然として瞳を赤く変化させる。

妹を恐怖させたこいつらはシメる。それはすでに確定していた。



「自称は自称だろ?この街の鑑定版が称号を鑑定しないのをいいことに皆を騙してんだろ?」


ヴィンセントの表情が怒りの感情を抑えきれず変化する。

しかしセロは構わず続ける。


「魔王はな、鑑定するとちゃんと種族名の下に魔王って表記されるんだぞ。勇者もそうじゃないのか?それにお前ただの人間じゃん。よえ~し。」



シャルロッテの碧眼は驚愕に見開かれていた。


(魔王を鑑定した?この人は一体何を言ってるの?)



驚きにのあまり動けずにいたシャルロッテをよそに、激怒したヴィンセントはセロに切りかかっていた。


「きっさまあああぁぁ!!」


しかし、ヴィンセントは振り被ったままで動きを止めている。

いつの間に抜刀したのか、セロは巨大な大剣をヴィンセントの喉に突き付けていた。


「なっ…、そんなバカな…。」

「言ったろ?よえぇんだから素直に謝っとけよ、おっさん。」


振り被った体勢のまま全身を震わせるヴィンセント。


「がああ!!」


叫ぶと同時にセロの大剣を打ち払おうと、振り被った片手剣を横に薙ぎ払うヴィンセント。

しかし、セロの大剣に刃が接触した瞬間、パリッという音がした。セロと大剣に青白いスパークが走る。


感電のショックにヴィンセントの体が痙攣し、髪が逆立つ。

そしてそのまま、口と鼻から白煙を出して崩れ落ちる。


「おりゃ~!偽物め、これでもくらえ!」


ナナは失神しているヴィンセントの顔面に尻を向ける。

すかさず尻から赤い煙幕を出してヴィンセントに食らわせる。

そして周囲から見えなくなった隙をついてしれっと恩恵を奪い取った。


「ナナ、さすがにそれは下品だよ。」


恩恵を奪うのを確認したセロは、すぐにナナを抱っこして煙幕の中、包囲を突破する。

突破の最中、ナナはヴィンセントの恩恵をセロに付与する。


囲んでいた冒険者達は放心していて追うことができない。



「待って!待って下さい!」


煙幕に巻かれる中、シャルロッテが叫ぶが、煙が晴れた後、そこにセロとナナの姿はなかった。

シャルロッテは茫然と立ち尽くし、その記憶に刻まれたセロとナナのことを考えていた。




そんなシャルロッテがいなくなった後の城中で、執事に報告を受けるカールレオン公爵の姿があった。

見た目は30代前半、娘と同じく金髪碧眼の男が口を開く。



「それはまた、とんでもないな。」


「はい、公爵様。たしかに本日、全員がレベル30を超えている謎の集団が都市に入っております。」

「何者なのだろうね?」


「その目的は不明。監視の目をつけておりましたが、皆、集団の一員と思われる謎の筋肉男に看破され、殴り飛ばされました。」


公爵は執務室の机に肘を立て、思案にふける。


「考えてもわからないものはわからないな。」

「如何になさいますか?」

「本人達に直接聞いてみるさ。城で宴を催そう、彼らを招待する。」



執事は何かを言いかけるが、公爵がそれを制す。


「大丈夫、うまくやるさ。」


さらに執事は報告を続ける。


「さらに、つい今しがたのことなのですが、大通りに雷を放つ少年が現れ、勇者様が一撃で屠られたと。」

「何?」


公爵が真剣な顔つきになる。



「戦闘の様子はお嬢様がご覧になっていたようなのです。」


「またあの娘は何をやっているんだ…。」


そう言うなり公爵は頭を抱える。

そんな公爵に対し、執事は冷静に報告を続けた。



「さらに、赤い屁をこく少女。」


「はぁ?」


今度は呆れたような顔つきになる公爵。


「その放屁量は膨大で、大通りが赤く染まる程であったと。その視界不良を利用して少年と少女は逃走したそうです。」

「その少女って、人なの?いろいろおかしいんだけど?」


再度頭を抱える公爵。



「とりあえずシャルを呼んでくれ。話を聞いてみるよ。」




そしてしばしの時が過ぎた。


「話は以上です。お父様。」

「あぁ、わかった。退室していいよ。」


シャルロッテは少年が口走った、魔王を鑑定した。というセリフを報告しなかった。


何故?と言われれば、自分でもわからない。そう返答するだろう。

ぼんやりとして歩きながらも、少年のことが頭から離れない。


「あの人は一体…?」



シャルロッテの退室後、公爵は執事に追加の指示を出した。


「その少年と少女にも招待状を出してくれるかな?」

「かしこまりました。」


「ああ、監視はなしだよ。ネガティブな印象を持たれたくはない。」

「心得ましてございます。」


一礼すると執事もまた退室していった。



公爵は虚空に向けて呟く。


「これが変革の兆しってやつなのかねぇ?」

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