ブラックスプリング1903
「クッ、クロス・S・ラフレだと!馬鹿な、戦場にSの名のつく人間がいるもんか。はったりに決まっている!」
敵は、驚いている、いや、恐れている。もしそれが本当なら、彼女を殺せば、世界が敵になることを知っているから。
クロス・S・ラフレは、世界の英雄クロス・N・グリットの娘だ。彼女が死ねば、世界中の人間が悲しむことになる。英雄の娘。それが戦場に立つということは前代未聞の事態である。
「じゃあ、ここで私を殺してみなさい、そうすれば父上があなたを許さないけどね」
敵は彼女を殺せない。もし彼女が言っていたことが本当なら、クロス・N・グリッドが来る。
クロス・N・グリッドの活躍はそれほど偉大だった。彼の活躍はほとんどの国に賞賛され、その影響で帝国と同盟を組む国は多かった。アーリアは、世界の中心にある国で領土も広く、軍事力も大きかった、が、その周りにある国のほとんどが敵つまり、帝国と同盟を結んだ国だった。
「...ああ、分かったわ、じゃあこうしましょう。そこにいる男、『ドット・N・フリーズと一騎打ちで勝負しなさい、もし彼が勝ったら『炎化薬』はいただくわ。もし、あなたが勝ったら、私はこのことを無かったことにしてあげる。これでどう?」
(...は?)
いや、待て。つまりあのバーナーズと戦えと?バーナーズは基本不死身なんだぞ、俺に死ねと命じてるようなものだ。
敵はこっちを見た。あれは弱そうだなと思っているのだろうか。
(なめられたものだな。ならこれを使うしかないか)
「いいだろう!その男となら、本気で戦える」
「決まりだな、頼むぞノミ虫」
ノミ虫、Nがつくからそういっているのか。まあいい。命令なら仕方ない。
「承知しました、クロス・S・ラフレ様」
「決闘に制限時間は無い、存分に戦え」
バーナーズは基本不死身だ。自分が纏っている炎がある限り誰にも殺せない。銃弾は、その熱さで溶けてしまい、水は当たる直前で蒸発してしまう。普通では考えられないが、それがバーナーズという種族だった。
「決闘はこの弾が落ちたとき始める。よいな」
「いいだろう」
「了解」
俺は背中に背負っていた武器を取り出した。
ボルトアクション式の狙撃銃スプリングフィールド1903、全身が炭のように黒くなっている一見ボロボロな銃だった。
「フッ!フハハハハハハハ!なんだその銃はそんなボロボロで大丈夫なのか、最もどんな銃だろうと今の俺には効かんがな、炎化薬は飲むと5時間バーナーズになれることのできる魔術兵器だ。バーナーズとなった今そんな武器蟻以下だ!」
「ふん!そこまでこの銃の恐ろしさを見たいか。いいだろう。一つ教えてやる、貴様はバーナーズには弱点が無いと思っているようだが、それは間違いだ」
「?」
その瞬間クロス・S・ラフレの持っていた弾は中に投げられた。兵の屍がそこら中に散らばった、静かな戦場で、弾は高く宙に浮き、最高点に達しって、落下を始めた。
気づいたら周りには誰もいなかった。さっき重傷を負っていた仲間も死に、あたりは静寂に包まれていた。
「制限時間はない、つまり死ぬまでということですね、ラフレ様」
「無礼者、気安く名前で呼ぶな」
そうだな、だが、その返事は『その通りだ』と言っているように聞こえた。
コン!
弾が、落ちた。
ダン!
引き金を引いた俺は、敵の間抜けさに笑った。
「な!?何!?」
敵はどうやら本当に何も知らなかったようだ。
「見たか、間抜け、これがお前の弱点だ」
弾は敵の右腕を貫いた。本来ならここで弾は解けているが、俺の撃った弾はやつの腕を貫き、傷口から赤い血が出ていた。
「馬鹿な!」
「確かにバーナーズは不死身、基本的には。だが弱点がある」
「グアアアアアア!!なっなぜだああ!!」
「この銃と弾、実は魔法で強化されていて、どんな熱でも耐えられる。そしてお前の弱点は『火石』だ。バーナーズには火石という人間で言うところの心臓みたいなものがある。それを砕かれた瞬間、バーナーズは、灰となって消滅する。俺には火石の具体的な位置が分からなかったため、少しはずした。バーナーズの火石はその人間が最も燃えているからだの部分にある。お前だったら、右腕だ。」
敵の右腕は、常に燃えていた。だからこそ俺は、火石の位置が大体分かった。
「クソ!クソ!クソオオオオ!!」
ヤツの体は足から消滅した。きれいさっぱりに。
「しかし、よくこれを調べたな、Nが名のつく軍人は差別されていて、こういう情報は隠してあるはずなのに。しかも銃を強化なんてどうやったのノミ虫」
「このくらいの情報図書館にある。魔術強化は、知り合いに頼んで作ってもらった。黒くなったのは、魔術の流れを見えなくするため。そうすれば、敵に魔術強化された武器だと気づかれない」
基本、魔術によって強化された武器は、青い血管のようなものがついている。だから、簡単に見分けられる。俺はそれを避けただけだった。
「フーン、意外とやるわね、ノミ虫からN風情へと昇格させてあげる」
「それより聞きたいことが山ほどある」
そうだ、俺はまだこいつのことを何も知らない。