戦争の美しさ。戦場の勇者。
やはり、アーリア軍は攻めてきた。読みどうりに突撃してきた。
殺戮兵器は不敵な笑みを浮かべこういった。
「チェックメイトだ」
一時間前...。
「まずこの作戦はギャンブルだ。やつらが攻めてきたら、俺たちの勝ち。俺たちはこの戦いを3日で終わらせられる」
皆聞いていた、俺の話を軍人の目で。だが心の中では疑問を抱いていた。何を言っているのだと。
「やつらが攻めてこなかったら、この623AR作戦は失敗だ、すぐに本部に帰還する」
「は?それってつまり作戦を放棄するということですか?」
フローズが質問してきた。当然だ、俺の言っていることは前代未聞だから。
「そうだ、そうなればヤツらは我々の本拠地に攻め、さらに西から来るラーズ軍もすかさず攻撃してくるだろう。突然の奇襲に対応できない帝国の軍事力は大幅に下がる、俺たちはこの国を滅ぼしかけた大罪人として扱われるだろう」
皆さすがに顔色が変わった。彼らは、国のために戦っている。だがそんな彼らがもしかしたら国を滅すかもしれないことになるんだ。だが...。
「そんなことになったら俺らの命が!」
「当然無いだろう。だが俺はやつらが攻めてくると信じている。なぜなら彼らは愚かな人間だからだ。我々が撤退するのを見るとすぐ突撃してくるだろう。だが、それをすべて返り討ちにする!」
皆唖然としていた。この人はギャンブルに命を懸けたから。名誉、階級、命を失うゲームに。
「使うのはこれ、グラスターだ。グラスターの燃料は俺の計算では、10日間持つ十分だ。これに乗りヤツらを返り討ちにする」
そう、グラスターは最高速度180km/hも出る兵器。このスピードで俺たちが突撃したらどんな気分になるだろうか。まあ、あせるだろうな。罠にかかり、命が危ないから。逃げ出すに決まっている、だがそうなったら敵は我々の攻撃に対応できない。丸腰になるということだ。
「これを使い全速力でヤツらを殲滅する、簡単な仕事だ。あのスピードなら銃弾もかわせる死ぬ心配はない!作戦は1時間後だ総員配置につけ!」
読みどうりだ。やつらの陸軍はやはり馬鹿だ。
「突撃いいいいいい!!!」
全速力のグラスターに照準を合わせることは難しい、ましては敵の罠に気づきあわてて逃げ出そうとしてる蛆虫どもにはな。すぐに終わるだろう。
「総員!撃ちかた用意!!」
移動しながら、敵に照準を向けた。グラスターは戦闘機や戦車と違い、静かで走行中にぶれることはほとんど無い、こういう作戦では極めて有能な兵器だ。
「撃て!!!」
撃った弾は敵の頭に当たった。まずは一人。まるで蟻を殺してる気分だ、弱すぎる。こうも簡単に罠にかかるし。
だがそれでも、蟻には10パーセントの働き者がいる。いるはずだ、どこかに勇者が。
「撃ちかた用意!」
「撃て!!!」
二人目、逃げる兵士を撃つより簡単な仕事は無い。それほど逃げるやつらは弱い。
(さあ、どこだ、勇敢な兵士よ!)
「止まれ!ここでブレイズバレットでやつらを一気にたたく。総員!詠唱開始!」
これなら2日で終わることも可能かもしれない。
「「「我らが手にするのは、帝国の勝利。我らが欲するのは、炎を纏いし不死の弾丸。我らの願い、天に捧ぐ」」」
「総員!撃ちかた用意!!!!ブレイズバレット、撃て!!」
70発もの爆弾が押し寄せてくるようなものだ大半が死んだだろう。見渡す限り焼け野原だった。生きている人間などほとんどいない。
「よし。一気にやつらの拠点に攻める!連中を根絶やしに...」
ダン!
(背後から撃たれた!?)
そうか、あのスピードなら敵が死んだ振りをしていることも見落とす。こいつはずっと俺たちの後ろを...。
「イイなあ、これだから戦争は楽しい!」
どんなに上官が馬鹿でも、どんなに敵が逃げていても、こうやってチャンスを狙ってくる勇者がうじゃうじゃいる。背後から撃つのは卑怯ではない、むしろ馬鹿な人間たちの意見を振り払い、自分の意思で立ち上がろうとする勇者だ。こういうのがいるから戦争は楽しい。
殺戮兵器は笑っている。撃たれたはずなのに心臓を貫いたはずなのに、動いてる。
「クソッ!こいつ化け物か!」
もう一度撃とうとしていたがそうは行かない。即座に相手の手を撃ち銃口を反らせた。
「ああああああ!!!」
撃たれたんだ、それが当然の反応だろう。だがそれでも殺戮兵器は笑う。屍の山の上で、大声で、それこそこの兵器の楽しみ、失った感情を取り戻す、機会だった。
「お前、名はなんだ、勇者よ」
「...お前に...名乗る名など...ない!この化け物め!」
勇者はまた銃を構えた、が遅すぎた。すでに殺戮兵器は頭を貫き、彼を殺していた。
「.....ふははははははは!!!!見たか諸君これが戦争の最も美しいそしてすばらしいところだ。どんなに腐った人間だろうと、どんなにゲス野郎でも戦場ではそれが美しい花になる!」
そしてこの勇者は、死ぬ直前でも俺に敵意を向けていた。普通なら命乞いをするか、諦めて死ぬか、だがこの兵士は立ち向かった。これが勇者、これが戦争!
笑う殺戮兵器に皆白い目を向けていた。心臓を撃たれ、口から血を吐き、生きているのがおかしい状態の人間が笑っている。
「さあ!ひとまず拠点に帰還するぞ!明日は朝からこいつらと戦う!楽しみだなあオイ!ふははははははは!」
だがそんな彼をいまだに軍人の目で見る女がいた。まるで共感しているかのような不敵な笑みで。見ている、俺を。
(やはり、ヤツは俺を監視しているな。でなきゃあんな目はできない。いったい何者なんだエチア・R・シーナ)