魔術
この世界はどうやら魔術が存在するらしい。俺は大佐でありながらNが名のつくため、誰も教えてくれなかったのだろうか、まあいい。この世界の魔法は大きく分けて第1位~第6位魔法を上級魔法、第7位~第12位魔法を中級、第13位~第18位魔法を下級と呼び、人間の使える魔法は第10位魔法までらしい。また上級魔法のトップ第1位魔法は世界を滅ぼすレベルの魔法、それを使えるのは「死」のみだそうだ。
また、魔術の詠唱は願いである。自分が手にしたいものを唱え、そのものを手に入れるために欲するものを唱える、最後に願いを届け魔法名を唱える。実にめんどくさいが魔法はこのお願いが強くなれば強くなるほど、威力が上がる。たとえ下級魔法でも、願いが強ければ中級魔法クラスの威力にもなる可能性もあるそうだ。
(なるほど、覚えていても損は無いな)
軍の寮に図書館があって助かった、これで魔法について少しは学べる。俺はそう思いつつページをめくった。
「しまった、指を切った」
まあ、珍しいことではない。この程度無視するが、ちょうど魔法も覚えた。試してみるか。
第16位魔法「ヒール」傷を治すだけの魔法。すこし願うだけで簡単に傷が治せる。
(やってみるか)
「我が望むのは...快適な読書時間。我が欲するのは読書を邪魔するこの傷の治療、この願いを天にささげる。『ヒール』」
すると傷口が緑に光り、すぐに傷が治った。これで快適に読書できると心に思いページをまためくった。
(作戦までまだ時間はある。訓練場でも行って試すか)
本を借り、訓練場へと向かった。ほとんどの人間が銃を構え射撃の訓練をしていた。
(まあいい、魔法を訓練する人間も多分いるだろう)
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。真ん中のページを開く。「第10位強化魔法、フレイムバレット。銃を構え詠唱を唱えて撃つと銃弾が炎を纏いながら放たれる。目標に当たった場合、当たった地点を中心に半径10メートルの範囲で爆発し、燃え、焼け野原になる」
(訓練場が焼け野原にならなければいいが、まあいい、撃つか)
近くにあったライフルを借り構えた。
「我が望むのは...」
「フリーズ大佐、ここにいましたか、何をされているのですか」
「訓練以外あるか、で何のようだ」
フローズ少尉め、せっかくの訓練時間というのに邪魔をしないでいただきたいものだ。
「えーと、彼女が大佐の実力を見たいそうで」
「俺の?」
エチア・R・シーナが気づいたらフローズの隣にいた。またあの軍人の目でこちらを見ている。
新人にしては珍しい、たいていの新人は決まって俺の顔を見て距離を置く。焼け爛れた顔を見て気の毒だと思うのだろう。迷惑な話だ。
「はい。Nの名のつく大佐の腕が実際に私よりも上なのか確認したくて」
「おっ!お前、それは言うな!失礼だろうが!」
「落ち着けフローズ。確かに俺の名はNがつく、そのせいで仲間に疑われるのは俺としても避けたい。いいだろう見せてやる」
俺は30メートル離れた目標に向かって銃を構え詠唱を唱えた。
「我が望むのは目標の排除。我が手にするのは燃え上がる炎!この願いを天に捧ぐ!第10位魔法ブレイズバレット!」
引き金を引いて撃った銃弾は目標をめがけてまっすぐ進んだすぐに目標にあたり弾が爆発した。だが、爆発した範囲は明らかに半径10メートルを超え危うく軍服まで燃えるところだった。
「うわ!!なんだこの火!誰か!消火器もって来てくれ!」
しまった、さすがに気づかれたか。それにしても願いが強いとこんなこともできるとは。
「おい!お前が犯人か!この野郎よくも...!フッ!フリーズ大佐!?」
ああ、まずい、バレた。仕方が無い。謝ってこの場を離れるか。
「申し訳ない。魔術の訓練をしていたら、こんな目に」
「いえいえ、大佐でしたらまったく問題ありません。むしろもっとやってくれても構いませんよ」
そういうわけにも行かない、一礼をして、その訓練場を離れた。
「はあ...。」
ため息が聞こえた。まあ当然だろう、これだけのことをして許せるわけがない。
部屋に戻ろうと廊下を歩いていると彼女がやってきた。エチア・R・シーナだ。やはり堂々としていてあの目は一切変わっていなかった。
「先ほどは無礼を働き、真に申し訳ございませんでした。あなたの魔術はとても美しかったですし、10位の魔法を撃ってまだ平気なんて、思ってもいませんでした。勉強になりました大佐」
10位魔法を撃ったら普通の人間は、頭痛や吐き気、目まいなどの症状が出るらしい。だが俺は平気ということは、魔術の才能でもあるのか?
「いや、それでお前の勉強になるなら、本望だ。これからも、その調子で頼む。明日から作戦開始だ、今日は休むといい」
「は!」
彼女は敬礼した。軍人の目のまま、堂々と。おそらくあれは、俺の敵になるな。