ヘル・メッセンジャー
朝起きると、彼が消えている。フリーの服はどこにもなく、体もきれいにシーと入れ替わっていた。フリーに会えない時間は少し孤独を感じていた。地下基地ということで窓はなく、あたりは電球の光りだけというあの研究室とあまり変わらない場所で生活することになった。
ただ鎖がないだけでかなりの自由度が増した。食事も研究室での食事よりかは豪華で、風呂、部屋、いろんなものをヘルさんは提供してくれた。
確かに全身真っ黒だったけど、優しくて、頼れる人間だった。レオさんもフリーと仲直りしとても豊かな生活ができている。
けどここはテロリストの基地、そんな生活は長くは続かなかった。
『緊急事態!緊急事態!敵の戦闘機を発見、直ちにB29部隊は出撃せよ!』
「シー、地上のダミー基地、結界が張ってあるんだよね?」
「うん、それでも結界の存在に気づく人間くらい現れるよ、さて僕も行く。戦えるだけ戦いたいしね」
「俺もいく、呪いで人は殺せないが、援護くらいならできる!」
レオにシー二人は戦争を終わらせたい。その気持ちは一緒。そのために戦う。私はいったいなにをすれば・・・。
「じゃあ、行って来る!」
「ここは頼むぞ!エリカ!」
「う、うん」
一人で留守番はいつもと変わらない。そんな時別に寂しいと思ったことはなかった。でも今は、少し寂しい。フリーと出会って、彼の役に立ちたいと思うことが増えてきた。戦争を終わらせたいというフリー自身の意思に応援したい。
「何か・・・できることは・・・?これは」
その本は魔術の本だった。書かれていることはいたってシンプル、魔術の詠唱、魔術の基礎に当たることがその本に書いてあった。
「第18位から第10位魔術が人間の使える限界の魔法。じゃあ、10位の魔法を覚えていれば少しは彼の役に立てるかな」
どれか一つ・・・これは『ヘル・メッセンジャー』地獄からの使者。地獄に眠る魔獣化人類を一体、呼び覚ますことができ、それを操ることができる。これなら。
「我が手にするのは戦争の終結。我が欲するのは彼の役に立つための力」
そう私は彼の役に立ちたい。魔術は願いが強ければ強力な魔術が使える。
戦争を終わらせたい、そして彼と共に暮らしたい。平和に、そのために彼と戦いたい!だから・・・。
「この願いを天に捧げます!」
よし詠唱はできた、あとは魔法名をこの魔法の名前
「え~と第・・・6位魔法『ヘル・メッセンジャー』!?どうしよう!6位の魔法って使えないんじゃ」
「おい!しっかりしろ!」
「あ!何が!」
あれ?何があったんだっけ?確か魔法撃って。
「お前、まじで何してんだ・・・血だらけになってたんだぞ」
「うっ!嘘!そんなことが!」
「原因は分かった、お前第6位魔法を撃とうとしてただろ」
フリーがいるということは今は夜。
ああ、そうか6位の魔法撃ったんだ。でも何で血だらけに。
「馬鹿かお前は!人間の使える限界を超えれば死ぬ可能性だってあるんだ!死がいたから今回は助かったがいなかったら即死だったんだぞ!」
すごい、フリーが怒ってる。完全に感情を取り戻せているんだ。
「おい!聞いているのか!」
「ああ、ごめん。でもフリーの役に立ちたくて・・・」
「クソ!馬鹿な女だ!」
「フリー、泣いているの?」
「ああ、そうだ!貴様が消えたら俺がどうなるか分かっているのか!」
「いや泣いてること認めんのかよ、普通そこ否定するだろ」
フリーが泣いて、私に怒ってる。何だろう嬉しい。
でも、魔法は撃ったから、魔獣化人類が現れるって。
「ねえ、もう一人いなかった?」
「もう一人?誰もいなかったが。そうか、『ヘル・メッセンジャー』は魔獣を呼び出す魔術。どこかに逃げたとか」
「失敗したに決まってるだろ、人間がそんな高位の魔術を使えるわけがない。突然変異でもしない限り」
そう、やっぱり失敗、でも失敗ならなんで。
「おい、アレ足跡じゃないか?」
「・・・確かに足跡だ、爪が4本、まさか魔獣か」
「魔獣化人類って人食わなかったっけ?」
あ、ヤバイ。どうしよう、魔獣を野放しにしちゃった。
「あの・・・フリー、イタッ!」
「この馬鹿女!ここは地下基地だぞ!魔獣は人も食う!今頃出口もない基地を回って、片っ端から人を食ってるかもしれないんだぞ!」
「ああ、ごめん・・・その、あなたの役に立ちたくて」
って、あれ?どっか行っちゃった。まあ、今度伝えればいいか。
「なんか眠い。寝よう」
その後魔獣は見つからなかった。基地にはいなく犠牲者もいない。特に何もないと思ったら。
「よう、我が主!」
「あ、いた」
魔獣は私の部屋にいた。