クロス・N・ヘル
そこは城だった。
シーに連れて行かれた場所は要塞だった。大きな壁、大きな門、大砲、門番。まさに城だった。
「シー、ここって何?」
「ん?ダークイービルの基地だよ」
そう、彼が仲間に入れてもらいたかったのは父上の最大にして最悪の宿敵、『ダークイービル』だった。私たちはクロス・N・グリッドの敵になろうとしていた。
「やあ、門番さん、ここのリーダーと話がしたい、『クロス・N・ヘル』とね」
「なっ!何でお前がリーダーのことを知っている!」
「当然だ、僕は全ての支配者『死』、人間のことなら大体知っている」
クロス・N・ヘルって聞いたことがない。クロス家にもそんな人間はいないはず。いったい誰なの?
「僕たちはクロス・N・グリッドを殺して逃げてきた。これだけでもダークイービルに入る素質はあると思うんだけどな~」
「え!?クロス・N・グリッドを!?」
まあ、驚くのも無理ないか。彼らにとっては最大の敵なんだし。
「彼は死んだ。でもまだ賛同者共が計画を進めている。僕たちはそれを止めたい」
「・・・いや!そもそもどうやって結界を通った!」
「ちょっと~耳ついてる~?僕は『死』なんだよ~?あの程度の結界余裕なんだよ~」
結界なんて、あったんだ。周りを見渡しても結界は見当たらない、私には見えないのかしら。
あとこの人はいつまで驚いてるんだろう。そろそろ入れてもらえないのかな?
「・・・分かりました。門を開きます」
「この門はダミーだな、本物は地下3000メートルくらいのところにある。違う?」
ダミー!?これが?もしかして城も!?でも確かにこんな目立つところに基地があったらすぐ攻撃されちゃうし、当たり前か。
「よく分かりましたね。では転移魔法であなた達を案内します」
門番もどうやら人間ではないようだ。突然体が鉄でできたロボットになった。
この人は兵器化人類なんだ。今気づいた。やっぱりシーは神様だから何でも分かるんだ。突然人が機械になっても驚かなかった。
「その必要は無い、僕らでいく。第9位魔法『テレポート』!」
目の前の景色が突然変わった。詠唱なしでこの子供は人間では不可能な9位の魔術を使った。
「シーはやっぱりすごい、神様だから何でもできるんだ」
ここは地下の施設、転移の魔法を使うにもここの地形などをはっきり理解していないと地面に埋もれたまま死ぬことだってある。それをこの子供は、何も見ずに、平然とこなした。
「うん、でもこんな僕だけど元々は人間、2000年前の突然変異で『死』になった人類。『死化人類』なんだよ僕は」
えええ!?この子神様じゃないの?だめだ私さっきから驚きすぎ。落ち着かないと。
「へえ、ここが分かったか。さすが世界の支配者。ようこそ、ダークイービル地下本拠地へ」
前を見ると男が立っていた。黒いマントに黒い服、そして黒い肌。全身真っ黒。まるで煙のような人間が立っていた。白い口、白い目。それ以外は真っ黒。
そしてその男は笑っていた。
「誰なのこの人」
「ああ、この人はクロス・N・ヘル、クロス・N・グリッドの兄、そして彼は世界で唯一の闇化人類なのさ」
「俺はアイツが嫌いなんだよ。二度とクロス・Nの名前を出すな。ヘルでいい。よろしくねエリカそしてシー。あとシーの中にいる人」
フリーのことを知っている。ダークネスって言ってたけど、こんな人類もいるんだ。
彼の手は見えないけど、握手しているのが分かった。危険な人間じゃなさそう。
「ちょっと待ってくれヘルさん」
現れたのは茶髪の男、腰に剣を持っていてフリーとほとんど変わらない男だった。
「そこにいるガキが持っているの『ウェポンコントロール』じゃないですか。知っていますよね、それは我々の敵ですよ」
そうか、フリーはこの武器でこの人たちの基地を破壊した。ダークイービルにとってこの武器は仇みたいなもの。
「硬いこというなよ~レオ。確かにそれは我々の仲間を殺した、でもコントロールウェポンを二つも手に入れるんだ、戦力が大幅にアップする。それにあれは仕方ないことなんだよ~」
「は?仕方ないこと?ふざけないでください!あのことが仕方ないわけがないじゃないですか!ヘルさんは仲間が殺されても悔しくないんですか!」
確かに彼の言ったことは正しい。フリーがやったことが許されるはずがない。けどそれは・・・。
「レオ~彼は君と同じ転生者なんだよ」
「「え?」」
転生者ってフリーと同じ!そんな、彼も!?
「この世界に転生してきた人間は新たに命を与えられる代わりランダムに呪いを受ける。この前説明したことだ」
「ああ、そして俺が受けた呪いは人を殺せなくなる呪い、だから俺は復讐ができなかった」
転生者には呪いを受ける。そして彼らにはコントロールウェポンが与えられる。その分転生者はつらい過去を送ってきた。フリーはヒロシマ、ならこの人は・・・。
「彼の受けた呪いは、自分より地位の高い人間の命令に逆らえなくなる呪い、つまり彼が我々の仲間を殺したのはクロス・N・グリッドに命令されてやったこと。本人はやりたくてやったわけではない」
「そうか、そういうことだったんだ、すまない」
「いやいや、僕に謝っても仕方ないことだ。夜になったら彼が現れる、そのとき謝ってくれ」
「じゃまあそれはそれといて我々は君たちの入団を認める。これからもよろしくと転生者にも伝えといてくれ。これからもどうぞよろしく。シーさん」
闇の中男は不敵な笑みを浮かべた。まるでこれから起こる事に楽しみと思っているような笑顔だった。
「ああ、こちらこそよろしく」
闇と死、世界一恐ろしい人類が手を組んだ瞬間だった。
なんかすごい一日だった気がする。