リスタート
朝、起きると彼はいなかった。
隣にいるのは誰かも分からない子供。
「誰だろう。それよりフリーはどこに?」
彼は消えていた。彼は確かにここで寝ていた。なのにどこにもいない。足跡もなく、離れた形跡もない。
「というか、この子は誰?」
身長は私よりも低い、150センチくらいだろうか。金髪、楽しい夢でも見ているのか、笑顔で眠っている。
ここは砂浜、父上の庭でもなく、基地の近くでもなかった。近くにP38があるということは、彼がここに運んでくれたのだろう。
「・・・いったい何が?」
自分の記憶をたどってみる。
そういえば私は父上に呼び出された。彼がダークイービルの基地に向かった後のことである。
私の鎖ははずされ、監視官にこういわれた。
「クロス・N・グリッド様がお呼びです」
なぜと質問しても監視官は答えず、私はおそるおそる、父上の部屋へ向かった。
父上から告げられたのは、私が要らなくなったこと、そしてお姉ちゃんが戦死したこと、そして私はお姉ちゃんを殺した大罪人として裁かれ、処刑されることだった。
もちろん、父上に反論した。でも父上は、私を切り捨てた。すぐに地下牢に入れられ、監禁された。
そこは元の研究室よりもひどく、変なにおいに、死体。まさに牢屋だった。
そして昨日、処刑台に運ばれ、刑を受けることになった。気絶していたのかそのときの記憶はあいまい。
けど彼の姿ははっきり覚えていた。血だらけになりながら私を救おうと、呪いを振り払い、前に進んでいた。
「そしたら、何だっけ?」
そこから覚えていない。なんか誰か違う人間に助けられた気がする。もしかしてこの子が・・・。
考えていると彼が起きた。金髪に白いシャツ、黒いズボン。いったいこの子は。
「ああ!おはよう!クロス・S・エリカちゃん!」
「あの、君は誰?」
「ん?僕は『死』だよ!ドット・N・フリーズのもう一つの人格みたいなものかな?」
『死』、そうだ私は『死』に救われた。父を殺して、P38に私を乗せ、この島まで、運んだのは彼だった。
「あなた、ドット・N・フリーズのもう一つの人格って言っているけど、彼はどこ?」
「彼は夜に現れる。昼間は僕がこの肉体を支配し、夜は彼が、彼の肉体として出てくる。多重人格なんだよ僕たち!」
多重人格?けどどうして彼が。そもそも多重人格って、何だろう。
「彼は僕に祈った。君を救う力がほしいって。だから僕が彼の体に入り込んだ。死とクロス・N・グリッド、地位は僕のほうが上、だから呪いに邪魔されずアイツを殺せた。そして君を救った」
そうか、彼は一応まだ生きているんだ。安心した。
もし彼がいなくなったら、私、どうなっていただろう。多分、ショックで立ち直れなくなったと思う。
あれ?なんか、涙が出てきた。何でだろう。でも多分安心しているんだ私は。
「ああ、大丈夫?なんか、泣いちゃってるけど」
何でだろう涙が止まらない。助けてもらった。彼が生きていた。いろんなものが混ざってわけの分からない涙が出てる。
「ああああ、泣いちゃってる!そうだ!とりあえず今後について話そう、ね?あああ、泣き止まないどうしよう!」
数時間後・・・。
「ごめん、もう泣き止んだから」
「ほんと、何時間僕を困らせるつもりだよ。まあいい、今後について話そう」
彼は子供に見えなくなった。突然目が大人に変わった。
どうやらそれほど深刻な状況になっているのだろう。
「いま、君は賞金首になっている。そして彼も。だけど我々はこの島から出なきゃいけない。それが彼とした約束だから」
「約束?」
「うん、ヤツの計画を完全に終わらせる。その代わり僕自身をあげる、それが彼とした約束。ヤツが消えてもまだ賛同している人間がいる。そいつらを全員殺す」
目の前にいるのは『死』だった。自分の支配している世界で勝手に暴れだした人間を、殺す。『死』の目は、仕事をする軍人の目。彼の目そっくりだった。
「そして我々はそのために仲間を増やさなきゃいけない」
「『死』に賞金首、仲間になってくれる人間っているの?」
「正確には、仲間にしてもらうだけどね」
私には彼が何を考えているのかまったく分からなかった。
いったい誰が、私たちと仲間になるのか検討もつかなかった。
「これから仲間を増やしに行く。さあ、P38に乗ってこう!」
「ああ、待って」
彼はまた、子供になった。彼といるとなぜか安心した。彼はフリーと同じだからかだろうか。
「よろしくねシーちゃん」
「何その名前」
「死だとなんか怖いから。君の名前はドット・N・シー。これでいい?」
「うーん。まあいいや。じゃあ出発しよう!」
なぜかシーの背中はフリーズと同じに見えた。
この日から私はシーと冒険をすることになった。
鎖はなくなり、孤独でもなくなった。私は自由になった。自由な人生をスタートさせた。




