死
俺に自由なんてなかった。昔から、生まれる前から。ずっと牢獄に閉じ込められていた。そしてその牢獄のそばにはいつも光があった。どんな暗い場所でも、必ず俺を救ってくれた光が。
前世は母が、今はエリカが俺を励ましてくれている。俺は救われてばっかだ。
だからあの時死ぬ直前、誰かを救いたいと願っていた。
それが、今だった。
「よう!!クロス・N・グリッド!!!」
「貴様!やはり私の邪魔をするつもりだったな!!すぐに立ち去れ!!」
やはり呪いは効いていた。体が帰ろうとしている、だが。
「断る!!!俺はもう奪われない!!そいつを助けて、自由となる!!」
「なっ!呪いが効いていない!?」
重い!!これだけ重いのは初めてだ!!体が動こうとしない!!
「いや!呪いは効いているさ!だがこの呪いは俺の行動を制御するだけで、俺の意思は制御できていない!こうやって無理やり体を動かしていけば!彼女を救える!!!」
なんだ?視界が赤い。目から血でも出ているのか。いや全身から血が出てる。痛い。
だが!彼女の命に比べれば、安い!!
「さあ!返してもらうぞ!彼女を!!」
「くっ!すぐに殺せ!命令だ!!」
周りの護衛が銃を向けて撃ってきた。はっ!その程度俺に通用するとでも!!
「ぐはっ!」
へへへ、血だらけだ。だがちっとも痛くない!痛いのは呪いの痛みだけだ!!
「コイツ!!もういい!連行しろ!!」
「だめです!!コイツ!ちっとも動きません!なんだこれ!?鉄みたいだ!」
動かせるものなら動かしてみろ!!俺は、そう簡単に、壊れはしない...。
なんだ、また意識が...、クソ!体力の限界か...。もう...前も見えない...。
「はっ!やっと倒れたか。時刻は9時20分!これより、世界の英雄を殺した大罪人!クロス・エリカの処刑を行う!」
意識はない。だが聞こえる。まずい、体が動かない。力がない。
(たのむ!動いてくれ!)
だめだ、まるで深海にいるようだ。体が重い。このまま死ぬのか。
「それだけはだめだ!」
「コイツ!また目を覚ました!」
「馬鹿な!そんな出血で動けるはずが!?」
どうやら俺は血だらけのようだ。自分ではもうよく分からない。呪いの痛みと体の重みで体が動かない。
まずい、死ぬ。また、死ぬ。クソ!俺はずっと救われてばかりだ!だから...救いたい。
「まだ!!死ねない!!!」
「化け物め!!これで死ね!!」
ダンッ!
なんか聞こえた、痛い。これは銃弾。心臓に直撃。これは、死んだ。
ふざけるな!まだ死ねないと言うのに!まだ、何かあるはず。何か、何か。
祈る。祈るしかない。まだ死ねない。口は動くか?よし動く、まだ誰かに祈れる。
誰に?いや、誰でもいい。死ぬ前に、何とか大声で、助けを。彼女を助けなければ。
「わ...我が...望むのは!」
「魔術か!そうはさせない!防御を魔法を張れ!」
違う。これは魔術じゃない。ただの悪あがきだ。でも、それでも彼女を救ってくれる人間がいるかもしれない。
「人を...救いたい!!だから!!そのために力がほしい!!だから誰か!!!彼女を救ってくれ!!!それができないなら俺に救う力をよこせ!!いや力をください!!!誰でもいい!!!何でもいい!!!兵器でも、神でも!何でもいい!!!どうか!!!どうか!!!彼女を救えるだけの力をください!!!!!」
気づいたらなぜか海にいた。深い、深い、海のそこ。とても暗い。でもなぜか安心している。
「フフフ...イイダロウ、スクッテヤロウ。カノジョヲスクウチカラヲヤロウ!ワガナハ『シ』カツテスベテヲシハイシタカミダ」
そうか、お前が『死』、へへ、こんな近くにいるのかよ。まあいい、それで彼女を救えるなら。
「アア、タダシジョウケンガアル...」
はっ!いいだろう、面白そうだ。その条件受けてやる。
「ジャアヨロシクドット・エヌ・フリーズ。アトハマカセテ」
「「さあ!共に世界を変えようぞ!!!」
気がつくとそこは処刑台だった。
私は死ぬのだろうか。
...ん?煙?
「お前は!まさか!『死』なのか!」
父上の声が聞こえる。誰と話しているのだろう『死』って誰?
「ああ、久しぶり!クロス・N・グリッド!153年続いた君達の我がまま壊しにきたよ!」
「クソ!!彼女がどうなってもいいのか!!」
彼女?私のこと?でも、私を救おうとする人なんてあの人しか...。
「その前に君に死んでもらえば別に問題ない!じゃあ、遺言聞いている暇ないし、じゃあね!君の考えはゲス過ぎた!」
あ、目の前で父が死んだ。何が起きているのだろう?でもなんか、嬉しい。彼が救ってくれた気がするから。
なんか、眠い。もう寝ようか。起きたら、死んでるかもしれないけど。まあ、いいか。
起きたらそこは、海だった。何があったかはまるで理解できない。
「フリーちゃん?」
隣には彼がいた。助けられたのかもしれない。呪いを振り切って。
「...ありがとう」
彼が起きたら、礼を言わなくちゃ!
夜空はとてもきれいだ。そうか、こういう時のために空が晴れていたんだね。