壊れた殺戮兵器
「君の言いたいことは分かる、ドット・N・フリーズ。なぜ彼女を殺すのかだろ」
「いや、少し違う。彼女の処刑を俺も見させてくれ。俺には彼女の死を見る権利がある」
「処刑を止めるつもりかい。やめておけ、君に私は、止められない」
「止めるつもりはない。見るだけだ」
何もない。彼女がいない日々など、何もない。どうせ、元々俺には何もなかった。彼女が消えても何も思わないだろう。
「ならいい、分かった。彼女の処刑、および死体の処理はお前に任せる」
それでいい。何もいらない。呪いに苦しめられるのはもうごめんだ。
こんなとき、小説ではよく雨が降る。悲しい描写があって、主人公が泣いて。
だがそんな事情など天気が知っているはずもなく、今日は普通に晴れていた。
1949年3月12日。きれいに晴れている。曇一つない、あの時の空と同じだ。
「ヒロシマも同じ空だったな」
何もなければ愉快な一日になっただろう。だが今日俺はまた奪われる。P38の整備をしながら、殺戮兵器は泣いた。
だが、この涙はもう出ない。彼女が消えれば。すべてなくなる。
いっそこのまま死ぬか。だがそれすら許されない。殺戮兵器は孤独だ。孤独と言う名の牢獄にいる。
「終わった」
研究室には誰もいない。あるのは彼女が使っていたものと鎖だけ。
何もない。
殺戮兵器は席に座った。普通に座るなんていつぶりだろう。いつも彼女がいたから体が軽い。
何もない。
「やっぱり俺にはここが似合うのかもしれない」
元の牢屋だ。何もない、狭い、居心地の悪い、牢獄。
何もない。何もない。
「あ!フリーズ大佐!お久しぶりです!」
フローズ少尉だ。いや、いまはフローズ中佐か。
「ああ、久しぶりだな」
「はい。大佐のおかげで俺かなり階級が上がりまして今では...」
なぜか、彼の声が聞こえない...誰だたか?コイツは誰と会話している?
何もない。何もない。何もない。
彼を押しのけて俺は前に進んだ。彼...本当に誰だ。
あれ、彼女って誰だ?いつも俺の膝に乗っていた。誰だ。
何もない。何もない。何もない。何もない。
あれ?おかしい、ここどこだ?何があった?俺はなんだ?何で生きているんだ?
何もない。俺の中には何もない。仲間、家族、感情、記憶。
「ひ...ろ...し...ま」
何だっけひろしまって。ああ、分かる、俺は壊れている。そうだ休もう、このまま寝て、休もう。
「お...れ...は...疲れた」
何だろう意識が...はなれて...いく。
「終夜!立ちなさい。どんなことがあっても、あなたには帰るべき場所、帰りを待っている人がいる。だから立ちなさい。あなたは強い子。どんなにいじめられても立ち上がる強い子。立ちなさい。いや、立って!お母さんがついているから!」
「は!俺は何を!」
「気がつきましたか大佐。いきなり倒れたんですよそれから3日も...」
「3日!?あの処刑は!」
「はい?ああ、英雄の娘を殺したクロス・エリカの処刑ですか?それならあと10分ですが」
すぐに病室を出た。ここは軍の基地じゃない。ただの病院。
処刑は広場で行われる予定だった。9時10分、まだ間に合う。
そうだ、俺にはある、まだ彼女が生きている!死なせてなるものか!死なせてたまるか!
「P38ライトニング!!!!!こおおおおいいいいい!!!」
「大佐!なにを?て?えええええ」
P38来てくれたか。よし。
「ちょ!こんな街中で戦闘機を!?」
「フローズ!俺の邪魔をするな!ドット・N・フリーズ大佐として命ずる!!」
広場までは遠い、だがこの機体なら!
「P38!全速力で処刑台へ向かえ!!」
すごい音だ。多分今までで一番大きいエンジン音を出している。
「ああ、突っ走れ!!」
時速何キロだろうか。ものすごいスピードだ。
あと3分!!間に合う!!
「あった!!邪魔だ!どけえええええ!!」
処刑台には英雄の娘の仇が死ぬのを見ようとたくさんの人間がいた。彼女は首と体を止められ彼女の首の上には鋭く光ったギロチンがあった。
「この機体は!ドット・N・フリーズか!!」
「よう!!クロス・N・グリッド!!!全世界の敵!!貴様を殺しに来たぞ!!恐れおののけゲス野郎!!!」
俺は壊れた殺戮兵器だ。だがいま、俺はさらに自分を壊そうとしている。