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そして俺は今日も戦場に立つ  作者: ののくん
623AR作戦編
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623AR作戦

 この世界の平和は、「死」によって管理されていた。死は一週間に一度、この世界に訪れ、罪を犯したもの、罰を受けるべきものの命を奪い、平和を保った。「死の時間」である。だから誰も人を殺せないし、人のものを奪えない。罪を重ねることができないのである。しかし死の時間を回避する方法が一つだけあった。戦争である。

 ある日愚かな人間たちは、戦争を始めた。死の時間を回避するために、宣戦布告をした。その戦争は100年続いた。だが、ある男が言った。「休戦しよう。この戦争を休めよう。そうすれば、戦争は終わってないから死は手を出せない。しかし我々は休戦してるので犠牲者は出ない、戦争する必要が無くなる。完全な自由を手に入れられる。みんなが死、そして戦争という牢獄から抜け出せる。だから、休戦しよう」、この提案が世界を真の平和へと築き上げた。そして彼は世界の英雄となった。「終焉の100年」を終わらせた英雄、クロス・N・グリッドである。

 だが彼は今、全世界の敵であり。世界を壊した、最悪の極悪人になっている。



 俺は、「終焉の再開」の後、軍人になった。焼け爛れた顔はマスクで隠し。傷だらけの目もゴーグルで隠した。俺は、復讐したかったわけではなかった。復讐など、過去にへばりつく蛆虫がやることだ。俺はただ未来に突き進みたいだけだった。感情すら失った俺にそもそも軍人以外の未来は無かった。俺はただの殺戮兵器だった。銃弾に当たっても痛みは感じず、指が引きちぎられても前に進み敵を殺すだけ。医者には無理はするなといわれたが無視をした。俺は死に場所を求めていたのかもしれない。そして俺はいつの間にか、大佐になっていた。


 「フリーズ大佐、フローズ・R・ニック少尉でございます。来週の623AR作戦に参加する中隊のリストです」

 「ご苦労」

 632AR作戦は、北にあるアーリア前線にてアーリア軍の襲撃を食い止めた後、北西へ大回りし西から攻めてくるラーズ軍を挟み撃ちにしそこでラーズ軍を殲滅する、二つの前線で敵を壊滅させる、大きな作戦だった。これにより北、西からの攻撃をなくし、東、南にあるナーズル前線、カイシー前線に兵を送り込める、一気に国への攻撃を排除できる。

 そして、その作戦の指揮官が俺だった。兵の数は4000人、移動はグラスターという魔術兵器での移動らしい。

 「フローズ少尉、このグラスターとは何だ」

 「はい、何でも我が軍の兵器開発部が発明した新たな魔術兵器だそうです。グラスターは浮遊魔法で強化されていて、浮遊しながら最高速度180km/hも出るボードだそうです」

 ボードか、車や戦車と違い視界が広くなるし何よりスピードが速いのはいい、こういう作戦ではピッタリな兵器だありがたい。

 しかし、この世界には魔術が存在するのか。なぜ誰もそのことを教えない。俺がNだからか?

 「フリーズ大佐。少しよろしいでしょうか」

 聞き覚えの無い声だ、誰だ。

 「入れ」

  入ってきたのは女性だった。赤色の長い髪。堂々としていて、目は軍人の目だった。敵を殺す、それだけのために生きている。軍人はそういう目をする。身長は女性にしては高い、180はあるか?

 「本日より新しく、第23分隊に所属する、エチア・R・シーナです。よろしくお願いします」

 頭を下げた彼女に黙って目を向けた。またRか、俺だけNだとすこしいやになってくるな。


 この世界の地位は名前によって変わる。S、皇帝や英雄、またはその家族にSの名がつく。R、貴族、または、英雄とまではいかないが戦争で活躍した兵士にその名がつく。N、平民。名前にこれらの文字が無い人間は、奴隷、罪人だ。

 つまりクロス・N・グリッドは平民でありながら、世界を変えた、すばらしい男とも言える。


 「俺の分隊に入ったからには責任は重大だ、その覚悟があるのなら...」

 「覚悟ならとっくにできています」

 「そうかならよろしく」

 俺は自己紹介などどうでもよかった、名前と顔と戦績さえ分かればいい、ほかはいらない。名前だけ聞いて後はテキトーに挨拶をするだけだった。

 彼女はうなずいて部屋を出た。一人になった部屋は、とても静かになった。

 すでに時刻は11時30分になっていた。リストを確認し俺は寮にある自分の部屋に戻り寝た。



 周りを見渡せばそこは地獄だった。赤くなった死体が、ゴロゴロ転がっていて、自分もほとんど動けなくなるほど足がボロボロだった。周りの人間は人間なのかすら分からなくなっていた。飛び出た目玉を直そうと目に押し込もうとする人、病院に行くために腸を引きずりながらヨロヨロと歩く人、友達が死に、死ぬまで泣き叫んでいた人、たくさんいた、怪物に見える人間たちが。ここはまさに地獄だった。母を見た、笑っていた。こんなひどい状況になっても、俺のために体を貼って守り、最後の最後まで自分の息子を笑わせようと、笑顔にしようと、希望を与えようと、思っていたのだろう。笑っていた。立派な母親だった。そしてその死体は、死んでいるのに、美しかった。その死体を眺めながら俺は死んだ。

 

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