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そして俺は今日も戦場に立つ  作者: ののくん
クロス・S・エリカ編
16/28

笑顔、そして涙

 この女はまったくこりてなかった。

 いや、確かに前のようないたずらはなくなったが、風呂、飯、全部俺が付き添いだ。

「いい加減こりろこの馬鹿」

「ええ、だからこりたわ」

「それは俺の膝の上で読書してるお前が言える台詞か」

「ああ、そう父上から休暇をもらった。一緒に海に行かない?」

「お前人の話を...いま何といった」

 休暇?海?奴隷である俺にヤツがそんなこと。

『やあ、ドット・N・フリーズ元気かな?』

 クロス・N・グリッド?なぜここの無線で!?

「休暇とはどういうことですか?グリッド様」

『君の呪いだよ、どうやら回避する方法を見つけたらしいね。そうなると、他の軍人に私の計画を喋る可能性が出てくる。一人が動くと面倒なことになる。だから休暇だ、少し休むといい。私の庭なら貸してやる、海もあるし彼女と遊ぶならもってこいと思わないかね?』

 ああ、まったくだ。

「俺はともかく、彼女が逃げ出す可能性があるぞ、それでもいいのか」

『問題ない。彼女には魔術強化された手錠をつけた。私の庭から抜け出すと電流が流れ気絶する。そうなった場合回収は君に任せる』

「了解しました」

 休暇か。最近はかなり休めているがさらに休みを与えるとは、いったい何を考えている。

「じゃあ、行きましょう。あなたのP38で、場所は分かっている」

「おい待て、俺のP38の定員は一名のみだ、お前を乗せるわけには行かない」

「大丈夫よ、そんなときはいつものアレよ」

 ふざけた女だ。

「フリーちゃん行くわよ」

「そのあだ名やめろ気持ち悪い」

「じゃあ、N風情?」

「そのほうが落ち着く気がしてきた」

「だめ!フリーちゃんで決定ね」

 そして彼女を乗せるときはやはり、膝に乗せて座らせた。

「クソ!窮屈極まりない」

「ごめん、さすがにこんなに狭いとは思わなくて。この戦闘機、心臓みたいな音がするわね」

「当たり前だ、コイツは兵器ではなく生き物だ。魔力を機体全体に送り出す心臓がこの戦闘機にある。その音だ」

 狭くて暑い中で彼女に説明した。

 そういえばコイツは10歳から、あそこに閉じ込められたといっていた。

「戦闘機乗るの、これが初めてか?」

「ええ、そうよ。中ってこんなに暑いんだね」

「夏だし当たり前だ、もういい離陸するぞ」

 いつものようにエンジンを鳴らしP38は空へと飛び立った。

 彼女は初めて動物園に来た子供のような目で、戦闘機の羽を見つめていた。

「すごい、こんなに飛ぶんだ」

 彼女は世界について何も知らない。まさに井の中の蛙だ。

「ああ、あれが軍基地!すごいこんなに広いんだ!」

「お前は子供か」

「だって、8年間閉じこもってたし。私何も知らなかったし」

 だろうな。

 空を飛んでいるときれいな砂浜が見えた。

「あれか」

「ええ、そうよ。あれが父上の庭」

 そこは誰もいない静かな島だった。小さいが、休暇には最高な場所だ。

「あれ何?生き物?」

「魚だ。そんなことも知らないのか」

「うん、父上が読ませる本はいつも兵器のことばっかりで、こういうことは何も知らないの。あ!あれは何?」

 まるで自分の子供を見ている気分だ。楽しそうに笑いやがって。

(やはり何も感じない)

「あれはイルカだ、正直俺も見るのは初めてだ」

「へえ、海やっぱりきれい」

 本当に、馬鹿な女だ。

「いま、笑っていたよ?」

「なに?」

「笑顔よ。素敵だったわよ一瞬で、マスクでほとんど見えなかったけど」

 俺はいま、笑っていたのか。自覚がない。この女の影響で感情がどんどん戻りつつある。

 俺にとって彼女は必要なものになっているのかもしれない。

「さっさと飯を食うぞ。遊ぶのはそれからだ」

「ええ、分かったわ」

 母も同じように海に連れてってくれた記憶がある。あの海はもう見れない。

「...」

「あなた、泣いているわ」

「ああ、そうだな」

 笑って泣いている。こうも変わるものなのだろうか、人は。

(母にも見せたかったのかもな、この海を、イルカを、魚を)

 俺は何もできなかった。あの日、すべてを奪われ、ここに立っている。

 だから、すべてを取り戻す。感情、家族、自分を、この女となら、取り戻せる気がする。

「まったく、馬鹿な女だ」

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