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そして俺は今日も戦場に立つ  作者: ののくん
623AR作戦編
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太陽が落ちた日

 

 1945年8月6日、一つの爆弾が、町を破壊した。

 ヒロシマの原爆である。死者約16万人。人類が初めてその兵器の恐ろしさを体験した瞬間である。

 そして、ある青年が、そこで、命を落としてしまった。赤くなった母の死体を眺め、ずっと、ずっと、死ぬのを待っていた。何もできなかった。母のために、何もしてやれなかった。

 彼は後悔した。彼は自分を恨んだ。死に掛けて、ボロボロで何もできない中、後悔し続け死んだ。



 そこは家だった。暖かい、部屋の中だった。生まれたばかりの赤ちゃんは、泣いていた。声は出さず、動かず、ただ涙を流して、泣いていた。

 あたりまえだ、その赤ちゃんはついさっきまで終わりを見ていたのだから。


 「フリーズ。フリーズ。ドット・N・フリーズ!」

 目が覚めたらそこは教室だった。そうだ、さっきまで授業を受けていたのだ。辺りを見ると、誰もいない。みんな帰ったのだろうか。俺は一人、寝ていた。

 「やっと起きたか。もう授業は終わっている。早く帰れ。」

 「すみません、寝ていました。帰ります」

 俺は、一度死んだ。あの日、眠いから眠ったら、いつの間にか死んでいた。だがなぜか俺は生まれ変わっていた。人間に、「ドット・N・フリーズ」という名前を持って、生まれていた。

 もう8月、こんな蒸し暑い教室さっさと出よう。カバンを持って教室を出て、まっすぐ家に帰った。友達もいない。少しさびしい帰り道、オレンジ色の夕日を見ながら、帰った。

 「そういや、前世は、泣いて帰ってたなあ」

 前世の俺は、自閉症を患っていた。そのせいで、みんなから嫌われていた。人の形をしたゴミ、社会のお荷物、そんなくだらない言葉を連発され泣いていた。

 そんな中、唯一の救いは母だった。母は何でも聞いてくれた、俺が学校で言われたこと、されたこと、させられたこと。すべてを受け止め、慰めてくれた。それでも俺は、母に何一つ恩返しできなかった。もし...あのとき。

 「いや、結果に『もしもあの時』なんてない、考えても無駄か」

 気がつくと家が見てきた。とくに特徴もない、赤い屋根の普通の家。

 「ただいま、母さん」

 「あら、お帰り、フリーズ」

 今の母の名は「ドット・N・ライタ」父は「ドット・N・ローズ」穏やかな家庭だった。貧しい暮らししかできなかった、前世と比べるとかなりよい暮らしができた。これも、母さんのおかげ、前世ではできなかった事を、やるんだ、絶対、もう後悔をしたくないから。人生は順調だった。

 今日は、1945年8月5日、明日も...明日...。

 「明日は、いやなことがありませんように」

 1945年8月6日、忘れもしない、あの日のことは。ヒロシマの原爆。俺のすべてを奪った、最悪の兵器。もう、後悔はしないように。明日も。

 「頑張って生きよう」



 1945年8月6日。午前6時20分突然、町中にある声が響き渡った。家にいても、どこにいてもその放送は誰の耳に入り込み、その内容は、衝撃的だった。

 「全世界いやすべての支配者、『死』に告げる、私はクロス・N・グリッドだ」

 クロス・N・グリッド、かつてこの世界に起こった100年間の戦争「終焉の100年」を終わらせた、男。世界の英雄。その人の声だった。当然、あたりはさわぎ始める。俺も何があったのか、外へ出て、その放送を聴いていた。

 「ただいまより、かつて世界を滅ぼした戦争『終焉の100年』を、再開する!!!」

 それが何を意味するか、俺は一瞬にして理解した。戦争が、始まる。世界が終わる。家族が死ぬ。死ぬ...。 

 だが、そう戦争が早く動くはずがない、まだ、大丈夫、そう考えていた。

 8時15分、一つの魔法が、町を破壊した。何の前触れもなく。何の罪のない16万人の人間が一気に消し飛んだ。当然俺も、その被害を受けた。また、死ぬのだろうか...。

 目が覚めると、母が死んでいた。死体は、あの時と同じように、赤くなっていた。全身、黒焦げになるのではなく、ただ赤く、赤く、なっていた。また俺は生き残ってしまった。母の死体を眺め、座っていた。絶望だ。...だが、生きる、母がいなくても、生きる。それだけの力は、まだ残っている。立った。ボロボロの足で立った。そして少しずつ歩き、残っていた病院へ向かった。

 俺はすべてを奪われた。二度。違う点は、命があるか、ないか。だが、どちらにせよ、すべてを奪われた。家族、家、感情、すべてを...。そして俺は。

 戦場へたった。

 


 

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