太陽が落ちた日
1945年8月6日、一つの爆弾が、町を破壊した。
ヒロシマの原爆である。死者約16万人。人類が初めてその兵器の恐ろしさを体験した瞬間である。
そして、ある青年が、そこで、命を落としてしまった。赤くなった母の死体を眺め、ずっと、ずっと、死ぬのを待っていた。何もできなかった。母のために、何もしてやれなかった。
彼は後悔した。彼は自分を恨んだ。死に掛けて、ボロボロで何もできない中、後悔し続け死んだ。
そこは家だった。暖かい、部屋の中だった。生まれたばかりの赤ちゃんは、泣いていた。声は出さず、動かず、ただ涙を流して、泣いていた。
あたりまえだ、その赤ちゃんはついさっきまで終わりを見ていたのだから。
「フリーズ。フリーズ。ドット・N・フリーズ!」
目が覚めたらそこは教室だった。そうだ、さっきまで授業を受けていたのだ。辺りを見ると、誰もいない。みんな帰ったのだろうか。俺は一人、寝ていた。
「やっと起きたか。もう授業は終わっている。早く帰れ。」
「すみません、寝ていました。帰ります」
俺は、一度死んだ。あの日、眠いから眠ったら、いつの間にか死んでいた。だがなぜか俺は生まれ変わっていた。人間に、「ドット・N・フリーズ」という名前を持って、生まれていた。
もう8月、こんな蒸し暑い教室さっさと出よう。カバンを持って教室を出て、まっすぐ家に帰った。友達もいない。少しさびしい帰り道、オレンジ色の夕日を見ながら、帰った。
「そういや、前世は、泣いて帰ってたなあ」
前世の俺は、自閉症を患っていた。そのせいで、みんなから嫌われていた。人の形をしたゴミ、社会のお荷物、そんなくだらない言葉を連発され泣いていた。
そんな中、唯一の救いは母だった。母は何でも聞いてくれた、俺が学校で言われたこと、されたこと、させられたこと。すべてを受け止め、慰めてくれた。それでも俺は、母に何一つ恩返しできなかった。もし...あのとき。
「いや、結果に『もしもあの時』なんてない、考えても無駄か」
気がつくと家が見てきた。とくに特徴もない、赤い屋根の普通の家。
「ただいま、母さん」
「あら、お帰り、フリーズ」
今の母の名は「ドット・N・ライタ」父は「ドット・N・ローズ」穏やかな家庭だった。貧しい暮らししかできなかった、前世と比べるとかなりよい暮らしができた。これも、母さんのおかげ、前世ではできなかった事を、やるんだ、絶対、もう後悔をしたくないから。人生は順調だった。
今日は、1945年8月5日、明日も...明日...。
「明日は、いやなことがありませんように」
1945年8月6日、忘れもしない、あの日のことは。ヒロシマの原爆。俺のすべてを奪った、最悪の兵器。もう、後悔はしないように。明日も。
「頑張って生きよう」
1945年8月6日。午前6時20分突然、町中にある声が響き渡った。家にいても、どこにいてもその放送は誰の耳に入り込み、その内容は、衝撃的だった。
「全世界いやすべての支配者、『死』に告げる、私はクロス・N・グリッドだ」
クロス・N・グリッド、かつてこの世界に起こった100年間の戦争「終焉の100年」を終わらせた、男。世界の英雄。その人の声だった。当然、あたりはさわぎ始める。俺も何があったのか、外へ出て、その放送を聴いていた。
「ただいまより、かつて世界を滅ぼした戦争『終焉の100年』を、再開する!!!」
それが何を意味するか、俺は一瞬にして理解した。戦争が、始まる。世界が終わる。家族が死ぬ。死ぬ...。
だが、そう戦争が早く動くはずがない、まだ、大丈夫、そう考えていた。
8時15分、一つの魔法が、町を破壊した。何の前触れもなく。何の罪のない16万人の人間が一気に消し飛んだ。当然俺も、その被害を受けた。また、死ぬのだろうか...。
目が覚めると、母が死んでいた。死体は、あの時と同じように、赤くなっていた。全身、黒焦げになるのではなく、ただ赤く、赤く、なっていた。また俺は生き残ってしまった。母の死体を眺め、座っていた。絶望だ。...だが、生きる、母がいなくても、生きる。それだけの力は、まだ残っている。立った。ボロボロの足で立った。そして少しずつ歩き、残っていた病院へ向かった。
俺はすべてを奪われた。二度。違う点は、命があるか、ないか。だが、どちらにせよ、すべてを奪われた。家族、家、感情、すべてを...。そして俺は。
戦場へたった。