兆候
大きな建物に囲まれ、都会というのを体感したドバルは上を見ては口をあけていた。
「馬鹿みたいに口を開けないでください」
「馬鹿みたいって何だ!?」
「じゃぁ、馬鹿」
「馬鹿じゃねぇって!何回言えば気が済むんだよ!?」
と、いつもの掛け合いを街中でやった。
「わ~、あれはなんですか?」
ライルさんが指さしたのは空に浮かぶ鳥のような魔動機。
「あれは小型飛行機だ」
ラズさんがライルさんに説明をした。
見たことのないものにライルさんも目を輝かせていた。
この街は世界の中でも技術的に高い街だ。
「あのさー、世界って何個の国があんの?」
ドバルの突拍子もない質問にだれもが唖然とした。
そんなことすら知らないのか…本当にこの国の人間なんですか?
何も知らなかった一年前の僕と一緒ですか、あなたは。
僕がかわいそうな人を見る目でドバルを見ていると、それを見かねてかライルさんが答えた。
「あ、あのね。3つの国があるよ!こことか、グオリアとかはマーリア国です」
「マーリア国は魔動機を最初に考案した国だ」
ライルさんとラズさんがドバルに親切に説明した。
「へぇ、なるほど…」
メモ帳に書き取るとドバルは再度飛行機を見た。
道路には自動車。
ハイテクなものが沢山。
田舎者のドバルには珍しいものなんだろう。
一行はラズさんの案内で病院に向かった。
とっても大きな建物に『マーリア国際総合病院』と書いていた。
中は人であふれていて泣いている子供もいた。
ラズさんが受付を済ませ、皆で座って待っていた。
関係ない者がこんなに椅子に座っては迷惑かとも思ったのだが、椅子はたくさんあってそんな心配しなくてもよかった。
「エリウスさん、どうぞ」
順番を待っていたのだが思ったよりも早く呼ばれた。
「行ってくる」
ラズさんはエリウスさんを連れて診察室に入って行った。
「何か、わかるといいね…」
ライルさんがくまちゃんを抱いた。
二人の帰りを黙って待つことにした。
しばらくすると若い茶髪の青年が近づいてきた。
「三人とも病気?」
「ううん、今診察している人を待ってるんです」
ライルさんが答えた。
それを聞くと彼は隣の席に座った。
「何歳?」
にこにこした青年は明るく、話しやすい雰囲気を持っていた。
「俺とこっちは17。…ライルは?」
ドバルが僕をさして言ったあとライルさんを見た。
「私は14歳です」
すると青年は笑い、肩にかけていたバッグから何かを取り出した。
「俺はダイチっていうんだ。16歳。ゼリー食う?」
僕たちも自己紹介をし、ゼリーをいただいた。
「このみかんゼリーうめぇ~」
「だろ?このお店、うまいんだ」
ドバルとライルさんはすっかりダイチさんと仲良くなり、もらったゼリーを食べていた。
しばらくすると診察室から二人は出てきた。
「どうでした?」
僕は立ち上がりラズさんに尋ねたが、彼の顔はあまり嬉しそうではなかった。
隣で何かが床に落ちる音がして、横を見るとゼリーが落ちていた。
そしてダイチさんが目を丸くして二人を見ていた。
「…エリウス?」
「え?」
彼はそういうとエリウスさんの前に行き、顔をじっと見た。
「…やっと会えた!エリウス、覚えてるか?俺、ダイチだよ?」
ダイチさんはエリウスさんと知り合い…?
ラズさんも驚いている。
しかしエリウスさんには全く反応がない。
ラズさんがダイチさんの肩を優しく叩いた。
そしてダイチさんはがっかりした顔をしてエリウスさんをもう一度見た。
「エリウス…」
僕はラズさんのところへ行った。
「なんて、言われました?」
「初めてみた症状だと言われた。入院すれば見てくれるそうだが、断った」
ダイチさんはそれを聞くと診察室に走って行った。
それを見たラズさんは
「彼は?」
と僕に聞いたので、僕は知っていることを伝えた。
「16歳か、エリウスと同い年だ。エリウスは俺と会う前から旅をしていた。それで会ったのかもな…」
ラズさんはエリウスさんを椅子に座らせた。
僕がドバルを見ると複雑そうな顔で診察室を見つめていた。
今、彼は何を考えているんだろう。
「ダイチ君、どうしたんだろう…」
ライルさんがドバルとともに部屋を見た。
すると診察室から怖い顔をしたダイチさんが出てきた。
扉を強く、バンッ!と閉めた。
そしてこっちを見ると照れ笑いをしてラズさんの前に立った。
「…話があるんだ。ついてきてくれる?」
ラズさんは頷き、僕たちもラズさんの意に賛成した。
彼は個室の病室に僕たちを案内した。
「ここ、俺の病室だからのんびりしていいよ!」
病人だったんですか!?
「病気なのか!?」
ドバルも僕が思っているのと似たようなことを言った。
こんなに元気なのに…。
窓もあり、綺麗な病室は特別な部屋なのを表していた。
「まぁ、元気なんだけどね。それより、エリウスだよ。どうしたの?」
ダイチさんは冷蔵庫からゼリーを取り出し、ラズさんに渡した。
僕たちは椅子を出し、それに座った。
ダイチさんもベッドに座ると、ラズさんがそれを見計らったようなタイミングであの事件のことを話した。
「なるほどね。あんなに明るくて笑ってた奴なのに…」
ダイチさんは思い出すように言った。
「エリウスと知り合いなのか?」
ドバルがさっきもらったゼリーを食べながら言った。
「うん、小学校入学したときに同じクラスだったんだ。でもすぐに俺が入院して、エリウスも引っ越したんだ。…そうだ、さっきエリウスを見た医者は俺の親父なんだけどやっぱりどうしょうもできないって言ってた。親父の腕は確かだから、今の医学じゃダメなのは確かだと思う」
さっき診察室で父親と話をしていたんだ。
ダイチさんは父の腕は確かだと言った。
それを誇っていいと思う。
でもあの時怒っていたように見えたのはエリウスさんを戻せない事を知ったからだけには見えなかった。
なにかあったのかな?
「…僕も考えてたんですけど、この症状が体内の星水値が急激に高くなって起こっているとするなら体内の星水濃度を減らせば戻りませんか?」
とりあえず考えても僕にはわからないので、エリウスさんに対する自分自身の考えを述べた。
「そんなことできるんですか?」
ライルさんがゼリーのカップをごみ箱に捨てながら僕に言った。
僕は立ち上がり、窓際に立っていたエリウスさんの前に立った。
「ええ、可能性は0ではありません」
彼女の額に手を触れ、僕は集中した。
グオリアでドバルにやったのと似たような感じだ。
ただ違うのは体内にある星水を少し空気中に流すこと。
しかし体内から急に取り出し過ぎればバランスを崩し、一生このままになるかもしれない。
僕もやったことがなかったから自信がなかった。
だがこれで治るなら…!
手にエリウスさんの体内にあった星水が空気中に流れていく感じが伝わってきた。
僕は手を下した。
「…どうだった?」
ドバルの不安そうな声が背中から聞こえた。
僕は答えず、エリウスさんをじっと見た。
彼女の表情は変わらずどこか遠くを見つめていた。
振り返るとみんなが僕の顔を見てがっかりした。
「すみません、お役に立てず…」
「気にすることはない」
ラズさんが謝る僕にほほ笑んだ。
僕が椅子に座るとダイチさんがスリッパを脱いでベッドの上で胡坐をかいた。
「それにしても今の時代の魔法はすごいな~」
「ジェリオスは特別な魔法使いだからな!すごいんだ」
ドバルがこっちを見て笑った。
「ダイチ、エリウスの件は俺たちに任せてよ。元に戻したら絶対連れてくるからさ」
しばらくの間僕たちはダイチさんと世間話をしていた。
ダイチさんから最近の世界状況などを教えてもらった。
「今すぐ戦争をしそうとかそういう話は聞いたことないよ」
僕がダイチさんに聞いたのは、国同士の状況。
施設を脱走するときに聞いた言葉、『戦争』。
あのとき意味はわからなかったが、今はそれを何とかしてでも阻止したい。
ダイチさんに組織の名前を出すと
「universal starって魔動機とか作ってる会社だよな?どこの国と仲がいいとかは知らないな、たしかそこってどこの国にも属してないんだよな。んでマーリアとグズルが取り合ってるってのはきいたことあるね。実際どうかは知らないけど」
ウジ虫はまだ大きく動いていないようだった。
「グズルって?国か?」
ドバルはさっとメモを取り出した。
「ああ。グズルは自然を第一にしている国だ。そんな国が魔動機に頼ろうとしているのか…財政状況が悪いんだろうな」
僕もラズさんと同意だった。
グズルは自給自足の国、なおかつ自然たっぷりの国で流行病になる人が多いこともあり、何度もマーリアが魔動機の無償提供を提示したのだがそれをその度に断っていた。
魔動機を作っているウジ虫をグズルが欲しがっていることは僕も正直驚いた。
組織はどう動くだろうか。
僕の予想は、理由はわからないが組織側は戦争を起こしたいようだからどちらにも協力して両国を戦わせようとすると思う。
まぁ、あくまで噂話。
用心するに越したことはないが、確信を得てから何か手を打っても遅くないと思う。
僕がダイチさんの話に考えを巡らせていると、突然ドバルがヘンな声を出したため僕の思考は一瞬停止してしまった。
「あ~咽乾いた!!」
ドバルは肩を落としって言った。
甘いものばっかり食ってるからだ、馬鹿。
「まったく、今飲み物買ってきますね」
僕が立ち上がり扉に手をかけた。
…みんなも何か飲むかな?
一度手を離し振り返ってみんなを見る。
「他に、何か飲みたい方はいますか?」
人生でおそらく一度も言ったことのない言葉に僕は少し恥ずかしかった。
「いいんですか?私も咽乾いてて…」
ライルさんがにこにこして言った。
他にも何人かからお願いされた。
「わかりました、飲み物は何でもいいですか?」
まぁ、何が売っているのかわからないんだけど。
みんなが頷くのを見て、僕は再度扉に手をかけた。
「ありがとう」
感謝の言葉を言われながら僕は部屋を出た。
売店に向かうとたくさんの飲み物があった。
みんなは何でもいいと言ったので僕は無難なミネラルウォーターを選んだ。
のどが渇いた時には水がいちばん!
そう思って水が入った容器を人数分持ち、セルフサービス式のお店なのでレジに向かった。
その時、universal starという単語が耳に入り、僕は足をとめた。
その声の方に行くと入院患者が二人立っていた。
男と女だった。
彼らはグオリアで見たウジ虫のやつらだった。
けがが重傷で大きい病院に入院しているのか。
…なんでこんなところで。
彼らは僕に気づかず、話をしていた。
「サーティス様が今度マーリアの国王に会いに行くって話、きいた?」
何だって!?
僕は危うく持っていた容器を落としそうになった。
サーティスというのは組織内で有名な人物で僕も何度も耳にしたことがあるし、一度会ったこともある。
髪が白く、黒い服を着ていて無表情の女性。
何を考えているのかつかめなく、しゃべり方も淡々としている。
組織内では通称、意志あるドールと呼ばれていて彼女もまた僕と同じ被験者だった。
「ああ、聞いたよ。とうとう動き出すのかね…」
「うーん、どうかな?私はグズルの方をどうするのかっていうのを聞いてないからわからないよ」
彼らの話はそこまでだった。
僕はばれないようにレジに向かい、早々と売店を後にした。
ウジ虫があそこで話をしていてくれてラッキーだった。
廊下を速足で歩きながら僕は考えた。
もし僕の思った通りになるとすると、大変なことになる。
施設の破壊をしている暇じゃない。
…早いうちに、戦争がおこるかも。
気づくとダイチさんの病室の前にいた。
僕は部屋の扉を開けた。
「お待たせしました…」
帰りを待っていたドバルが顔を輝かせたが、僕の表情を見て何かを理解したのか真剣な顔をした。
僕はとりあえずみんなに容器を手渡した。
…ドバルには投げてやったが、うまくキャッチした。
「どうした?」
ラズさんが立ち上がって椅子をしまいながら言った。
「急用ができました。今すぐマーリアの国王に会いに行きます」
国王と聞いて一番驚いたのはダイチさんだった。
「え、行くの!?…やばそうな雰囲気」
ダイチさんはこのメンバーを見て、なんとなく普通の旅人じゃないのは気付いているようだった。
「ダイチ、ごめんな。今度遊びに来るからその時はまたおいしいゼリーくれよな!」
そうダイチさんに言うとドバルが僕の隣に立った。
「お邪魔しました、ゼリーおいしかった!!」
ライルさんもぺこっとお辞儀をして、丁寧に椅子を直すと窓際にいるエリウスさんの手を引いてこちらに来た。
「えーっと、なんかよくわからんけど頑張ってな?んじゃ最後にお得情報。城に行くなら地図の通りに街道を行くよりもひたすら北に進んだ方が確実に早いぞ」
ま、綺麗な道はないけど、と彼は笑った。
僕は礼をした。
「ありがとうございます」
「エリウスを戻したらまた来る」
ラズさんが彼女を見ながら言う。
「うん、よろしく。待ってるから、怪我とかしないようにな?」
ダイチさんに手を振り僕たちはそのまま病室を出た。
「あとでお話しします、今はなるべく早く街をでましょう」
僕はどうしたらいいのか考えながら歩いた。




