疑問
「ふぁ~、眠いです…」
ライルさんが歩きながら目をこすった。
片手にはくまちゃんを握っている。
その姿は寝る前の子供そのままだ。
または寝起きの子供、か。
「がんば、ライルー」
というドバルはいつも通りの元気っぷり。
次の町に向かって歩いていた僕たちはちょくちょくウジ虫に会いながらも、森を抜けた。
一睡もしないのはさすがにライルさんにはつらいようだ。
「もう少しです、がんばってください」
僕は町に着いたらまず買い物をしてしまわないとな、と考えながら歩いていた。
新しい本も読みたいので、図書館があればいいなとも思う。
あ、でもまずは二人を宿においていかなくては。
…ウジ虫の追手の数は減っている。
しかし用心してあの施設に一番近い町に行かず、少し遠い町を目指していた。
それのせいでずっと戦いっぱなし、歩きっぱなしだ。
さすがに魔力がもたない。
魔法を使うには魔力が必要で、魔力は集中力などを使うのだが疲れていたりするとうまく操れない。
だから睡眠などは必要だ。
僕の場合は施設の中で魔力をどんな環境であっても使えるように訓練されていたのでまだ使える自信がある。
もしこの後モンスターなどが出てきたら僕が頑張らなくちゃ。
と考えたしりから草むらからウジ虫が現れた。
「うわっ、ウジ虫が湧いて出てきたぞ!!」
ドバルが剣を構えた。
本当に定着してしまったが、ウジ虫=universal starである。
「ドバル、何か様子が変じゃないですか?」
僕がドバルの前に立ち草むらから出てきた3人を見る。
皆けがをしているのだ。
「誰かと闘ったのかな?」
ライルさんがくまちゃんをぎゅっと握り、目を凝らした。
すると彼らの後ろの方から音がした。
そして振りかえる隙も与えず、白いものが彼らを貫き、そのままそこに倒れた。
「…女の人?」
ドバルがそういうと、目にも止まらない速さで白いものが僕らのところへ飛んできた。
「ドバルっ!」
僕の前に移動したドバルが剣でそれを受け止めた。
そこには見惚れてしまうほどの綺麗なピンクの髪を持ち、白い服を着た女の子が大きな剣を上から押し付けていた。
「…おまえっ」
ドバルがそれを振り払うと彼女は距離をとった。
年は僕たちよりも少し下くらいで、体は細い。
ドバルが剣を持ち直した。
「ジェリオス、あいつなんか変だ」
「何かって…アバウトですね」
彼女は様子を見ているようで動かない。
「ちょっとまて!」
いきなり草むらの方から声がしたと思うと、大人っぽい青年が現れた。
見た目から察するに剣士だろう。
マントを羽織っている彼は息絶えたウジ虫をまたぐと彼女の方へ歩いた。
「あ、そいつ危ないぞー!」
ドバルが忠告しても気にせず彼女の隣に立った。
そして剣を下させた。
「おまえら、あれの仲間か?」
そういって彼は草むらを指差した。
「いえ、むしろ敵です!!」
とライルさんが大きな声で叫び、両手をクロスさせて×を作った。
ドバルも剣を下した。
「そうか、それは悪かった。怪我はないか?」
どうやら敵ではないようだ。
彼らはこっちに向かって歩いてきた。
近くに来ると青年の顔がとても凛々しく、大人びているのがわかった。
背も大きく、その背中には大きな剣を担いでいた。
「あなたたちは?」
僕がそう尋ねると青年が頭を下げて言った。
「ただの旅人だ。先ほどはエリウスが迷惑かけた」
エリウスと呼ばれた彼女は剣をまだ持ったまま、どこか遠くを見ているままだった。
「俺はラズフェルトだ。ラズと呼んでくれ」
そして、僕たちも順に名前を教えた。
「エリウスが失礼してしまったおわびに食事をごちそうさせてくれないか?料理には自信があるんだ」
「いいのか!?今腹減ってたんだ~」
ドバルとライルさんは喜んだ。
僕もこの人なら安心できると思い、頭を下げた。
「そっか~、二人旅か!」
ラズさんが料理を作っている間、お互いの話をしていた。
因みにライルさんは眠気に勝てず、くまちゃんを抱いて寝ている。
「ああ。ただ昨日の夜いきなり爆発音が聞こえたかと思うとそれっきりエリウスがこうなってしまった…」
エリウスさんは明るい子だったそうだ。
しかし今はボーっとして剣を鞘にもしまわず近くに置いたままにし、心ここにあらず、という感じだ。
「たぶんその爆発はアレだよな」
とドバルが昨夜のことをラズさんに説明した。
そして、僕はこの症状に見覚えがあったので話が終わった時に二人に話した。
「たぶんあの爆発で星水が一気に蒸発して、それが爆風に飛ばされてエリウスさんに当たってしまったんだと思います」
あそこの管理は悪かった。
だからきっと星水が入った瓶もそれほど頑丈じゃなく、爆発で割れたんだろう。
ドバルが首をかしげ、バッグからメモを取り出した。
何かあるとメモを取り出し、メモを取る癖がついたようだ。
「当たるってなに?」
僕は頭の中を整理しながらエリウスさんを見た。
「簡単に言うと…星水に侵された、でしょうか。僕が施設にいたときたくさんエリウスさんのような子供を見ました。星水にうまく適合できないとこうなるようです。役員はドールと言っていました」
「エリウスは魔法を使えたぞ、なのに星水に当たったのか?」
ラズさんが鍋をかきまぜながら言った。
僕はおそらくは、と答えた。
そしてそれを聞いてドバルがエリウスさんをじーっと見た。
「剣士なのに魔法も使えるのかっ!?」
「こいつは魔法使いの方だと思うぞ。エリウス、そろそろご飯だ。武器はしまえ」
そうラズさんが言うとエリウスさんは床に置いた剣を取り、何か呪文を唱えると剣が空中で光り、ぱっと消えた。
僕も初めてみた魔法だった。
ドバルは口を開けたまま動かない。
「初めてみました、いつもこうなんですか?」
ラズさんに聞くと彼は頷いた。
「俺が会ったときからだ。剣以外の武器も出したり、消したりできる」
どうなっているんだろう。
こんな魔法、本にも書いてなかったし、聞いたこともない。
「さぁ、できた。彼女を起こしてご飯にしよう」
気づくと豪華なご飯が並んでいた。
ドバルはさっきからおかわりしてばっかりだった。
「おかわ~り!」
だが、それも納得できる。
「おかわり!」
ドバルの料理もおいしいと思ったが、ラズさんの料理はその上をいった。
本当においしい!
今まで味わったことのない味だ。
「お、か、わ、り!!」
「馬鹿、食べるの早すぎますっ!五月蝿い!!」
僕が言うとぶーぶー言いながら味わって食べた。
「おかわりぃ!!」
…速度が変わってない!
ラズさんは優しく微笑み、ドバルの器に料理を手早くのせる。
僕はラズさんに謝った。
「すみません、うちの馬鹿が…」
「いや、気にするな。…エリウスもこれくらい早かった」
そう言って彼女を見る。
大人しくどこか一点を見つめたままスープを飲んでいた。
エリウスさんを見るラズさんの顔はなんだかさびしそうに見えた。
「エリウスも食え~」
ドバルはエリウスさんのフォークを持つと口に突っ込んだ。
「あ、馬鹿。なにしてんですかっ!?」
「いや、いっぱい食べるんだろ?なら足りないだろうな~って」
不安な気持ちでラズさんを見ると笑っていた。
「エリウスだったらドバルと大食い対決したい!とか言うだろうな」
「お、受けて立つぜ!!」
ライルさんも笑ってその様子を見ていた。
「ごちそうさまでした、本当においしかったです!」
僕がそういうと、ドバルが持っていたフォークを落とした。
「ジェ、ジェリオスが素直になった!?」
…おい、それはどう意味だ。
「ラズ、聞いてくれよ。俺が今まで料理作ってたんだけど、おいしいって一回しか言ってくれてないんだ。しかも寝言で」
「寝言か、新しいな」
僕は顔をしかめた。
寝言?
あ…一つ思い当たる節が。
「も、もしかして宿に泊まった時ですか?あの上機嫌だった時!?」
「うん、あん時は嬉しかったな~」
ドバルは笑顔で答えた。
あぁ、やっぱり!
「なんて言ってたんです、僕は!詳しく教えてください!!」
「ひ・み・つ♪」
横から笑い声が聞こえて、見てみるとライルさんがまた腹を抱えて笑っていた。
僕は恥ずかしくなって、みんなの食器を鍋に入れた。
「これ、僕が洗ってきます。…馬鹿はついてこないでくださいね!!」
重たい鍋を持ち、水場に向かった。
その途中後ろでライルさんのお笑い声と、ラズさんの声が聞こえた。
「仲のいい兄弟だな」
僕が一生懸命に洗っていると、急に誰かに後ろから強い力で腕を掴まれた。
びっくりして振り返ると怖い顔をしたラズさんがいた。
「…びっくりさせて悪かった」
ラズさんは僕の腕から手を放した。
食器を洗うことに一生懸命で人が来たことに気付かなかった
僕は自分の腕を隠すように体の後ろに回した。
「…いえ、どうしたんですか?」
確実に注射の痕を見られた…。
ラズさんは食器に手を伸ばすとスポンジで洗いだした。
「手伝いに来たんだが…邪魔か?」
僕はそこに立ったまま首を横に振った。
「いえ、助かります」
「…ひとつ聞いてもいいか?」
息を深く吐き、僕は返事をした。
「お前たちはあの施設を壊していると聞いた…あの施設では何が起きているんだ?」
僕は食器を持ち、洗うのを続けた。
「あの施設は…」
ラズさんに僕はあの施設のことを話した。
「僕のような強化人間は今後戦争に兵器として使われます。そしたら一般の人間も巻き込んでしまう。エリウスさんのような戦いだけするようなドールはたくさんいます。彼らに人を殺させたくない」
説明し終わるころにはたくさんあった食器や調理器具は全てきれいになっていた。
「…そうか。ジェリオスはエリウスのようになったりはしないのか?」
「ええ、おそらくは。僕もよくわからないんです。後になって副作用が出て死んでしまった人もいますから。ただ体が自分の言うことを聞く限りは奴らの邪魔をします」
僕が鍋を持つと、ラズさんがそれを軽い方と交換してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「…俺たちも付いていっていいか、その旅」
隣にいるラズさんの顔を見上げた。
彼もこっちを見ている。
「だめか?」
「い、いえ!ありがとうございます!」
ラズさんは笑って、歩き出した。
帰るとドバルとライルさんはしりとりをしていた。
「ま~、まままま…マシュマロ?次はエリウスさんです♪」
ライルさんが答えた。
…ん、エリウスさん?
びっくりしてみると彼女は表情を変えずに座っていた。
「ろー、ロックなおじじ」
エリウスさんが口を動かさずに答えた。
実際、ドバルが声を高くしてエリウスさんの分も担当していた。
「じ~、じじい?違うなー」
ドバルは相当悩んでいるようで唸っている。
僕とラズさんは呆気にとられてしまった。
「じ、じ…ジェリオス、なんか馬鹿なやつ!」
「馬鹿はどっちですかっ!?」
「馬鹿じゃねぇし!!」
ついつい僕は突っ込んでしまった。
ドバルもついつい反応してしまったようだ。
「そもそもライルさんとエリウスさんを馬鹿なしりとりに巻き込まないでください!ってか、ロックなおじじってなんですか!?」
「あ、お二人とも。お帰りなさい!」
ライルさんが笑った。
ドバルも笑って手招きをした。
「おー、ジェリオスもやるか?楽しいぞ~!!」
わ、スルースキルを覚えやがった。
「やりませんっ!!」
僕はそう答えるとラズさんと食器の片付けを始めた。
その間も三人?はしりとりを続けていた。
「で、ジェリオス。つ、だぞ~」
「誰がやるか!」
僕は二人にラズさんたちが同行することを伝えた。
二人は毎日おいしい料理が食べられると大喜びした。
…主にドバルが、ですけど。
ラズさんは凄腕の剣士らしく、
「ある国で騎士団長をしていた、よろしく」
剣には自信があるから役に立てるだろうと言った。
ドバルも稽古相手ができたと喜んだ。
エリウスさんは数々の武器を使いこなし、魔法も得意だそうだ。
それに治癒魔法も使えるようで、とても助かる。
「エリウスも役に立てて喜んでいるはずだ」
頼れる仲間がどんどん増えていく。
旅も早く終わらせれるかもしれない。
考えているとライルさんがゆっくりと手を挙げた。
「あの、エリウスさんはもとに戻せなのでしょうか?」
「それなんだが、近くの街に大きな病院がある。そこに連れて行ってみるつもりだった」
ライルさんの疑問にラズさんが答えた。
「んじゃ、行くか!」
ドバルが荷物を担いだ。
「いいのか?」
「え、もちろんですよ!」
ライルさんもくまちゃんをバッグに入れた。
「私もエリウスさんとお話したいです、女の子のお友達は嬉しいですから」
僕も頷くとラズさんはほほ笑んだ。
「ありがとう、感謝する」
そして大きい病院がある街を目指した。
僕も何か方法を考えよう。




