疑問
「どけてよね!」
ラインさんはウジ虫を見つけるなり跳び蹴りを喰らわせた。
ポニーテルが揺れる。
ライルさんは魔法使いなのに対し、ラインさんは格闘家顔負けの武術少女だった。
頭を真横にけられ倒れた組織役員の上に立った。
「あーあ、大したことないじゃん」
ドバルも一発敵に剣を振るうと次に向けて構えた。
「ライン強いな!」
「ありがと。前は魔法使えなくて悩んだけど、これはこれでありね」
ドバルとラインさんの息はぴったりだった。
それはもう、僕が置いて行かれるほどに…。
「はぁ…はぁ…、やっと追いついた…」
二人は本当に体力がある。
そして足が速い。
その身体能力はものすごいものだった。
「ジェリー、おっそぉい」
ラインさんに絡まれながら僕は早足で歩いた。
「体力ないのは魔法を使う人の宿命です!」
と言い訳しながら目の前に久々のウジ虫を見つけ、水の魔法で遠くへ流す。
…倒してしまうと二人が
「魔法使いずるい!」
「魔法使いかっこつけ、いいとこどり!」
などと言ってくるので倒しきれない。
相当二人は魔法が使えない事が悔しいようだ。
ラインさんはライルさんが使えるのに対して魔法が使えないようだったし。
僕は面倒臭いなと少し思いながら、二人の方に向き直った。
「このまま近くの施設に向かいます」
森の中を移動しているときに思いだしたのだが、ここらへんにも施設があったはずだ。
ドバルは了解、というと近くにいたウジ虫を斬った。
「んじゃ、あたしはそろそろおいたましようかな?楽しかったよ」
とラインさんは髪を結んでいたリボンをほどき、頭に付けた。
すると先ほどまでの強気なオーラは消え、初めて会った時のような雰囲気が表れた。
「…?あ、すみません。ぼ~っとしてました」
ライルさんに戻ったようだ。
「えと、施設に行くんですよね?緊張します!」
彼女は僕にそう言った。
ここまでの記憶は持っているようだ。
「ライル~、頑張ろうな!!」
ドバルが一瞬ラインと言おうとしたが、間違わずに言い、二人はハイタッチを交わした。
僕は二人の前に立ち、施設に向かって走った。
なんとか施設についたはいいものの、僕は最大の難点に気づいてしまった。
あの自爆装置、どうしよう…。
僕は施設に入っていたおかげで他の人よりは頑丈にできている。
だからあの爆発の中でも生きていられる。
でもドバルやライルさんは普通の人間よりは星水の力で丈夫だと言っても僕ほどじゃない。
どうしようか、と僕が考えているとドバルが近くに寄ってきた。
「大丈夫か?俺らで行こうか?」
僕が爆破の方法で悩んでいるのを、ドバルは僕が施設を見て実験のこととかを思い出しているんじゃないかと心配しているようだ。
「大丈夫です。心配しないでください」
僕がそういうと安心したように笑った。
「これから中に入りますが、施設関係者はすべて殺ってしまってもかまいません。僕たちは奥にある監視室というのを目指します」
ライルさんは緊張気味の顔でうなずいた。
「足を引っ張らないように頑張ります!」
「無理すんなよ?」
ドバルがライルさんの頭をなでた。
「はう、大丈夫ですよー。私が付いていきたいとお願いしたんです、覚悟はできてます」
ライルさんはしっかりものだから、きっと大丈夫だろう。
でもモンスターと戦闘していた時もすみません、といいながら闘っていたな…。
僕が確認のためドバルの方を見ると、いつものようににこにこ笑っていた。
「ドバルも大丈夫です、ね?」
「おう、もちろん!お兄ちゃんに任せなさいっ」
施設の中は相変わらず暗かった。
どの施設もほとんど作りが同じで、同じように暗い。
一階建てでそんなに大きくはないのが施設の特徴だ。
廊下は蛍光灯があるので明るいといえば明るいのだが、一定の間隔で点々とあるため、そこまで明るくない。
壁は鉄でできており、窓は一切ない。
「なんかじめじめしてんな…」
ドバルの声が廊下に響いた。
床をよく見ると苔などが生えている。
ここは相当管理が行き届いていないのだろう。
ライルさんは鼻を摘み、くまちゃんを強く握りしめていた。
「しゅんごく、くしゃいでふ」
鼻を摘まんでいるせいでしゃべり方が変になっているのをドバルが笑った。
「ライル、それ面白いな!」
真似して鼻を手で摘もうとする。
「やらなくていいから、馬鹿」
「はかじゃへーよ!」
…馬鹿、やりやがった。
ドバルは自分の言葉に爆笑している。
まったく、緊張感がないというか…。
まぁ幸いなことにここの役員は今日の騒ぎに出ていたようで、騒いでも何しても問題はなかった。
ところどころにある監視カメラを見つめて、一つ壊してみたが、警報音もならない。
それどころか人、一人も出てこない。
施設の中を案内するにはもってこいかもしれない。
僕は扉の前でとまった。
「ここが監視室です」
二人は笑うのをやめ、監視室を見た。
「監視室には大きなモニターがあります。そこにそれぞれの部屋や、廊下などにある監視カメラの映像がリアルタイムで映っています。普段は役員二人ほどで監視しているのですが、今日はいないようですね」
僕は話し終わると扉を開けた。
「今から少し時間をください。爆破スイッチを少し変えなきゃならないので」
とスイッチの方式を伝えると、二人は注意深く中に入るなりモニターを見つめた。
僕が扉の鍵を内側からかけて、自爆スイッチのある機械の前に立つとドバルが僕の方を見た。
「なぁ、あれって子供か?」
ドバルがモニターを指差した。
そこには狭い部屋にぎゅうぎゅうに詰め込められた子供たちが映っていた。
ライルさんもそれを見て口を抑えた。
「…はい、すべて子供。被験者です。男も女も関係なくいます」
ドバルは僕の近くに来ると顔をしかめた。
「あの子たちだけでも助けられないのか?」
…言われるだろうと考えていた言葉だった。
しかし実際に言われると構えていたはずなのに胸が痛んだ。
「駄目です」
ドバルはさらに近づいてきた。
僕はドバルの顔を見ないように、自爆スイッチが何とかして外に出てから起動するように機械をいじった。
「だって捕まった子どもなんだろ?」
「そうです」
「だったたらさ…」
ドバルはずっと僕に何とか助けられないのかと言い続けた。
僕は自爆スイッチの起動時間を延ばす回路を見つけた。
その時ドバルは僕の体をつかみ、回転させた。
「少しは顔見ろよ!」
ドバルはとても怒っていた。
それは僕に対してなのか、何もできない自分に対してなのか、施設にしてなのかは僕にはわからなかった。
僕が驚いた顔でドバルを見つめていると、ドバルも言葉に困ったように目をずらした。
後ろではライルさんが心配そうに僕たちを見ていた。
「ドバル、考えてください」
僕はなるべく優しく言うように気をつけながらドバルを見つめた。
「もし子供たちを逃がしたとします。でもそのあとその子たちはどうなると思いますか?家がどこにあるかもわからない子供もいます。その子たちは帰れますか?」
ドバルは一瞬考えた後、ぼくの目をしっかり見て口を開いた。
「なんとかして俺が探してやる!」
「どうやって?」
ドバルはまた悩み、何かを言おうとしたのを僕は遮った。
「無理です。子供の中には自分の名前も知らない子供もいます。施設の中では別な呼び方で呼ばれますから。…僕はR-9でした。名前もわからない子の親を探せます?実験されて人間離れした力を持たされて、戦争の兵器にされるはずだった人ですよ?食べ物だって一日に手のひらほどのパンと水を少しもらえるだけです!そんな子供が外に出て普通の人間として生きていけると思いますか?外の世界を見たこともない小さな子供が普通の人と…」
そこまで言って僕は言葉が詰まった。
ドバルにこんなこと言って、どうするんだ。
無理だということを伝えようと思っただけなのに。
気づいたら大きな声でドバルに怒鳴りつけていた。
それに自分の言葉が自分に突き刺さった。
僕はどうしてここにいるんだろう。
僕は普通の人じゃないのに…。
「ごめん、ジェリオス」
ドバルが僕を見て行った。
どうして、謝るんですか…?
僕にはわからない。
それは普通の人じゃないから?
「…すみません、僕も言い過ぎました。…僕も助けたい気持ちは山々なんです、わかってください」
僕はそのまま機械の方へ向き直ると先ほどの続きを始めた。
ドバルはその場から動かない。
「まだ、何か言いたいことありますか?」
言葉に気をつけながら言ったつもりが、いつものように冷たい言い方になってしまった。
胸の奥が痛い。
でも胸が痛くなったことがない僕はそれすらもわからなかった。
やっぱり僕は普通の人間じゃないんだ…。
「ジェリオス…?」
ドバルも探り探りというように声を発した。
僕は返事をしないで作業を続けた。
「俺、もうあんなこと言わないよ。わかったから…。どうしょうもないんだよな?」
僕は無言で頷いた。
ドバルはわかった、と言って
「こういう子供を減らすために頑張ってるんだもんな!俺たちがあの子たちのことを覚えていよう」
「そうですね、私もみんなの分も頑張ります…!」
それまで黙っていたライルさんも言った。
「ジェリオス、やっぱりジェリオスはすごいな」
その言葉にびっくりして振り返るといつものように笑うドバルがいた。
「ぼ、僕のどこがすごいんですか…?」
「頭いいとことか…」
「それは勉強すればだれでもできます…」
「一人で辛いことをやってきたところとか」
ドバルはでも、と
「これからは俺たちもいるんだから頼れよ?な、ライル!」
ライルさんも頷き笑った。
「はい!私もいるし、お姉ちゃんも…付いていてくれると思います」
僕はなんて言ったらいいのかわからなかった。
本当に今日はわからない事ばかりだ。
ドバルの馬鹿が移ったかな…?
気づけば胸の痛みは消え、温かい気持ちになっていた。
「僕も、まだまだ勉強不足ですね…」
あとで調べてみよう、この暖かい気持ちの正体を。
なんとか自爆スイッチを押してから5分後に爆破する設定にできた。
方法はわかった、次からはもっと早くできるだろう。
機械を理解できた自分の頭に感謝しつつ、二人の方に向き直った。
もうすっかり暗い雰囲気はなくなり、いつもの二人に戻っていた。
「それじゃあ、自爆スイッチをおしたら5分後に爆破しますのですぐに走ってできるだけ遠くに行きましょう」
僕が自爆スイッチに手を伸ばすとドバルがその手を掴んだ。
ドバルの顔を見ると真面目な顔をしていた。
「俺に押させて?」
僕は一瞬ためらったが自分の手を引っ込めた。
「天界で幸せに暮らして下さい…」
ライルさんが画面に向かって祈った。
そのうちに僕は鍵をあけ、扉を開けた。
「んじゃ、おすぞ?」
頷いた僕らを見て、ドバルはスイッチを押した。
機械のライトがすべて赤く光った。
「急いで行きましょう!」
皆で走り、出口を目指した。
廊下は僕たちの走る音以外何も聞こえない。
するとドバルがものすごい勢いで走りだした。
「ほら、急げー!ジェリオス、ライル!!置いてっちゃうぞ?」
すると後ろにいたはずのライルさんが僕の隣に並んだ。
「ラインじゃ、ドバルの馬鹿!!」
その叫び声を聞いて横を見ると髪の毛がポニーテールになっていた。
少し走る速度を上げて顔を見た。
「また会うのはもう少し後かと思ってました…」
僕がそういうと彼女はムスッとした顔をした。
「いいじゃん、いつ出てきても♪…すっきりした顔してるね」
にっと笑ってラインさんは言った。
そう、なのかな…、じぶんではよくわからない。
「ジェリーはね頭いいから考えることいっぱいなんだね。でも少しくらい考えること忘れて思ったままに動くのも大事だよ?」
僕は首をかしげた。
「充分思うままにしていますよ?」
するとラインさんはわざと驚いた顔をして見せた。
「え~、なんていうかさ…ほら」
と前を突っ走るドバルを指差す。
気づけばもう出口だ。
ドバルはどっち行けばいいんだ、と止まっている。
僕が右の方に指をさすとドバルはまた走り出した。
「あいつみたいに馬鹿になってみれば?ってこと」
僕たちも建物を出て、ドバルの後を追った。
「僕が?馬鹿はあれだけで足りてます」
「あ、確かにね。なんていえば伝わるのかな。…ドバルがね、あんたのこと心配してたのよ?」
ドバルが?
僕の話をしたの…?
「私がドバルと初めて会ったとき、あんた、いなかったでしょ?そのとき話をしたんだけど、ジェリオスは俺と違って頭いいからすごくいろんなことを考えてて、頭が爆発しちゃうんじゃないかって。それに自分も施設にいたのに、その施設に乗り込んで世界のために一人で頑張ってたのってすげぇよなだって」
「ドバルがそんな事を?」
「うん、だから私はうちの妹と一緒で手がかかるねっていったの」
ラインさんは笑っている。
そろそろ5分経つ。
「さってと、爆風に巻き込まれないようにあたしも先に行こうかな?」
そう言って全速力で走って行った。
「ジェリーも早く来いよ~」
と前を走っている二人に言われながら走った。
すると後ろの方がいきなり明るくなったかと思うと、数秒後に大きな音が聞こえた。
爆発したようだ。
止まってその様子を見ていた二人に追いつくと、ラインさんはライルさんに変わっていた。
髪の毛で見分ければいいようだ。
二人はしばらくの間じっと炎を見つめていた。




