知識
僕たちはセリアファクトに戻った。
帰る途中にラズさんに聞かされたのは山の形についてだった。
城から見ると大きな山に見えるが、実は裏側はへこんでいて椅子のような形になっていること。
その椅子の座る部分に当たる所が星水の原水がある所だった。
天井が全壊したわけだが山が壊れることはなかった。
とりあえず安心。
城に着くなりミラさんが僕たちに話を聞こうとしたがそれをラズさんが止めてくれた。
僕は部屋に入って荷物を床に置いてベッドに倒れるように寝込んだ。
涼しい風が僕の頬をなでた。
「…ん」
僕はうっすらと目を開けた。
真っ白な天井は日の光を浴びて輝いていた。
「あ、起きた?」
僕が起き上がって窓の方を見ると髪を風になびかせているミラさんがいた。
「…今、何時です?」
「えっと、弟が帰って来てから37時間後かな」
「難しいことを言いますね」
「君ならこれくらい簡単だと思ったんだけど…」
ベッドの上に寝ていたはずの僕はきちんとベッドの中に入っていた。
きっと誰かが入れてくれたんだろう。
「ずっと僕を?」
ミラさんは笑った。
「そんなわけないじゃん。今日来たら何か起しちゃった、みたいな?」
「そうですか。すみません、長い時間寝てしまっていたようで」
「気にしないわ。むしろ助かったもん。ありがとう、ジェリオス」
ミラさんは椅子に座って言った。
「騎士団に入れたいくらいだわ」
「嬉しいお言葉です。でもすみませんが僕にはやるべきことがあるんです」
「知ってる。でも気が向いたら言ってね。いつでも大歓迎よ♪」
僕は頷いてベッドからでた。
そしてミラさんに向かいあうようにベッドに座った。
「…ねぇ、一つ聞いていいかしら?」
やたらと真面目な顔でミラさんは僕を見た。
「内容によりますが」
僕も覚悟を決めてそう言った。
「なら単刀直入に言うわ。あなたの胸にある魔法陣は何?」
案の定。
一番聞かれたくないことを…。
僕はため息をついた。
「前に僕がウジ虫の施設から抜け出してきたってことは教えましたよね。これは施設で実験された跡です」
僕は自分のシャツを掴み捲った。
「実験…ね」
ミラさんはそれを食い入るように見た。
震える手に力を入れながら僕は話を続けた。
「ウジ虫の話から察するとこの実験をされているのはまだ僕だけだと思われます」
そして僕は服を下げると実験の内容について説明をした。
ミラさんは時々頷きながら僕の話を聞いていた。
「…すみません、続きは今度でもいいですか?」
他の実験の話もしようと思ったが物凄い吐き気と頭痛に襲われて僕は額に手を当てた。
「ええ。むしろ起きたばかりなのに無理させたわね。ごめん」
「いいんです。いつか言わなきゃいけないって知っていたし、早くこの体に慣れなくちゃいけないんです…すみません」
「弟が謝ることじゃない。ゆっくり休みなさい」
ミラさんはそう言って部屋を出て言った。
僕が水を飲んでから寝ようと思って立ちあがった時人影に気づいてそちらを振り返った。
するとそこにはドバルが立っていた。
「ごめん、様子見に来たらミラと話していて…」
「…窓から入ってくる人がいますか?」
「悪ぃ」
僕はドバルの分も水を汲んで、渡した。
「大丈夫、そうじゃないよな」
「すみません…ミラさんは仮にも国王だからちゃんと説明しなくちゃと思って」
ドバルはとても悲しそうな顔をして僕を見ていた。
「何かできることがあったら言ってくれよ?あの戦いの時、星水の原水に沢山触ったろ?消えないからって害がないとは思えないし」
「ありがとう、ドバル」
僕はベッドに入った。
するとドバルが近づいて来て布団に入ってきた。
「…あの、何してるんです?」
「え、添い寝」
「いりません。てか狭い!」
「いいじゃんたまにはお兄ちゃんと寝ようよ~」
「気持ち悪い声出さないでください」
「失礼な!お兄ちゃんはジェリオスが寝れないかなぁと思って一緒に…」
「寝れるのでいりません。…まったく、何なんですか」
「お休み…」
ドバルは僕の横で寝始めた。
「ちょっと起きてください」
僕がちょっかいを出してもドバルは起きなかった。
完璧に寝てる。
なんなんだよ、もう…。
僕はため息をついた。
でもドバルの体が暖かくてまぁ、いいかと思った。
「仕方ないから一緒に寝てあげます」
僕は目を閉じた。
次の日、体の調子はすっかり良くなっていた。
目を開けたら馬鹿の寝顔が目の前にあってびっくりしたのは言うまでもない。
まだ眠いらしい、目をこするドバルと共にミラさんの所へ向かった。
「おはよう、兄弟」
ミラさんはメリッサさんとラズさんと一緒にいた。
「ずいぶんと寝たのね」
「疲れはとれたか?」
「ええ、すっかり元気です」
ラズさんは僕の言葉を聞いて微笑んだ。
そして席を外した。
「メリッサから山での話は全て聞いたわ。だから今はジェリオス、あなたの事を聞きたいのだけど」
ミラさんは笑って言った。
ドバルはあんまり嬉しくない顔をしていたが僕は頷いた。
メリッサさんとの約束もある。
「何から話せばいいですか?」
「貴方が星水に触っても消えない理由とか。本当に人間なのかとか」
「ジェリオスは人間だ!」
ミラさんのその言葉にドバルが怒った口調で言った。
「ドバル、いいんです」
「でも…」
「僕はドバルが言うとおり人間です。ただちょっとずれているだけです」
僕は施設でされたこと、検査で星水に触れて死ぬことはないと出ていたこと、ここ一年で人間らしさに触れたこと、それらを事細かに説明した。
途中ラズさんが戻ってきてご飯を持って来てくれた。
僕が話し終わるとメリッサさんがお茶を飲んで言った。
「…だから星水に触っても消えなかったのね」
「びっくりさせてすみません」
「本当よー。私はあんたが本当の馬鹿かと思って焦ったのよ?」
メリッサさんの馬鹿という言葉にドバルが反応したが自分のことじゃないと気づいて何も言わなかった。
「でも話してくれてありがとう」
僕はお礼を言われるとは思ってなかったから一瞬戸惑ってしまったけどメリッサさんを見つめ返して頭を下げた。
「お礼を言うなら僕の方こそ。メリッサさんのおかげで大事に至らずにすみました」
するとメリッサさんはにやりと笑って腕を組んだ。
「あったりまえよ♪この私に不可能はないって教えなかったかしら?」
「そういえばそうでしたね」
「なによ、もっと褒めてくれてもいいじゃない」
僕とメリッサさんのやり取りを見てドバルとミラさんが話をしている。
「なになに、二人仲良くなったの?」
「そうみたい!いや~よかった、よかった」
僕たちが横を見るとミラさんとドバルも同じタイミングで僕たちを見た。
僕とドバル、メリッサさんとミラさんが目を合わせて固まった。
「仲がいいことはよいことだ」
メリッサさんが腕を組んで頷いた。
「…ま、そうよね」
ミラさんが椅子に座りなおした。
僕たちも体勢を整えなおした。
「ま、とりあえず話は分かったわ。この話はあんたたちの仲間たちは全員知ってるの?」
「…僕の実験についてはドバルにしか話していません」
「話す気は?」
「できればずっと黙っていたいんですけど、そう言うわけにもいかないのは分かってます。だから時が来たら話すつもりです」
「ならば俺たちはその時まで黙っていよう」
ラズさんとメリッサさんが頷いた。
僕は感謝の気持ちを胸に頭を下げた。
その時までに僕は強くならなくちゃ。
「それじゃぁ、話は終わりね。あなたたちは今まで通り施設を壊しに回ったら?しばらくはウジ虫も大きく動けないだろうし」
ミラさんはそう言ってお茶を一口飲んだ。
「俺たちはどうすればいい?」
ラズさんが空になったミラさんのコップにお茶を汲みなおして訊ねた。
ミラさんはそれを一気飲みしてラズさんを見た。
「好きにすればいいじゃない」
「え?」
「さんざん私をほったらかして今更何よ。それとも四六時中私の世話をする気になったの?あら、嬉しい」
「いや、それはない!こっちは好きにさせてもらう」
ラズさんが目を輝かせたミラさんから離れた。
「え、え?どうして!?また私を置いて行くのねっ!!」
ミラさんがしくしくと泣きまねをしはじめた。
メリッサさんは立ち上がって背伸びをした。
そしてラズさんの腕を掴むと頭を猫のように擦り寄せた。
「ラズ様、行きましょう~?」
「ミラ」
「ん?やっぱり私の事世話してくれるの?」
「ああ…メリッサがな」
ラズさんのその一言にメリッサさんは固まった。
そのすきにラズさんはメリッサさんをひき剥がしてミラさんの隣に置いた。
「メリッサを置いて行く。後は頼んだ、メリッサ」
その様子を見ていたらラズさんが笑って僕とドバルの手を引いた。
「ミラはメリッサに任せて行くぞ!」
「え、はい…!」
「おうっ!」
ラズさんと共に廊下に出て走る。
その時僕は初めてラズさんが歯を出して笑っているのを見た。
ラズさんと走って付いた先には皆がわかっていたかのように立っていた。
「どこ行くんですか?」
「ラズだけずるいよ~」
「俺たちも連れてってよ」
ライルさん、エリウスさん、ダイチさんが僕たちを待っていた。
ラズさんは僕たちの手を離して息を整えた。
「もちろん一緒に決まっている。そうだろう?」
そう言ってドバルを見る。
ドバルは笑って強く頷いた。
「あたりまえだろ?だって俺達、仲間なんだからさ!一人でも欠けたら駄目なんだ。な、ジェリオス」
「そうですね。ここまで来てもらって迷惑をかけたくないから…なんて言いませんよ。これからもよろしくお願いします」
僕の言葉に皆が笑った。
僕もまだこの皆と旅ができるって考えただけですごく嬉しかった。
「ちょーっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
後ろから物凄い声と足音が聞こえてきた。
恐る恐る振り返ると顔を鬼のようにしたメリッサさんが…。
「に、逃げろ!」
ドバルがあまりの迫力に走りだした。
ラインさんが楽しそうにそれに続く。
「…ラズ、何かあったの?」
「いや、特には何も」
「いいから二人とも、早く逃げよう!あれはさすがに怖い」
エリウスさんとラズさんを連れてダイチさんも逃げて行った。
…あれ?
僕はあたりを見回した。
僕一人!?
メリッサさんは目をギラギラに光らせて走ってくる。
待って、僕悪くないよね!?
「す、すみません!」
一応謝って皆のあとを追った。
僕の前を走る皆は何だかちょっと楽しそうに見えた。
本気で怒ってるメリッサさんには悪いけど僕も少しだけ楽しかった。
結局ラズさんが止めに入って事無きを得た。
メリッサさんは私ももちろん付いて行くから、とラズさんにくっついて離れようとはしなかった。
彼女が協力してくれることはとても助かることなので大歓迎だ。
皆が話をしている時、ダイチさんが僕の方に寄ってきた。
「本、調べておいたよ」
「ありがとうございます!」
「結構な量になっちゃったけど大丈夫?」
「はい。むしろ大変でしたよね…」
「なんか魔法で検索できてさ、魔法で本棚から降ろすんだよ。だから俺は特に何もしてないんだよね」
ダイチさんは笑った。
「詳しくは図書館の人に聞いて。無口な人だけどいい人だから」
「助かりました」
僕は軽く頭を下げて皆の方に向き直った。
「あと1日だけここにいさせてください。明日セリアファクトを出てマーリアへ向かいます」
「OK!んじゃそれまで自由時間でいいの?」
「はい。各々有意義に過ごしてください。もしウジ虫らしき人を見かけたりしたら僕に教えてください。僕は図書館にいると思いますから」
僕たちはそこで解散した。
早速本を読むことにしよう。
1日時間貰ったけど、間に合うかな?
僕は図書館への道を思い出しながら歩き出した。
「…すごい!」
僕は図書館に入った瞬間、目を疑った。
聖堂のような高い天井。
その壁一面には天井まで伸びる大きな本棚。
そこにぎっしりと詰まった本の数々。
こんな大きい図書館は初めて見た。
図書館というよりも知識の倉庫!
しかもこの部屋、すごく広い。
一日じゃ足りないんじゃないか?
僕は少し顔をひきつらせて受付と書かれた席に座っている少女の前に立った。
彼女は分厚い本をじっと読んでいた。
僕が立ったことに気づいていないようだ。
「すみません」
僕が声をかけても彼女は微動だにせず本を読んでいる。
「あの、すみません」
何度言っても聞こえていないようだ。
本の世界に入り込んでいるのだろう。
僕も読書をしている時はこうなるタイプだからすごくわかる。
それに邪魔したくなかった。
でも今は時間もないし、できればいろいろな本を読みたい。
だから僕は彼女に顔を近づけた。
「何の本を読んでいるんですか?」
すると彼女はぴくっと動き目をちらっと僕の方へ向けた。
そしてまた本に目を落とした。
僕は少しだけ見える本の文を見てその本が何の本なのかを理解した。
「もしかして白百合ですか?僕も読んだことあります」
彼女はチラチラと僕を見るようになった。
白百合という本は意思ある人形のお話で、僕もいろいろと考えさせられた。
「あなたはどのシーンが好きですか?」
「…253ページ」
彼女は小さい声で言った。
253ページ…たしか話の終盤で人形のリリーが自分を作ったマスターの真実を知るシーン。
「わかる?」
彼女は黙っている僕にそう言った。
だから僕は頷いて話を始めた。
「リリーのマスターがどうして自分を置いて行き、そしてどうして城を攻めたのかっていう理由がわかったシーンですよね?僕もあのシーンはいろいろと考えさせられました。真実を知ってやっとマスターを許せたリリーの気持ちとか、リリーの心の揺れがとても伝わって…」
熱心に話す僕の事を彼女は驚いた顔で話を聞いていた。
「あ、すみません。誰かと本の内容を共有するの初めてで語ってしまいました」
僕が頭を下げると彼女は大きく首を横に振った。
「私も…」
「え?」
僕が聞こえなくてもう一度言ってもらうよう頼むと彼女は恥ずかしそうに本に顔を埋めてそして目だけをちょっとだした。
「私も、共有…するの初めて」
「そうだったんですか。じゃぁ、巨大な瞳って本は知っていますか?」
僕が尋ねると彼女は頷いた。
「いろいろ探して旅したけど結局目に見えないものが答えで、体や心やそう言う色んなものが本当の眼だったって話」
「3回、呼んだ」
彼女は本について語った。
僕も自分の意見を言った。
お互いの解釈をぶつけ合い、新たな発見をする。
それはとても楽しいものだった。
僕たちはしばらくお互いに本の話をしあっていた。
「そういえば、用は…何?」
彼女が思い出したように言った。
「あ、忘れてました」
僕は彼女にここに来た理由とダイチさんの話をした。
すると彼女は本に栞を挿み、立ちあがった。
そして僕に目で付いてくるように言うとこことは違う別な部屋に案内してくれた。
そこには大きなテーブルと本の山があった。
「これ」
彼女はそれを指さして言った。
「結構な量ですね」
「…頑張れ」
彼女は僕にそう言うと部屋の扉を閉めて出て行った。
頑張れ…ですか。
僕は苦笑いしながら椅子に座った。
頑張って何とかなればいいんだけど…。
僕は一番手前の本に手を伸ばした。
僕は休憩も入れずに本を読んでいた。
理由は急いでいるとかそういうことではなく、ただたんに興味がある本がたくさんあって次々手を出してしまったから。
これでも僕に必要な情報の項目だけを読んでいるつもりだ。
因みに僕がダイチさんにお願いして集めてもらった本だが、まず星水についての記述があるもの。
それも詳しく書いてあるものに絞るために研究者などが著者の物に限って探してもらった。
ダイチさんの治療法の発見につながればいいなと思ったのと、その他僕の知らない情報があれば覚えておこうと思ったからだ。
あとは人の心、とか心理学とか…そんな個人的なもの。
「ふぁ~…っわ!?」
僕が背伸びをすると椅子が僕の体重でひっくり返った。
ゴンっと僕は頭を床に思いっきりぶつけてしまった。
「いたた」
僕は天井を見上げながら頭をさすった。
すると僕の頭もとから音が聞こえた。
「おーい、ジェリオス起きてたか~」
「この声は…」
ドバルだ。
僕は扉から入ってきた人物を下から覗いた。
「あれ?ジェリオスいないのか~、なんだ」
「ここにいます」
僕は黙ってようかと思ったが来た理由もあるだろうしと思って声を出した。
ドバルは周りをきょろきょろと見回している。
「かくれんぼか!」
「かくれんぼ?」
「え、かくれんぼしらねぇの?」
ドバルはかくれんぼについて説明を始めた。
僕の頭に血が昇っていく。
…どうして僕が自分から起きないかって?
それは服がひっかかってしまってなぜか全く動けなかったから。
「なぁ、そろそろ出て来いよ」
ドバルが真面目な声で言う。
僕はため息ついてドバルのズボンの裾を引っ張った。
「下です、下」
ドバルはやっと気付いたようで僕を見た。
目と目がバッチリ合って、ドバルが僕を見て笑った。
そしてしゃがんで僕の頬をつつく。
「何してんだ、ジェリー」
僕は手でドバルの手を掴んで睨んだ。
「椅子がひっくり返って動けないんです。それと手、止めてください」
ドバルは僕の言葉を聞くと大人しく手を引っ込めた。
「動けぇの?…手伝ってやるよ!」
そう言うとドバルは僕が乗っかった椅子を持ち上げた。
「ほら、これで大丈夫だろ」
僕はドバルのおかげで元の位置に起き上がることができた。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
ドバルがテーブルの上の本の一つに手を出す。
そして題名を声に出して読んだ。
「これ、何の本?」
「それは星水と人間の関係について記した本です」
ドバルはその本をこそっともとの位置に戻した。
読めないと判断したのだろう。
僕は椅子から立ち上がってドバルの方を向き首をかしげた。
「そういえばドバルはどうしてここに?」
「ジェリオスがいつまでたっても部屋に帰ってこないからどうしてるかなぁと思ってさ」
「ずっとここで本を読んでました」
僕は少し疲れ気味の目をこすって言った。
「そういえば今、何時なんですか?」
ここの部屋に時計がないのを今知って僕はドバルに訊いた。
「夜中の4時くらい」
「もう朝になりますね」
僕がいつものように言うとドバルが面白い顔をして突っ込みをしてきた。
「な、なんですか!?」
「何時まで本読んでるんだよ!」
「出発のぎりぎりまで…」
「おまえは読書の神かっ!」
「そんなわけないでしょう!」
と僕は首を振った。
「それよりドバルこそ寝なくていいんですか?」
「いいんだよ!元気だから」
「そういう問題ですか?せっかく心配してあげてるのに」
「それ言ったら俺だってジェリーのこと心配してるんだぞ」
僕とドバルはお互いに黙った。
でも黙っていても仕方ない。
「…わかりました。ドバルも一緒に本読みましょう」
「なんでそうなった!?」
結局ドバルは今僕の横でタオルに抱きつくように寝ている。
さっきまで本を読んでたんだけど…。
ドバルのせいでタオルを取りに一回部屋に戻らなきゃならなくなったじゃないか。
時間がもったいない。
僕はダイチさんが集めてくれた本は何とかすべて読み終えることができた。
その本の中で例の食料袋を作った人の話も書いてあり、案外簡単に作れそうだということもわかった。
あとは機械に対する知識を増やさなければならなかった。
ということで僕は受付の少女に頼み、機械の本を集めてもらった。
ダイチさんから聞いていたとおり本の出し入れは魔法で行われていた。
本が勝手に動いて集まってくる。
魔法で物を動かす、か。
いろいろな可能性を秘めている魔法だからこそ使い方を間違ってはいけないんだと思った。
「疲れない?」
「はい、大丈夫です」
彼女は僕にそう訊ねまた本に目を落とした。
さっきまであった本は片付けてもらったからすごくすっきりした。
僕は機械の本をテーブルに並べて早速読み始めた。
もととなる機械はどうやっても魔法じゃなんともならないからな。
僕はドバルのいびきが気にならないほどに集中して本を読みだした。




