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双子星  作者: ユエラ
26/33

信頼




もらった地図と少女の書いた地図とでは大きく違うところがあった。

それは山道の形。

少女の書いた地図は印のついたところへの近道で書かれたいた。

僕はもちろんそっちの道を通るつもりで歩いてきたのだが…。

「…崖、ですね」

ライルさんが上を見て口を開ける。

「本当にここ?」

メリッサさんが僕を睨む。

合ってる、はずなんだけど…。

「ここを登った所から感じるんですけど…」

星水の力をすごく感じる。

やっぱりあの地図は本当なんだ。

でも崖を登れって無理がある。

「近道なんだけど何かいい方法ないですかね…」

僕があごに手を当てて考えているとドバルが動いた。

荷物を背負って崖に手をかけて登り始めた。

「馬鹿、何してるんですか」

「近道ならこうすればいいじゃん。雪も少ないから岩掴んでも冷たくないぞ?」

この崖はそこまで高くはないのだが急斜面だった。

ドバルは登れてもライルさんは絶対に無理だ。

「…ってライルさん!?」

ドバルに続いてライルさんも崖を登り始めた。

それを見てメリッサさんが僕の前に立って声を荒げた。

「ライルに何させてるのよ!!」

「す、すみません」

僕はただ謝ることしか出なかった。

というか僕に怒られても困るんですけど…。

「い、今方法を考えますから」

そうはいっても崖を登る準備なんてしていない。

いい方法、いい方法…。

僕の目の前では腕を組んでメリッサさんが立っている。

「…あ」

「何、思いついたの?」

「はい!たぶん行けます。メリッサさん協力してもらえますか?」

「事によるけど…いいわよ」

「ありがとうございます」

僕は小さく頭を下げて崖にいる二人を呼んで降りてもらった。

「メリッサさん、僕たちに結界って張れますか?」

「それくらい簡単よ。で、どんな結界がいいわけ?」

メリッサさんは片足に体重を置いてにやりと笑った。

やっぱり昨日の事を気にしているらしい、どんな結界だろうと張ってやる!という意気込みを感じる。

「できるだけ僕たちを軽くできますか?」

「難しいこと言うわね。結界っていうのは何か拒むものがなきゃできないものなのよ」

膨れながらメリッサさんは僕に言った。

だから僕は笑顔で答えた。

「これから僕が魔法を使うのでそれを弾いてくれればいいです」

「どんな魔法?」

「水です。本当は蒸気を使えば魔力消費を少なくできると思うんですけど、上手くできる自信がないので下から上に発生する水魔法でメリッサさんの結界を押し上げる形にしようと思います」

それなら可能よ、とメリッサさんが微笑んだ。

「あとは斜めって落ちないようにしなくちゃいけないわね」

メリッサさんは目を閉じて少し悩んだ後、静かに目を開けた。

「魔力で作った二本の糸をあらかじめ張っておいて、そこを通るようにすればいいわね。結界を弾くようにしておけばいいんじゃないかしら」

「お願いしてもいいですか?」

僕が聞くと彼女は親指を立ててウインクしてみせた。

「メリッサ様の辞書に不可能の文字はないわ。あんた知らないの?」

「初めて知りました」

僕はそう返事をして準備を始めた。

「…もっと絡んでくれてもいいじゃない」

メリッサさんは少し膨れながらも僕に協力してくれた。

ドバルとラインさんにはメリッサさんの周囲にいてもらって…

「ジェリーはどうするの?」

3人と離れた所に立っているとラインさんが僕に話しかけた。

「みなさんで先に行ってください。僕は後で行きますので」

「じゃぁ俺も残る!」

ドバルが僕の方に来た。

「ドバルは皆と一緒に行ってください。前衛がラインさんだけだったらいざという時大変でしょう?」

「結界の中から魔法使えねぇの?」

ドバルが僕とメリッサさんの顔を交互に見た。

「やったことないから知らないけど、水魔法を弾く結界なら無理なんじゃない?内側も効果範囲だもの。普段は敵の攻撃って大きくして張ってるけどジェリオスはなんだかんだで味方だし」

メリッサさんがドバルに諦めなさい、と告げた。

…ってなんだかんだとは何ですか。

そう思ったけど何も言わずにドバルを皆の所に戻した。

「それではやりますよ」

メリッサさんが頷いて指先から二本の糸を出し、崖の上と地面を繋ぐように斜めに架けた。

ちょうどそこの間に3人は立ち、メリッサさんが結界を張る。

外から見ていてもその行動は美しいものだった。

「何ボーっとしてんのよ。やるならさっさとして欲しいわ」

メリッサさんに言われて僕は3人の方に両手を向けた。

「遅くてすみませんね。…いきますよ!」

一言言い返してから僕は糸に沿って発射するように水魔法を使った。

すると乗り物のように3人はグングンと上に登って行った。

「すっげぇ!!」

ドバルの声が聞こえる。

ライルさんも結界に張り付くようにして景色を見ていた。

成功、かな。

それがてっぺんに到着するのを見て僕はほっと息を吐いた。

でもそれは一瞬のうちに変わった。

僕は後ろから殺気を感じて前へ走り、振り返った。

「…あなたは」

僕を殺そうとした犯人は腰に拳銃をぶら下げ、軍服のような衣装を身にまとった髪の長い男だった。

「やっと見つけた…!お前らのせいで俺がどんな辛い目にあったか!!」

…なんだっけ。

ずっと彼は僕に向かってあれやこれやと言っている。

でも僕には引っかかるものがあった。

「…どこかでお会いしました?」

僕のその一言で彼は凍ったように固まり、大口を開けたまま僕を見ていた。

「すみません、記憶になくて…。僕、会った人は忘れない自信あるんだけどなぁ」

必死に考えても出てこない。

向こうは僕の事を知っているみたいだし面会したことのあるような口調だ。

ってことは会っているんだろうな。

…でも確かなことはこいつがウジ虫だということ。

「ジェリオス!!」

上でドバルが叫ぶ。

「そいつ、エリーにナンパしてたやつだ!!」

そして指をさして言う。

ドバルの声で固まりから解放された彼は上を見て叫び返した。

「ナンパなんてしてねぇわっ!!!!」

「嘘こけー!!あれだ、名前…名前何だっけ」

ドバルが悩んでいるとラインさんが代わりに答えた。

「バカチョゲフ」

「そう!バカチョゲフ!!」

「違うわーーーーーーっ!!!!!」

彼はゼーゼー言いながら僕を見て、疲れきった声で言った。

「…漆黒の雨、アルフ」

「……あぁ」

「あぁ、とはなんだよ!!!!」

騒がしい人だ。

せっかく思い出したのに。

「ドバル、先に行ってください。こいつは僕が殺っときますから」

「…無理はすんなよ!」

僕が頷くとドバルは皆を連れて走り出した。

「さて、一人でもいいんですか?」

「何がだよ」

アルフが拳銃に手を当てて言った。

「僕の相手ですよ。心配してあなた一人でも大丈夫か聞いているんです」

あの時は戦わなかったけど星水の原水が近くにあるんだ、多少無理して魔法使っても大丈夫だ。

実際に彼と戦ったキャロさんの方が僕よりも強いと思うんだけど…。

「う~ん、さすがに俺様でもお前相手一人は無理だな」

前に会った時よりも冷静な判断できるようになったんですね…って成長を感じてる暇じゃない!

「…じゃぁ、どうするんですか?」

僕が恐る恐る尋ねると彼は言った。

「一回帰る。んで隊長呼んでくる」

「帰るって本部にですか?」

「そんな遠いところまで行くわけねぇじゃん。すぐ近くにいるんだ、原水探してるから」

…つくづくこいつが馬鹿でよかったと思うよ。

でもウジ虫はまだ原水を見つけていないんだな。

それにここの近くに特殊部隊の隊長(忘れた方へ。アルフは特殊部隊副隊長でした。あの騒ぎ以来彼の地位がどうなったのかは、何か話してた気がしたけど聞いてなかったのでわかりません)やその他ウジ虫もいるってことか。

「なんでアルフはここに一人で?」

「…散歩しにきたらお前見つけたから」

こんな人を社員に入れるなんてウジ虫も終わりですね。

「なるほど。あなたがここで僕の相手をしないというのなら一度下に降りたいんですけど…」

僕が戦闘姿勢を解いて言うとアルフも拳銃にかけていた手を離した。

「別に戦う場所はどこでもいいぜ」

「助かります。なら…ここから下にまっすぐ降りたところに洞窟があると思います。そこでいいでしょうか?」

「ぜんぜんOK!なんか悪いな」

「いえいえ、お気になさらないでください」

僕はアルフの横を慎重に通って山を下った。

そして彼が見える位置で隠れて、いなくなるのを確認し僕は走った。

あいつ、本当にただの馬鹿だ。

いや、馬鹿って言うか…間抜?

子供でも分かると思うんですけど。

まぁ、彼のおかげで一応助かった。

たぶん隊長とやらにはばれると思うけどいい時間稼ぎになる。

僕は崖にメリッサさんのように魔力を使って糸をかけた。

その糸を沢山つないでなんとか人、一人渡れる幅になった。

見よう見まねでやったにしてはいい出来だった。

頑丈さも付加効果も何もかもないけど僕が一瞬通るくらいなら耐えられるだろう。

僕はそこの上に乗って自分の魔力が乱れないようにして走った。

もし魔力が乱れて糸を維持することができなくなったら僕は落ちてしまう。

もう少しで頂上だと思った時、僕の右手に何かが絡まった。

「…縄?」

しかしそれのせいで魔力でできた糸は空気中に消えていった。

雪があるから落ちても死なないだろうけど…なんて考えてる暇じゃない!

僕が着地の態勢を取ろうとした時右手に絡まった縄のようなものは勢いよく上へと引っ張り上げられ、僕の体も崖を上って行った。

「うわっ!!」

そして僕は空中を舞って雪山に顔から突っ込むことになった。

全身…てか特に顔と首が冷たくて痛い。

「…ぶはっ」

僕が雪山から何とか抜け出してその場にしゃがみこんだまま雪をほろっていると後ろから雪を踏む音が聞こえてきた。

僕は後ろを振り返ってその顔を見上げるとその人は満足そうに笑っていた。

「いい顔してるわよ、あんた」

「…もうちょっと丁寧に引き上げられないんですか?」

そこには鞭を片手で持ったまま立っているメリッサさんがいた。

彼女はそれを腰にかけると僕に手を差し出した。

「ドバルが雪山に飛び込んでたから弟君もやりたいんじゃないかなぁと思ってわざわざやってあげたのに。…余計なお世話だったかしら?」

「ええ。おかげで馬鹿の気持ちがよくわかりました」

僕は彼女の手を取って立ちあがった。

すっかり冷たくなった僕の手には彼女の手はすごく暖かかった。

本当は熱く感じるくらいだったけど。

「まったく、雪だらけにして…はしゃぎすぎよ」

「誰のせいでこうなったかわかってます?」

メリッサさんは口を開けて笑った。

僕は全身の雪を落として手に息をハーッと吐いた。

「私、好きかも」

「はい?」

いきなり何を言い出すのかと驚くとメリッサさんはそれには何も言わずに僕に背中を向けて歩き出した。

「ほら、本当の馬鹿がライルと原水の前で待ってるわよ」

「見つかったんですね!よかった…」

僕がメリッサさんのあとをついて行くとすぐに洞窟は見つかった。

入口は人が通れるかどうかぐらいの小さな穴で、奥深くまで続いていた。

メリッサさんは僕より先に穴へ潜るようにその中に入って行った。

僕もその跡に続く。

真っ暗だと思っていたらそれは最初だけで、少し進むと奥の方から優しい光があふれてきた。

「あの二人、原水を見たの初めてじゃないの?」

メリッサさんが歩きながら僕に言った。

二人と言うのはドバルとライルさんのことだろう。

「はい。…あれ?メリッサさんは僕たちがサーティスと戦ってる時から付いて来てたんですよね?なら洞窟に僕たちが行ったのを知りませんか?」

「…グズルに入る前かしら?」

「はい」

メリッサさんはその後しばらく黙っていた。

「あ、わかったわ!!たしかラズ様とダイチが洞窟から出てきたわよね?」

「それです。あの時はダイチさんが体調を崩してしまって…」

「あいつも変わった病気を持ってるみたいね。彼にちょろっと聞いたわ。でもよくそんな原水の近くに行って死ななかったわね。下手したら消えてたかもしれないわよ?」

メリッサさんは一度止まり、ちらっと僕の方を振り返って再び歩き始めた。

確かに言われてみればその日の夜には治っていたし…。

でも彼は治療中3日寝込んでいたとか言ってたのに原水に空気中とはいえ触れたのに当日に状態は安定していた。

「そうですね、良く考えればうかつでした…」

「私は星水に詳しい方ではないけど原水だと触っただけで吸い込まれちゃうんでしょ?」

「吸い込まれる、ですか。確かに間違っていませんね。触ると原水に人の体を維持するのに使われている星水が吸収されてしまうそうなんです。まぁ、一説によると逆に体内に原水が入り込んで体がその力を保てなくなるから体中の星水を空気中に出してしまうから消えるという考えもあるそうです」

僕の説明にメリッサさんはやけに詳しいわね、と真剣に聞いていた。

「でも僕は二つとも違うと思うんです。上手く言えませんけど…」

「期待させといて、何よそれ」

人の体や物は星水によって維持されているという結果がつい最近発表されている。

星水についてはまだ謎な点が多いし、推測で話をしても意味ないと思った。

「一つ言えることは原水と人の体は触れ合わせてはいけないってことですね」

「好き好んで原水に触る人なんて赤ちゃん以外いないと思うわよ?変なこと言うわね」

「そうですね」

僕が短く答えるとメリッサさんは少し歩みを早くした。

そしてしばらく歩くと明るい広場に出た。

洞窟を照らしていた明るさは星水の輝きだった。

きっと空気中の星水と原水がぶつかり合って光を発しているのだろう。

原水は思っていたよりもあって、山全体の5分の1くらいがこれで占めていると思われた。

ドバルとライルさんは原水の泉から少し離れたところで僕たちを待っていた。

「ジェリオスさん、ご無事ですか!?」

ライルさんが駆け寄ってきて僕の体を隅々まで見る。

「大丈夫です。実は…」

僕は表であったことを説明した。

そして一通り説明が終わるとメリッサさんがライルさんの前にしゃがんでこそこそと…と言っても皆に聞こえるように言った。

「ジェリオスが雪山で遊んで遅れたのよ」

「そうなのか!?」

ライルさん…では無く、ドバルが反応した。

「遊ぶわけがないでしょう!?」

僕がメリッサさんを見ると彼女は満足そうに笑っていた。

そして2人に違いますからね、と事細かに事情を伝えた。

「まったく、メリッサさんには困ります」

「面白かったからよかったじゃない」

「いいなぁ、俺も遊びたかったなぁ。あ、でも寒いのは勘弁」

ドバルが思い出したように体をブルブルとさせた。

いいなぁじゃないよ、本当に…。

僕は一度咳払いをして今後の話に切り替えた。

「まだウジ虫は見つけていないようですけど、どうやってセリアファクトのものだって主張するんですか?ただ看板立てるとかしてもウジ虫なら無理やり取って行くと思いますよ」

ドバルが考えてなかったな、と腕を組んだ。

「ウジ虫倒しちゃうとか?」

やっと出てきた案を僕に言う。

「それでもとりあえずはいいんですがその後もたくさん来ることを考えたらもっといい案を考えておかなくてはいけないと思います」

「う~ん、難しいな」

「そうだね」

ドバルとライルさんが悩む。

僕は冷静にメリッサさんを見た。

彼女は僕の視線に気づくと体をこちらに向けた。

「メリッサさんは何かミラさんに聞いてませんでしたか?」

そもそもメリッサさんを連れて行けと言ったのはミラさんだった。

たしかに寒さ防止のためにそう言ったのだとしても洞窟の沢山ある山なら風はしのげるからわざわざメリッサさんを連れていかなくても大丈夫と言えば大丈夫だ。

まぁ、メリッサさんがいてくれてすごく助かったけど。

「あんたストーカーになれるわよ」

すとーかー?

僕は初めて耳にする言葉にためらいながらもメリッサさんに聞くのは何か嫌だし、それが褒め言葉なのかわからないというのもあって反応に困った。

メリッサさんはそんな僕の心情も知らずに原水の方を見て言った。

「ミラに頼まれたことが二つあって、一つは皆が凍え死にしないように。それともうひとつがここに結界を張って誰も入れなくすること」

彼女はでも、と言葉を続けた。

「昨晩会った彼女。あんな人がいるのなら私の結界は意味ないわ」

悔しそうにメリッサさんは自分の髪を手ではじいた。

昨晩の事を知らないドバル達に僕は簡単に説明した。

「…でもそいつは味方だったんだろ?」

「わかりません。誰で何が目的なのか…情報が少なすぎます」

僕がドバルに言うと彼はメリッサさんの近くに歩み寄って彼女の肩に手を置いた。

「メリッサ、気にすることねぇって。そいつはウジ虫じゃないかもしれないんだろ?俺はメリッサの結界すごいと思うし、それがなかったらここまで来れなかったんだし…だから自信持っていいと思うけどな~」

ドバルはこういうとき真っ先に人の事を心配して慰める。

僕にもできればいいのに…。

「やるのはかまわないわ。でも解かれたら意味がないじゃない…!」

ドバルの方を睨むように見てメリッサさんは言った。

そうとう昨日の事が悔しかったようだ。

あれだけ怒鳴ってたしね。

でもドバルはそれにひるむことなくメリッサさんを見続けた。

「大丈夫だって。メリッサならできる!俺が保障してやるよ」

「なんで他人のあんたが言いきれるのよ。自分の魔法を良く知ってるのは自分なのよ?それにあんた魔法が使えない癖に偉そうなこと言わないで」

僕は流石に言いすぎだとメリッサさんに一言言おうとした。

でもそれよりも早くにドバルが声を発し僕はそれを言わずに終わった。

「…何ですって?」

ドバルの言葉にメリッサさんが固まった。

「だから、信じてるからって言ったんだよ」

「…なんでそういうこと言えるのよ」

「う~ん、どうしてだろうな。でもメリッサならできるって気がするんだよ。それに仲間の事信じるのは当たり前だろ?やって失敗したらもう一度やればいいんだしさ」

ドバルは笑顔で言った。

メリッサさんはしばらく驚いた顔で黙ってドバルを見ていたが、最後には鼻で笑ってドバルの腕を思いっきり叩いた。

「痛ってぇ!!」

痛がるドバルを見てメリッサさんは笑った。

「あんたはそういう馬鹿な顔が似合うわ」

「せっかく心配してやったのに馬鹿って…酷いぞ~」

「うふふ、私のせいで馬鹿じゃなくしちゃって悪かったわね。でもありがとう」

そしてメリッサさんは僕たちの方に振り返って言った。

「一時的かもしれないけど結界を張るわ。私達の出入りは可能にして、ウジ虫は入れないようにする。帰ったらちゃんとあの人任せ王女に対策を考えてもらうことにして…それでいいわよね?」

「はい、よろしくお願いします」

僕は頷いた。

「頑張ってね!私達も応援してるから」

ライルさんがくまちゃんを抱きながら笑った。

それを見てメリッサさんは再び泉を見た。

「範囲が広いから時間がかかりそうね」

そういいながらメリッサさんは早速糸を紡ぎ始めた。

その間見ているだけの僕の所に戻ってきたドバルは一つの質問を出した。

「星水の原水って人が触ったら消えるんだよな?」

「そうですよ」

「ならどうやって器に移したり、水で薄めたりできるんだ?…ジェリオスが入れられたのも原水なんだろ?」

僕はメモを持っているドバルの顔を見て答えた。

「僕も詳しくは分かりませんが、原水に対抗できる魔法と言うのがあるらしいんです。魔法陣が必要なんですがそれを手に書いたりして、原水を触る。そうすれば大丈夫なんだそうです。原水にかかわるすべての部位に書いてしまえば誰でも触れますよ」

僕の答えにドバルは何かを言いかけたが何も言わずに黙った。

何かを躊躇っているようだ。

だから僕は優しくドバルに声をかけた。

「言いたいことがあるなら言ってください。僕で答えられるかわからないけど、少しでも役に立ちたいんです」

その言葉を聞いたドバルはそれでも少し悩みながらとうとう僕に小声で話をしてくれた。

「…ジェリオスが実験で書かれた魔法陣はそれなのか?」

僕はあごに手を当てた考えた。

…施設から出た後、しばらくは見たくなかったから気にしないようにしていた。

つい最近魔法陣の魔法式がどうなってるのかと思って見たが、やっぱり思い出して怖かったのと理解できなかったという二つの理由があって本当のところは分からなかった。

「わからない。でもさっき話した魔法陣とは違うと思います。もしそれなら僕の上に落ちるだけで終わりますから…」

「ごめんな、嫌なこと思い出させちゃって」

ドバルは頭を下げた。

「気にしてませんよ。僕が言って欲しいと頼んだんですし、また気になることが一つできました」

「無理だけするなよ?ジェリオスはすぐ一人で考えるし、考え出したらきりがないし頑張りすぎるからな」

「わかってます。馬鹿に怒られるのは嫌ですから」

「だから馬鹿じゃないってーの!!メリッサもジェリオスも何を見ているんだ」

「え、馬鹿?」

「馬鹿馬鹿言うなーっ!お兄ちゃんにそんなこと言っていいと思ってんのか!?」

「双子だしもしかすると僕の方がお兄ちゃんかもしれないですよ?」

「そ、それもそうかも…じゃぁ、兄弟に馬鹿って言わない!で、決定」

「却下」

ドバルは僕の横で怒っていた。

でも本気で怒っているという感じではなく、楽しんでいる感じだった。

だからそれを見てライルさんも笑えるし、僕も馬鹿馬鹿言っていられる。

僕はドバルみたいになりたい。




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