本音
しばらく歩いていると雪は激しさを増してきた。
前は何とか見えるが強風が僕たちを襲った。
メリッサさんは自分のコートで包むようにライルさんを暖めながら先頭を歩いてくれていた。
「メリッサさん!!」
精いっぱいの大きい声で叫ぶと彼女は首だけをこちらに向けた。
僕が右側を指さすとメリッサさんは理解したようで指さした方へと歩き始めた。
僕もそこへ向かう。
そこにはすでにドバルが立っていて目印になっていた。
メリッサさん達が着くのと僕が着くのが同時になってドバルが皆の顔を見て笑った。
「ここが何よ」
ドバルの後ろには雪が山の斜面に沿ってあるだけ。
メリッサさんが強い口調で言うのも無理はない。
もとから言い方きつい人だけど…。
「まぁ、見ていてください」
僕がドバルの横に行くとドバルはメリッサさんの方へ移動した。
山の方に手をかざして炎の魔法をぶつけると勢いよく蒸発して目の前が真っ白になった。
そして蒸気が消えるとそこには大きなくぼみができていた。
「洞窟を発見したので今日はここで雪が止むのを待ちませんか?」
メリッサさんはライルさんと目を合わせて頷いた。
「良く見つけたわね」
中に入るとメリッサさんは真っ先に入口に結界魔法を張った。
今回はいつも通りのスピードだったんだろう、一瞬で壁ができてしまった。
メリッサさんがどうしてここまで結界魔法を使えるのか聞きたかったが、聞いたところで教えてくれないだろうから止めておいた。
「星水の流れが変わっていたのでわかりました。…残念なのはただの洞窟、ってことですね」
「あんた人間じゃないんじゃない?」
ドバルとライルさんが火を焚くの準備をしているのを入口らへんで見ながら僕はそうですね、と答えた。
「まじで?」
メリッサさんはそれを本気で受け取ったのかかなり驚いた。
「…冗談ですよ。メリッサさんも意外と本気にするタイプなんですね」
「あんたが冗談を言いそうなキャラじゃないからよ!」
僕が少し笑うとメリッサさんは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「で、本当に人間なんでしょ?」
メリッサさんはそれでも僕の事を疑っているらしく、顔をこちらに向けずに尋ねた。
「人間じゃなかったら何に見えます?」
「あんたも嫌な性格してるわね」
「育ちが悪いもので」
「なら、どんな育ちだったのよ」
メリッサさんが僕の冗談半分で言った言葉につっこんできた。
僕個人としてはメリッサさんにはすごく言いたくないんだけど…。
「そうですね…」
僕が悩んでいるとメリッサさんは初めて会ったあの日の夜のように腰をおろして僕の顔を覗き込んできた。
そして顔をグイっと僕の方に寄せる。
「信頼しなさい…って?」
僕がそう言うと彼女は満面の笑みで手を合わせた。
「あら、わかってるなら話は早いじゃない♪」
「メリッサさんは僕の事を信頼しているんですか?」
「知らな~い。してんじゃない?」
メリッサさんは軽く答えた。
…僕は真面目に聞いたのに。
少しいらっとしているとメリッサさんは笑った。
「あんたってやっぱりドバルより馬鹿な所あるわね」
そして体勢を戻し肩にかかった長い髪を手で払った。
「あんたは難しく考えすぎなのよ。人間なら人間らしくしてればいいの」
僕が理由を聞く前にメリッサさんは洞窟の奥の方へと歩き出した。
「自分で考えなさい、天才君」
奥ではドバルとライルさんが点けた焚火に手をかざして暖まっている。
僕の後ろでものすごい風の音が聞こえるがまったく寒くない。
メリッサさんに出された課題はきっと本では見つけられない。
やっぱり僕には何かが足りないのかもしれない…。
本じゃわからないことが沢山ありすぎる。
僕が施設を出て学んだ一年間の事は無駄じゃなかったと思う。
でもまだまだ学び足りないことが多いのも事実。
きっとそれは人と触れあって、自分の身でいろいろなことを体験しなきゃわからないことなんだ。
「何してんのよ、あんたもさっさと来なさい」
メリッサさんが入口に立っている僕に声をかけた。
「今行きます」
僕はそう返事をして一度外の方を見た。
吹雪は止みそうにない。
「施設にいたのを理由にして逃げてたのかもしれないな」
僕は振り返って皆の方へと歩いた。
急ぐ必要はないと思うけどこのままでいいとは思えなかった。
メリッサさんの結界のおかげで夜は見張りをする必要がなかった。
ライルさんはメリッサさんに抱かれて眠った。
姉妹のようにも見えてなんだか微笑ましかった。
それにライルさんといる時のメリッサさんは僕たちと接する時とはまったく違ってお母さんのような感じだった。
…お母さん、かぁ。
僕は自分のお母さんもお父さんも覚えている。
曖昧だったこともあったけどドバルと会ってからは鮮明に思い出せるようになった。
最近はやたらと夢に出てくるし、正直言うと迷惑だ。
まぁ、夢に出てくるってことは僕が少なからず考えているからなんだろうけど。
きっとドバルは覚えていない。
僕だけが覚えている両親の秘密。
いつか話すべきなんだろうか…。
「…はぁ」
結局僕は何かを考えていなきゃ落ち着かない奴なんだ。
たまには何も考えないでいたいと思うのに。
で、でも人間はつねに何かを考えてるって言うし!
と言い訳したところで意味はないんだけど。
僕の隣で寝ている馬鹿みたいに本能のままに動いてみたいよ、本当に。
「…!?」
僕は異様な魔力を感じて起き上がった。
僕が動いたことによりドバルが隣で寝がえりを打つ。
洞窟の入り口の方には何もない。
でも何かが近づいてくるのは分かる。
僕が静かに立ち上がってじっと入口を見ていると後ろで物音がした。
「…何」
メリッサさんが目をこすりながら僕を見た。
彼女はその存在に気付いて起きたようで、ライルさんにタオルをかけなおして僕の横に並んだ。
僕たちが外を見ていると途端に吹雪は止み、そこに人影が現れた。
近くに来て良く見えるようになってわかったことはその人が女性だということ。
彼女はメリッサさんの作った結界に一度触れるとそれを壊すこと無く中に入ってきた。
その人の周りだけを結界が拒んでいるような、そんな感じだった。
「…私たち以外は入れないようにしたつもりだったんだけど?」
メリッサさんが怒っているようで声を低くして言った。
彼女は無言で入口に立ったままだった。
年は若く、服装は布の服一枚と雪山にいる格好ではなかった。
髪は朱色で肩まである。
「何の用?」
メリッサさんが苛立ちをあらわにしながら言う。
「…伝言」
彼女は淡々とそう言うと腰に差していた剣を抜き、床を削って何かを書き始めた。
それが終わると剣を鞘に収め、彼女は踵を返した。
「ちょっと待ってください!」
僕が呼んでも彼女は振り向きもせず前へと進んで言った。
僕たちは追いかけようとした。
でも体が動かなかった。
いつの間に魔法を…!?
メリッサさんも僕と同じようだった。
そして来た時と同じように彼女は洞窟の外へと消えて行った。
彼女が見えなくなると僕たちの拘束もなくなり自由に動けるようになった。
「あいつ、何なの!?」
メリッサさんは洞窟の床をダンっと踏みつけた。
「何か書いて行ったみたいですけど…」
僕が見ようとその場に行くとそこには地図が書いてあった。
「メリッサさん、これを見てください!」
彼女はかなりお怒りなようでダンッダンッとひたすら地面を踏みつけていた。
「あぁぁぁぁぁっ!!!イライラする!何なのほんと意味わかんないわっ!腐れ死ね地獄へ落ちろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
…怖い。
そういえばエリウスさんから聞いた高所恐怖症の人ってもしかして。
「あいついつかぶっ殺す!!」
「…なんだよ~、朝かぁ?」
メリッサさんの叫び声でドバルが起きた。
あれ、ライルさんは?
僕が心配してみるとライルさんはぐっすり寝ていた。
その理由は明らかだった。
メリッサさんの結界が彼女にだけ張っていたのだ。
たぶん音や振動を遮断しているんだろう。
わざわざご丁寧な…。
「なんだよ、まだ暗いじゃん。寝る」
ドバルは外を見てそう言うと叫んでるメリッサさんを気にもせず再び眠りについた。
流石は馬鹿だ、あいつやっぱり馬鹿だ!
僕はもう突っ込む気力もなくてあの人が書いたものを見た。
そこには地図が書いてあったのだが、もらった山の地図と似ていた。
そして一か所に大きく丸が書いてある。
「彼女は伝言と言っていた…ということは誰かが僕たちがここにいることを知っていて彼女を送った?」
でもわざわざ僕たちに?
ウジ虫の罠の可能性も…。
…。
「メリッサさん、落ち着いてください!」
僕の隣ではまだ怒り狂ったメリッサさんが…。
「うっさいわね!刻むわよ!?」
「僕に当たらないでくださいよ!」
彼女が腰の鞭に手を伸ばして言うものだから僕はいつでも魔法で対応できるようにしてメリッサさんの顔を窺った。
「私の結界があいつのものみたいに…許せないわ!」
メリッサさんはとうとう鞭を握った。
「ス、ストーップ!!」
僕が慌てて言うと悔しそうに鞭を収めた。
…はぁ、焦った。
「チッ、次会った時は死ぬ時だと思え」
メリッサさんは不吉な言葉を入口に向けてはくとライルさんの寝ている結界を解き、ライルさんの横で何もなかったような顔で寝始めた。
…僕、今日一睡もできる気がしないよ。
物凄く静かになった洞窟の中で、僕は再び書かれた地図を見た。
ここから少しのぼって行った所にある目印…これは罠かそれとも別勢力か?
僕がその跡に触れようと手を伸ばすと触れるか触れないかの瞬間にその地図は薄くなり消えて行った。
「…魔法?」
こんな魔法の使い方をする人とは初めて会った。
あの少女は何者だったのだろう。
昨夜から吹雪は止んだままだった。
「進むには絶好のチャンスね」
メリッサさんが一晩寝てすっきりしたようで空を見て背伸びをした。
あんだけ叫んでましたからね…。
「それなんですけど、ここに書いてあった地図通り…」
僕は言いかけて皆がその地図の事を知らないのを思い出した。
メリッサさんにも話しそびれたし。
「一ヶ所気になってる所があるんです」
「原水があるの?」
「たぶん…。近くに行ってみないと確かなことは分からないんですが」
僕の言葉にメリッサさんは頷いて荷物の準備を始めた。
それに続いてライルさんも準備をし始めた。
「ドバルは準備しなくていいんですか?」
「もう終わってるからな」
珍しく早くに準備を終えていたらしいドバルが自慢げに笑った。
「メリッサと仲良くなったのか?」
「い、いきなり何を言うんですか!」
「だって仲良さそうに話してたじゃん、昨日」
「…メリッサさんに信頼しろって言われたんだけど僕にはよくわからなくて。いや、わからないんじゃなくて、信頼ってどうやってするものなのかなぁって」
僕が話しているとドバルは難しそうな顔をして頭を掻いた。
「真面目に聞いてました?」
「聞いてたよ。でも難しいことは俺には分からないよ」
もしかするとドバルなら答えのヒントをくれるんじゃないかと思って少し期待していたので僕は残念な気持ちになった。
そんな僕を見てドバルは心配すんなよ、と笑った。
「信頼っていうのは一緒にいるうちにできてるもんだよ。きっとジェリオスはメリッサみたいなタイプと会ったことがないから悩んでるだけ」
「そうですね、彼女のようなタイプは初めてです。僕にも上手く接することができるでしょうか」
「あったりまえじゃん。それにメリッサはそこまで悪い奴じゃないぞ?ちょっときつめだけど面白いし!楽しいぞ?」
ドバルの言葉が終わった時、ライルさんとメリッサさんの準備が終わった。
「んじゃ行くぞ~!道わかんねぇからジェリオスよろしく」
いつものように盛り上げてくれるドバル。
僕は他の仲間とは違って何を考えているのかわからないと言うだけでメリッサさんに対して偏見をもっていた。
普通に話せばいいんだ、普通に。
「わかりました。皆さんついて来てください」
僕が洞窟を出る瞬間にメリッサさんが結界を解く。
空は太陽が出て暖かく感じた。
あの少女の話も書こうといて書いていない




