方法
山の入り口に着くと、丁寧に看板が立っていた。
「遭難事故多発…?」
ラインさんがもこもこした暖かそうな真っ白いケープに身を包みながら看板の文字を読んだ。
「あたし、雪に触るのも見るのも初めてだからちょっとドキドキ…」
「私から離れて歩いちゃだめよ、ライン」
メリッサさんがいつもの口調ではあるがどこか優しさのある言い方でラインさんに言った。
ラインさんが頷くのを見てからメリッサさんは僕とドバルの方へと来た。
「言い忘れてたけど、女の子なんていなかったわよ。」
「え?」
最初は何のことかわからなかったけど、すぐにドバルの知り合いの女の子のことだと理解した。
「ありがとうございました、メリッサさん」
僕がお礼をするとドバルも続いて頭を下げた。
「別に、仕事のついでよ。…よかったわね」
「ああ!」
なんだか今日のメリッサさんは優しい…?
それともこっちが本当のメリッサさんなんだろうか。
「…何よ」
「いえ、何でもないです」
でも相変わらず僕には眼飛ばしてくるんだよね
メリッサさんの事を信頼する…か。
以前彼女に言われたことだが、その時に比べればメリッサさんへの信頼度は上がっている。
でも僕がどうして彼女の事を苦手としているのか、自分でも突っかかる所があった。
「山には登ったことないでしょ?疲れた時は無理しないですぐに行ってちょうだい」
メリッサさんがツインテールの髪を風に揺らしながら言った。
風は冷たく、僕たちの気持ちを引き締めていった。
「あ、忘れてたわ。手、出して」
メリッサさんが山に登ろうと一歩だしたが、その足を引っこめて振り返った。
僕たちが疑問に思いながらそれぞれ手を出すと彼女は一人ずつ手を添え始めた。
「今から迷子になってもわかるように目印付けるから」
彼女の手がそっと僕の腕に触れ、それが離れると腕には丸いリングがブレスレットのように付いていた。
それは真っ赤だったが、嫌な色ではなく透き通った綺麗な色をしていて、そのリングの中を何かが流れているようにも見えた。
例えるなら血管のような…。
全員につけ終わって彼女は自分の腕にもそれをつけた。
「これで私たちが離れ離れになっても魔力で探すことができるようになったわ。ちなみにミラからもわかるようになってるから」
「メリッサ~、俺魔法使えねぇんだけど」
ドバルが口を尖らせて言った。
「大丈夫よ、あんたには勘ってもんがあるでしょ」
「そっか!!俺ってすげぇな!」
「はいはい、すごーい」
メリッサさんは流しながら言うと山の方に再び振り返った。
ドバルの扱い方は上手いんだよな…。
「さ、行くわよ。ラインライルを寒い所にずっといさせたくないもの、ちゃちゃっと見つけて帰るわよ。それに面倒だし」
「ラジャー!!」
ラインさんとドバルがおーっと肩手を握って空に突き上げた。
想像はしていたけど山の中にもモンスターはいて、大体が炎に弱かった。
ライルさんと僕で霧払いをしてドバルが残ったやつを斬り倒す。
この戦い方が定着してきた。
メリッサさんはというと腰にぶら下げていた鞭をひゅるひゅると取ってバシバシたたくだけで結界魔法以前に魔法すら使わなかった。
でも充分あの鞭痛そうだから魔法いらないのかも…。
戦闘が終わればモンスターが落としたお金をいち早く拾い、袋に詰めていた。
「弱くてつまんないわね」
「本当だよな~」
ドバルとの息もバッチリで、メリッサさんが鞭でモンスターを拘束している間にドバルが斬る、なんてこともよく見かけられた。
「それにしても洞窟を探すとかできんのかしら」
メリッサさんが血のついた鞭を空振りしながら言った。
「もう少ししたら雪積もってきますよね?」
気温は下がってきているし、雲も出てきた。
「そりゃぁ、積もるでしょうね」
メリッサさんがそれが何よと僕を見てくる。
「積もってきたら足元を重点的に見ていきます。もしかすると誰かの足跡が残ってるかもしれないし何かの目印があるかもしれないので」
「なるほどね」
メリッサさんが理解したように頷いた。
だがドバルとライルさんはさっぱり…という顔をしていた。
ライルさんにはメリッサさんが説明しているので僕はドバルの方を見た。
「ドバルには説明するより実践して見せた方が早いと思うからもう少し待っていてください」
「…よくわんないけどわかった!」
僕はそう言って、メリッサさんの所に向かった。
「メリッサさんにはこれを渡しておきます。僕よりも山や天気には詳しいと思うので」
さっき城を出る時にもらった簡易な山の地図。
無いよりはあった方がいいだろうということでミラさんがくれた。
「私が持っていてもいいけど、あんたは困らないの?」
メリッサさんはそれを受け取って見ながら言った。
「あぁ、それなら気にしなくていいです。もう頭の中に入ってますから」
僕が言うとメリッサさんは驚いた表情で僕を見た。
そして地図をバックにしまうと鼻で笑った。
「さすが天才は頭の出来が違うわね」
「お褒め頂き光栄です。今日は登れるだけ登って明日から洞窟探しをしようと思うのですが、どうでしょう」
「…賛成ね。なら今日の野宿の時にでもルートを決めましょう?」
「わかりました。ではまた後ほどよろしくお願いします」
僕はメリッサさんに背を向けて歩いた。
…どうして彼女が相手だと冷たい言い方をしてしまうんだろう。
嫌いなわけでもないのに。
このままじゃ駄目だって思っているのに。
どうして上手く人と接することができないんだろう。
日も落ち、気温はすっかり冷凍庫くらいまで落ちた。
雪もうっすらと積もってきている。
ドバルには約束通り説明してあげた。
「ドバル、目を瞑って下を向いたままここに立っていてください」
「おう」
僕はそこから少し歩いて足をとめた。
「足元だけを見て僕がどこにいるかわかります?」
その言葉で目を開けたらしいドバルは下を見たまま僕の歩いた道にできた雪に残された足跡をたどって僕の前まで来た。
「そういうことです」
「でもまた雪が積もったら見えなくなるぞ?」
「珍しく的確なこと言いますね。その通りです。だからなるべく早く見つけなきゃいけません。ウジ虫もどこに原水があるかはわかってないと思うので探して歩いていると思うんです、ゆっくりね」
「あとは遭難防止に木とかに目印付けてる可能性もあるわよ」
僕とドバルの話を聞いていたメリッサさんは木々が少ない広場で足を止めて言った。
「さ、今日はここらへんで休みましょう?」
「野宿、寒そう…」
ライルさんが心配そうに言うとメリッサさんはライルさんの頭を優しくなでた。
「大丈夫よ、そのために私がいるのよ。ちょっとこっちに集まってくれる?」
僕たちはメリッサさんの言うとおり彼女の近くに寄った。
それを確認してメリッサさんは右手を前に出した。
「兄弟には初披露ね!」
メリッサさんの指先から何か糸のようなものが出てきた。
それが魔力でできているとすぐに分かった。
何本もの糸はあっという間に天へと延びていき、空中で螺旋状になり太い一本の糸になる。
それを繰り返しているうちに太くなり、帯のようになるとメリッサさんはそれの端を掴み僕たちを囲むように帯を操り反対の端を雪の上に重ねるように帯を連ねていった。
そしてドーム状になってくると最後に彼女の持っていた端を真上に投げ、僕たちの周りは完全に囲まれた。
しかし凄いのはそれだけではなかった。
ドームが完成したかと思うとそれが輝き、一瞬にして透明になった。
ゆっくりと落ちてくる雪は僕たちに当たることもないし、風も寒さもない。
それなのに僕たちから見れば先ほどと同じ、外にいた時の風景が見える。
「完成~☆」
メリッサさんが何も言えないでいる僕たちを見てにやりと笑った。
「どう?初めてだから特別にかなりゆっくり作ってあげたんだけど、楽しんでもらえたかしら?」
これでかなりゆっくり作っただって…!?
結界魔法はあまり見たことがないけどここまで性能が良くてスピードがあるのは初めて見た。
「…ここまで完成度が高い結界魔法は初めてです」
僕が言うと彼女は満足そうに笑った。
「でもまだまだよ?床だってちゃんとできてるんだから」
僕たちはメリッサさんの言葉に雪が積もっている地面にふれた。
でも雪には触れられず、それに冷たさもなかった。
「すげぇ…!!」
ドバルがジャンプしてはしゃぐ。
ライルさんもこれは見たことないようでメリッサさんに笑顔で声をかけている。
僕は落ち着いてあたりを見回した。
魔力でできた壁…僕の使うことができる魔法障壁と同じ構造なわけだが性能で言えばメリッサさんの方が桁外れでいいことは明らかだ。
空気はちゃんと出入りしているのに寒気や強風は全くない。
「で、ご飯は誰作るのよ」
メリッサさんはその場に座って言った。
「俺作るよ」
ドバルが即答した。
メリッサさんの料理の腕はわからないがドバルが作るのは一番安定していると思う。
「じゃぁできるまでライルと遊んでるからできたら言って」
そう言って彼女はライルさんを呼んで少し遠くに行った。
「あ、そうだ。火は使っていいから。あと、なんかあれば言って」
メリッサさんがライルさんと話をやめてドバルに言った。
「…何か食べたいもんあるか?」
残された僕にドバルが聞いた。
「何でもいいです。でも食料は多めに残したいんですよね」
ドバルは食料の入った袋を開いた。
この袋は小さい袋なのだが、中はどういう仕掛けか沢山入っている。
荷物がかさばらないようにとできたものらしいが、これを初めて見たのは今日だった。
というのも朝にラズさんが食料を詰めておいた、と僕たちにくれたからである。
要するにこの技術はセリアファクトのもの。
…ん、待てよ。
僕はドバルに頼まれていた携帯式の畑に応用できるんじゃないか?
「ジェリー、凄いたくさん入ってるぞ!」
「…ということは、これを作った会社に尋ねるのが一番早いな」
「おーい、聞いてる?」
ドバルが僕の目の前で手をたたいた。
「なんですか、聞いてますよ」
「なら返事くらいしてくれたっていいじゃん!」
「考え事してたんです」
僕がそう答えるとドバルが真面目な顔をした。
「またウジ虫のことか?」
ドバルはいつからか僕が考え事をしていると気にするようになった。
「いいえ、違いますよ。前に言った秘密なことです」
「ならいいんだけどさ。まぁ、秘密って何かすごく気になってっけど…。んで何作ろうかなぁ」
そして再び食材とにらめっこを始めた。
ドバルは僕が一人で何でも考えるのがいや、というか心配してくれているらしい。
一人で考えてるつもり、僕にはないのにな。
ドバルに初めて会った時よりも僕は人との付き合いができるようになったと思う。
自分で言うのもどうかとは思うけど、良い方に変わった。
それもドバルや他の皆が僕にいろんな表情や感情を見せてくれて教えてくれたからだと思う。
だから本当は僕個人の戦いに皆を巻き込みたくない。
でも皆の優しさに甘えてしまって、頼ってしまって僕はそいうい面では弱くなってしまったのかもしれない。
今のまま皆と旅を続けたいと思ってしまう自分がいる。
だけど大きなところに決着がついたら後は僕だけでなんとかしなくちゃ。
ドバルも…置いて行く。
反対して聴かないだろうけど兄弟に大変な思いはさせたくないから。
「よし、今日は暖まるもんにしようっと」
ドバルが献立を決めたようで準備を始める。
「僕も手伝いますよ」
「サンキュー」
でもいつかはドバルに本当の事を伝えなくちゃ…。
その日までは何も考えずに過ごしてもいいよね…お母さん。
ドバルは少ない材料でとてもおいしい料理を作った。
それはメリッサさんがラズさんの次においしいと言うくらいだった。
ライルさんも久々のドバルの料理に喰いつくように食べていた。
途中からラインさんになってたんだと思う…。
ご飯を食べ終わる頃には空には星がキラキラと輝いていて、とても綺麗だった。
「食器、どうやって洗えばいいですか?」
僕が空を見ていたメリッサさんに尋ねると彼女は立ち上がり、壁があるだろう所に手を触れた。
すると風が僕たちを襲った。
「ここから外に出て洗ってくる?それとも中で洗って汚いのだけ外に出す?」
「…外で洗ってきます。寒さにも慣れておきたいので」
「ならいってらっしゃい。帰りは…私がいなくても天才の君ならこれくらいできるわよね」
そう言って僕の背中を押した。
外はとても冷え込んでいた。
後ろを振り返ると彼女は笑顔で手を振っていた。
もう作られた穴は閉じたようだった。
ちなみに外側から見てもドームは見えない。
3人が雪の上で思い思いに過ごしているようにしか見えない。
「…寒っ」
僕はなるべく早く洗ってしまおうと決め、そこから少し離れた所に移動した。
水は雪を溶かせばいいんだが、流石に汚いので魔法で水を出して洗うことにした。
水も凍ってしまう可能性もあるので炎の魔法も同時に使ってお湯にする。
僕はしゃがんで食器を洗いながら考えた。
施設にいた時は嫌でもいろいろな魔法の使い方や魔力の扱い方を教えられたけど、抜け出してからはあまりそのような応用のきいたことをしていないな、と。
そろそろ違う魔力の使い方を見つけてもいい時期じゃないか?
せっかくだし、施設で得たこの力をうまく活用して人の役に立てれないのかな。
一般の人に比べ、僕は空気中と体内の星水の力を引き出す能力に長けている。
何か、いい使い方があるはず。
そんなことを考えているうちに食器はすべて洗い終わった。
手からはまだ湯気が立っていた。
結局なにも思いつかなかったなぁ。
僕は洗った食器を持ちやすいようにまとめてから立ち上がった。
腰がちょっと痛い。
「ん~」
背伸びをすると空の星が目に入った。
今まで見た中で一番きれいかも知れない…。
僕はしばらくその状態で星を見ていたが流石に寒くなり、食器を持って皆のいる方へと向かった。
あんまり遅く帰るとドバルに心配されちゃうし。
まったく、あの馬鹿は心配性すぎるんだ。
僕は子供じゃないんだから。
歩きながら星水の流れを感じる。
きっとミラさんが僕をあの時試してこの洞窟の事をお願いしたのは僕にしかできないことだとわかったからだと思う。
…洞窟の場所は分からないけど星水の原水が近くにあれば見つけられる。
早く見つけたい気持ちを抑えて明日からはより一層気を張っていかなくては。
吹雪になると風で星水も流れてしまうので探しにくくなる。
また、今日はじめて雪を見て触れてわかったのだが雪にも微量ながら星水が含まれていた。
積もった所だとさらに探しにくくなると思う。
集中力高めるために今日は早く寝よう。
両手がふさがっている僕はドームに魔力を集中させ穴を開けて入った。
翌日、出発の時メリッサさんがドームに触れただけでそれは砕け散る結晶のように空気中へと消えて行った。
「さ、今日も面倒だけど張り切って行くわよ」
メリッサさんが相当面倒くさそうな声でそう言うと歩き始めた。
昨日の夜彼女と話し合ってとりあえず頂上まで登り、そこから下って行きながら探すことにした。
道中見つけられるかどうかは僕しだい。
人探しよりも大変な仕事を任された気がする…。
「ジェリオスさん、ボーっとしてどうしたんですか?」
ライルさんが僕の袖を引っ張って声をかけてくれた。
「なんでもないです。行きましょう、無理しないでくださいね?」
「はい!あ、ジェリオスさんも無理駄目ですよ」
僕は微笑んでライルさんと並んで歩いた。
ライルさんはラインさんと一緒になってから明るくなったと思う。
少し年相応の女の子って感じもしてきて子供らしく見える。
僕にとってその子供らしいというのは本などでしか知らないことだからライルさんを見ていると僕の知らない抜けた時間を想像することができる気がして…。
それにしては彼女は大人っぽいんだけどね。
「ライルさん」
「はい?」
僕に名前を呼ばれてライルさんは首をかしげた。
「最近のライルさんは楽しそうで、見ていてとても幸せな気分になります」
「そうですか?えへへ…きっとそれはジェリオスさんやドバルや皆のおかげです。あの日、ドバルと出会わなかったら皆にも会えなかったし、心から笑ったり、今こうしてお姉ちゃんと一緒にいられなかったと思うんです」
ライルさんはふわふわと髪を風になびかせながら笑った。
「だから私達は恩返しって訳じゃないけど皆の為に頑張るって決めたんです。そ、それ以上に皆と一緒にいたいだけなんだけど…っ」
「僕も同じ気持ちです」
照れながら言う彼女に僕は笑った。
「ジェリオスさんもですか!?」
ライルさんは意外という感じで驚いた表情をしてみせた。
「ええ。変…ですか?」
「そんなことないです!こういうこと考えてるの、私達だけだと思ってたから…。それにジェリオスさんはあんまりそういうこと考えないのかなぁって勝手に思い込んでました、主にお姉ちゃんが」
ライルさんは最後にそう付け加えた。
僕は思わず噴き出しそうになったがギリギリで止めた。
「そうですね、僕も自分でそういう考えができるって最近気づきました。皆とずっと一緒にいたいなと思っちゃうんです」
僕がそう言うとライルさんはとても穏やかな表情でまっすぐに僕を見た。
「仲間って家族みたいですよね。私は孤児だったけどお世話をしてくれた方がいました。でも捨てられちゃったし、やっぱり心の中では本当の家族にあこがれていて、それにその時はお姉ちゃんの存在に気づいてなかったから…」
ライルさんはだけど、と言葉をつないだ。
「今はドバルやジェリオスさんは本当のお兄ちゃんみたいに感じるし、他の皆も家族みたいな大きな存在で失いたくないかけがえのないものなんです。それって血はつながってないけど家族、みたいなものですよね」
「家族、かぁ…」
僕が少し遠くを見て言うとライルさんは僕の顔をじっと覗きこんだ。
「ジェリオスさんとドバルの家族ってどんななんですか?…あ、覚えてないんだったっけ」
まずいことを聞いたかなと言う顔でライルさんが不安そうに僕を見つめた。
僕はそんな彼女の顔を見て静かに言った。
「…覚えてますよ」
ドバルには聞こえないようにこっそり言う。
「とは言ってもはっきりとは覚えてないんですけどね」
「どんな感じだったんですか!?」
ライルさんが興味ありげに聞いてきた。
「家族は僕とドバルと両親の4人でした。母と父はほとんど仕事でいなかったから二人でなんかしてたんだと思います。それと…」
僕は頭の中に一瞬だけ思い浮かんだ風景を言葉にしようとした。
でもそれは僕にとって思い出したくないことだった。
いや、忘れていたわけじゃない。
僕がずっと隠し続けていたこと…。
「あとは良く覚えてません。この話はドバルには内緒ですよ?」
僕がそう言うとライルさんは頷いた。
「いいですけどドバルに言ったら喜ぶと思うよ?」
「そう、かもしれませんね。でもドバルにはドバルの楽しかった記憶があると思うんです。彼が家族の事を覚えていないならその記憶を大事にして欲しいと、僕は思います」
「…きっと私にはわからないことをジェリオスさんは考えてるんですね。わかりました、でももしドバルが家族の記憶を思い出したいって言ったら教えてあげてくださいね」
「もちろんです。ライルさん、ありがとうございます」
彼女は僕がどうしてお礼を言ったのかわからなかったようだが、僕にその理由を聞こうとはしなかった。
気が付けばあたりは真っ白で地面に積もった雪は靴の底が隠れるくらいになっていた。
ドバルとメリッサさんは僕たちよりも前で話をしていた。
どんな話をしているんだろうね、と話しているといきなりドバルがその場に荷物を置き始めた。
「?」
僕たちが疑問に思ってみていると、ドバルは雪がたくさん積もった雪山に大の字で飛び込んだ。
「…!!」
僕とライルさんが口を開けて驚いているとメリッサさんはお腹を抱えて大爆笑した。
「こいつ、本当に馬鹿な奴ね!嫌いじゃないわよ…っ?」
僕とライルさんはメリッサさんの声で我に返ると走って二人の方へ行った。
ドバルは雪にめり込んだまま微動だにしない。
「ド、ドバル大丈夫?」
ライルさんがドバルの肩に優しく触れた。
すると勢いよくドバルは起き上がった。
「きゃっ!」
ライルさんは驚いて咄嗟にメリッサさんの後ろに隠れた。
「冷っめてーーーーーっ!!!!」
ドバルの叫び声は山に響いた。
半泣きで僕の前まで来たドバルは何かを言おうとしているようだが、きっとあまりにも寒くて話せないのだろう。
「ばーか」
僕がそう言ってやると、ドバルはいつものように反応しようとして固まった。
そしてブルブルと震えて僕をじっと見つめた。
こいつ、やっぱりただの馬鹿だ。
「まったくもう、何やってるんですか…」
僕が手でドバルに付いた雪をほろってやる。
「…あ、いいこと思いつきました」
僕がほろうのをやめて笑顔になるとドバルが気付いたのか真っ青な顔で首をぶんぶんと振った。
「遠慮しなくてもいいんですよ?炎の魔法と風の魔法があるんですけど、どっちがいいです?」
ドバルはものすごい勢いで自分に付いた雪をほろい落とし、荷物を持った。
「だ、大丈夫っす。い、い、行くぞ~」
声を震わせてドバルは歩いて行った。
「あいつって本当に面白い奴ね」
僕の後ろでメリッサさんが呆れながら言った。
「ジェリーがいなきゃドバルはただの馬鹿だよ」
ライルさん…ではなくラインさんがメリッサさんと笑う。
僕たちの前ではまだ寒そうにしているドバルが歩いている。
仕方ないなぁ…。
僕はドバルの所まで走ってまだ頭に積もっていた雪を優しくほろった。




