距離
僕はドバルと共に先ほどウジ虫と戦った場所に来た。
まだ血生臭い。
ここに戦死した人が破棄されているはずだ。
セリアファクトの人々は回収されているはずだからウジ虫だけ残っているはず。
少し進むと騎士団の人だろう、数名が死体を持ち上げ並べていた。
ウジ虫は結局あの戦いで逃げて行ったのだが被害は大きかったようだ。
僕たちは騎士団の人に許可を頂き、並べられている人々を順に見て言った。
女の子としか聞いていなかったから見つけられるか不安だったが、そんな心配はいらなかった。
ここに並んでいる人々のほとんどが大人ばかりだった。
一通り見終わって僕たちは次々運ばれてくる人を見ようと来た道を戻った。
すると目の前に知っている顔が腕を組みながら立っていた。
「兄弟で死体観賞?悪趣味兄弟ね」
オレンジの髪が風になびく。
「そんなわけないじゃないですか、失礼ですね」
「久々だな、メリッサ」
ドバルは笑顔で手を挙げた。
かなり酷いこと言われていたのも気にしてないようだ…というか気づいてないのかも。
「もうすぐご飯だって言うのに、こんな所で何をしているの?」
「知り合いが混ざってないか探してたんだ…」
「ドバルの知り合いはあんたの弟の敵であるウジ虫に入ってるわけ?」
メリッサさんは相変わらず冷たく言う。
「それが気のせいかもしれないんだけど、さっきの戦いで見かけたんだよ。でもその子はもう死んでるはずで…」
「なら完璧ドバルの見間違いなんじゃない?そうじゃないならお化け、かもよ」
ドバルがお化けと聞いてぶるぶると震えた。
「お、お化けなんているわけねぇだろっ!?」
「怖いんだ…?」
「怖いんですね…?」
「怖くねぇしっ!!!」
メリッサさんと僕に言われてドバルは顔を真っ赤にして叫んだ。
意外な弱点発見。
「夜中でるかもよ?ここで死んだウジ虫がドバルの事を憎んで…」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
ドバルは物凄い勢いで僕にしがみついた。
「離してくださいよ!お化けなんているわけないじゃないですか、馬鹿ですか?」
いつものドバルなら馬鹿じゃないと反論していただろうが、今の彼はそれどころじゃないみたいで僕の背中に顔を埋めて震えている。
「…もし女の子の死体を見つけたら教えてくれませんか?」
僕がため息をついてからメリッサさんに言うと、彼女は嫌そうな顔をした。
「嫌って言ったらどうすんの?」
「もうすでに顔がそう言ってます」
僕は頭を軽く下げてくっつくドバルを引っ張りながら歩き出した。
そしてメリッサさんの横を通り過ぎようとした時、僕は腕をガシッと掴まれた。
「まだ私は嫌って言ってないわよ?あなた馬鹿?」
「ということはOKということでいいんですね?」
「あんた本当に可愛くない子~。ラズ様くらいカッコよくなりなさいよ」
「僕には無理ですよ、ラズさんにはなれません」
そう言い返すと彼女は笑った。
「あたりまえじゃない。ラズ様になれる人なんているわけないもの」
言いだしたのそっちじゃぁないか…。
よくわからない。
「…ドバルの為に探してあげるんだからね、あんたの為じゃないわよ?」
「それで、いいです。探していただけるなら」
僕がそう言うと彼女は驚いているようだった。
「どうか、しました?」
「な、何でもないわ。ほら、ちゃっちゃと行きなさい」
メリッサさんは僕から手を離した。
僕はもう一度お礼を言って歩き出した。
「…ドバル、そろそろ歩いてくれません?」
「ジェリーから離れた瞬間にお化けがいたら嫌だもん」
「あなたは女の子ですか?」
「お、弟ならお兄ちゃん守るだろっ!」
「僕は出来が悪い弟なので♪」
「うわ~最低だ!お兄ちゃん悲しい!!」
「嘘ですよ」
僕が笑って言うとドバルは顔を埋めたまま言った。
「うん、わかってる」
僕は鼻で笑って城に向かって歩いた。
大広間に着くと皆が僕たちを見て近寄ってきた。
城では僕たちがいなくなったと心配されていたらしい。
どうやらマリンさんが僕たちを呼びに来たら部屋にいなくてさらわれたと勘違いしてしまったらしい。
「すみませんでしたっ!!」
マリンさんは皆の前で頭を下げた。
「謝らないでください!僕たちの方が勝手にでてしまって、すみませんでした」
「いえ、私がおっちょこちょいだから…」
するとミラさんは笑ってマリンさんを見た。
「まぁまぁ、無事ならいいじゃん。みんな揃ったしご飯食べましょ?」
僕たちはミラさんのあとをついて歩いた。
そしてしばらく歩いた所にある扉を開くと、大きな部屋で大きなテーブルの上には沢山のおいしそうなご飯が湯気を立てて並んでいた。
奥の方ではラズさんが立っていた。
「好きな所に座って」
ミラさんに言われ、僕たちはそれぞれ座った。
席に着くとラズさんが一人ずつ丁寧にお茶を汲んで配った。
「今日は本当に助かったわ~、ありがとう&ようこそセリアファクトへ!」
ミラさんがお茶を飲みながら言った。
「ってことで好きなだけ食べて」
と言いながらミラさんは誰よりも早く近くにあった肉料理に手を出して頬張った。
「気にせず食べてくれ」
お茶を配り終わったラズさんが空いていた僕の隣の席に座った。
「あ、はい。そういえばこの料理、ラズさんが作ったんですか?」
「ああ。あいつがどうしてもと言うのでな」
とミラさんを見る。
「本当にフレンドリーな方ですよね」
「だから言っていただろ?会った方が早い、って」
僕はラズさんと一緒に笑った。
「そういえばグズル国王はどうだった?」
「とてもいい方でしたよ。長くなるので後で時間がある時にお話します」
「それなら食後、皆がエリウスの部屋に遊びに行くときにジェリオスも来るといい。俺もエリウスの部屋に行こう」
僕はサラダを食べながら頷いた。
「ミラとエリウスに全部食べられないようにな」
「ドバルもいますよ」
僕が言うとラズさんが微笑んだ。
「そうだったな」
3人は幸せそうな顔でどんどんお皿を空にしていった。
それを見ているだけでおなかがいっぱいになるほどに…。
食事が終わり、約束通りエリウスさんの部屋にお邪魔しにきた。
彼女の部屋は僕たちの客室とあまり変わらない白い部屋だった。
ただ、キッチンなどが置いてあり部屋の中だけでちゃんと生活ができるようになっていた。
「き、汚くてごめんね」
エリウスさんは恥ずかしそうに言った。
さすがにみんな集まると狭く感じるが、部屋自体は家具も少ないので広かった。
「全然綺麗ですよ~」
ライルさんがあたりを見回しながら言う。
「でも白くて落ち着かないのよね」
メリッサさんが窓際に腰かけて言った。
「それはメリッサの部屋がキンキラキンだからでしょ?」
「失礼ね、ゴージャス感があって素敵でしょ?」
「そうかもだけど、目に痛いもん…」
エリウスさんが口を尖らせる。
僕の頭の中でメリッサさんの部屋がすごいことに…。
でも彼女ならあり得る、これくらい。
「あれ、ダイチどうしたんだ?入り口で突っ立って」
ドバルが椅子に座ってお菓子をつまみながらダイチさんを見た。
「い、いや、エリウスとは付き合い長いけど初めて家っていうか部屋に来たもので…」
「そうだよね!ようこそです」
エリウスさんが笑顔で言う。
するとダイチさんは照れた顔をしながらドバルの隣のいすに座った。
「緊張しなくてもいいじゃない、友達なんだから」
メリッサさんが意味深に言う。
そんなメリッサさんにダイチさんがうっさいと小さい声で言う。
僕はラズさんの隣に並んで立った。
その後しばらくは雑談をして久々の全員集合に喜び合った。
そして僕たちはグズル出会ったことを皆に説明した。
「エリウスは相変わらず無茶をしたんだな」
「そんなこと言ったってそうするしかなかったんだもん…」
ラズさんに言われ小さくなったエリウスさんはドバルを見た。
「でもドバルがいたから大丈夫だったよ」
「まったく…。ドバル、エリウスのせいで迷惑かけたな」
「いいや、気にすんなって。俺も放っておけなかっし」
ラズさんは時々エリウスさんの保護者のように感じる。
心配されるってとても気持ちのいいものだって僕も最近知った。
そう考えると僕の保護者はドバルなんだろうか?
…それはないな。
「ライルたちはどうだったんだ?」
ドバルが話を変える。
「私たちはウジ虫の施設を壊しながらここに向かいました。ジェリオスさんからもらった機械、私でもちゃんと使えました!」
ライルさんが笑う。
「それにしてもウジ虫ってのは本当にいい物持ってるわよね。お金と星水は戴いといたわ」
「メリッサが回収した物は俺が保管している。今後の旅で使うだろう?」
「メリッサが持ってたら全部使っちゃいそうだもんね」
「失礼ね!!ラズ様に言われたのは全然気にならなかったけどあんたに言われるのはイラってくるわ」
彼女はエリウスさんの頭をこぶしで挟みぐりぐりした。
エリウスさんは泣きながら助けを求めていた。
が、ラズさんは冷静なまま話を続けた。
「…あいつらは放っておいて、だ。俺たちはそのまま進んで皆が乗ってきた船でセリアファクトに着いた」
「そしてお城でお話をして、詳しい話はジェリオスさんが来てからってことにしました。でもしばらくしたらウジ虫がこっちに来てるってミラさんが気付いてくれて、それと同時にドバル達がこっちに向かってるっていうのも教えてくれて…」
入国した時にもライルさんと話して不思議に思っていたことを僕は思い切って聞いてみることにした。
「あの、どうしてミラさんはウジ虫や僕たちの到着がわかったんですか?」
「前に放浪癖があるといっただろう?あの人は魔法でいろいろな所に自分を飛ばして世界の情報などを集めているんだ」
「自分を飛ばすってエリウスみたいに飛ぶのか?」
「いや。魂だけ飛ばすと言った方がいいんだろうな。詳しくはよくわからん。実際に城にいるのに街中で見かけることもあるから本当はどっちを飛ばしているのかわからん。もしかすると二人いるのかもしれないしな」
ラズさんは笑いながら言った。
「まぁ、そんなでドバル達やウジ虫の場所に気付いたというわけだ」
そんなラズさんの説明を補足するようにメリッサさんが口を開いた。
「私があんたたちの場所がわかったのもあの人の力よ。ラズ様のお帰りがあまりにも遅いからミラに相談したの。そして居場所を教えてもらって飛んで行ったらジェリオスが白髪の女と戦ってて…あんな戦い見たことなかったからびっくりしちゃったわ」
白髪の女?
「メリッサと会ったのはグズルに入った時だったよね?」
ライルさんがラズさんに確認した。
「ああ、そのはずだ。白髪の女というのは黒い服の女か?」
「そうよ」
ということはその女はサーティスのことか。
サーティスと戦ったのはマーリア国にいるときだったはずだ。
「もしかしてずっと僕たちのあとをつけていたんですか?」
「あんたたちを見てたんじゃなくてラズ様を見ていたのよ」
僕が苦笑いしているとラズさんが怖いオーラを出しながらメリッサさんの前に立った。
一度も感じたことない雰囲気にさすがのドバルも驚きを隠せないようだった。
「どうして教えてくれなかったんだ」
「…声をかけようと思ったけどそういう雰囲気でもなかったじゃない」
「ならなぜグズルに入国してから出てきたんだ」
「…」
メリッサさんは怒っているような、そして泣きそうな表情でラズさんを見つめていた。
重たい沈黙が流れた時、メリッサさんの隣にいたエリウスさんが笑顔で立ちあがった。
「ラズもそう怒らないの♪」
「そうは言っても…!」
「ラズの言いたいこと、わかるから。だから、ね?」
ラズさんは少し顔をあかくして元いた位置に移動した。
「メリッサはミラに言われてたんでしょ?」
「なんで知ってんのよ」
「たぶんそうかな~って気がした。それにメリッサならすぐラズに飛びついてたと思うし」
メリッサさんは呆れたようにため息をつくと少しだけ戸惑った顔をしたのち僕たちの方をしっかりと見た。
「私、初めてあなたたちを見た時に助けに入ろうかと思った。どうみてもラズ様の味方だってわかってたしね。でもジェリオスの魔力や魔法を見ていたらミラが来て、隠れながら付いて行って情報を集めてほしいと頼まれたわ。まぁ、言えばセリアファクトのスパイ…かしら」
メリッサさんは僕をちらっと見た。
僕が表情を変えずに見ていると彼女はそのまま話を続けた。
「その頃にはウジ虫が私たちの国にも来ていたから、情報を集めたかったのよ」
彼女がそこまで話すといつものように落ち着いた口調でラズさんがメリッサさんに質問を始めた。
「俺やエリウスに教えてもよかったんじゃないか?」
「私だって言いたかったわよ。でも隠れて、というのがミラからの命令だったから仕方なかったのよ」
「どうしてそんなこと言ったんだろうね」
エリウスさんが首をかしげて言う。
確かにラズさんたちに事情を話せばウジ虫の情報を簡単に入手することができたはずなのに。
「私の推測だとラズ様たちが今どこで何をしているのかも気になっていたんじゃないかしら。真相は本人に明日聞いた方が早いと思うわ」
大きな報告はそれで終わりとなり、僕たちはエリウスさんとドバルの明るさに助けられてその後の時間を楽しく過ごした。
「それじゃぁ、また明日!!」
皆がエリウスさんの部屋から出て、それぞれの部屋へと戻って行った。
部屋には僕とドバル、そしてエリウスさんとラズさんとメリッサさんだけが残った。
「さて、と。俺らもそろそろ戻るか」
ドバルが楽しかった~と言いながら僕の手をつかんで立ち上がった。
「そうですね。長々とお邪魔しました」
僕とドバルが部屋を出て行こうとすると、エリウスさんが一緒についてきた。
「途中まで送るよ。たまには3人で話しよう?」
「いいな、それ!」
エリウスさんにいいよね?と聞かれ僕は頷いた。
特に問題ないし、それにエリウスさんと一緒にいると不思議とドバルといる時のような感覚を感じてとても安心する。
「メリッサとラズは待っててね~」
そう一言の腰扉を閉めた。
廊下はすっかり薄暗くなっていた。
足音だけが響く。
「今日は楽しかったな」
「うん、最高だったね!」
いろいろ思い出しながら二人が笑う。
「ねぇ…本当にメリッサは悪い子じゃないんだよ?」
エリウスさんが急に真面目になって僕たちに行った。
僕はドバルと目を合わせた。
「もちろんわーってるって」
「僕は彼女の事、たぶん苦手です。でも悪い人じゃないことはわかってますよ」
ドバルが僕の行ったことを聞いて顔をしかめた。
「苦手ってどこがだよ?」
「強気な所が僕と合わないって言うか…」
そう言うとエリウスさんが口元を押さえて笑った。
「確かにね。でも子供にはすごく優しいし、なんだかんだ言って困ってる人を見たら放っておけないタイプだよ」
優しいメリッサさんとかあんまり想像できないなぁと考えていたら、ふと夕方の出来事を思い出した。
あれも優しさ、だよね。
「そういえばラズが怒った時は正直言って焦ったわー」
ドバルが苦笑いしながらエリウスさんに言った。
僕もあの時のラズさんはウジ虫たちと戦っている時とは違った怖さを持っていてどうしたらいいか悩んでいた。
でもエリウスさんは僕たちを見て落ち着いた表情で話を始めた。
「ラズは不器用な所があってね、あれはちょっと怖く見えたかもしれないけどラズなりに心配してたんだよ」
「心配ですか?」
「そうだよ。たぶんメリッサがこっそりついて来てたことを知って、もしもメリッサに危険があったりした時に助けられなかっただろう!って思って強く言ったんじゃない?」
いつもラズさんにくっついているメリッサさん。
彼はメリッサさんにそうされるのはあまり好きじゃないみたいだけどやっぱり騎士団の部下…というか仲間だろうし心配していたんだな。
僕が横を見るとドバルが腑に落ちない顔をしていた。
「でもいつもメリッサにラズはベタベタされて困ってる風だったぞ?」
それに対してエリウスさんは笑顔で言った。
「ほら、ドバルが一人でウジ虫を倒しに行ったとするでしょ?それをジェリオスが見つけてドバルのあとをこっそり付いて行きました。ドバルがウジ虫を倒したあとにジェリーが付いて来てたのを知ったらどうする?」
ドバルは少しの間考えてから僕を見つめてきた。
「な、なんですか?」
僕が聞くとドバルは真顔で言った。
「ジェリオス、そういうことをしたらお兄ちゃん悲しい!」
「…」
僕は呆れてドバルから目をそらし、エリウスさんを見た。
彼女は苦笑いしながらドバルの1肩に手を置いた。
「心配するでしょ?それと一緒だよ」
「え?でも俺はジェリオスと一緒にいて困ったとか思ったことないんだけど…」
「あー、そっかぁ。う~ん、何て言えばいいのかなぁ?」
今度はエリウスさんが僕を見て助けを求めてきた。
「ドバルの馬鹿、阿呆、馬鹿、間抜、馬鹿、ほんと馬鹿、ただの馬鹿」
そう言う僕の口をドバルは物凄い勢いでふさいだ。
は、鼻までふさがってて息が…!
ドバルの手を除けようとしても力が圧倒的に僕よりも強くてはなれない。
こいつ…僕を殺す気かっ!
「ド、ドバルっ!ジェリー死んじゃうよ」
エリウスさんが見かねて止めに入った。
「あ!」
ドバルは我に返ったように僕から手を離した。
「…っ!!」
僕が息をしながらドバルを見ると困った顔をしていた。
「ご、ごめん。鼻…ふさぐつもりはなかったんだよ」
「僕も言いすぎました、すみません。でも僕がいつもこうしてドバルを馬鹿にしているのにドバルはいつでも助けに来てくれますよね?それと同じです…ドバルと僕、ラズさんとメリッサさんの関係は」
ちょっとやりすぎちゃったなと反省しながらもドバルがわかった顔をしていたのでまぁ、良かったかなと思った。
「ジェリオス、大丈夫?」
エリウスさんが心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「はい、大丈夫です」
「悪ぃ…でも一応言っとくけど俺は馬鹿じゃない!ってか馬鹿馬鹿言いすぎだっての!!」
「今更何を言っているんですか?馬鹿ですか?」
「…もう一回息止めてやろうか?」
「遠慮しときます」
僕とドバルがいつもの会話をしているとエリウスさんがほっとしたように微笑んだ。
「それじゃ、そろそろ戻るね」
気付くともう部屋の前まで来ていた。
「おう、サンキューな!」
「ううん、こちらこそ助かったよ。おやすみ二人とも」
「おやすみなさい」
エリウスさんは僕たちに手を振って暗い廊下を一人で戻って行った。
「エリウスも大変だよな~」
ドバルが僕の横で突然つぶやいた。
「ドバルの相手をして、本当に大変だと思います」
「それ、どういう意味だよ!…じゃなくてラズとメリッサの事」
「お二人の事?」
「エリー、あの二人を二人っきりにして話し合える時間を作ってやったんじゃないの?」
…考えもしなかった。
ドバルに言われて確かに彼女ならやりそうと思った。
そもそもわざわざ付いてくる必要だってなかったんだよね。
「…そうかもしれませんね」
「エリーって凄くいい奴だよな」
「そうですね。いつも助けてもらってばかりで…」
「ならエリーが困ってる時に俺らが助ければいいんだよ」
僕は隣にいるドバルを見て頷いた。
「もちろんです。僕にもできることがあれば力になりたいですから…」
「ジェリーは俺より力になってると思うけど?」
「それはないですね。ドバルは皆を明るくできるし、強くて仲間思いで、料理も上手くて…僕よりたくさんいいところあるじゃないですか」
「何言ってんだよ。馬鹿になったか?」
ドバルは僕の顔を見て笑った。
「俺を褒めたってなにもいいことないぞ」
「…寝ます、おやすみ」
「え、ちょ!待って!!」
せっかく人が真面目にいいところを言ってあげたのに…。
僕は少し膨れながら部屋に入った。
でも何か気になってせっかく閉めた扉を少し開けて隙間から廊下を覗いた。
「へへ、おやすみ。寝れなかったら来いよ?」
ドバルもこちらを覗いていて、笑ってそう言うと彼は隙間から消えた。
部屋に戻って行ったんだろう。
「馬鹿はさっさと寝ちゃえ」
僕は部屋の電気をつけてベッドに横になった。
部屋がとても静かに聞こえる。
最近一人で寝ることないもんね…。
全然寂しくないと思っていたけど、やっぱり寂しい。
隣の部屋のドバルとは壁一枚しか挟んでいないのに…。
「はぁ、なんで僕はドバルに頼ってばかりなんだ。いざという時は僕がドバルを守らなきゃならないのに…馬鹿なのはどっちだよ」
目の上に右手を乗せため息をつく。
暗闇の中で見えた映像は幼い頃の記憶。
ドバルは…覚えてるかな?
僕は起き上がって深呼吸をしてから電気を消した。




