異能
「…たぶんそれは前国王の時のことかな?」
国王にウジ虫の名前を出し、僕たちが彼らとの関係について知っていることを尋ねると王は長いひげの生えたあごに手を当てて言った。
「前国王?」
「さっきも言ったが私が王になったのは本当に最近のことなんだよ」
「なら、前の王様はどうしちゃったんですか?」
「それが突然行方不明になっってしまって…今も捜索中なのだよ」
行方不明、か。
もしもグズル前国王がウジ虫のを断ったということが真実だったとするとウジ虫が拒まれたことで前国王をさらった、ということもあり得る。
「あなた様はuniversal starとの関係をどうお考えで?」
僕が聞くと国王はしばらく考えて口を開いた。
「私個人としては賛成だ。近年また新しい病気が多発していてね。それの原因が国内に多数生えている樹木だとわかったのだよ」
「なら、それを切っちゃえばいいんじゃねぇの?」
僕はそう言ったドバルの頭をたたいた。
「馬鹿、国の王様に対して何ていう口を…」
「いいんだよ、気にしないさ。エリウスちゃんも普通に話していいからね?」
「ありがとう、王様」
や、優しい人でよかったよ…。
「話を戻すけど木を切ればいいと君は言ったね」
「だってその気が原因なんだろ?無くしちゃえばいいじゃん」
ドバルはいつものように言った。
でも僕はそんな簡単なことじゃないと思った。
「それで原因が絶たれるならもうとっくにやってると思います」
「その通り…むしろそれ以前の話」
「どういうことなんだ?」
「その木は毒を持っていてね。今まではここまで大きな問題にならなかったから放っておいたんだが最近になってそれが空中に散布され始めた…だから切ろうと思っても切れないし近づけない」
ダイチさんがそこまで聞いて腕を組んだ。
「なるほどね、だから魔道機を使って何とかしようってことだね。病気の治療だって可能だろうしな」
「んじゃぁさ、ウジ虫に頼まないでマーリアから取り寄せたりできないの?」
「ここ数年グズル国とマーリア国は冷戦状況です。不可能でしょう」
「それにマーリアの中心都市と呼べる街の復興中だしね…」
ドバルは頭をぐしゃぐしゃにしてため息をついた。
「なんでこうも上手くいかないのかなぁ…」
国王も困った顔をして頷いた。
「私個人としてはマーリア国とも上手くやって行きたいのだよ?でも今まで積み重なってきたものがあまりにも重くなってしまっていたんだ」
「王様…」
僕は出されていたお茶を飲み干し、席を立った。
「国王、その木の場所を教えてください」
「何をするんだい?病気になってしまうぞ」
「近くまででいいんです。木から毒が散布されるようになったのはここ何年か前からですよね?ならそこに原因があるんだと思います」
ダイチさんが立った。
「そうは言うけど手はあるの?」
「火がないところに煙は立たない…何か掴めれば自然と糸口が見えると思うんです」
「…王様、もし私たちがその問題をしたら一時的でもいいからウジ…じゃなくてuniversal starの協力を受けないって約束してくれる?」
エリウスさんの問いに彼はしばらく黙った。
その心情は僕にだって理解できる。
たとえ今の毒問題が解決したとしても次に何か病気がはやった時には魔道機に頼らなくてはならないかもしれない。
「わかった。今は目の前の問題が先だ。もちろん私も何かできることがあれば協力させてもらうよ」
「僕たちも最善を尽くします」
次の日僕たちは国が管理している近くの立ち入り禁止区域に来た。
この柵を越えてしばらくすれば例の樹木が生い茂る森林に着く。
「こんな所が何か所もあるんでしょ?」
「そうです」
「あ、いいこと思いついた!切ってダメなら燃やしちゃえ」
ドバルがその提案に笑顔になった。
「ナイスアイデア!!さすがエリー!!」
二人はハイタッチを交わした。
「盛り上がってるところ悪いんですがそれは難しいと思いますよ」
二人は一斉に僕を見た。
「理由ですが、燃やすこと自体はいい案だと思うんです。でも問題の木以外の木も巻き込んでしまうのは大自然を大事にしているグズルは許せないでしょう。それに空気が乾燥しています。この柵より頑丈で耐熱できる柵を用意して囲い、燃やしたとしても外に燃え移らないとは限りません」
それを聞いたエリウスさんはとてもがっかりしたようだった。
「メリッサがいればなぁ…」
僕は意外な人物の名前が出て驚いた。
メリッサさん?
驚いている僕を見てエリウスさんは微笑んだ。
「あ、メリッサは結界魔法が得意なの。ああ見えて」
「結界魔法、ですか」
「騎士団の防衛班は3つあるんだけど、それの2班の副隊長やってるんだよ」
「隊長じゃねぇの?」
「うん。隊長になれって言われたけど断ったんだって」
「何で?」
「それが、面倒だからっていう理由。メリッサらしいでしょ?あの人は本当に結界張るのすごいんだよ。性能もスピードも…だから木の周りだけに結界張ってもらってその中で燃やしちゃえばいいのになぁって」
ドバルも驚いた声を出した。
「すごい奴だったんだな、あいつ」
「人は見かけによらないよ~?今度戦い見てみればいいよ、すごいから。結界で人を守ることもできるし、自分の周りに張って前線に出たり…なんでもするよ」
そういえば一回も彼女の戦う姿を見ていないな。
聞く限りすごく万能キャラだと思うんだけど…。
するとエリウスさんは突然あたりをキョロキョロと見回して僕に尋ねた。
「あれ、ダイチは?」
ドバルも気づいていたようで僕を見る。
「ダイチさんには残ってもらって調べ物をお願いしてきました」
「そっか、ダイチ頭いいもんね♪」
「勉強できそうな顔してるよな」
「あぁ、わかる!前日とかテスト前に勉強してるわけないじゃ~ん、とか言いながら100点とか取るタイプ!!」
「あぁ、それそれ!!」
ドバルとエリウスさんは盛り上がっているが、僕にはさっぱりわからない。
テスト前勉強してないのに100点取るはわかる、でもそんな顔ってどんな顔なんだ?
「さ、そろそろ行こうか!」
「あ、ちょ、ちょっと…」
ドバルが悩む僕の手をぐいぐいを引っ張った。
柵の中に入ってしばらく歩いた。
周りの空気がだんだん重くなっている気がする。
「風が止んだ…」
ドバルも空気が変わったのを感じたようであたりを見回す。
毒、というわけではないようだしまだ先に進めそうだ。
「何か原因はもとからあった木の毒以外にありそうだね」
「気をつけていきましょう」
僕はもらった地図を見ながら先を歩いた。
聞いてはいたけど柵の中は毒に耐性のついた強いモンスターがいた。
3人で倒せないほどではなかったが、見た目も突然変異しておりよろしくないことになっていたので精神的ダメージが強かった。
エリウスさんはゾンビみたいとひょうしていたけど僕にはゾンビがわからなかったのでとりあえずグロテスクなモンスターということで覚えた。
「…エリー?」
途中でドバルが隣にいた彼女に声をかけた。
エリウスさんを見ると森の奥をじっと見つめていた。
「どうした?」
「ねぇ、ドバル、なんか聞こえない?」
「…。なんも聞こえないけど」
ドバルは僕を見たが、僕にも何も聞こえない。
「ちょっと私行ってくる!!」
「待てよ!」
エリウスさんは独りで走って奥に進んでしまった。
「ドバル!」
「わーってる!追いかけるぞ」
足が遅い僕を置いてドバルも走って行く。
「あ、ドバル!」
「なんだよっ!?」
「あまり行き過ぎると毒に侵されてしまいますよ」
「じゃぁどうすんだよ!エリー危ねぇじゃん」
「だから、これを…」
僕は頑張って走って追いつくとドバルの手をつかんだ。
「…毒耐性上がる魔法をかけました。気休め程度ですけどね」
「ありがとう、ジェリオス!」
ドバルは僕の顔を見て少し笑うと走って行った。
僕も急いで行こう!
奥に行くにつれてモンスターも出てこなくなってきた。
要するに毒が強いってこと。
先に言ったエリウスさんが心配だ。
ドバルのことも心配だけど、魔法をかけたから少しは安心できる。
早く二人に合流しなくちゃ…すっかり見失ってしまった。
「ジェリオス!!」
横から僕を呼ぶ声が聞こえ、振り向くとそこにドバルとエリウスさんが大きな木の前に立っていた。
その木の周りは物凄く空気が重くて、表現するなら紫の靄みたいなのが漂っている感じだろうか。
それが毒なのかさっきから感じている嫌な感じなのか…。
どちらにせよあまりいいものじゃないのは確かだ。
僕は肩で息をしながら走って二人の所に言った。
「ドバル、大丈夫ですか?」
「お、俺は大丈夫なんだけどエリーが…」
エリウスさんの方を見ると彼女は両手を胸元に当てて立っていた。
そして周りに渦巻く靄が全て彼女の中に入って行く。
僕たちがこうしていられるのも彼女の方に流れているのかもしれない。
「どういうことなんですか!?」
「俺が聞きたいよ!何話しかけても返事しないし…どうなってんだよ」
僕にもさっぱり状況がつかめなくてただエリウスさんを見ていることしかできなかった。
靄はエリウスさんの中に吸い込まれるように勢いよく消えていく。
ドバルもそれをただじっと見ている。
しばらくすると全て入りきり、ふわっとエリウスさんの髪が揺れた。
「…エリウス?」
ドバルが恐る恐る話しかけると彼女は顔をあげて小さく笑った。
「私、わかったよ」
そういうとエリウスさんは力なくその場に座り込んだ。
すぐにドバルが支えるように肩に手を置く。
「大丈夫か?」
「うん、ちょっと疲れただけ…ごめんね」
「謝んなよ、立てるか?」
僕も手を貸すがふらふらで立てそうもない。
「とりあえず戻るぞ。ジェリー手伝って」
「はい」
ドバルの背中にエリウスさんを乗せて僕たちは出口を目指して歩いた。
あれだけ適当に走ったから帰り道がわからないんじゃないかと心配したが、その問題は思ったより簡単に解決した。
エリウスさんがいた場所は一番毒を出している木の近くだとわかった。
途中、モンスターがこちらの事情にかかわらず襲ってくる。
ドバルは戦えないので僕一人だったが、光と炎の魔法に弱いことがわかったので簡単に倒すことができた。
その間もドバルの背中ではエリウスさんが調子悪そうにしていた。
村に帰り、僕は宿屋に向かった。
エリウスさんを寝かせ、ドバルにはダイチさんを呼んでくるよう頼んだ。
「ごめんね、ジェリー」
「何で謝るんですか…」
エリウスさんは風邪をひいたときのように体が熱くなっていた。
意識も朦朧としていた。
「わかったって、言ったでしょ?」
それなのに彼女は何かを必死に僕に伝えようとしていた。
「治ってからでいいです。今はゆっくり休んでください」
「ううん、今じゃなきゃ…駄目なの。聞いて?」
エリウスさんは僕の返事を待たずに続けた。
「あそこに行った時、わかったことがあるの。木が好きで毒を出してるわけじゃない…本当は、毒を出す悪い木なんかじゃ…ないの」
「どういうことですか?」
「誰かが魔法で毒を強くして、それで抑えきれなくなって…だから外に出ちゃったの。このままじゃ木も、死んじゃ…う」
いったい誰が何を目的で…?
考えているとエリウスさんは笑った。
「そんなに悩まないで…?きっとさっきみたいに木に聞いていけばわかるよ」
「聞くって…」
「木の声が聞こえてきて、いろいろ教えてくれた。でも辛そうだった…だから私が、少しだけもらったの」
「もらったって毒、ですか?」
僕の質問に彼女は頷いた。
「ごめんね、迷惑かけちゃって」
「いえ、辛いのにありがとうございます。ゆっくり休んでください」
僕がエリウスさんに優しくタオルをかけると彼女はようやく目を閉じて寝た。
頭の中でエリウスさんの言っていたことをもとに考えを巡らせていると扉があいて、ドバルとダイチさんが入ってきた。
「エリウスは!?」
今にも泣きそうなくらいの顔でダイチさんはエリウスさんの顔をのぞいた。
「今は寝ています…」
顔を見て少し安心したようでダイチさんは近くにあった椅子に座った。
ドバルも壁にもたれた。
「エリウスさんが言っていたんですが、この毒、もともと木にあったものなんですがそれを誰かが魔法で増幅させたようです。それのせいで木が自らの毒を制御しきれなくなって外に散布してしまっている、と」
「エリーが?」
ドバルが不思議そうな顔で言った。
「それと木がいろいろ教えてくれて、そして辛そうだったと。だから毒を少し分けてもらったそうです。…彼女、人間ですよね?」
僕がそう言うとダイチさんが何か思い出して話を始めた。
「エリウスは昔っからそういう不思議な所あったんだ…。俺の病室は高い所にあっただろ?今は魔法で空飛んでこれるけど小さい頃はあの垂直の壁を登ってきてたんだ」
「まじで?」
「まじで。しかも道路で出会った猫がこんなこといってたよ~、とか鳥は海を泳いでみたいんだって~とか行ってた。…たまに声が聞こえるんだって、動物とかの」
「本物の天使じゃないよな?」
「それはないと思うよ。エリウスのお母さんだって普通の人間だったし、上の兄弟も確か普通の姿だったよ?」
エリウスさんについての謎も深まって行くばかりだ…。
でもそこはいくら考えても答えは出ない、後回しだ。
「…それにしても誰がそんなことをしたんでしょう」
「あ、そうだ。頼まれてた資料、集めといたよ」
「ありがとうございます。仕事が早いですね」
「文字を読むのは得意なんだ」
そう言って10枚ほどの紙を僕に渡した。
ドバルがそれを興味心身に覗き込んだ。
「文字ばっか…頭痛くなるな」
「それはドバルが馬鹿だからですよ」
「馬鹿じゃねぇって…で、それ何?」
僕はぴらぴらとそれをめくりながら答えた。
「前国王についてです。どんなことをした人だったのか、とかどんな性格だったのかなど…」
それを見てドバルは感嘆の声をあげた。
「ダイチすげぇな!」
「資料探して人に聞いて回るだけだし、簡単だよ」
病院でたくさんの人と仲良くしていた能力は流石だった。
これはダイチさんじゃなきゃできなかったと思う。
「すごいですよ、助かります」
「二人で褒めるなよ!本当に簡単だからっ!」
顔を少し赤くしてダイチさんは僕たちから目をそらした。
「でもどうして前国王を?」
「もしかしたら失踪と関係あるんじゃないかと思って。あと今、考えていることはウジ虫が絡んでいるんじゃないかってことですね」
ドバルは真剣な顔でウジ虫、と呟いた。
「前国王をさらったってこと?もしそうならメリットは?」
「国王の発言や、この資料によれば前国王はウジ虫を拒んでいました。彼をさらって行方不明にすれば次の王は奴らにとって協力的な方になるかもしれない…むしろ現国王になると知っていたんではないでしょうか?」
ドバルが唸りながら首を振った。
「でもさ、そんなことウジ虫がするか?俺が今まで見たウジ虫だったらもっと粘って悪い手を使ってでも前国王に言って言わせると思うんだけど…」
たしかに一理ある。
ダイチさんはエリウスさんのおでこに冷やした手拭いを乗せると体をこちらに向けて座りなおしてドバルに言った。
「前国王は結構頑固で、機嫌損ねたらやばかったみたい。だからあんまり協力してくださいって言えなかったんじゃない?それと悪い手使ってもって言ったけどそれしたら本性ばれちゃうからできないんじゃないかな」
「でも王さらったとしたらそれだけで本性丸出しじゃん」
「…そもそもウジ虫が関係ないって言うこともあり得そうですね」
僕が改めて考えると二人は頷いた。
「明日、もう一度国王の所に行きましょう。ダイチさんは引き続き調査をお願いします」
「オッケー」
「それと現国王についても調べてもらえますか?」
「え、いいけど…」
「お願いします」
エリウスさんの様態も気になる。
なるべく早く解決策を考えなくては…。
なんだか嫌な予感がする。
その日の夜。
僕は国王から頂いたランプに火を灯した。
その明かりはダイチさんが集めてくれた資料を照らすには十分な明かりだった。
資料には先ほど目を通したのだが、見落としがあるかもしれない。
僕の後ろではドバルがおなかを出して床で寝てるし、ダイチさんはエリウスさんにずっと付きっきりで起きていたのだが流石に寝てしまったようなので先ほどタオルをかけてきたばかりだった。
「…何か引っかかるんだよなぁ」
いくら考えてもその引っかかりが取れない。
僕は何か大事なことを忘れているような気がする。
「ジェリオス」
いきなり名前を呼ばれて僕は振り返った。
でもそこには誰もいなくて寝ているドバルが寝返りを打っただけだった。
「ジェリオス…」
その声がドバルからでていることに気付き、僕は彼の横にしゃがんだ。
寝言か…驚いた僕が馬鹿みたいじゃないか。
「んん~っ」
出ているおなかをつつくとドバルは顔をしかめた。
…なんだろう、ちょっと楽しい!
僕はそのあともつついて遊んだ。
これから夜寝れないときはこれしてやろう。
「あ~」
でもさすがにおなか冷やして風邪引いてもらいたくないので、ほどほどにする。
僕は彼にタオルをかけて元の場所に戻った。
…そういえばずっと前にこうやっておなかをつついて遊んだことがあったな。
「いつ…?」
記憶はあるのにそれがどこで誰のをしたのか思い出せない。
施設の中、かな?
でもそこまで親しい人はいなかったし…。
なんだか思い出せないことが多すぎる。
嫌なことはたくさん覚えているのに。
…ドバルはお母さんとお父さんの事、覚えてるのかな?
翌日、僕は一人国王と対談していた。
エリウスさんが病に冒されたことだけを報告した。
「…なるほどね、それでエリウスちゃんが」
「今はドバルとダイチさんが見ていてくれています」
本当はドバルだけで、ダイチさんは昨日の続きをしてくれているのだがそこも伝えなかった。
「国王、一つお聞きしてもよいですか?」
「ああ、かまわないよ」
僕はずっと気になっていたことを尋ねた。
「どこかで会ったこと、ありますよね?」
ずっと引っかかっていたもやもや、きっとそれはこれだ。
昨日危険区域侵入許可書を受け取りに行ったときから気になっていた。
カラフルなフェイスペイント(グズルでは顔に模様を描くのが主流らしい)で顔が見えにくいが、見たことある気がしていた。
「そうかい?私は初めてだと思うんだが…すまないね」
「いえ、気のせいかもしれないので」
国王にそう答えられてやっぱり人違いだったのかも、と思った。
会ったことあるならエリウスさんのように気づくはずだし…。
「そういえば、君の名前は何といったかな?」
国王が黙る僕に笑顔で聞いた。
そういえばなんだかんだで自己紹介してなかった。
「僕はジェリオスです」
「良い名だね。エリウスちゃんとはどこで?」
「彼女とは旅の途中で会いました。それからずっと一緒に旅を助けてくれているんです」
「そうなのか。彼女は美人になった」
国王は思い出すように言った。
「国王がエリウスさんに会ったのはいつのことなんですか?」
「今から8年前くらいのことだよ。私はそのころマーリアに住んでいてね、買い物に行ったときにお店の前で泣きそうな顔をしながら立っていた子供が彼女だった。私が声をかけると迷子になったって言うから一緒に両親を探したんだ。しばらく歩くと彼女の兄弟とあってね…。あの時は強い子供だと思ったよ、迷子になっても泣かないいい子だ」
先ほどエリウスさんの事を伝えると彼は本当に心配そうな顔をしていたし。
僕は国王がひげをなでるのを見ていた。
宿に戻るとドバルが何かメモを書いていた。
「あ、おかえり」
「ただいま。何も変わりありませんでしたか?」
「おう!」
ドバルはそう返事すると、再びペンを持った。
僕はそんなドバルの横に座り、中を見た。
どうやら今まで書いていたものをまとめているようだった。
「珍しいですね」
「失礼だなぁ…わかりにくいと分かるものもわからなくなるだろ?」
「…意外と几帳面だったんですね」
「あ、でも部屋は汚いぞ。あと勉強もできない」
「自分で言います?それ」
彼は笑った。
「自覚してっから!そういればジェリーの書いた文字ってみたことない」
紙とペンを僕に差し出した。
「な、なんですか?」
「何か好きな言葉書いてよ」
僕は固まってしまった。
よりよって文字を書け、と?
「嫌です、無理です」
首を全力で振って否定するとドバルは無理やり僕の手にそれらを乗せた。
「はい、触ったから書くの決定~」
「…そういうのずるいです」
「ずるくないし~。大人しく書かないからだぞ!」
僕はペンを握った。
…こ、これでいいんだよね?
正直言うとペンの持ち方とかよくわからない。
僕は本を読んで頭の中で記憶していたから文章にしてまとめたことがない。
ペンの持ち方は周りにいた人のを見てまねしただけ。
隣ではドバルが見ている。
「好きな…言葉?」
言葉を好きと思ったことだってないのに難しいことを言うな。
「…」
僕はそれでも思いついた言葉を紙に書いた。
文字は頭の中にあるから書くことができる、ただ…
「…それ何語?」
僕は紙に『ドバル』と書いた。
つもりだった。
でもバランスがうまくとれなくて読みにくい、書いた自分で言うもんじゃないけどなんて書いてるか読めない。
「も、もう一回俺のわかる言葉で書いて!」
僕は今度『馬鹿』とかいた。
「…読めねぇ!!ジェリー、真面目に書けよ!」
「真面目に書いてますよ!!」
僕はさっき書いた馬鹿という言葉の上にドバルと書いた。
そしてそれを見せつけるように持った。
「馬鹿、とかいてドバルと読むんです!!」
「誰が馬鹿じゃ!」
ドバルはそう言いながら真面目な顔で僕の書いた文字を見た。
「もしかしてさ、ジェリー文字書けないの?」
「…それがなんですか」
僕はそっぽを向いて言った。
「なぁんだ、そうならそうって言えばいいじゃん!俺が教えてやるからさ」
「は?」
「いいからいいから!俺、こう見えて村で子供に文字の書き方教えてたんだぞ!」
「ぜったい間違ったこと教えられるからいやです」
「大丈夫だって~、ほらほら」
そういって僕の後ろから手をまわして両手をつかむと文字の書き方について話を始めた。
夕方になって扉があいた。
「うおっ、何してんだよ!」
「おー、ダイチおかえり。今、ジェリオスに文字の書き方を教えてたんだ」
ダイチさんは苦笑いしてエリウスさんの近くに座った。
「お前らがそういう関係だったと知らなかったよ…」
「な、なんか勘違いしてません?」
「してないさ。いや~仲いい兄弟だこと」
彼は楽しんでるようだった。
「集めた資料ここに置いとくな」
「ありがとうございます…ってかドバル鬱陶しい!そろそろいいでしょ!」
「駄目だ!まだ『ひ』から書いてないんだから」
「ドバル塾だな。一人ひとり個別対応します」
「ダイチさん、ふざけてないで助けてください」
今日は『ん』まで書けるようにならなきゃ離してくれないだろうな…はぁ。
次の日もエリウスさんの熱は下がらなかった。
でも彼女は目を開けた。
「私は大丈夫だから、連れて行って!」
「駄目に決まってんだろ!まだ熱だってあるし、具合悪そう」
エリウスさんはまた木の所に連れて行ってほしいと言った。
この前行った所とは別の場所に。
この村の近くでも柵で囲まれば場所は7か所くらいある。
「ダイチの意地悪!」
「なっ…!」
「連れて行ってくれなきゃもう口きかない」
ダイチさんはかなり焦った様子で僕たちの方を見た。
目が泣きそう…。
「僕としてもエリウスさんには無理してほしくないんですが」
僕が近くに行き言うと熱のせいもあって目がうるうるしているエリウスさんがダイチさんと僕の顔を交互に見た。
「自分の体の事は私が一番わかってる。大丈夫って言ってるから、連れて行って…!もしかしたら誰がやっているのかわかる、かもしれない」
「大丈夫そうに見えません。だから駄目です」
「俺らが心配してるって気持ちもわかってよ」
ダイチさんが困った顔をする。
するとエリウスさんは分かった、と頷いた。
「ドバル!私を連れて行って…!」
僕たちがドバルを見ると、彼は笑顔で頷いた。
「いいぞ!俺が連れてく!」
「馬鹿ですかっ!?」
「馬鹿じゃねぇよ。だってこのまま放っておいたらエリウス一人で行っちゃいそうなんだもん。なら俺らがいる方が安心だろ」
ドバルがエリウスさんのベットに腰かけるとエリウスさんは体を起して座った。
「ありがとう、ドバル!」
「…無理だけするなよ」
ダイチさんがまだ不安そうな声で言った。
そるとエリウスさんはダイチさんの手を握った。
「ありがと。さっきのは冗談だから、いっぱい話してくれる?」
「冗談ってことくらいわかってるよ。エリウスは嘘つきだからな」
「嘘つきじゃないよ~」
ダイチさんはエリウスさんの頭に手を乗せて顔をしかめた。
「まだ熱あるんだから大人しくしてろよ」
「うん、わかった」
前は保護者見たいと思ったけど、この光景は仲のいい兄妹のようだった。
…行くとすれば近いところでなおかつあまり毒のないところがいいだろうな。
彼女のことだからまたやるに違いない。
少しは自分の体のこともいたわってほしいんだけどな…。
「よし、それじゃぁ行こう!」
「俺はもう少し調べてみるから…その、エリウスを頼むな」
「わかりました」
「任せとけ!」
「頑張るよ~」
「エリウスは無理しないの!」
「…はぁい」
エリウスさんはダイチさんに言われて少ししょぼんとした様子だったがそれが彼の思いやりだとわかっているので笑顔で答えた。
禁止区域の中では迷うことはなかった。
もうどこに行くべきか僕らは知っているから。
「…」
「何か聞こえるか?」
ドバルにおんぶをしてもらってここまで来たエリウスさんは大きな木の前につくと、自らおりて地に足をつけた。
「…あのね、この国じゃない人がやってるって言ってる」
この国じゃない人ということはマーリアかセリアファクトの人間ということか。
「他に何か言ってませんか?」
「う~ん…魔道機を持ち込んでほしくないって」
木はウジ虫の事を知ってるのか?
まぁ、木や草にも魂があるっていう話は本で読んだことあるし、それが大自然を維持し続けているグズルならなおさらそういう霊的な力があるのかもしれない。
「ねぇ、そろそろいいかな?…辛そうなの」
「エリウスは大丈夫なのか?」
「うん、慣れてきたから大丈夫。帰りも歩けないと思うけど…ごめんね」
ドバルが少し暗い顔をしたけど頷いて一歩下がった。
「エリウスさん」
「…何?」
「あなたは本当に人間ですよね?」
エリウスさんは首だけこちらに向けた。
「人間だよ。ドバルやダイチやジェリオスと一緒」
そしてまた前を向くと両手を合わせて下を向いた。
するとたちまち周りの嫌な空気が彼女の中に取り込まれていく。
落ち着いてみるとほのかにエリウスさんの体が光っている。
これも天使魔法とやらの一種なのだろうか。
「なぁ、ジェリオス…さっきから誰かにつけられてる感じがするんだけど」
ドバルは僕の隣に来て耳元で囁いた。
僕は全く気付かなかったから五感を鋭くして周りを探った。
確かに僕たち3人のほかに誰かいる。
「どうする、探してみるか?」
「いえ、広い柵の中では探すのも大変だと思うから放っておきましょう…用があれば向こうからでてくると思うし」
「おっけー。あ、そういえばさ思ったんだけど俺らこんなに毒の近くにいるのに大丈夫だよな。ジェリーに魔法かけてもらってるとは言ってもさ、少しくらいなってもいいはずなのにな」
たしかに言われればそうかも…。
もし魔法で緩和できるならグズルの人でもこの魔法を覚えれば対処できるんじゃないか?
ダイチさんに聞いたところだとこの木による病は思ったよりもたくさんかかっている人がいてほとんどが2日3日でなくなってしまうという。
でもエリウスさんはこうして生きている。
「となるとこの毒は人間全員がなるわけじゃない、ということか」
「?」
「あ、すみません。後で説明します」
ドバルがわからないという顔をしているとエリウスさんの髪が揺れた。
どうやら終わったようだ。
彼女はそのまま倒れた。
体調すぐれないのにさらに悪化させるから…。
ドバルが背負って僕の隣に来る。
「…大丈夫なんだよな?」
「彼女を信じましょう」
僕は補助魔法はそこそこできるのに回復魔法はあまり使えない。
使えたら今の彼女を少しは楽にできたかもしれないのに…。
「気をつけて帰りましょう」
僕は先を歩いて進んだ。




