分担
僕は目を閉じた。
「お昼に話したこと、それが全てです」
「嘘~。私にはわかってるのよ」
「ならわざわざ聞かなくてもいいと思います」
僕がゆっくりと目を開けると彼女と目があった。
「…そういう男はモテないわよ?」
「モテたくもないです」
ため息をつきながらもひたすらに僕の顔を覗き込んでくる。
何か見えるのだろうか…。
「私はラズ様があんたについて行く理由が知りたいのよ。ウジ虫駆除以外にもあるんじゃないかって思うから、どう?何かある?金?」
「お金はありませんけど、困る質問ですね…。本人に聞いたらどうですか?」
「それじゃぁ、あんたを疑ってますってラズ様に言ってるようなもんじゃない」
「現に僕に言ってると思いますよ」
彼女はにこっと笑った。
「ラズ様じゃないからいいの~」
「もし僕が今夜の事をラズさんに言ったら?」
「そうね…私ならしらばっくれるかしら?」
「でしょうね、何となくそう思ってました。…どうしたらいいんだろう」
僕が目をそらして悩むとメリッサさんは首をかしげた。
「私の事を信頼してよ。そうすれば私もジェリオスのこと信頼してあげるから」
「…なぜに上から目線」
「え、こういう人間関係苦手そうだから教えてあげたの」
「あ、あぁ…ありがとうございま、す?」
「ってことで信用してよね」
メリッサさんはやっと僕から目を離すと宿の方へ歩き出した。
「早く寝なさいよ、天才君」
…なんだか上手くはぐらかされた様な気がする。
まぁ、彼女とラズさんを同じチームにする考えはよかったのかもしれないな。
もしもメリッサさんがウジ虫に絡んでいた時のために…。
「信頼、か」
僕にはすぐに他人を信じることなんてできないんだな…ラズさんたちの友達だというのに、信じられないなんて。
いや、信じるとか以前にどう彼女に接するべきかがわからない。
あそこまでまじまじ見られたのも施設での身体検査以来だし、鋭いところを突いてくるし、見た目に反して頭の回転も速いようだし…。
それに…コロコロと雰囲気が変わるのも謎だ。
もしかして本当の二重人格だったりするのかなぁ?
「あ~、もう考えるのやめよう!頭がごっちゃになってきた」
僕はできるだけ何も考えないようにして宿に戻った。
「寝不足?」
朝起きてチームについて話すとき、エリウスさんが部屋に入るなり僕の前に立って言った。
隣ではメリッサさんがラズさんにくっつきながら笑っていた。
「そんなにチーム一生懸命考えなくてもよかったのよ?」
結局あの後もグズルのこととか、ウジ虫のこととか、ダイチさんの治療法とか、メリッサさんのこととか…考えることが当たり前になっていて駄目だな。
「大変なことをいつもさせてすみません」
「ライルさんが謝ることじゃないですよ。大丈夫です」
僕はとりあえずダイチさんが淹れてくれたお茶を飲み、チームの事について話した。
結局悩んだけど、昨日の考えのままにすることにした。
チーム1,2ともに言い終わり皆はそれぞれに反応した。
まぁ、一番喜んだのは言うまでもない。
「ラズ様ぁ、運命の赤い糸でつながってるのね、私たち」
「…俺らはセリアファクトで何をすればいいんだ?」
ラズさんは真剣な顔のままメリッサさんをスルーし、僕を見た。
「いやん、照れなくてもいいのよ?」
「ラズさんたちはまず、国王にお会いしたら任務完了の報告をしてください。たぶん心配してると思うので」
「どうだろね~、もう忘れてるんじゃない?」
エリウスさんが笑う。
国王ってそんな扱いでいいの?なんて言いませんよ、今さら。
「と、とにかくエリウスさんもいることを伝えてください。そしてウジ虫の話や、僕たちが今何をしているのか、できれば協力してもらえるようにお願いしてもらえたらと思います」
ラズさんは数秒悩んだ素振りを見せたが頷いた。
「わかった。たぶん協力はしてもらえると思う」
「僕たちもグズル国王と話をしたら遅れてそちらに向かいますので。そしたら僕から具体的なことを説明します」
「今言えないの?言ってくれれば私たちが伝えとくけど」
メリッサさんがラズさんに猫のようにべたべたしながら僕に言った。
「すみません、そこまでは考えれなくて…。とりあえずウジ虫とは協力しないようにって言っておいてもらえればいいです。そちらに行くまでに考えときますので」
「は~い」
ということでチームは決まり、それぞれにすることも決まった。
「準備できしだい出発しよう」
チーム1。
三人と別れて僕たちは国王がいるという所を目指した。
「なんか新鮮だね!」
エリウスさんとドバルは仲良くスキップしながら歩いてる。
「仲いいな、あいつら」
「そうですね」
ダイチさんがその様子を苦笑いしながら見ていた。
「ライルさん、大丈夫か心配です」
ラズさんも面倒みのいい人だから大丈夫だとは思うんだけどちょっと心配になってきた。
「メリッサさんがずっとラズさんにくっついていなきゃいいんですけどね」
二人で話しているとエリウスさんがスキップしたまま近づいてきた。
そしてメリッサさんについて聞くといろいろなことを話してくれた。
「んとね、目つき悪いし性格もあんなであんまり好かれないけど、本当はいい人なんだよ。それに小さい子にはすごく優しくて、何でもしちゃうの」
「じゃぁ、ライルとも仲良くできそうだな」
「うん、昨日の時点で仲良しだったよ~」
ドバルもいつの間にか来て、4人並んで歩いた。
ちなみにドバルの髪は昨日お風呂に入ったときにもとの形になっており、本人はかなり落ち込んでいたのだが今回ダイチさんと同じチームということでテンションあがっている。
でも今は普通の髪形です。
「メリッサはね、すっごい自由人だよ。自分が良ければすべて良し!って前に言ってた。だからラズにくっつきたい時くっつくんだって。でも私はそう言いながらちゃんと周りの事考えて行動してると思うし、私より判断力もあって目標に向かって真っすぐな人だと思うよ」
と、エリウスさんから聞いた僕は少しメリッサさんに対して疑いすぎていたかもなと思い、とりあえず安心した。
…まだ出会ったばかりなんだし、わからないのは当然ですよね。
「あ、でもお金の扱い方は酷いから出費注意、かも」
「そうなのか?」
「すぐ欲しいもの買っちゃうの」
エリウスさんは困ったものだよねぇと言うとダイチさんを連れて近くにあった実がなる木の方へ行った。
「ウジ虫に合わない方がいいってゆうのはわかってるんだけど、こうも会わなくなると嫌だよな」
ドバルが言った。
考えるとこうして二人で会話するのは久々かも…。
「そうですね」
せっかくだから何か会話をと思うんだけどエリウスさんやダイチさんのように上手く会話をつなげられない。
「料理はしばらく俺作るな!」
「あ、お願いします。僕も手伝いたいけど上手くできないし…」
「エリーも料理あんまり上手くないってラズが言ってたよな。ダイチはどうなんだろ、病院料理とか作れねぇのかな?」
「病院の料理は専門の方がやってるでしょう。本人が作るわけじゃないんですよ?」
「そうなの?知らんかった」
ドバルは笑った。
僕から話を振らなくてもドバルが僕に話題を提供してくれた。
よく考えたら今までだってそうだったのかもしれない。
僕はあまり普通の会話をしないから…。
「それにしても道を歩けば何かの実が成ってたりして大きな冷蔵庫みたいだよな、ここ」
「冷蔵庫にしては暖かいですけどね」
…乳製品とか持ち歩いていて大丈夫なんだろうか?
「暖かいってことは、そこでしか育てられない食べ物とかあるよな!」
目をキラキラさせてあたりを見回す。
「甘い食べ物とか多そうですよね」
「…ちょっとだけ土持って帰ってもいいかな?」
「え?いいと思いますけど…どうするんですか?」
「育てる!!」
「育てるって…あの、わかってると思いますが土だけじゃなく気温なども関係しているんですよ?」
「おう、わかってる!」
ドバルは自信満々な顔をして答えた。
「わかってるなら馬鹿なこと言わないでくださいよ」
「馬鹿じゃねぇよ!だから、育てるためにこう、なんかいい感じにして環境再現する機械的なのを作ってもらうんだよ」
俺天才、みたいな顔をして彼は言った。
…馬鹿かこいつ。
いや、馬鹿だった。
この件も何回目だよ、僕も学ばないな。
あ、学ぶ必要がないから忘れちゃうのか!
僕は満面の笑みでドバルを見た。
「馬鹿でしたね」
「誰が馬鹿だってぇ!!?」
「馬鹿に馬鹿って言って何がいけないんですか!」
「そもそも俺は馬鹿じゃねぇしっ!!」
「馬鹿でしょ!変なこと言わないでくださいよ。誰がそんな機械作るんですか。しかも旅をしながらってことは持ち運び可能にしなきゃならないんですよ?その時点で無理ですね」
「持ち運びは…ほら、大きくなったり小さくなったりする感じにしてさっ!」
「そんな機械できてたら世の中輸入輸出なんて不要でしょう?」
「俺のために作ってよ~、ジェリオス」
「馬鹿のために作るものはありません」
…って、え?
「作って!お兄ちゃんからの一生のお願い。…ちなみに一生のお願いに回数制限ねぇから」
「ちょっと待ってください、誰が作るって?」
「ジェリオス」
きらきらとした目で僕を見る。
なんか後ろのオーラ的なものまでも輝いていて目に痛いんですけど。
でもここで適当に返事をしたらOkととられてしまう…。
悪いけどちゃんと断っておかなきゃ。
「無理です」
「ジェリオス、人間あきらめたらそこまでなんだぞ!!いいのかっ!」
「別にかまいませんよっ!!」
そんな熱く語られても困る。
「そもそも僕にそんなことできると思ってるんですか?」
「うん♪」
…うっわ、めちゃくちゃ信じてるって顔された。
そういう思い込みやめてくれないかな?
「無理なものは無理なんです。残念でした、諦めてください」
「一生のお願いしたのに?」
「ドバルの一生は何個あるんですか!回数制限なしって言ったのはあなたでしょう?」
すると目をそらして口を尖らせた。
「だ、誰だったっけなぁ」
「しらばっくれようとしないでください」
「し、してないよ~?やだなぁ、ジェリーは俺の何を見ているのか」
「…目をそらして若干冷や汗をかいて必死になかったことにしようとしている馬鹿な顔ですね」
「お前はお兄ちゃんに馬鹿馬鹿言いすぎだっ!!」
「じゃあ言われないようにしてくださいよ」
「俺としては普通なんだけど…」
「僕にはドバルの普通がわかりませんよ」
「んじゃ、考えとくわ」
ドバルは笑って親指を立てて見せた。
…考えることでもないような。
あたりも暗くなり、僕たちはキャンプをすることになった。
「こんなに草木があると、火事になりそうで怖いよな」
「でも焚火しちゃ駄目とか書いてないよ?」
「気をつければいいんじゃねぇ?」
僕を抜かした3人で話をしながらご飯を作っている。
大まかな所なんかはドバルが担当し、盛り付けなどをエリウスさんとダイチさんが行う。
僕は、というと…。
「ジェリー、そろそろご飯だよ」
「はぁい、ちょっと待っていてください」
ドバルが変なことを言うからある材料で基盤を作っちゃおうと思って。
「お待たせしました」
皆から少し離れたところにいた僕は3人が作ってくれた料理を見た。
「すごい美味しそうですね」
出来立ての料理は湯気が出ていた。
僕が座るとダイチさんがタイミングよくお茶をくれる。
「いつもありがとうございます」
「いいよいいよ。これくらいしかできないし、俺の仕事ってことで」
「そういえばジェリオスは何作ってたんだ?」
「…え」
ドバルに言われて僕はご飯を食べる手が止まってしまった。
な、何って作らせてるのは誰だよ。
僕が作っていた物は先ほどドバルが言っていた簡易畑(仮名)。
断ったのだから作らなくてもいいとは思ったんだけど、実際あれば食費が浮くしドバルがやりたいって言うならいいかなぁとか思い始めたらどんどん頭に浮かんできて止まらなくなってしまった。
たださすがに大きくなったり小さくなったりするのだけはどうも思いつかないし、実現不可能な気がする。
ウジ虫の施設になら何かしらヒントもありそうだけど…。
「ジェリー聞いてる?」
「え、あ、聞いてます。何作ってるのかって話でしたよね。それは秘密です」
エリウスさんは野菜スープの5回目のお代わりをしようとして立ったのだが、鍋ごと持ってきた。
「全部食べていい?」
ちょっとしかなかったのと、よほどおいしかったようでお玉ですくってそのまま口をつけた。
「秘密とか駄目だぞ?」
ドバルはエリウスさんの食べっぷりに笑いながら僕に言った。
「いいじゃないですか」
よく考えるとつい昨日もメリッサさんとこういう会話もした。
「出来てからの楽しみできていいじゃん」
ダイチさんがドバルに言うと確かに、言いそれ以上気にしていない様子で再びご飯を食べ始めた。
「…エリウス、女の子なんだからもっと上品に食べなよ」
そしてそれまで触れなかったことにダイチさんは苦笑いで言った。
「ふぁって、おいひんだお?」
「口にもの入れたまましゃべらないの」
「…はぁい」
なんかエリウスさんの保護者みたいだな。
「ドバルって本当に料理上手だねっ!」
見事に完食したエリウスさんは幸せいっぱいな顔でドバルを見た。
「小さいころから作ってたからなぁ。でもラズほどおいしくないでしょ」
「ううん、そんなことないよ!!ラズのは確かにすごくおいしいんだけどドバルのは…お母さんの味みたいな?」
「家庭的な味ってやつ?俺にはよくわかんないけど」
「あ、ダイチさんも母さんいないの?」
「うん。親父がああだろ?だから俺置いてどっか行ったまま行方知らず。親父も追おうとはしなかったしな」
「なるほどね~、きつそうな顔だったもんな」
ドバルはダイチさんのお父様にあったことあるような口調で頷いた。
そういえば病院でお父さんにダイチさんを連れていくって言っちゃった、って言ってたな。
「ってことはそのお母さんの味を知ってるのはエリーだけだな」
ドバルが笑ってエリウスさんの方を見ると、彼女は状況に気づいたようで手と手を合わせた。
「あ、そっか」
「お母さんの味ってどんな感じなの?」
というドバルの質問にエリウスさんはかなり悩んだ顔をしながら返事をした。
「えっとね…こう、優しい感じがして暖かくて愛情がこもってるって感じ、かな?」
「愛情かぁ、隣に住んでた婆さんの煮物も超美味かったから理由聞いたら愛情が入ってるからだって言ってた」
「ドバルもたっぷり愛情入ってるからおいしんだね」
そのあとも会話をしておいしくご飯を食べた。
余談だが食器洗う係は僕だったので水場を探したのだが見つからず、仕方ないから魔法で水を出して洗うことになった。
それから数日がたち、僕たちはやっと国王のいる所にたどりついた。
思っていたよりも小さな町…というか村でここまで来る間に見た村とさほど変わったところはなかった。
「本当にここにいるのかな?」
「まぁ、いなかったらまた振り出しに戻るだけだし、とりあえずゴールってところかな?」
「まだ国王に会ってないからむしろスタートじゃない?」
「そうですね、ダイチさんの言うとおりです」
僕たちは国王がいるという建て物に入った。
といっても見た目は普通の家と変わらない。
グズルでは他国のようなお城を作る風習はないようだ。
中に入ってまず目に入ってきたのは褐色の肌をした大男で、まさしくその人こそがグズル国王なわけで、その周りにはスタイルがいい女性数名と槍をもったこちらでいう兵士のような男性が4人いた。
「はじめまして私たちは…」
と僕が挨拶をしようとした瞬間だった。
「あーーっ!!」
隣でエリウスさんが国王を指さして叫んだ。
僕を含めてその場にいたみんなが驚いて一斉にエリウスさんを見た。
そしてそれ以上に驚いたのが、国王もエリウスさんを見て
「おーーっ!!」
と叫んだことだった。
ま、待って、いったい何がどうなってるの?
わけがわからない僕たちにエリウスさんは手をぶんぶん振りながら説明を始めた。
「あ、あのね。国王と知り合いだった!」
「えーーっ!!」
ドバルが大きな声で叫ぶ。
「エリウスさん、それは本当ですか!?」
僕が落ち着いて言うと彼女は頷いた。
「うん。小さい頃、転校ばっかりしてたの。その時にマーリアのある街で迷子になった私をお姉ちゃんたちの所に連れて行ってくれたのがこの人…じゃなくって国王様だったの」
エリウスさんは国王の方を見て頭を下げた。
「あの時はありがとうございました」
「大きくなったな。再び会えるとは思ってもなかった」
「私もです!わー、懐かしい。でも王様だったなんて知りませんでした!」
「王になったのはつい最近なんだよ。お姉さん方は元気かい?」
「…お姉ちゃんたちとはしばらく会ってなくて、でも元気だと思います」
「そうか。まぁ、とりあえずゆっくりしていきなさい」
そこでエリウスさんがはっとして僕の顔を見た。
「あ、あの王様。私たち、王様に話したいことがあってここまで来たんですお時間頂けませんか?」
僕に代わってエリウスさんが伝える。
国王は少し真剣な顔をして頷いた。
なんとなく察しているんだろう、これから何を僕たちが話すのかを。
「じゃぁ、エリーはお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるんだ」
王様の時間があくまで待っていて欲しいと言うので僕たちは建物の外で時間をつぶすことになった。
待っている間、エリウスさんの家族構成についての話題になった。
教えてくれたのはお母さんお父さん、そして彼女の上に二人の兄弟がいること。
「エリウスのお母さんだったら入学式の時に見たなぁ…たしか綺麗な赤髪だったよな。美人だし」
「よく覚えてるね、ダイチ」
「あの日はいろんな意味で忘れられないわ」
と笑った。
エリウスさんも笑顔で話をしているがどこか遠くを見るように話していた。
何かあるんだろうかと思ったけど聞くのも失礼な気がして僕は黙って聞いていた。
すると扉が開き、中に入るように言われた。
「こっからが本番だな」
「ジェリオス、私もいろいろ聞くから一緒に頑張ろうね」
「ありがとうございます」
あの原水の洞窟で会った役員はグズルとは手を組んでいないようなことを言っていた。
でもグズルが魔道機を必要としているとか、マーリアとグズルで取り合っているという噂もあるのは事実。
真相を確かめなくちゃ…。




