約束
グズルへの道中にある小さな村に僕たちは寄った。
ダイチさんはラズさんが背負って運んだ。
顔色もよくなっていたし大丈夫そうだ。
宿屋の床の上で僕たちは小さな明かりを囲むように座った。
「…なるほど。向こうと戦わずに済んだのは幸いだったな」
ラズさんは僕たちの話を聞いて目を細めた。
「ただその女性が何を考えているのかが謎だな」
「ええ、用心すべきでしょうね」
「でもいい人そうだったよな~。な、エリー」
ドバルが隣でダイチさんの様子を見ていたエリウスさんに声をかけた。
「えっ?あ、うん。何の話?」
びっくりして彼女は首をかしげた。
「ほらさっきのお姉さんいい人そうだよなぁって話」
「あぁ、そう…だね」
僕が彼女の表情を見るといつものように笑っていたが何か影があるように見えた。
「でもさ、グズルの人と組んでなくて良かったよね」
「ちょっと安心しました…」
「安心するのは早いぞ?」
女性陣にラズさんが低い声で言う。
「というと?」
「俺たちを安心させて、歩みを遅くさせ、その間に交渉成立…ということも考えられる」
「僕もラズさんの考えと同じです。信用ならない。ただ星水の原水を見つけてそっちの処理に手間取っているのも事実でしょう」
「あの、原水って体に危ないものなんですよね?」
ライルさんが僕の顔を覗き込む。
僕は頷いた。
「ウジ虫はどうしようとしてるんでしょう…」
「それなら僕から説明できますよ」
ドバルがメモ帳を取り出したのを確認して僕は口を開いた。
「星水は原水のままでは体に有害です。故に市販の星水などは何十倍にも薄められて売られています。ウジ虫は原水を発見または買い取り、人間で扱える程度まで薄める仕事も行っています」
「ってこことは私たちが飲んでいるポーションとかは全部ウジ虫がやってるものなの?」
「はい。…ウジ虫は星水のプロフェッショナル…そして世界の星水を操ることができる組織といっても過言ではないでしょうね」
「要するに世界の星水の調合とか変えてウジ虫のやつらが販売しちゃったら大変なことになるってことか?」
「ドバルにしては珍しく正しいこと言いましたね」
「失礼な!!」
「ま、馬鹿のことは置いておくとして…。ウジ虫は星水を管理しているので敵としては最低ともいえるでしょう」
ドバルが何かを言おうとしたが、そのまま欠伸をした。
「…おっきい欠伸だね」
エリウスさんが笑う。
「そろそろ寝よう。明日も歩くからな」
立ち上がりながらラズさんは言った。
「ダイチは俺と一緒の部屋で構わないな?」
「うん、おやすみ」
エリウスさんが手を振り、ラズさんがダイチさんを背負って一部屋に入って行った。
「んじゃ寝るか~。…どう寝る?」
「何言ってんですか。部屋があと二つあるんです。必然的に僕とドバル、ライルさんとエリウスさんに決まってるじゃないですか」
「でもさ、この前グッパーで部屋決めるのも楽しそうだよねって話をしたんだ。な!」
「うん。ラインがやりたがってるよ」
ドバルの問いに二人が頷く。
いや、別にかまわないんだけど…さすがにいい年齢の男女が混合で寝るのがあまりいいことじゃないことくらい僕だって知ってる。
それに二人部屋だぞ、悪いことはないのはよく知ってるけど…。
「なんだよ、駄目か?」
「駄目じゃないですけど…ラズさんとダイチさんが」
「あ、そっか。二人も一緒にやらなきゃかわいそうだよね!」
エリウスさんが手を叩いて言った。
本当はそういう意味じゃなかったんだけど…まぁいいか。
「それじゃぁおやすみなさい!!明日ね」
「おやすみぃ」
ライルさんたちが部屋に入っていく。
僕も一礼して顔を上げる。
隣ではドバルが残った部屋の扉を開けて立っていた。
「…」
「…」
お互いに顔を見合わせて黙る。
「…今日は」
「負けねぇぞ?」
もちろんこれから始まるのは壮絶な電球戦争である。
次の日、元気になったダイチさんは歩きながらドバルと恋について話していた。
そりゃぁドバルはバカだから恋とか全然無知で…って僕もよくわからないんだけど。
だって異性が好きという感情を恋というんだったら、僕はライルさんやラインさん、エリウスさんそれにサクラにも恋をしていることになる。
…本当によくわからない。
きっと一生理解できない感情だろうなって僕は思った。
「…んでさ、ドバルはオシャレとか興味ある?」
「オシャレ?」
「ほら、髪形変えたりとか…カッコいい顔してるからモテると思うんだけど」
最近分かったことはダイチさんがこのメンバーの中で一番流行を知っていて、それにうまく乗っているということ。
でも属に言うチャライとかではなくて礼儀正しいし、気がきくしっかりものだ。
朝だって
「昨日は迷惑かけちゃってすみませんでした」
とわざわざ朝早くにみんなの部屋を回って言ったくらいだ。
ドバルにそういうことも教えてあげてください…切実にお願いします。
「ほら、できた!」
ダイチさんはドバルから離れるとそこには…
「ちょ、似合ってんじゃん!イケメンだったんだね…」
いきなり顔を出したラインさんが笑う。
ドバルの髪の毛は重力に逆らっていておでこ全開だった。
「え、俺どうなってんの!?」
「鏡見てみろって♪」
ダイチさんが手鏡を見せる。
それをまじまじと見るドバル。
「おおぉ~~~~っ!!!!!!!!!誰だお前!!!」
「ドバルだよ!!」
「まじかっ!!!!!???」
ドバルとダイチさんとラインさんが盛り上がっている。
でも確かに似合っていてなんかちょっと頼りになりそうな感じというか、そんな見た目になっていた。
「俺、かっこいい?」
「うん、これがあのドバルとは思えないね」
「やった!俺これからこの髪型でいようかな」
ラインさんが割と酷いことを言っても気づいてないのは変わらないが…。
「ダイチ、サンキューな!」
「どういたしまして、いつでもやってあげるよ」
ドバルはそのあと上機嫌で時々鏡を見ていた。
よほど気に入ったらしい。
まぁ、新鮮だし似合ってるからいいんだけど。
「そろそろグズルとの関所だ」
先頭を歩いていたラズさんが振り向く。
「とうとう国を越えるんだな!!楽しみ」
「僕たちは遊びで行くんじゃないんですから…」
「わかってるよ、な、ライン」
「もちろん!お菓子食うぞぉ~!」
「お~っ!!」
本当にわかってんの…?
僕はため息をしながら肩をすくめた。
「まったく…楽しむのはことを終えてからにしてくださいね?」
「わかってるって!世界を救えるのは俺たちだけなんだから」
ラズさんがそんな僕を見て笑う。
「ジェリオスのOKもでたことだ、早く終わらせるぞ」
「…弄らないでくださいよ」
僕がほほを少し膨らませて言うとエリウスさんが寄ってきて笑った。
「ねぇ、私も果物とか買っていい?」
「それくらいならいつでも…ってなんで僕に聞くんですか」
「リーダーっぽいから?」
「僕はリーダーじゃないですよ」
エリウスさんが驚いた様子のままドバルの方に走っていく。
「じゃぁ、ドバルがリーダー?」
「エリー、考えてもみなよ。ドバルがリーダーだったらいろいろ大変だよ~?」
「そうかなぁ、楽しそうだよ?」
ラインさんが苦笑いをした。
「確かに…でもドバルはこう、サブキャラ的立ち位置がいいの!」
「主人公ぽい顔してるけどなぁ」
「え、そんなにじっと見られても…」
ドバルは二人があまりに近くで顔を見るものだから困っている。
それをなんだか睨む視線が…。
「…リーダーっていりますか?」
余りにも可哀想だったので僕は二人の肩に手を載せていった。
「う~ん、いらないか」
「そうだね。今まで通りみんなで頑張るのが一番だよね」
二人は納得したようでドバルから離れて歩き出した。
「なんか緊張したぁ」
「…僕はドバルがリーダーでもいいんですけどね」
「え、なんで?」
「面白そうだから?」
「疑問形で聞くなよ…俺はリーダータイプじゃないって」
せっかくカッコいい髪形なのに口を尖らせて変な顔で言う。
「ふふ、確かにそうですね。ドバルがリーダーだったら振り回されてみんな疲れちゃいますね」
「だろ~」
「あの、皮肉だったんですけど」
「ひきにく?」
…僕は無視してラズさんの方に走った。
「置いてくなよっ!!」
ドバルも後ろから走ってくる。
関所はもう目の前だ。
「セリアファクト様々だな」
関所を通る時に代表の身分証明と理由を聞かれ、ラズさんとエリウスさんがうまく言ってくれた。
おかげで簡単に入国することができた。
本当に助かる。
「うちの国王も自由人だから使い放題でよかったよね」
「ああ」
エリウスさん、笑顔で言うことじゃないと思う。
そしてラズさんも頷いちゃだめだと思う。
関所を越えてグズル国に来たわけだが…本当に大自然だった。
「木ばっかですね…目によさそう」
髪を下ろしたライルさんが上を見上げる。
入った瞬間大森林で正直僕も驚いている。
「あ、ジェリオス。天狗に教えようぜ?」
ドバルがバックからもらった人形を取り出した。
そうだった、ドバルが持っててくれてたんだ。
「どうするんだっけ…?」
「刃を刺すんだよ?」
ライルさんがドバルと話をしているうちに僕は天狗についてダイチさんに簡単に説明をした。
「ふぇー、天狗って本当にいたんだね」
「私もびっくり!」
「びっくりってエリーはあの時いたじゃん」
「それがよく覚えてなくて…だから今日がはじめましてだよ」
ドールもどき状態だったから記憶があいまいなところがあるのかな?
エリウスさんは楽しそうに笑っている。
「刃って、剣でもいいのかな?」
「指定はないからいいと思うよ」
ドバルはライルさんの言葉に頷き人形を地面に置いた。
そして剣を鞘から抜いた。
「ほ、本当にいいんだよな?」
「大丈夫だ」
ドバルは人形に剣を突き刺した。
するとあたりに強風が巻き起こった。
あの時ほどの威圧感はなかった。
「人間は…ありがとう、そう言うのだろう?」
目の前に突然仮面の少女が現れてそう言った。
「久しぶり、約束通りにグズルだぞ」
ドバルが警戒心なく言う。
彼女はそんなドバルに気にせず落ちていた穴のあいた人形をとった。
「我々は受けた恩は返す、何か言ってみろ」
「協力してくれるってことですか?」
「…ああ」
ライルさんが僕の顔をみる。
「何かと言われても…天狗の協力を頂けるのにすぐには思いつきません」
「優柔不断な生き物だな、人間というのは」
彼女がなんだか少しさみしそうに言うとドバルが手を挙げた。
「あのさ、俺がお願い事してもいい?」
「変なことじゃないでしょうね」
「あたりまえじゃん!みんなもいい?」
僕たちは頷いた。
心配で聞いたけどドバルに何か考えがあるはずだ。
「俺から天狗にお願いしたいことはグズルでゆっくり過ごしてもらうこと!」
「!?」
「それとウジ虫に騙されて大変な思いさせちまったけど人間のこと、嫌いになんないでほしい!」
風が吹く。
きっと話し合ってるんだろう。
「…二つも聞くとは言っていない」
彼女は言った。
「それに我々はお前のような人間に言われずともその二つのことは分かっている」
「え…」
「す、すみません!馬鹿が変なことを言ってしまって」
僕は頭を下げた。
「気にするな。気持ちはありがたく受け取っておこう。人間にしては面白い願いだった」
風が穏やかになり、彼女もうっすらと笑ったような気がした。
「でもどうしよう、俺の願い叶っちゃった感じ、だよな?」
ドバルが少し照れた顔で僕たちを見る。
「…思いつかないのなら我々が必要な時に勝手に恩を返してもよいか?」
彼女の意外な提案に僕たちは驚いた。
天狗がそういうことを言うとは…。
「非常にありがたいがそっちはいいのか?」
ラズさんが腰に手を当てて言うと彼女は頷いた。
「我々が提案したのだ、否定する理由はない」
「…ありがとうございます!」
僕たちは頭を下げた。
「ならばこの人形は持っていけ。何かあればこれに再度刃を刺せ、我々が協力しよう」
「一回きりじゃないってことですか?」
「ああ。そして、そこの人間の気持ちへのお礼だ」
そういってドバルを指さす。
「お、俺はなんもしてないよ」
彼女は人形をドバルに手渡した。
「私も人間だ。他人を思いやる気持ちくらいは覚えている」
「…ありがとう」
それをドバルが受け取った瞬間強風が吹き、木々の葉が舞う。
「礼を言うのは我々の方だ、また会おう、人間」
「あ、ちょっと待てよ!お前の名前くらい教えてけよ」
「……葉月」
「葉月かぁ!俺はドバル!また会おうぜ」
一瞬突風が吹いたかと思うと、瞬く間に木々は静かになった。
行ったようだ。
「…天狗って思ってたより優しいんだね」
エリウスさんがダイチさんときょとんとしながら笑う。
「まぁ、今のは葉月さんの気持ちもあると思いますけどね」
「でもこれで大丈夫だな!」
「そうだね」
天狗との約束を果たし、僕たちは僕たちのことを続けるために森へと足を進めた。
すると横から何かの気配を感じ、僕は振り向いた。
「ラズさん!」
そこにはラズさんが歩いている。
僕の声に反応してか草むらの中からラズさんに向かってそれは飛びついた。




